
組織を「軍隊」から「冒険」の場へ。安斎勇樹氏と考える内発的動機を起点としたナレッジマネジメントのあり方
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目標やマニュアルが整っていても、現場が自発的に動かない組織は少なくありません。数値は示されているものの、納得感を持てないまま業務をこなす状態が続くと、個人の創意工夫は次第に失われていってしまうのです。
今回は、経営コンサルティングサービスを提供する株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹氏に、「内発的動機(本人から湧き出る意欲)」を起点とした組織づくりや、マニュアルを土台に現場の知恵を循環させる「ナレッジマネジメント」のあり方について話を伺いました。
目次
はじめに
安斎氏は東京大学工学部を卒業後、同大学大学院学際情報学府で博士号を取得。現在は、株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEOを務めています。
これまで累計350社以上の組織改革を支援した実績があり、ワークショップデザインや組織開発、創造性研究といったアカデミックな知見を、実際のビジネス現場へ還元してきました。
主な著書には『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『問いかけの作法』などがあります。
メンバーの探究心に火をつける「冒険的世界観」への転換
――まず、著書『冒険する組織のつくりかた「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』を執筆された背景について教えてください。
株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEO 安斎勇樹氏(以下、安斎):仕事の中で1人ひとりのポテンシャルが発揮される状態をつくらなければ、組織の本質的な課題は解決しないという問題意識が執筆の出発点になっています。
私がこれまで多くの企業支援に携わるなかで繰り返し感じてきたのは、ワークショップなどの場で生まれた前向きな変化が、日常業務のなかでは持続しにくいという現実です。
非日常の場であるワークショップでは参加者が積極的に意見を出し、創造性を発揮します。しかし翌日、職場に戻ると目標数値をこなすことが優先され、前日の高揚感が業務に十分に反映されない場面を何度も見てきました。
コロナ禍で働き方の選択肢が増えた一方で、組織の息苦しさが残っているという不一致感をものすごく感じていたことがこの本を執筆したきっかけの一つです。
――改めて、著書で語られている「軍事的世界観」について、詳しく教えてください。
安斎:私の考える「軍事的世界観」とは、ビジネスを戦争に、会社を軍隊に見立て、人材を目標達成のための『道具』として扱う考え方です。そのような考えを持つ組織は、上位層が戦略や計画を立て、現場はその通りに動くことが成果につながる、という前提で設計されています。
効率や計画の達成が優先されるなかで、現場で働く人はシステムを正確に運用するための存在として扱われるのです。その結果、人が本来持っている内発的な動機や、仕事に向き合ううえでの尊厳が組織のなかで十分に発揮されにくくなってしまいます。
「戦略」や「戦術」という考え方そのものを否定しているわけではありませんし、トップダウンで計画を立てることをやめるべきだと言っているわけでもありません。
ただ、私が問題だと感じているのは、戦略や計画の達成が最優先されるあまり、現場で働く人が「道具」化してしまう点です。人が考え、意味を見い出しながら働く存在であるという前提が損なわれれば、内発的動機は失われてしまいます。
――では反対に、個人の探究心を起点にした組織のあり方である「冒険的世界観」とはどのようなものなのでしょうか?
安斎:「冒険的世界観」とは、個々のメンバーが自分なりの目的を持ちながら、仲間と協力して新たな価値を生み出していくような考え方です。
仕事の中で「なぜこの取り組みをするのか」「自分はどこに面白さを感じているのか」が結びつき、指示を待たなくても人が動き始めることができます。
これまでのマネジメントでは、マニュアル通りに誰が作業しても同じクオリティで業務をこなせる「代替可能性」を高めることが重視されてきました。
しかし、与えられた役割をこなすだけでは仕事の意味が見えにくく、主体的な工夫は生まれにくくなります。経営者やマネジャーの役割は、指示で人を動かすことではありません。現在は、仕事の意味や文脈を共有し、納得感をつくる方向へと役割が移りつつあるのです。
組織変革を加速させる「5つの思考法(レンズ)」とは
――「軍事的世界観」から抜け出すためには、どのようにすればいいのでしょうか?
