絞り込み検索
Keyword
Category
Tag
トップ ASEAN・海外展開
日本企業のベトナム進出方法と実務リスク

日本企業のベトナム進出方法と実務リスク

  • ASEAN・海外展開
  • # 寄稿記事

最終更新日:

公開日:

バナー画像です

近年、ベトナムは東南アジア有数の成長市場として関心を集めています。人口約1億人の内需、国際貿易ネットワーク、若く生産性の高い労働力など、その魅力は多岐にわたります。一方で、進出には複数の形態があり、それぞれに制度上の要件や実務上の留意点があります。本稿では、日本企業が選択可能な進出スキームを整理します。

ベトナムにおける法人・拠点の設立形態

有限会社(1名有限会社、2名以上有限会社)

有限会社は、日本企業がベトナムで現地法人を設立する際に多く利用されている形態の一つです。1名有限会社は出資者1名、2名以上有限会社は2名以上の出資者で構成される点が主な違いですが、いずれも比較的簡易に設立することが可能です。

ただし、業種によっては外国投資家に対する参入制限があるため、2名以上有限会社による合弁会社の形態をとらなければならない場合もあります。また、2名以上有限会社では、社員が持分を第三者に譲渡する際、他の社員に先買権が認められるなど、持分譲渡の手続きが煩雑な点にも留意が必要です。

さらに、ローカル企業と合弁会社を設立する場合には、将来的な関係悪化やビジョンの不一致といったリスクも想定されるため、パートナー選定は慎重に行う必要があります。その意味では、合弁会社を設立せず、事業提携にとどめる方法も検討の余地があります。

株式会社

株式会社は、3名以上の株主で構成される法人形態であり(2名以下の場合は有限会社となります)、将来的に上場を視野に入れた大規模事業に適した形式です。出資比率に応じた株式の保有が可能で、譲渡や売却も比較的柔軟に行えることから、資本調達を重視する事業展開に向いています。

もっとも、取締役会の設置が法律上義務付けられており、場合によっては監査役会の設置も求められるため、手続きは煩雑になります。この点、2名以上有限会社であれば取締役会の設置は任意であり、監査役会についても、国営企業またはその子会社でない限り設置義務がないため、手続きは相対的に簡易です。

そのため、出資者が2名以下の場合はもちろん、3名以上であっても、こうしたコスト面を考慮し、実務上は有限会社で設立されるケースが一般的です。

支店

支店は、外国法人がベトナム国内で商業活動を行うための拠点として設置可能な形態です。支店自体には法人格がなく、あくまで外国企業の延長として活動することになるため(支店の行為の結果は本社に帰属します)、本社による直接的な管理が可能である点が利点です。とくに、現地法人を新たに設立せずに営業活動を行いたい場合には、有効な選択肢となります。

もっとも、申請には本社が5年以上の営業実績を有していることが要件とされており、また支店で行える業種にも一定の制限があります。そのため、一般的には利用できない形態です。なお、支店の営業期間は原則5年間とされていますが、延長も可能です。

駐在員事務所

駐在員事務所は、現地市場の調査や関係構築を目的とした非営利型の拠点です。営業活動や契約の締結は認められておらず、純粋な情報収集に特化した位置付けとなります。そのため、法人設立と比べて手続きが簡易であり、税務申告や会計処理も比較的軽微です。

もっとも、商業活動を行うことはできないため、利益の発生を伴う役務やサービス、事業などは駐在員事務所では実施できません。したがって、長期的な事業展開を見据える企業にとっては、活動の幅が限られることから、あくまで進出準備の一時的な拠点としての利用にとどまるのが一般的です。活動期間は支店と同様に5年間で、延長も可能です。

フランチャイズ

フランチャイズ方式は、現地企業に対しブランドや営業ノウハウをライセンス提供する形で事業を展開するスキームであり、ベトナムでは小売・飲食分野を中心に活用が進んでいます。出資を伴わないため投資リスクが低く、現地市場の知見を持つフランチャイジー(内資)を通じて迅速な展開が可能です。また、外資規制や実務上の障害を回避できる可能性もあります。

法的には、フランチャイザーがベトナム国外で1年以上同様のビジネスを実施していることが要件とされており、ベトナム商工省への事前登録も義務付けられています。

もっとも、ブランドやノウハウを外部に提供する以上、模倣や不適切な使用によるブランド毀損リスクは無視できません。実際に、商標権の侵害や、フランチャイジーが品質より利益を優先する行動に出るケースも報告されています。これらを防ぐためには、商標権の適切な登録、契約上のペナルティ規定、教育プログラムの整備などの対策が不可欠です。なかでも、信頼できるフランチャイジーの選定が極めて重要です。

なお、収益の送金にあたってはFCT(外国契約者税)の納付が必要となるため、税務面での対応も重要な検討事項となります。

BCC契約(Business Cooperation Contract)

