
シンガポール職場公正法(WFA) 2027年末施行に向けた企業対応
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シンガポールでは、職場における差別を禁止する新法、職場公正法(WFA)の導入が進められており、2025年に関連法案が可決され、2027年末の施行が予定されています。これまでガイドラインとして運用されてきた公正な雇用慣行の原則が、今後は法的義務として企業に求められる点が大きな変化です。
目次
ガイドラインから「法的義務」へ
職場公正法では、雇用における差別行為が明確に違法とされるとともに、企業には従業員からの申し立てに対応する社内苦情処理制度の整備が求められます。違反が認められた場合には、行政指導や金銭的ペナルティ、是正命令などの措置が取られ、重大なケースでは裁判所での制裁につながる可能性もあります。企業には、これまで以上に人事判断の透明性と説明責任が求められることになります。
保護対象となる11の属性
職場公正法では、採用、評価、昇進、研修、解雇など雇用に関するあらゆる場面において、特定の属性を理由とする不利益取扱いが禁止されます。対象となる属性は、年齢、国籍、性別、婚姻状況、妊娠、介護責任、人種、宗教、言語能力、障害、メンタルヘルスの11項目です。なお、性的指向や性自認については今回の法律には含まれていませんが、引き続き既存のTGFEPガイドラインの枠組みの中で扱われます。
紛争解決のプロセス
差別の申し立てがあった場合、まず企業内部での苦情処理を通じて解決を図ることになります。その後、第三者による調停を経て、最終的には裁判へと進む三段階の仕組みが想定されています。最終段階ではEmployment Claims Tribunal(雇用請求審判所、以下「ECT」)または高等裁判所で審理が行われます。ECTは最大25万シンガポールドルまでの請求を扱う制度であり、比較的利用しやすい紛争解決手段として設計されています。
この制度設計からも分かるように、企業側としては紛争を社内で適切に処理できる体制を整備しておくことが重要です。

日系企業にとっての実務上のポイント
人事労務の観点から見ると、日系企業が特に注意すべきポイントは大きく三つあります。
第一に重要なのは、人事判断の説明可能性です。採用、評価、昇格といった意思決定について、職務要件や評価基準に基づいて合理的に説明できる状態を整備しておく必要があります。職務記述書(Job Description)や評価基準、昇格基準の明確化に加え、人事判断のプロセスを記録として残す仕組みも重要です。
第二に、社内苦情処理制度の整備です。申し立てを受け付ける窓口の設置にとどまらず、事実調査、結論通知、再発防止までを含めた標準的なプロセスを整備しておく必要があります。また、申し立てを行った従業員への不利益取扱いの禁止や、調査過程における機密保持についても明文化することが求められます。
第三に、採用実務への影響です。求人広告において年齢、国籍、性別などを示唆する表現はこれまでどおり認められなくなる一方で、日本語能力などの言語要件については、職務上必要な場合に限り例外が認められる可能性があります。ただし、その合理性を説明できる形で要件を設定しておくことが重要です。また、応募段階で写真の提出を求めることも認められません。

本社方針とローカル制度の整合
職場公正法は企業に対して、より透明性の高い人事運用を求めている制度ともいえます。そのため、シンガポール現地の人事方針や制度を、日本本社の理解を得ながら設計しておくことが重要です。例えば、等級制度や評価基準はグループ共通のフレームワークとして整備しつつ、報酬レンジや手当は現地市場に合わせて設計するといった「グローバル共通+ローカル適合」の制度設計も有効と考えられます。
おわりに
2027年末の施行までは一定の準備期間がありますが、特に人事制度の見直しには想像以上に時間を要します。企業としては今の段階から、人事ポリシーや就業規則の見直しを進め、職務要件や評価基準の整理、社内苦情処理制度の整備など、取り組めるところから着手しておくことが望まれます。
職場公正法は単なるコンプライアンス強化にとどまらず、人事制度やマネジメントの透明性を問う制度改革ともいえます。日系企業にとっては、現地化の推進と公正な雇用慣行の両立を図る契機となるでしょう。
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