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東南アジアの日系共創コミュニティ「JSIP」 先行企業の経験知と現地ネットワークで新規事業を加速

東南アジアの日系共創コミュニティ「JSIP」 先行企業の経験知と現地ネットワークで新規事業を加速

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東南アジアでの新規事業を加速させる会員制コミュニティ「JSIP(ジェイシップ)」は、海外拠点の担当者が抱える「限られた任期とリソース」という制約を踏まえ、情報・ネットワーク・実践機会の三要素を迅速かつ的確に提供することで、日系企業の新規事業への挑戦を後押ししている。

リンオペの寄稿者としても活動するJSIPの取り組みについて、創設メンバーである池西亮氏に話を聞いた。

駐在員制度の限界とJSIP設立の背景

池西氏自身も、かつて海外事業担当としてインド市場の開拓に取り組んでいた。その際、大手財閥に勤めるインド人から「日本企業は韓国や中国企業に比べて初動が控えめで、関係構築に時間をかける傾向がある。そのため、表敬訪問は挨拶や情報交換だけで終わり、具体的な提案が行われないことも多い。初回面談から合意形成に向けた会話を積極的に行うことが、結果的に関係構築にも良い影響を与える」と助言を受けたという。

こうした経験を通じて、池西氏は海外事業の立ち上げ期におけるアプローチに課題意識を持つようになった。その後シンガポールに拠点を移した同氏は、現地で奮闘する日系企業の実態を把握すべく、新規事業に取り組む約120社にヒアリングを実施。その結果、共通する7つの課題が浮かび上がった(図表1)。7つのキーチャレンジ

これらの共通課題の根底には、駐在員制度の構造的な制約がある。駐在員の任期は通常3〜5年と限られており、その間に現地市場を理解し、信頼関係を築きながら新規事業を軌道に乗せるのは容易ではない。さらに、多くの駐在員は既存事業の運営と並行して新規事業に取り組む必要があり、専任体制が整っていないケースがほとんどだ。そもそも、1人の駐在員が営業、マーケティング、人事、経営企画など複数の業務を兼務する体制が常態化しており、このような状況では、個社や個人の努力だけで新規事業を推進するには限界がある。

そこで、企業の枠を超えて、担当者同士が知見やネットワークを共有し合える、組織横断型の共創プラットフォームとして設立されたのが「JSIP(Japan Southeast Asia Innovation Platform)」である。2021年10月にシンガポールで発足し、2024年11月には沖縄に日本法人を設立。現在は、日本と東南アジアの双方から、新規事業に取り組む企業を支援している。

JSIP創設メンバー

JSIP創設メンバー

新規事業の立ち上げと拡大を支える2つの強み

JSIPの特長の一つは、東南アジアで新規事業に取り組む日系企業が経験してきた失敗・成功事例や、そこから得られた知見にアクセスできる点である。会員企業は、JSIP主催のネットワーキングイベントやナレッジ共有会を通じて、業界や業種の垣根を越え、他社の新規事業担当者と情報交換することができる。

さらに、現地のVC、コンサルティングファーム、HR・マーケティングエージェンシー、法律事務所、政府系・アカデミック機関など、多様な分野の専門機関で構成される「エバンジェリスト」や「エコシステムパートナー」にも相談が可能だ。こうした先行企業の経験知や専門家による支援は、これから新規事業に取り組む企業にとって、立ち上げ準備期間を大幅に短縮する足掛かりとなる。

「JSIP Lounge」新規事業担当者が業界・業種を超えて交流するネットワーキングイベント。これまでにシンガポール、タイ、インドネシア、日本で80回以上開催

「JSIP Lounge」新規事業担当者が業界・業種を超えて交流するネットワーキングイベント。これまでにシンガポール、タイ、インドネシア、日本で80回以上開催

「JSIP Round Table」全会員企業が集まり、新規事業推進の中で直面した課題や得た知見をシェアして学び合うナレッジ共有会

「JSIP Round Table」全会員企業が集まり、新規事業推進の中で直面した課題や得た知見をシェアして学び合うナレッジ共有会

もう一つの強みは、日本企業との協業実績がある、または協業に関心を持つ100社以上のローカル企業とつながれる点である。会員企業は、JSIP主催のピッチイベントなどを通じて、東南アジアのローカルスタートアップや投資家に自社の技術やサービスを提案し、拡大に向けた共創パートナーを募ることもできる。過去にはダイキン、NTTドコモ、住友商事、RICOHといった企業がこの機会を活用している。