BCC契約は、法人格を持たず、複数の当事者が共同で事業を行う契約ベースのスキームです。合弁会社との大きな違いは、ベトナムのパートナー名義で事業を実施する点にあります。とくに、外資規制が強かったり、ライセンス取得が厳格に制限されている分野においては、現地企業をパートナーとすることで、柔軟かつ迅速に事業を開始できる可能性があります。

また、法人を設立しないため、設立や清算といった手続きが不要であり、契約ベースであることから、プロジェクトごとに柔軟な設計が可能である点もメリットです。

もっとも、契約内容によっては責任の所在が曖昧になるリスクがあるほか、税務に関する明確なルールが整備されていないため、個別に税務当局へ確認を行う必要があります。また、不動産を含む資産をベトナムのパートナー名義で取得せざるを得ない点もデメリットの一つです。

こうした特性から、BCC契約は短期間・少額のプロジェクトの方が適した制度といえます。

既存企業の買収(M&A)による進出

既存のベトナム企業を買収するM&Aは、迅速に市場参入を果たす手段として注目されています。特に、現地での経験や設備を活かす必要がある業種においては、効果的な選択肢となり得ます。

もっとも、買収対象企業の財務状況や法令遵守、土地使用権などに潜在的な問題が含まれているケースも少なくなく、いわゆる二重帳簿の問題が見られる例も多くあります。そのため、日本国内のM&A以上に綿密なデューデリジェンスが不可欠です。加えて、日本とは異なる法的・行政的手続きも数多く存在します。

M&Aは、新規法人設立に比べて時間やコストの面で優位性があるとされることもありますが、ベトナムにおいては必ずしもそのようなメリットがあるとは限らないのが実情です。実際にM&Aを進める際には、現地の専門家と連携し、契約交渉やリスク分析を慎重に進める必要があります。

図表1 ベトナム進出形態別の特徴と留意点

法人設立に伴うコストと撤退時のリスク

進出形態を検討するにあたっては、法人設立に伴うコストやリスクについても把握しておく必要があります。

外資で法人を設立する場合、設立費用として少なくとも数十万円、特殊なライセンスが必要な事業形態では数百万円規模のコンサルティング費用が発生するケースもあります(資本金は別途必要です)。また、外資企業には監査義務があるため、日常的な管理費用や監査法人への支払いも必要となります。さらに、内資・外資を問わず、高い個人所得税や税務調査のリスクにも常に晒されています。

最終的に撤退を決断した場合でも、厳しい税務調査や煩雑な手続により、清算までに1〜2年かかることがほとんどです。また、ローカル名義で法人を設立した場合でも、事業拡大に伴って外資へ移行しようとすると、その手続きに多大な労力を要する点にも注意が必要です。

こうした背景を踏まえると、小規模に進出を始める場合には、前述の方法以外にも、次のようなスキームを検討する余地があります。

・ 既にライセンスを保有している現地企業に従業員を出向させる

・ 提携先を設け、営業代行を依頼する

・ 現地のディストリビューターと日本法人が直接売買契約を締結する

・ 製造業であれば、OEM契約を活用する

もちろん、技術漏洩のリスクなど考慮すべき点は多々ありますが、法人設立だけが唯一の選択肢ではなく、複数の手段を比較検討することが重要です。なお、いわゆる名義借りはベトナムにおいて合法的に認められている制度ではないため、実態として利用している場合には、両社間の法的関係を明確に整理しておく必要があります。

おわりに

ベトナムへの進出にあたっては、進出形態によって求められる条件や、それぞれのメリット・デメリットが大きく異なります。自社の事業内容や経営方針に照らして、最適なスキームを選定することが肝要です。

特に、法人を設立した場合には、撤退時の清算に1~2年を要するケースも多く、あらかじめ進出方法について慎重に検討しておく必要があります。また、ベトナム法は日本とは異なる法的枠組みを有しており、契約書の作成、送金・税務処理、行政手続など、各段階で細心の注意が求められます。

こうした状況を踏まえると、進出の初期段階からベトナムの法律実務に精通した専門家と連携し、制度の変化にも対応できる体制を整えることが、安定的かつ継続的な事業展開のための第一歩となるでしょう。

執筆者
工藤 拓人
CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.
代表弁護士

2014年から現在に至るまでベトナムに居住し、日系企業の進出および運営に関連する法務全般に幅広く携わっている。ベトナムでの日系企業の顧問業務、M&A、不動産、労務、知的財産対応などを専門的に取り扱う。また、個人として、日本人の海外におけるスタートアップ展開の支援も行っている。

CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.のロゴ
CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.

弁護士法人キャスグローバルのベトナム拠点として2014年にホーチミン、2022年にハノイに拠点を設立し、ベトナムにおける日系企業の法務全般を、日本人とベトナム人弁護士が連携してサポートしている。現在、約300社への支援を継続して行っており、クライアントは製造業、商社、IT、不動産、エンタメ、小売、飲食、その他サービス業など多岐にわたる。