
ベトナム出張者の個人所得税と免除申請の最新実務
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短期出張者を含め、ベトナムでは法令上、ベトナム源泉所得に対して個人所得税の申告・納付が求められている。従来は、日越租税条約に基づく免除申請により、短期滞在者は免除が認められていたが、近年はほとんどのケースで否認されている。本稿では、出張者に係る個人所得税および短期滞在者の免除申請について、その最新動向を解説する。
目次
出張者の個人所得税
ベトナムの個人所得税は、居住者の場合、日本と同様に累進課税制度に基づいて申告・納税が求められる。また、出張者などの非居住者であっても、ベトナム源泉所得に対して申告・納税義務が生じる。なお、このベトナム源泉所得には、日本の親会社から支払われる給与の一部も含まれ、通常は滞在日数に応じた金額を申告・納税する。
出張者の個人所得税に関する申告・納税の対応は企業ごとに異なるが、特に現地法人や駐在員事務所が出張者の費用を負担している場合、税務調査において申告漏れについて指摘される事例がよく見られる。
非居住者に対する税率は一律20%であり、図表1の式で計算される。
日越租税条約に基づく免除申請の条件
「ベトナム社会主義共和国政府と日本国政府との間の租税に関する二重課税の回避及び脱税防止のための条約(以下、「日越租税条約」)」第15条に基づき、以下のすべての条件を満たす出張者については、個人所得税に関する短期滞在者の免除申請を提出することができる。
(a) 暦年におけるベトナム滞在期間が183日未満であること
(b) 報酬がベトナムの居住者である雇用者またはこれに代わる者から支払われていないこと
(c) 報酬が雇用者のベトナム国内にある恒久的施設または固定施設によって負担されていないこと
一般的に、出張者の給与や宿泊費などの諸経費は日本法人が負担しており、多くのケースで上記(a)~(c)の条件すべてを満たすと考えられる。法令を文言通りに解釈すれば、駐在員事務所の有無にかかわらず、これらの条件を満たす出張者については免除申請を提出し、出張期間中の個人所得税について免除を受けることができる。
免除申請に係る当局の最新動向
当局の最新の見解
前述のとおり、日越租税条約に基づく免除申請の条件を満たしていたとしても、ハノイ税務当局は、駐在員事務所が存在する場合には、条件(c)を満たしていないとして免除申請を否認してきた。否認の理由は以下の通りである。
親会社のビジネス全体を考慮すると、駐在員事務所の活動は単なる支援や準備にとどまらず、親会社の利益に直接関与していると考えられる(例:契約の交渉および締結、広告、アフターサービス等)。よって、駐在員事務所は「恒久的施設」に該当し、免除申請は認められない。
一方、ホーチミンでは、特に出張ベースで渡越する駐在員事務所の所長が個人所得税を納付する代わりに免除申請を行い、多くの場合、税務調査でも承認されてきた。
しかし、近年ではホーチミン税務当局の見解に変化が見られ、ハノイ当局と同様の理由に基づき、免除申請が否認されるケースが増加している。そのため、出張ベースで渡越する駐在員事務所の所長についても、任命状に記載されたベトナム源泉所得に基づき、個人所得税を納付する対応が推奨される。
免除申請の承認・否認状況
A. 2022年分以前の免除申請
これまで、免除申請は当局に受理された時点で承認・否認についての通知が行われず、税務調査の際に初めてその結果が明らかになっていた。そのため、申請者は免除が認められる前提で出張期間中の個人所得税を申告・納税しておらず、税務調査時に申請が否認されたことで、未納の所得税に加え、未申告に対するペナルティや遅延利息が課されるケースが発生している。
2025年3月現在、2022年分以前の免除申請については、当局からの承認・否認の結果は出ていない状況である。こちらからオフィシャルレターで照会した場合でも、現時点の当局の解釈に基づき、否認される可能性が高い。今後の税務調査においては、申請が否認されることも想定して臨む必要がある。
B. 2023年分以降の免除申請
2021年に発行された財務省通達 Circular 80/2021/TT-BTC により、免除申請は受理後30日以内に承認・否認の通知が届く仕組みに変更された。しかし、ハノイでは2023年分以降の免除申請についても、依然として通知が届いておらず、税務調査時に初めて承認・否認が判明するのが実情である。
一方、ホーチミンでは当該規定が2024年から実務的に適用され始めており、2023年分以降の免除申請については、税務調査前に結果が判明する事例も出てきた。ただし、結果が届くまで1〜2年間ほどかかることが多く、また、前述のとおり、現状は通知された免除申請の多くが否認されている。
おわりに
ベトナムでは、法令に変更がない場合であっても、当局の法令解釈の変更により、過去には認められていたものが否認されるケースが少なからず見受けられる。当局に対して不服を申し立てても、これを覆すことは容易ではなく、税務裁判の実例がほとんど存在しないことから、日本のように税務裁判で争うことも現実的ではない。
租税条約上、短期滞在者免除申請の適用が可能であっても、実務上は出張者として申告・納税した方が、結果として節税につながることが多いのが現状である。
こうした判断は事例ごとに異なる上、税務当局の対応も今後変化していくことが想定されるため、最新の状況を踏まえ、専門家に相談のうえ対応策を検討することを推奨する。









