
「妥協のDX」はなぜ失敗する?現場の反発を協調に変えるマネジメント
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現在、多くの企業が人手不足を背景に、トップダウンでDXや業務改革を急いでいますが、現場の反発に直面して施策が頓挫するケースが後を絶ちません。
本インタビューでは、武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授であり、コンサルティングファームのリサーチフェローやスタートアップのCDOとしてビジネス現場の課題解決も伴走支援するコンフリクト・マネジメントの専門家・宍戸拓人氏に話を伺いました。
後編となる今回は、マネジメント層が陥りがちな「妥協のDX」がもたらす致命的な結末をはじめ、現場の「単なる不満」と「本質的な問題」を見極めるためのアプローチ、そして感情論を未来への「協調」へと導く対話と伴走の極意に迫ります。
目次
なぜ「妥協のDX」は形骸化するのか?二重関心モデルが示すリスク
―― 前編では「コンフリクト(対立)は決して悪ではなく、組織に変革を起こすためのエネルギーになり得る」というお話を伺いました。後編では実務に踏み込み、現場との対立に直面した際にマネジメント層が絶対に避けるべき対応について教えてください。
武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授 宍戸拓人氏(以下、宍戸):最も避けるべきは、現場の課題解決という「目的」を置き去りにしたまま、特定のソリューションを強引に押し付けることです。例えば、「DXツールを導入したからとにかく使ってほしい」と一方的に突き動かそうとすれば、現場側から大きな反発を招きます。
さらに避けなければならないのは、対立の本質的な解決から目を背け、安易な「妥協」に逃げてしまうことです。対立を早く収めたいマネジメント層は安易な「妥協」を選びがちですが、これこそが変革を阻む最大の罠になります。
コンフリクト・マネジメントには「二重関心モデル」という有名な理論があります。これは、対立が起きた際、「自分の関心(主張)」と「相手への関心(配慮)」の2つの軸で整理する枠組みです。対応のスタイルは「強制・協調・服従・回避・妥協」の5つに分類されます。
双方の関心が低い「回避」や、自分だけを通す「強制」が良くないのはもちろんですが、一見良さそうな「妥協」もお互いが関心を半分ずつ諦める(痛みを分け合う)アプローチに過ぎません。本来目指すべきは、双方の関心を100%満たす解決策を模索する「協調」なのです。

―― お互いに歩み寄る「妥協」は一見良さそうにも見えますが、なぜこれが組織にとってマイナスに働いてしまうのでしょうか?
宍戸:そもそも「妥協」という解決策自体に問題があります。例えば、商品企画部門と販売部門が対立したとします。商品企画側は「どんどん新しい商品を出したい」と考え、販売側は「定番商品を安定的に売っていきたい」と主張し合っている状況です。そこで、「商品企画の顔を立てる形で新商品は店舗に置くが、販売部門に配慮して定番商品を目立つ場所に置き、新商品は目立たない場所に置く」という妥協案で着地しても、結局商品は売れず、双方に不満が残るだけです。このような安易な歩み寄りを繰り返すと、組織はいずれより悪い状況へと陥っていきます。
―― 特にDXなどの抜本的な変革において安易な妥協をすると、どのような結末を迎えることになりますか?
宍戸:「高額な投資をしたシステムが誰にも使われず、完全に形骸化する」という事態に行き着きます。
DX推進部門と、現状を維持したい現場が対立したケースを想像してください。関係悪化を恐れる推進部門が、「今月は忙しいから」という現場の声に「配慮」し、「できる範囲で構いません」と妥協してしまうことがよくあります。
その結果として、システムは導入されたものの誰にも使われず、現場は相変わらず手書きのノートを使うなど、以前と変わらないアナログな環境で業務を続けることになります。1年後に振り返れば、導入を進めた高額なシステムが完全に無駄になり、現場の課題も経営目標も解決できずに終わってしまうのです。
現場の反発を恐れずに向き合う!変革を成功に導く対話の前提
―― 妥協を避けて変革を成功させるためには、どのような対応が求められるのでしょうか?
宍戸:相互の立場の背景にある「なぜ」を理解し、お互いの懸念点や利害を真摯に検討して納得できる解決を生み出すプロセスが求められます。現場が抱えている課題をきちんと解決しつつ、経営として譲れない部分も達成するという、両立を目指さなければなりません。こうした「協調」こそが目指すべき姿です。
―― 現場の反発が激しい局面で、このような協調の姿勢へ導くための具体的な向き合い方はありますか?
