
「コト」と「ヒト」をわけるマネジメント。安斎勇樹氏に聞く、管理に頼らず現場が自律的に動く組織のつくり方
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「対話」や「学習」の理論を軸に、組織デザインやマネジメントコンサルティングを展開する株式会社MIMIGURI。これまで数多くの組織に対して、現場の創造性を引き出す支援を行ってきました。
前編では、『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』の著者でもある同社代表取締役 Co-CEOの安斎勇樹氏に、「本人から湧き出る意欲(内発的動機)」を起点とした組織づくりや、マニュアルを土台に現場の知恵を循環させる「ナレッジマネジメント」のあり方について話を伺いました。
後編では、現代のマネジャーに集中しすぎている役割そのものの設計について深掘りします。マネジメントが敬遠されやすい背景や、同社が実践する「2人体制」のマネジメントなどについて話を伺います。
目次
現代のマネジャーに求められる役割は、1人で担える範囲を超えている
――著書の中でも描かれていた「冒険的世界観」を実現する組織になるためには、マネジャーの存在も非常に重要な鍵を握ると思います。ただ、近年、マネジメント職への挑戦をためらう人が増えていると聞きます。その背景には、どのような問題があるのでしょうか?
株式会社MIMIGURI 代表取締役 Co-CEO 安斎勇樹氏(以下、安斎): 最大の要因は、マネジャーに求められる役割が、個人の処理能力を大きく超えて膨らんでいる点にあります。
1950年代のマネジメントは、主に現場業務を監督し、計画通りに進んでいるかを確認する「業務監督」が中心でした。1980年代になると、そこに部門間の調整や中長期視点でのマネジメントが加わります。
そして現代では、事業の推進に加えて、部下の育成やキャリア支援、メンタル面のケアまで求められるようになりました。
このように役割が積み重なった結果、マネジメントは「誰か1人が完璧に担える仕事」ではなくなっています。役割が膨らみ続けるなかで、個人に責任を委ね続ければ負担が増し、誰もが敬遠する役割になってしまいます。
――では、マネジメント職になることが前向きな挑戦になるために、組織はどうあるべきでしょうか?
安斎:私は、特定の資質を持つ人だけがマネジメントを担うべきだという考え方自体を見直す必要があると考えています。
マネジメントをやりたくない人に無理に役割を任せても、任せられた本人自身が苦しくなり、結果としてチームもうまく機能しません。そのため、マネジメントはまず「やってみたい人が挑戦できる役割」として設計されるべきです。
当社では、マネジャーになるまでのステップを細分化し、早期から小さなマネジメント経験を積める仕組みを整えています。いきなり重い責任を背負わせるのではなく、成功体験を積み重ねながら役割に慣れていくことで、マネジメントに対する心理的なハードルを下げています。

