
シンガポールの再雇用制度
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近年、シンガポールの日系企業でも、拠点の立ち上げ期から勤続し活躍してきた従業員が定年を迎える事例が増えています。それに伴い、制度の理解や手続き方法、契約条件の見直しなど、具体的な実務対応に関する相談が多く寄せられています。そこで本稿では、シンガポールの定年・再雇用制度の基本情報とともに、実務上で注意すべきポイントをご紹介します。
目次
はじめに
シンガポールでは、高齢化や出生率の低下といった構造的課題に対応し、労働力人口を維持するために、定年後の再雇用制度が法制化されています。政府は、働く意欲のある人材ができる限り労働市場で活躍し続けられることを国家戦略として位置付けており、企業には、再雇用の要件を満たし勤務継続を希望する従業員に対し、雇用機会を提供する義務があります。
法定定年と再雇用義務
シンガポールの法定定年は現在63歳ですが、2026年7月に64歳へ、そして2030年までに65歳へと段階的に引き上げられる予定です。再雇用年齢についても現在は68歳であり、定年とあわせて段階的に70歳まで引き上げられる計画となっています。
再雇用制度の対象となるのは、シンガポール国籍者(Citizens)および永住権保持者(Permanent Residents)です。対象者は、業務成績が良好であること、健康上勤務を継続できること、さらに55歳を過ぎて入社した従業員については、63歳を迎えるまでに同じ雇用主の下で少なくとも2年以上勤務していることが条件とされています。

契約の特徴と処遇
再雇用契約は通常1年ごとに締結され、契約の開始日は、従業員が定年年齢に達する誕生日となります。
再雇用後の職務は、必ずしも定年前と同一である必要はなく、健康状態や能力、業務上の必要性に応じて、企業と従業員の合意のもとで調整することができます。その際には、報酬や処遇条件を見直すことも可能です。一方で、同一の職務や役職を継続する場合には、雇用条件は原則として定年前と同じであることが求められます。
再雇用不可時の対応
企業が慎重に検討を行った結果、再雇用の機会を提供できない場合には、従業員の同意を得たうえで、その再雇用義務を他の雇用主に引き継ぐことができます。しかし、新たな再雇用先を確保できない場合、または確保できても従業員の同意が得られない場合には、企業は雇用支援金(Employment Assistance Payment:EAP)の支払い義務を負います。
EAPは、再就職活動を支援するための一時金であり、月額給与の3.5ヵ月分(最低6,250ドル、最高14,750ドル)が基準とされています。ただし、63歳以降に30ヵ月以上再雇用された従業員については、2ヵ月分(最低4,000ドル、最高8,500ドル)での対応が認められています。
なお、EAPは退職金とは別の制度です。そのため、独自に退職金制度を設けている企業は、EAPとは別に退職金の支払い義務が生じる点に注意が必要です。シンガポールでは退職金制度は法定義務ではないため、必要に応じて制度の見直しを検討することも可能です。

政府の支援策
シンガポール政府は、シニア世代の雇用を推進するため、さまざまな助成制度を設けています。例えば、シニア雇用助成金(Senior Employment Credit)では、60歳以上の従業員を雇用・再雇用する企業に助成金を支給しています。また、職務再設計助成金(Job Redesign Grant)では、業務の簡素化や短時間勤務制度の導入を支援しています。さらに、リスキリングやキャリア転換の支援も充実しており、結果としてシニアを含むあらゆる世代の従業員の活躍が後押しされています。

実務上の留意点
再雇用については、定年を迎えるおおよそ6ヵ月前を目途に社内で対応方針の検討を開始し、遅くとも3ヵ月前までには本人へ意思確認を行うタイムラインを設定することをおすすめします。余裕をもって準備を進めることで、企業・従業員双方が安心して再雇用へ移行することができます。
また、処遇を変更する場合には、必ず合理的な理由を示したうえで従業員に説明し、理解を得ることが求められます。日本では、再雇用にあたり雇用形態や雇用条件を一律に変更するケースも見られますが、シンガポールでは職務内容や能力に応じて個別に判断することが基本とされています。
おわりに
再雇用者を積極的に受け入れ、長く働き続けられる職場を醸成することは、多世代の強みを活かした協働を可能にし、組織の創造性と競争力を高めることにつながります。シンガポールの人事・労務に関してご不明な点がございましたら、どうぞお気軽に弊社までお問い合わせください。