宍戸:日本の工場で働く方々は非常に優秀で、粘り強く対応できる人が多いです。納期やルールを守って、お客様のために本気で取り組むといった姿勢が根付いているからこそ、DX推進という会社や現場のために双方が根気強く取り組む必要のある施策における、対等なパートナーとして正面から向き合うべきなのです。
たとえ「会社のため」という動機で働いているわけではなかったとしても、自分の現場の仕事に対しては一生懸命な方がほとんどです。だからこそ、自分たちの現場を軽く扱われていると感じれば、なかなか動いてはくれませんし、逆に「あなたたちの仕事をこう良くしていきたい」という価値や意味に納得してもらえれば、全力で取り組んでくれます。
そこで求められるのが、管理者側からの現場へのリスペクトです。「あなたたちの負荷を減らし、会社が持続的に成長していくために、この知識をシステム化したい」という経営の意思を、確かな敬意を込めて丁寧に伝えることが大切です。
丸投げは失敗の元。DX部門がクレーム窓口にならないための伴走力
―― 現場にリスペクトを持ちつつ、変革を推進していく上で、マネジメント層や推進担当者が意識すべきスタンスを教えてください。
宍戸:絶対にやってはいけないのは、現場への「丸投げ」です。本社から派遣された担当の部長が、現場の状況をろくに知りもせず「DXの導入が決まったので、あとは現場で進めておいてください」と任せきりにするケースの多くは失敗します。
本社主導でシステムを強制的に導入すると、現場は従うしかありません。しかし、その結果として、DX推進部門が「二重入力の手間が増えた」「現場の業務手順と合わず使いにくい」といった現場からの不満や問い合わせに追われる、いわばクレーム対応窓口になってしまうのです。
うまくいくパターンというのは、変革を推進するリーダーや部長が現場に降りて、一緒に問題を解決してくれる姿勢を見せている場合です。毎日べったり張り付く必要はありませんが、精神的なサポートも含めて「この人は自分たちのために動いてくれている」という信頼を得ることが大切だと思います。
―― 「現場の課題を一緒に解決していく」という伴走の姿勢が重要ということでしょうか?
宍戸:そのとおりです。例えば、属人化を解消するためにマニュアルを作成しなければならないとします。現場からは「忙しくてマニュアルを作る時間なんてない」と反発されるでしょう。ここで「じゃあ、できるところだけでよいよ」と妥協するのではなく、マニュアルを作成するための時間をどうやって捻出するかをマネジメント層が一緒に考えるのです。
現場が変革に取り組めるよう業務量を調整したり、経営陣と掛け合って時間を確保したりするなどの調整を行い、最後まで「やり切る」覚悟と責任を持つことが、マネジメント層に求められる役割です。一度でも「DXのおかげで楽になった」という成功体験が生まれれば、現場の意識は大きく変わり、前向きに取り組んでくれるようになります。
現場から上がる不満をどう整理するか?本質的な課題を見極める視点
―― 感情的な対立に陥るのを防ぎ、「協調」へと導くための具体的なアプローチを教えてください。
宍戸:対立が表面化する前に、現場の「単なる不満」と「組織の本質的な課題」を正しく見極めることです。現場からは日々さまざまな不満や文句が上がってきます。しかし、それらをすべて同列に扱ってはいけません。
例えば、「食堂のご飯が美味しくない」「オフィスの椅子が古い」といった不満は、改善すべき点ではあっても会社の未来を左右する本質的な課題ではありません。その一方で、「属人化が進んで若手にノウハウが伝承されず、早期離職につながっている」といった声は、組織の存続に関わる重大なボトルネックです。
個々の不満への対処は当然求められますが、それらを一つひとつ潰していっても、会社が本質的に抱えている課題の解決にはつながりません。何が真の課題なのかを正確に掴み取るセンスが、マネジメント層や我々のような外部コンサルタントに最も求められます。
―― 本質的な問題を見極めた後、どのように現場と対話を進めるのですか?
宍戸:把握した問題の構造やメカニズムを、現場が納得できるストーリーとして提示します。「皆さんがこのまま引退してしまったら、貴重なノウハウが失われてしまいますよね。若手も成長できずに困っています。だからこそ、今このタイミングで属人化を解消し、知識を伝承する仕組みを作る必要があるのではないでしょうか」と働きかけるのです。私の所属しているコンサルティングファームでは、定量的なデータ分析の結果をエビデンスとして示しながら、これを現場に向けた発表会やワークショップのような形式で行うことがあります。
このようなエビデンスとストーリーに基づく対話の場を設けることで、現場の人たちが「やっと自分たちの本当の問題を分かってくれた」と腹落ちします。対立が起きる前に共通の課題認識を持つことができれば、あとはどうやって解決するかという「協調」に向けた建設的な話し合いになるのです。
対立が深刻化してから事態の収拾に追われるのではなく、問題が表面化する前に本質的な課題を共有し、共に解決に向かう姿勢を示すことが第一歩だと言えます。
―― 最後になりますが、人手不足の中で企業が変革を定着させるために、読者へ向けたメッセージをお願いします。
宍戸:繰り返しになりますが、「ソリューションありきで進めないこと」に尽きます。DXが大きなトレンドだからといって、いきなりシステムを導入しようとすると、必ず不要な反発を招きます。遠回りに見えてもまずは立ち止まり、現場の問題の解像度を上げる努力をしてください。
現場の人たちは日々の業務に追われ、問題の本質を振り返って分析する余裕がない人も多いです。だからこそ、マネジメント層が客観的な視点で「何が本当の課題なのか」を共に考え、提示してあげてください。対立を恐れるのではなく、現場を理解し伴走する姿勢を示すことが、変革を成功に導くための最も重要なアプローチだと確信しています。
(前編はこちら)
取材・文:小町ヒロキ