「コト」と「ヒト」。強みに基づいた分業がチームを活性化する
――マネジャーの負担を減らし、マネジメントの質を高めるための具体策はありますか?
安斎:マネジメントの質向上には、2人のマネジャーがチームを運営する体制を取ることが最適だと考えています。
人間には、事業の数値や戦略といった「コト(事)」に強い関心を持つタイプと、人間関係や文化といった「ヒト(人)」に強い関心を持つタイプに分かれる傾向があります。
これまでのマネジメントは「コト」に強い人が抜擢されがちでしたが、現代は「ヒト」のケアも不可欠になりました。
そのため、当社ではマネジメントの役割を2人体制に分担しています。具体的には、事業の達成に責任を持つ「事業リード」と、チームづくりや個人の成長に責任を持つ「コミュニティリード」の2人でチーム全体を運営しています。
――MIMIGURIでは「マネジャーに手を挙げる人が多い」とお聞きしました。その背景を教えてください。
安斎:当社において、マネジャーに挑戦しやすい理由は2つあると考えています。
1つは、マネジメントに挑戦できる段階を細かく設計していることです。一般的な企業における課長クラスが一人前になる少し手前の段階から、事業リードやコミュニティリードとしてマネジメントに関われるようにしています。
2人体制で経験を積み、できることが増えて期待値を超えられるようになったら昇格します。段階的なステップを踏むことで、挑戦が失敗体験になりにくい設計にしているのです。
もう1つの理由は、マネジャー同士の横のつながりが強いことです。マネジャー同士が孤立せず相談し合える関係があると、挑戦のハードルは下がります。先輩たちが協力しながら楽しそうにチームを運営している姿が見えると、「自分もやってみたい」と思える人は自然と増えていくのです。
――役割を分担することで、組織にはどのような変化が生まれますか?
安斎:役割をわけることで、マネジャーそれぞれが自分の関心や強みを活かしやすくなります。「コト」に強い人は事業推進や目標達成に集中しやすくなり、結果として意思決定や実行のスピードが高まります。
その一方で、「ヒト」に関心の強い人は、現場で起きている葛藤や迷いに丁寧に向き合うことが可能です。メンバーが安心して力を発揮できる環境を整えられます。
事業リードとコミュニティリードが分断されず、連携しながら機能することで「事業を前に進める力」と「人を支える力」を両立できます。どちらか一方を犠牲にするのではなく、異なる得意領域を組み合わせることで、無理なく成果を出し続けられる組織につながると考えていますね。
――マネジャーの役割においても、内発的動機づけが重要ということですね。
安斎:そうですね。マネジャー自身が内発的に動機づけられていない状態で、チームの生産性を上げるのは非常に困難です。勉強したくない子どもの成績を上げるのが難しいのと同じで、やる気がないまま成果だけを求めると、細かな管理や指示が必要になり、マネジメントコストはどんどん高くなっていきます。
管理にエネルギーを注ぐよりも、目標に対して「少しワクワクしている」「自分なりに意味を感じている」という状態をどのようにつくるかに注力したほうが、結果として組織が自律的に動き出します。

一人ひとりのこだわりを「問い」で育て、組織の共創力を最大化する
――メンバーが主体的に考えて動ける組織にするために、現場で始められることは何でしょうか?
安斎:まず意識してほしいのは、メンバーが「頼まれていないのに、ついやってしまっていること」のような、その方と他のメンバーとの差分に目を向けることです。自然と時間をかけている作業や、無意識にこだわって工夫しているポイントには、その人なりの関心や価値観が表れています。
例えば、共通のフォーマットがあるにもかかわらず、資料の構成や言葉選びに独自の工夫を加えている人がいるとしたら、その工夫には単なる作業以上の意味づけが含まれています。
独自のアレンジを「修正すべき対象」として見るのではなく「なぜそこを大事にしているのか」と問いを向けることが、対話の入り口になります。
――その「こだわり」に対して、マネジャーはどのように関わると良いのでしょうか?
安斎:関わり方のポイントは、評価や結論を急がないことにあります。「その工夫は良い・悪い」と即座に判断する前に、「どうしてそのように考えたのか」「どのような背景があったのか」を丁寧に聞いてみてください。
問いかけによって、本人も自分の考えを言語化する機会を得ることができますし、言語化のプロセスは、周囲にとって新しい視点の共有につながります。
マネジャーの役割は、メンバーを均一に揃えることではありません。現場にすでに存在している多様な関心や工夫を見つけ、対話の中で育てていくことがマネジャーの本来の役割だと考えています。
――対話を通じてメンバーの視座を広げたい場合は、どのような問いかけが効果的でしょうか?
安斎:メンバーの視座の低さを直接指摘するよりも、問いの置き方や組み合わせを少し変えてみることが有効です。
例えば、目の前の作業に集中しすぎているメンバーに対して、「このプロジェクトが半年後にうまくいっているとしたら、今どのような判断ができそうか」と時間軸をずらした問いを投げかけてみてください。
すぐに答えを求めるのではなく、一緒に「考える余白」をつくるイメージです。問いを通じて仕事の捉え方が少しずつ変わっていくと、メンバー自身のなかで役割の意味づけも更新されていきます。
一人ひとりの小さなこだわりに目を向け、問いを通じて関わり続けることが、組織を「管理する対象」ではなく「共につくり、学び続ける場」へと変えていくはずです。
(前編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ

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