「効率化の本質は“減らす”ことではない」 持続可能な組織づくりとリーンオペレーションの本質
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人手不足が常態化し、現場の疲弊が叫ばれる一方で、効率化施策の導入が形骸化している企業も少なくありません。そもそも業務効率化とは何を目指すべきものなのでしょうか。
株式会社スタディストは、可視化・標準化・単純化・徹底化・価値強化という5つのステップを軸に、組織の持続性を高める「リーンオペレーション」を提唱しています。
今回は同社の取締役副社長である庄司啓太郎に、現場で起きている課題と、業務効率化の本質について聞きました。
目次
「人員不足」と「採用する余裕のなさ」から生まれる悪循環
――まずは、多くの企業が直面している課題についてお聞かせください。
庄司:どの業界でも働いている方々の人数が減っている状況です。「人が定着しない」、「採用をかけても人が集まらない」という話はよく聞きます。
特に小売店や飲食店では人手不足が目立ち、コンビニでは短縮営業が始まったり、外国籍の従業員の方が増えていたり、日常生活の中でも目に見える変化として感じられるのではないでしょうか。
「人手不足に陥っているものの、目先の仕事をこなしながら今後の体制づくりにも力を入れることは難しい」という企業は多いものです。例えば、時間に余裕のない現場の場合、採用するために時間を割いたり、採用後に教育したりする余裕があるとは言えません。その一方で、採用せずに今の状態を続けると、将来的には現場がより圧迫されるでしょう。このような場面は、さまざまな企業で起こりうる話です。
人手不足が常態化するなかで、どのように業務を効率化し、どのように未来へ繋げていくかという課題がさまざまな場面で見られます。
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企業としての目指す姿が明確でないと業務効率化が機能しない
――かつての「業務効率化」と、現在の「業務効率化」には違いがありますか?
庄司:少し前の日本は、どちらかといえば人が余っている状態でした。仕事量が10あるところに人員が12人いるような状態だったので、「人材を有効活用して、さらにパフォーマンスを高める」という意味での効率化が多かったです。
しかし、現在は10の仕事を8の人員で回す必要があり、「人手不足のなかで、やるべき業務をどう遂行するか」という面が課題に挙がります。かつての効率化とは種類が異なっているのです。
現在の状況下における効率化を考える際に大切なのは、「最終的にどうなりたいか」、「あるべき姿はどんな姿なのか」を考えることです。最終的にどうなりたいかをきちんと考えないと、何を減らすべきか見えにくくなります。
――最終的な姿が曖昧なままだと、どのような不具合が出るのでしょうか。
庄司:いくら業務効率化をしようとしても、上手くいかないと思います。例えばラーメン店の場合、「全国チェーンを狙うのか」、「地域で数店舗展開するのか」、「1店舗に集中するのか」などさまざまな方針が考えられます。どれも間違っているわけではなく、方針としてはすべて正解です。しかし、どの方針を選ぶかによって打つべき手は全く違います。
このように最終的な姿が曖昧なままだと、我々がいくら業務効率化しようとしても、どのような手を打つべきか見えてこないのです。言葉にすると当たり前の話ですが、「どうなりたいのか」を定めることが最も大切だと思います。
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――業務効率化をした結果、削った部分はどのように活かすのでしょうか。
庄司:ビジネスでは「こだわる部分」と「割り切る部分」のバランスを取ることが求められます。こだわる部分にはとことん時間やお金をかけながら、同時に割り切る部分はとことん減らすことが大切です。
例えば、旅館業の場合は食事や温泉にはとことんこだわる一方で、布団を敷くのはセルフサービスというような宿泊施設もあります。これは「こだわり」と「割り切り」のバランスを取っている分かりやすい例です。

リーンオペレーションの流れに沿った本質的な業務効率化
――リーンオペレーションのアプローチは可視化・標準化・単純化・徹底化・価値強化から成り立っていますが、まずは「可視化」「標準化」「単純化」について教えてください。
庄司:リーンオペレーションとは業務プロセスの無駄を排除し、リソースを再投資することで、生産性や価値を最大化する手法のことです。リーンオペレーションのアプローチの最初に行う「可視化」については、丁寧に事実を並べていくことから始めます。とにかく現在の業務を挙げて、一覧表を作りながら全体像を把握する作業です。
次の「標準化」では一覧表を参考に、ある程度の再現性を持ちながら業務を回せる状態を作ります。マニュアル化をするようなイメージです。
続いては「単純化」ですが、「単純化」は無駄な業務を減らすための意思決定とも言えるので、痛みを伴う難しい部分です。
「単純化」については後ほど詳しくお話しますが、大前提として、業務において「悪意のある無駄」はありません。誰もが無駄なことをするために業務を増やしたわけではなく、その時その時に必要性があったからこそ業務が増えています。その業務を長年担当している人もいるため、「この業務は無駄である」と言い切ってしまうと、その業務を担当していた人は心理的に辛い気持ちになる可能性があるのです。
――「徹底化」については、どのようにお考えですか?
庄司:「徹底化」は、これまで取り組んできたことを仕組み化して、良い状態を永続させるためのフェーズです。「徹底化」が崩れる時によく起こりがちなのは、「良かれと思って再び何かを足してしまうこと」です。「単純化」のフェーズで業務を減らしたにもかかわらず、「万が一の時のため」、「こういったトラブルがあったから」といったように業務が増えている場合があります。誰にも悪気がないため、気付くこと自体が難しいかもしれません。
「徹底化」が崩れた時にはもう一度「単純化」を試みて、「これでも大きな問題は起きないので大丈夫だ」と認識を改めることが大切です。
――「価値強化」については、どのような点がポイントになるでしょうか。
庄司:これまでの4つとは毛色が異なりますが、「価値強化」については「こだわり」と「割り切り」のバランスが大事だと思います。
現場の従業員にとっては「一方では時間やお金を投資して、一方ではコストを削減することになり、方針が矛盾しているな」と感じる場面があるかもしれません。しかし、経営者は全体を見ながら、「こだわり」と「割り切り」をはっきりさせ、従業員に丁寧に説明をしながら地道に業務効率化することが大切です。
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増え続ける業務を見直す際には丁寧なコミュニケーションが必要不可欠
――「単純化」のお話のなかで「悪意のある無駄はない」とおっしゃっていましたが、もう少し詳しくお話を聞かせてください。
お客様には登山のリュックサックを例にした話をするのですが、登山をする際に「荷物をたくさん持ちたい」と思いながら荷物を増やす人はいません。「念のため」「万が一」という考えのもとでリュックサックに荷物を入れるうちに、信じられないくらいの重さになってしまい、荷物の必要性が分からなくなります。決してリュックの中にゴミが入っているわけではありませんが、タオルが3枚も入っていたり、ほとんど使わないような大きなテントが入っていたり、どんどん荷物が増えていくのです。
日々の業務も同様で、減らす意識がよほど強くない限り、業務は徐々に増えていきます。本当に必要なものを見極めるために求められるのが、業務効率化の視点です。
――自分が担当していた業務が無くなる立場の人には、どのようにコミュニケーションを取るべきでしょうか。
庄司:仕事を減らす理由を丁寧に説明して、「なぜ減らすことが正しいのか?」という背景をきちんと理解してもらうことが大切だと思います。その際には「あなたが悪いわけじゃなくて、あなたが担当していた仕事に不具合があるだけ」と伝えて、人ではなく、仕事自体に焦点を当てることが重要です。
――企業としては業務効率化を推進したくとも、従業員にとっては「会社における自分の存在意義」の方が気になる場面もあるかと思います。全体と個人のバランス感についてはどのようにお考えでしょうか。
庄司:「会社における自分の存在意義とは何か」は、従業員にとってとても重要なテーマです。その人ならではの役割や仕事があることは存在意義ややりがいに繋がりますが、その一方で属人性が強まりすぎると、結果的には企業と従業員の両方を苦しめる可能性があります。
例えば、従業員としては「この清掃の仕事は私だからこそできる仕事だ」と思うことは、やりがいや誇りに繋がることは確かです。しかし、何らかの都合により、以前と同じレベルの働きを提供できなくなった場合には、存在意義ごと疑問に感じ、精神的に辛さを感じるかもしれません。また、役職が変わったときには、プレイヤーとして成果を出すよりも、自分がいなくても回る仕組みを作ることが求められ、以前と同じ仕事のやり方をしていては自分の存在意義が分からなくなることもあるでしょう。
企業にとっては「清掃をきちんとして、お客様のニーズを満たすこと」「なるべくコストを抑えながら業務を遂行してもらうこと」が重要です。このとき、属人性が高い業務が多いと、一定のクオリティを維持することが難しくなります。「存在意義」と「会社への貢献」を切り離して考えたり、仕組み作りに力を入れたりすることは、従業員と企業の双方にとってメリットがあると考えています。
業務効率化はこの部分を調整する作用があるので、ただ単に企業のメリットを追求するために動くのではなく、企業・従業員・お客様にとって良い形をつくっていけるようにサポートしていくことを心がけています。

完璧な改善を目指すより、リスクを許容するという発想
――「単純化」や「標準化」は、どのくらい徹底的に行う必要があるのでしょうか。
庄司:業務効率化のために「単純化」や「標準化」を行う際には、ある程度のリスクを許容する姿勢が求められます。みなさん「リスク」という言葉をよく使いますが、本来リスクとは、ダメージの大きさと発生確率の両方を検討すべきものです。リスクを0%にしようとすると、先ほど言った通り、リュックに入れる荷物が膨大になります。ダメージの大きさと発生確率を検討して、ある程度のリスクを許容しながら、その都度工夫していく姿勢が大切だと思います。
例えば、飲食店の場合は安心安全や衛生問題は非常に重要なので、食中毒の問題には細心の注意を払わなければいけません。その一方で、「看板が少し歪んでいる」といった問題は、どうでしょうか。食中毒とは関係がないので安心安全や衛生問題とは遠く、また人がケガをする可能性も低い問題です。ダメージは小さく、トラブルの発生確率も低いと判断すると、業務の優先度としてはあまり高くはなりません。
このように判断しながら、経営にとってリスクになりにくい項目は日々の業務に組み込まず、必要な時にのみ検討するようにします。
後編では、「リーンオペレーション」の実践例や、業務効率化をするにあたって経営者が考えなければならない重要なポイントについて、深堀りしていきます。
(後編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ









