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飲食業のベトナム進出と店舗展開に伴うライセンス取得

飲食業のベトナム進出と店舗展開に伴うライセンス取得

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近年、日系大手飲食チェーンの海外展開が加速し、2023年以降、ベトナムでもその動きが顕著である。しかし、飲食業のベトナム進出や店舗展開には複雑な許認可取得と多様な選択肢が伴うため、正確な情報収集と慎重な検討が求められる。本稿では、ベトナム進出を検討する飲食業向けに、最新の法令と実務を解説する。

1. 飲食業の許認可取得の流れ

飲食業のベトナム進出における一般的な流れは以下の通りである。

 

(1)運営会社の設立 →(2)飲食業ライセンスの取得 → (3)各店舗の運営に関する手続きの実施

 

各ステップの具体的な手続きや実務上の留意点については、次章で解説する。

2. 各許認可と実務上の留意点

(1)運営会社の設立

業種に関係なく、外国企業がベトナムに投資して事業を行う場合、「投資案件」として「投資登録証明書(IRC:Investment Registration Certificate)」の取得が必要となる。その後、その投資案件を実施するために「現地法人」を設立登録し、「企業登録証明書(ERC:Enterprise Registration Certificate)」を取得する。

 

IRC申請時には、投資金額や事業内容だけでなく、事業を行う「適切な場所」の住所も登録しなければならない。例えば、製造業であれば工場、コンサルティング業であればオフィスといった具体的な場所が求められる。そのため、IRC申請時点で事業内容と適切な場所の両方を検討する必要がある。飲食業を行う場合、以下の2つのパターンが考えられる。

 

パターン①

1店舗目の場所が決まっていて、その場所で現地法人を設立する

 

①の場合、IRC/ERCの事業内容を最初の申請時点から「飲食サービス」とし、現地法人の住所を1店舗目の場所にする必要がある。実務的には、進出企業にとって1店舗目の場所は事業計画やマーケティングの観点から非常に重要であるため、検討に時間をかけることが一般的である。そのため、先に現地法人を設立し、人材採用やその他現地での立ち上げ準備を進めるために②を選択するケースが多く見られる。

 

パターン②

1店舗目の場所が未定で、現地法人設立後に店舗の場所を決める

 

②の場合、まずは店舗とは別にオフィスを賃貸契約し、商社やコンサルティング等の事業内容で会社を設立する。その後、IRC/ERC取得後に飲食サービスを事業内容に追加する流れとなる。商社やコンサルティング会社の設立手続には、準備期間も含めておおよそ3ヵ月程度を要する。会社設立完了後には、銀行口座の開設、資本金の送金、現地従業員の雇用、駐在員のビザ・労働許可証の取得などの手続きが可能となる。

 

(2)飲食業ライセンスの取得

パターン②で進める場合、以下の2つのオプションがある。

 

オプションA

会社の登記住所を第1店舗の場所に移転する

 

手続き上、「飲食サービスの事業内容追加」と「会社の住所変更」をまとめて申請し、IRCとERCの両方を修正する。

 

オプションB

会社の登記住所を変更せず、第1店舗を支店として登記する

 

多店舗展開を見据え、店舗とは別の場所でバックオフィス業務を行う場合は、オプションBを選択するのが一般的である。なお、現地法人(本店)と支店(店舗)は別々の「投資案件」と見なされ、それぞれでIRCを取得しなければならない点に留意する必要がある。

 

どのような事業活動がIRC取得を要する投資案件に該当するかは投資法上明確ではないが、実務上は飲食店舗ごとの出店が1つの投資案件と解釈されるのが一般的である。特にホーチミン市では、最近IRCを取得していない飲食店舗が計画投資局から指摘を受けた事例があったため、支店(店舗)のIRC取得を強く推奨する。

 

現地法人(本店)および各支店(店舗)の登記関連証明書は、図表1の通りである。各店舗のIRC申請時には、「投資案件」の投資資本金を申請書類に明記する必要がある。各店舗の投資資本金は、現地法人(本店)の払込資本(定款資本)から拠出されるため、現地法人(本店)の増資が求められる可能性が高い。つまり、最初に申請した資本金はあくまで「本店の投資案件」に限られた資本金であり、店舗を追加する場合には、現地法人(本店)が増資を行い、その増資分を新規展開店舗の投資案件に充当すべき、という考え方である。

図表1 現地法人(本店)および各支店(店舗)の登記関連証明書

 

オプションBの具体的な手続き

(i) 現地法人(本店)のERC修正

飲食事業を追加登録し、払込資本も増資する。

ただし、現地法人(本店)のIRC修正は不要。

(ii) 支店活動証明書(BOC:Branch Operation Certificate)の取得

(iii) 支店の投資案件IRCの取得

 

ここで一例を挙げる(図表2)。合計3千万円の資本金で、2店舗(1店舗あたりの資本金は1千万円)の展開を想定した場合、最大の留意点は、最初に本店のIRCおよびERCを申請する際に、3千万円全額を申請せず、各店舗の資本金分を除いた金額(この場合は1千万円)のみで申請すべきという点である。店舗用の2千万円は、本店のERCの増資を申請した後、店舗のIRCにて申請する。

図表2 地法人(本店)および各支店(店舗)の登記関連証明書

 

なお、店舗の場所については、オプションA、Bにかかわらず、以下の2点に留意する必要がある。

 

出店場所の種類による手続き難易度の違い

オプションAの本店IRC修正やオプションBの支店IRC取得の難易度は、店舗の出店場所の種類によって異なる。

 

路面店の場合

当該地域(例えば、ホーチミン市の場合は各区)の都市計画への適合性、治安や交通への影響などが厳しく審査される。その結果、手続き期間が延び、場合によっては申請が否認される可能性もある。

 

モール内の場合

モールが建設認可を受ける際に飲食店舗も含めた計画が考慮されているため、路面店と比較して取得難易度は低くなる。

 

物件の法的書類の確認

許認可発行機関に対して、物件関連の法的書類(土地使用権証明書、物件所有権証明書、建設許可証、承認済設計、貸主の経営許可など)の提出が求められる。そのため、賃貸契約時に、貸主にこれらの書類が全て揃っていることを事前に確認することが推奨される。

 

(3)店舗運営に関する手続

飲食業のライセンス登録完了後、開業までに主に3つの対応が求められる。

①食品安全条件の充足に関する証明書の取得

当該証明書を申請するためには、店長と料理人の食品安全研修を実施し、完了確認書を提出する必要がある。実務上、店長が外国人の場合、外部へ委託して代理で研修を実施することも認められている。証明書の有効期間は3年で、その後更新手続きが必要となる。

②店舗内での酒類提供の登録

管轄基幹(区の人民委員会)に対して、店舗内での酒類提供に係る登録が必要となる(アルコール度数により手続内容が異なる)。また、酒類の輸入に関するライセンスの取得は非常に難しいため、ベトナム現地の酒類輸入業者から購入するのが一般的である。

③店舗の消防法準拠証明書の取得

店舗の新装工事を行う際には、消防法の各種条件を満たしていることを証明する証明書の取得が必要である(店舗の面積により手続内容が異なる)。なお、店舗工事業者が手続きを代行するケースも多い。

(4)その他留意事項

その他の留意事項として、主なものを列挙しておく。

労務

店舗でアルバイトを雇用する際は、ベトナム労働法に基づきパートタイムの労働契約書を締結する必要がある。基本的に、パートタイムの従業員にも有給休暇や社会保険の加入などは正社員と同様に適用される。一方で、法令に定められていない制度(各種手当の支給など)の適用有無は会社が決定できるため、社内規定で明確化しておくべきである。

 

また、外国人従業員については労働許可証の取得が必要となる。特に料理長として労働許可証を取得する場合には、「3年以上の料理長経験があり、かつ大学卒業」という条件を満たすことが求められる。ただし、大卒の条件を満たさない場合、料理長としての労働許可証は取得できず、一般の料理人として申請することになる。一般の料理人としての条件は、「3年以上の料理人経験を持ち、かつ専門学校以上を卒業」もしくは「5年以上の料理人経験を持つこと」である。

税務

税務上、仕入費用を損金算入するためには原則としてVAT(付加価値税)インボイスの取得が必要である。特に、市場や小規模業者から材料を調達する場合、VATインボイスが発行されないケースが多い点に注意が必要である。また、会社が顧客に対してVATインボイスを発行する際は、当日中に各会計ごとに発行しなければならない。

顧客の個人情報の取り扱い

2023年7月に施行された個人情報保護の政令13/2023/ND-CP(政令13号)に基づき、個人顧客の氏名や電話番号などのデータを取得・保管する場合には、適切な管理が求められる。個人情報保護規定を作成し、公安省に提出するなどの各種手続きを実施する必要がある。

3. おわりに

本稿では、飲食業がベトナムに進出する際に必要な手続きを、法令と実務の両面から解説した。特に、多店舗展開を目指す場合、各店舗が投資案件とみなされIRCの申請が必要となるため、迅速な店舗展開を実現するには、法令と実務を正確に理解し、綿密な計画を立てることが不可欠である。

 

ベトナム人名義でローカル企業として展開する事例や、外資系企業として登記しながらも各店舗のIRCを取得しない事例も散見される。しかし、今後、法令違反の取り締まりが厳格化する可能性が高く、中長期的には事業運営に支障をきたすことが想定される。本稿を参考に、保守的な姿勢で各種許認可の取得を検討することをお勧めする。

執筆者
Pham Thi Ut
I-GLOCAL CO., LTD.
Assistant Director

ホーチミン市貿易大学で経済学と日本語を専攻。卒業後、日本での短期語学留学を経て、2011年にI-GLOCALに参画。投資・ライセンス・労務部門の責任者として、多数の日系企業のベトナム進出支援とベトナムの人事労務分野に特化したコンサルティング業務に従事する。

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I-GLOCALは2003年にベトナム初の日系会計事務所として設立。ベトナム進出支援から進出後の会計・税務・人事労務を中心とした経営管理支援、M&Aアドバイザリーや買収後のPMIまで、幅広い領域をワンストップで提供。現在の契約社数は1,000社を超え、豊富な経験と事例を基にした問題解決力が強み。