安斎:著書の中でも詳しく紹介しているのですが、5つの思考法(レンズ)を軸に考えることをオススメします。
5つの思考法(レンズ)とは、「目標」「チーム」「会議」「成長」「組織」という、どんな組織にも共通する要素のとらえ方を転換することです。
まず「目標」では、行動を縛り上げる「司令」ではなく、好奇心をかき立てる「問い」としてとらえ直すことが重要です。
「チーム」では、目標達成のための「機能別に編成した小隊」から、「個性を活かし合う仲間」としてとらえ直します。お互いが持っている背景や感情を理解し、精神的につながり合うことが必要です。
「会議」では、伝令と意思決定の場ではなく「察知→理解→共創」という対話の場に変えていきます。メンバーの違和感に気づき、相手の前提を理解し、新しい価値を一緒に生み出す場にしましょう。
「成長」では、スキル習得量で測るのではなく「あなたは何者になりたいか」というアイデンティティの探究を部下と一緒に行う1on1を実施します。
そして「組織」では、事業戦略を実行するための道具ではなく、人と事業の可能性を広げる土壌としてとらえ直すことを意識してください。
組織変革を目指すマネジャーは、上記の5つの視点から取り組むと良いヒントが生まれるかもしれません。

10%の売上向上より大切な「目標の背景」を語る言葉の力
――5つの思考法(レンズ)の中の「目標」について、さらに詳しく教えてください。
安斎:個人的に、組織において人の行動に最も強く影響するのは、制度や評価よりも「目標」そのものだと考えています。
どんな組織であっても日々の仕事は小さな目標の積み重ねで成り立っており、その目標がどのように受け止められ、解釈されているかによって、仕事の景色は大きく変わります。
そのため、まずは目標の設定や受け止め方、解釈の見直しから始めることが大切です。
――メンバーが目標を自分事にするために、マネジャーが意識すべき行動は何でしょうか?
安斎:達成した先にどのような未来が待っているのかを、マネジャー自身の言葉で語ることが重要だと考えています。例えば「売上を10%向上させる」という目標も、数値だけを伝えていては現場のメンバーは動きません。
その数値が何につながり、どのような挑戦や変化を生み出すのかをリーダーが真剣に考え、意味づけする必要があります。
目標に納得感がないまま業務に取り組ませようとすると、細かな管理や指示が増え、マネジメントコストは高くなります。その一方で、目標の背景や意義が共有され、本人が意欲を持って向き合えている状態であれば、過度な管理をしなくても生産性は自然と高まっていきます。
――メンバーの意欲を引き出すために、マネジャーが持つべき視点を教えてください。
安斎:多様な価値観を持つメンバーが「どのような点に価値や面白さを感じているのか」を理解しようとする姿勢が重要です。
同じ仕事に取り組んでいても、達成感を得るポイントは人によって異なります。成果そのものに喜びを感じる人もいれば、試行錯誤のプロセスや工夫に手応えを見いだす人もいます。
目標の意味を伝えるだけでなく、個々の関心に応じた役割の渡し方や関与の仕方を考えることが、結果としてメンバーの意欲を引き出し、組織全体の動きを前に進めることにつながります。

変化し続ける組織に共通する「暗黙知と形式知の循環」
――マニュアル化を含めたナレッジマネジメントについて、安斎さんはどのようにとらえていますか?
安斎:ナレッジマネジメントは企業にとって非常に効果のあるものだと思うのですが、高度な課題に取り組んでいる会社ほど、マニュアル化しきれない暗黙知の領域が必ず残ります。
そのような領域では「なぜかあの人がやるとうまくいく」「偶然うまくいったが再現できない」といった、説明のつかない暗黙知が多く存在するのです。生成AI時代になり、人間にしか扱えないブラックボックスの部分は、これまで以上に重要になっていると感じています。
だからこそ、暗黙知を形式知にしていく、つまりマニュアル化していく取り組みは不可欠です。ただし、暗黙知をすべて形式知化してゼロにすることが理想だとは思いません。
形式知が生まれることで新しい試行錯誤や挑戦が始まり、そこからまた新しい暗黙知が生まれるはずです。暗黙知と形式知の循環が回り続けている状態こそが、組織が目指すべき姿だと私は考えています。
――形式知や業務効率化を進めることで、従業員のやりがいが失われてしまうという指摘もありますが、そのことについてどのように考えていますか?
安斎:「軍事的世界観」では、標準化によって代わりの利く状態をつくることが、マネジメントの中心でした。
例えば、ファストフードのチェーン店で店舗ごとに味が変わったら困りますよね。だからこそ、誰が運営しても同じ味を提供することが重要であり、このような状況をつくることがこれまでのマネジメントでした。
しかし、知的労働の領域で同じことを行うと、働く人は「自分は必要ないのではないか」と感じやすくなります。生成AIの進歩が加速する現代では、そのような感覚が社会的に強まっていくと感じます。
そこで経営者やマネジャーが注目すべきなのは、再現性のある形式知が整っているかどうかだけではありません。新しい取り組みや試行錯誤が、現場で実際に生まれているかどうかに目を向けることが重要です。
効率化は人間から仕事を奪うためのものではなく、「人間にしかできない、より高度な冒険」に集中するための土台なのです。
後編では、現代のマネジャーに集中しすぎている役割をどのように再設計すればよいのかという視点から、マネジメントの役割分担やメンバーが主体的に考えて動ける組織にするためのヒントについてお聞きします。
(後編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ








