
DXで現場の反発はなぜ起こる?対立を組織の強みに変えるマネジメント
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現在、多くの企業が人手不足を背景に、トップダウンでDXや業務改革を急いでいます。しかし、現場の反発に直面し、施策が思い通りに進まないケースも少なくありません。また、多くのマネジメント層が、上からの圧力と現場の不満の板挟みになり、難しい対応を迫られています。なぜ、現場の負担を減らすはずのDXで対立が起きてしまうのでしょうか?
本インタビューでは、武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授であり、コンサルティングファームのリサーチフェローやスタートアップのCDOも務めるなど、企業の現場にも深く関わる宍戸拓人氏に話を伺いました。
前編では、現場の反発の正体と、意見の対立を組織の成果やイノベーションにつなげる手法「コンフリクト・マネジメント」の基本について深掘りします。
目次
DXで現場の反発が起こる本当の理由。発案側と受け手側の認識ギャップ
―― 宍戸さんのご専門と、現在の活動について教えてください。
武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授 宍戸拓人氏(以下、宍戸):本業は武蔵野大学の教員で、組織内の衝突や反発をどう解決するかという「コンフリクト・マネジメント」を専門に研究しています。同時にコンサルティングファームやスタートアップにもメンバーとして参加しており、単にアドバイスをするだけでなく、自ら工場などに足を運び、現場の人たちと一緒に課題解決に取り組むところまで踏み込んだ業務を行う機会を頂いています。
実際に支援現場へ赴き、実態を詳しく紐解いていくと、表面上はコンフリクト(対立)が起きていても、根本的な原因は上司のリーダーシップや人事主導の施策などにあることが少なくありません。
例えば、若手社員の離職が問題だと言われて調べてみたら、実はシニア社員の側に原因があったというようなケースもあります。そのため、最初から「コンフリクトの専門家だからそれしかやらない」と限定するのではなく、現場の具体的な課題を起点に関連分野を学び、コンサルタントやクライアントの方々と協力しながら、本質的な問題と解決策を検討していくというアプローチをとっています。
―― 人手不足を背景としたDX推進のプロセスにおいては現場の反発が多いという話もよく聞きます。なぜこうした事態が起きてしまうのでしょうか?
宍戸:一言で言えば、発案側と受け手側の間に「認識の致命的なギャップ」が生まれているからです。少しおおげさな例えですが、パートナーを喜ばせようと高級レストランに連れて行ったら、「うちの家計を分かっていない」と怒られてしまう、というようなイメージです。発案側は「相手のため」と思ってやっているのに、受け手側からすれば「こちらの状況や気持ちを何も分かっていない」と感じてしまう。これと同じ構造のすれ違いが、組織のDX推進でも起きているのです。
色々な企業の現場に直接関わっていますが、基本的にどこの現場も人が足りていないというのが共通の課題です。以前に比べて異業種への転職のハードルも下がり、人がどんどん減ってすぐ辞めてしまうという状況下で、人手不足は切実な問題となっています。
労働人口が減少し、人材の流動性が高まる現代では、外部環境の変化のスピードも速まり、外国人材の受け入れなども含めて組織で働く人材そのものも多様になっています。こうした状況下では、組織内にコンフリクトが生じることを避けて通ることはできません。
その状況で人手不足を解決するために導入するDXや省力化のツールは、客観的に見れば現場の負担を減らすための施策です。本来なら対立が起こるはずはなく、むしろ現場から感謝されてもいいはずです。それにもかかわらず反発が起きているのは、構造的な問題があるからだと考えています。
ノウハウ開示を拒む原因は「保身」ではなく「組織への不信感」
―― 現場がDXに反発する理由として、よく「自分のノウハウや存在価値を守りたいからだ」と解釈されがちですが、実際はどうなのでしょうか?
宍戸:実は、そこには大きな誤解があると考えています。現場が反発している理由を、周囲が勝手に「自分の立場や価値が脅かされるからだ」と解釈してしまっているケースが非常に多いですが、実際はそうではないことも珍しくありません。
たしかに長年培ってきた属人化したノウハウを手放すことで、自分の付加価値が落ちてしまうと恐れる方も中にはいます。しかし、反発の根本的な原因は保身からくるものではありません。「自分は組織から大切にされていない」「ノウハウだけ吸い取られて、あとは使い捨てられるのではないか」という、組織に対する根深い不信感があることが多いのです。
現場の方々は、長年一生懸命に仕事へ向き合ってきました。それにもかかわらず、新しい仕組みを入れる側が「属人化しているあなたたちが悪い」と頭ごなしに否定するような態度でコミュニケーションを始めることがあります。そうした現場へのリスペクトを欠いた扱いをされれば、知識を手放したくないと思うのは当然です。
現場からの反発は保身からくるものではなく、リスペクトや信頼関係、日々のコミュニケーション不足によって生じた「構造的なすれ違い」にすぎません。
―― 反発する現場に対して、周囲はどのようにコミュニケーションを取ればいいか教えてください。
宍戸:DXを推進する側が現場を否定するような態度を改めて、「相手にとっての価値」をリスペクトを持って伝えることが大切です。
自分の存在やこれまでの仕事を否定され、「使い捨てにされる」と感じている状況では、誰も素直に知識を出してはくれません。
だからこそ、「あなたが培ってきた知識を共有することで、あなたの仕事がもっと楽になり、新しい挑戦ができるようになる」といった、現場の人たちにとってのメリットや価値をしっかりと伝えることが有効です。
なお、こちらが十分に敬意を示したとしても、ご自身の立場への不安から知識の共有に慎重になる方がいるかもしれません。そうしたケースでは無理に働きかけないという選択肢もあります。なぜなら、納得感のないまま知識の提供を強要したとしても、それは会社として効果的に活用できる形になるとは思えず、良い結果につながりにくいためです。
健全な対立が新しい価値を生む。知っておくべき「3つのコンフリクト」
―― 現場の反発の背景にはそうした「不信感」や「リスペクト不足」があるのですね。こうした現場の対立を整理するにあたって、先生のご専門である「コンフリクト・マネジメント」の観点からは、どのように捉えられるのでしょうか?
宍戸:「コンフリクト・マネジメント」の観点では、対立が起きていること自体を問題視するのではなく、まずその対立がどんな種類のものかを見極めることが重要だと考えています。
組織における対立は、大きく「タスク・コンフリクト」「リレーションシップ・コンフリクト」「プロセス・コンフリクト」の3つに分けられ、先ほどお話ししたDXへの反発なども、このどれに当てはまるかを整理することで対応策が見えてきます。
1つ目の「タスク・コンフリクト」は、仕事の内容やアイデアに関する対立です。「このシステムは使いにくい」「この情報はこう扱うべきだ」といった、業務そのものを巡る議論を指します。
2つ目の「リレーションシップ・コンフリクト」は、人間関係上の敵意や怒りといった感情的な対立です。「あの人とは合わない」といった、業務の中身とは無関係な感情のもつれを指します。
3つ目の「プロセス・コンフリクト」は、役割や権限、手続きに関する対立です。「誰がその仕事の責任を持つのか」「いつまでに終わらせるのか」といった、仕事の進め方を巡る議論を意味します。
―― それぞれの対立は、組織の成果に対してどのような影響を与えるのでしょうか?
宍戸:かつては、タスク・コンフリクトは「多面的でイノベーティブな議論を促し、成果につながる」と言われていました。しかし実際には、意見を対立させれば自動的に良い結果が生まれるわけではなく、その対立をどう扱うかによって結果が変わることが分かっています。
大事なのは、「業務上の意見の対立」を「感情的なもつれ」に発展させないことです。純粋な仕事の議論として維持できれば成果につながりますが、そこに人間関係の感情的な対立、つまりリレーションシップ・コンフリクトが混ざってしまうと、成果は出なくなってしまうのです。
不信感が引き起こす「感情的対立」と「責任のなすりつけ合い」の罠
―― 業務を良くするための意見対立(タスク・コンフリクト)が、感情的な対立(リレーションシップ・コンフリクト)へと変わってしまう要因は何なのでしょうか?
宍戸:最大の原因は、先ほど申し上げた組織に対する「不信感」です。
現場で「システムが使いにくい」「情報の扱い方を変えるべきだ」と意見が出るのは、業務を良くするためのタスク・コンフリクトであり、本来は建設的なものです。しかし、そこに「どうせ上は現場を分かっていない」「ノウハウだけ奪おうとしている」といった不信感が混ざると、「システムへの文句」が「マネジメント層や推進者への攻撃・感情的反発」にすり替わってしまう。これが、仕事上の「意見の対立」が感情的対立へとすり替わってしまうメカニズムです。
だからこそ、対立を感情論に発展させず、いかに「タスクの議論」の枠内に留められるかが重要なのです。
―― もう1つの対立である「プロセス・コンフリクト」の具体例を教えてください。
宍戸:プロセス・コンフリクトは日本企業で特によく見られるもので、「誰がやるのか」「誰の責任なのか」という権限や役割分担をめぐる対立のことです。
例えば、DXを進めると決まったにもかかわらず、「誰がマニュアルを作るのか」「いつまでにやるのか」といった議論だけで終始してしまう会議がこれに該当します。これは業務を良くするための建設的な議論ではなく、単なる役割の押し付け合いに過ぎません。
「ベンダーが悪い」「現場が非協力的だ」と責任をなすりつけ合っているうちは、改革は一歩も前に進みません。一見すると、現場の「声」を吸い上げているように見えますが、それはDX化の内容自体についての議論ではなく、ただプロセス・コンフリクトで泥沼化しているだけというケースは非常に多いので注意が必要です。
後編では、多くのマネジメント層が陥りがちな「妥協」というNG行動の危険性と、感情的な対立を未来への「協調」へと導くための具体的なマネジメントの極意に迫ります。
(後編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ







