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SWITCH 2025 EVENT REPORT

SWITCH 2025 EVENT REPORT

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本連載では、グローバル視点での戦略策定やデザイン開発に実績を持ち、APACと日本の双方向進出支援を行うI&COが、アジア各国のイベントレポートやビジネスシーンをお届けしています。第5回となる今回は、シンガポールで開催されたアジア最大級のイノベーションイベント「SWITCH(Singapore Week of Innovation & Technology)」の現場から、「国家OSの再定義」や「実装重視への転換」といった観点で得られた気づきをお伝えします。

SWITCH 2025とは

SWITCHは、シンガポール政府系機関であるEnterprise Singapore(シンガポール企業庁)などが主催する、グローバルなイノベーション・プラットフォームです。第10回目という節目を迎え、さらにシンガポール独立60周年とも重なった今年は、世界150ヵ国以上から約20,000人がマリーナ・ベイ・サンズに集結し、過去最大規模での開催となりました。

今年のテーマは「Powering Innovation, Creating Our Future」。会場では、政府の国家戦略である「RIE2025」とも連動した、以下の4領域に特に大きなスペースが割かれていました。

• Health & Biomedical(健康・医療)
• Quantum Technologies(量子技術)
• AI & Robotics(人工知能とロボティクス)
• AI for Materials(新素材とAI応用)

開会挨拶に登壇したガン・キムヨン副首相は、量子技術や「身体性を持つAI(Embodied AI)」といったディープテック領域への継続投資に加え、マイクロソフトなどと連携した新たなAIスタートアップ育成プログラムの立ち上げを発表しました。国全体で技術の萌芽を加速させようとする姿勢が、イベントの端々から感じられます。

スタートアップ

現場から見えた3つの気づき

今年の会場を歩いて特に印象的だったのは、目新しい技術の披露にとどまらず、それらが「都市や社会の中でどのように機能するのか」という実装のリアリティへと焦点が移っていた点です。

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1:国家OSの再定義-「強みの転用」が次なる成長エンジンになる

今回のイベントを通じた最大の気づきは、技術の評価軸が「先進性」から「実利」へとシフトしている点です。

象徴的だったのが、ピッチコンテスト「SLINGSHOT」の光景です。

私が観覧した「製造・貿易・接続性(Manufacturing, Trade & Connectivity)」部門で競われていたのは、サプライチェーンの断絶を埋める物流プラットフォームや、工場の省エネを即座に実現する新素材など、産業の足腰を支えるソリューションでした。
こうした実利重視の背景には、各国が自国の強みを次なる成長領域へと転用する、したたかな戦略があるように見受けられます。

参加した講演では、例えば「世界初のデジタル国家」とされるエストニアが、自国のデジタルインフラを「サステナビリティ実現」の加速装置として再定義し、木材や菌糸体を活用した新素材産業を育成するなど、デジタルとフィジカルを融合させた実利的なイノベーションを展開している点が紹介されていました。

シンガポールもまた、金融ハブとしての資金力をテコに、AIやバイオ医薬の実装へ大胆に投資し、「ディープテックハブ」への構造転換を図っています。既存の武器を使い、国全体を実験場から実装市場へと変貌させているのです。

この国家OS(オペレーティングシステム)のアップデートは、少子高齢化と人口減少に向き合う日本にとっても、重要な参考となるはずです。スリングショット

2:ロボティクスが社会に溶け込む – 「自律×協調×都市実装」が加速する

こうした「実装重視」の姿勢は、ロボティクス領域においても顕著に見られます。会場では、「単体の性能」を競う段階から、「人間や都市といかに協働するか」へと焦点が移りつつあるように感じられました。

基調講演でManus AI社が語った「Agentic AI(自律型AI)」という概念は、その象徴と言えるかもしれません。これは、AIを単なる対話相手としてではなく、「自ら考え、行動し、学習する」エージェントとして捉える考え方です。

展示フロアでも、人間が担ってきたタスクを自律的に判断し、遂行するロボティクス技術が数多く見られました。これらは人間の仕事を単に置き換える存在ではなく、能力を拡張・補完する「協調的な存在」として、建設や物流といった都市機能へ浸透し始めているように感じられます。

市場規模の観点でも、アジア太平洋地域のサービスロボティクス市場は、2025年初頭時点で約155億米ドル、2030年までに341億米ドルへ拡大すると予測されています。自律移動ロボット(AMR)の平均投資回収期間も2.5年未満とされており、技術の成熟と経済合理性が揃ったことで、実装フェーズへの移行が本格化していることが窺えます。ロボット

3:日本企業の存在感 – 課題先進国としての強みを再定義する

日本からも、自治体パビリオンなどを通じて多くの企業が出展し、確かな存在感を示していました。

会場内の議論では、「日本市場」の価値が再評価される場面も見られました。例えば、日本の高齢者介護市場がシンガポールの40倍以上の規模であることを指摘し、「日本での成功は、品質の証明として世界展開のパスポートになる」といった趣旨の意見を語る登壇者もいました。

また、進出先として東京などの大都市だけでなく、実証実験に積極的な日本の地方都市が候補になり得るとする議論もありました。課題先進国である日本市場の厳しさは、見方を変えれば、グローバルで通用するソリューションを磨くための、最適な環境として映っているのかもしれません。

おわりに—「次の実装フェーズ」への示唆

今回のSWITCH 2025で目の当たりにしたのは、参加国が自らの強みを再定義し、イノベーションを「実験」から「実利」へと昇華させる国家OSのアップデートでした。

この潮流の中で日本企業が勝ち筋を見出すためには、優れた技術(点)を持ち込むだけでは不十分で、書き換えられつつある現地の規制やインフラ(面)と、いかに同期できるかが問われているのではないでしょうか。

一方で、アジアで磨かれたソリューションを日本市場へと持ち込む、逆方向の流れも加速しています。規制環境の違いや実装スピードの差を活かし、アジアで実証を重ねたロボティクスやヘルステックのソリューションが、日本の課題解決に貢献する可能性は少なくありません。特に、地方都市における人手不足や高齢化対応の分野では、すでに実装実績を持つアジア企業との協業が、有効な選択肢となるでしょう。

この局面において重要なのは、「日本の技術をどう売るか」でも「海外の技術をどう買うか」でもなく、「アジアの新しいOS上で、どのような未来を共に実装できるか」という問いへと、視点を転換することだと考えています。

こうした問いと答えを導き出すためには、マクロな戦略と、ミクロな現場の手触りを往復する視座が不可欠です。私たちI&COとしても、戦略と実装の間に横たわる深い溝を埋めながら、皆様と共に次の時代の産業をデザインするパートナーでありたいと考えています。
【イベント概要】YoutubeWEB

執筆者
竹内 恭平
I&CO APAC
事業開発責任者

商人と職人の家系に生まれる。楽天の広告事業部門を経て、スタートアップ複数社にてシード〜レイター期における数多くの0→1を経験。これまでにEC、オンラインメディア、VR×SaaS、DTx等の事業開発に携わる。I&COでは同社初の事業開発責任者として、シンガポールを拠点にAPACを繋ぐ事業およびパートナーシップの創出・拡大に取り組む。

I&CO APACのロゴ
I&CO APAC

I&COは、ブランド、プロダクト、サービス、コミュニケーションの4領域に焦点を当て、企業やブランドの変革を成功に導くグローバル・イノベーション・ファーム。ニューヨーク、東京、シンガポールに拠点を構え、これまでにTOYOTA、UNIQLO、Panasonic、Amazon Audibleなどをはじめ、国内外の多くのブランドのプロジェクトを手掛けている。