「JSIP Reverse Pitch」会員企業のうち希望企業が、東南アジアのスタートアップや投資家に向けて共創パートナーを募るピッチイベント

「JSIP Reverse Pitch」会員企業のうち希望企業が、東南アジアのスタートアップや投資家に向けて共創パートナーを募るピッチイベント

日本発ネットワークを起点とした共創モデル

「海外で日本人だけで固まるのは良くない」という声もある。しかし、問題なのは“日本人だけ”という構成そのものではなく、そこに留まり続けてしまうことだ。あえて日本企業・日本人を中心に据えて構築されたJSIPの枠組みには、明確な意図がある。

「中国企業もインド企業も海外進出の際には、現地に広がる自国ネットワークを駆使しています。共通のバックグラウンドを持ち、同じミッションに挑む者同士が有機的につながることで、ビジネスチャンスを拡大するだけでなく、失敗のリスクを軽減することにもつながる。これは、東南アジアにおける日本企業のプレゼンスを高めるうえでも有効なアプローチです」と池西氏は指摘する。

現地での成功にはローカルとの連携が不可欠である一方、事業の立ち上げ段階においては、日本人同士で知見を持ち寄り、支え合う体制がスピードと実行力を生む場面も少なくない。JSIPは、こうした日本発の連携を起点に、ローカル企業との協働へと展開していく共創の基盤となっている。

現地理解を深めるオンラインカンファレンス「DECODE 2025」

「東南アジアでは、経済成長と人口増加を背景に中間層が拡大し、新たな消費市場が形成されつつあります。インフラ整備も進み、日本との時差は小さく、宗教的なギャップも少ない。言語ギャップもAIの進化により、以前ほどの障壁ではなくなっています」。

新たな技術がなくとも、日本の“当たり前”の品質や顧客に寄り添う姿勢そのものが、強力な競争力となる地域もある。これまで海外市場に目を向けてこなかった企業にも、東南アジアには可能性が広がっていると池西氏は強調する。

ただし、そのポテンシャルを最大限に活かすには、現地と日本本社との間に存在する“解像度の違い”を埋めることが不可欠だ。そこでJSIPでは、2025年8月27・28日に、東南アジア事業に携わる日本人向けのオンラインカンファレンス「DECODE 2025」を開催する。

シンガポール、ベトナム、インドネシア、インドの4ヵ国を対象に、①基礎情報とトレンド、②スタートアップ視点、③大手企業視点という3つの切り口から、各国の現状と未来を掘り下げる全12セッションを展開。現地で活躍するプレイヤーの声を通じて、東南アジア・インドビジネスの“リアルな温度感”を共有する2日間となる。

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池西氏は本イベントに向け、次のように語る。

現地に根を張り、最前線で活動する当事者から、成功事例だけでなく、失敗や耳の痛い話も含めて吸収することが、解像度を一気に高める鍵となります。そして、いかに効率的に本質的な情報にアクセスするかが重要であり、DECODEがそのきっかけとなれば幸いです。
今や企業は、自社内ですべてを完結させるのではなく、外部のリソースや知見を積極的に取り入れ、新たな価値を創出する時代にあります。JSIPとしても、柔軟な協力体制を築きながら常にアップデートを重ね、さらなる介在価値を発揮していきたいと考えています」。

池西氏の写真
設立から4年で60社以上が参画する組織へと成長したJSIP。直近では、シンガポールに加え、インドネシアやインドへと支援を拡大している。

東南アジアでの新規事業を加速する上で不可欠なコミュニティとして、社会インフラの一端を担うことを目指し、今後もその活動領域を広げていく。

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外部環境に関する情報収集の重要性が増す中、担当者はネット上で入手可能な情報のみで構成された報告ではなく、「現地にいるからこその付加価値」が盛り込まれた報告が提供できるようにしたい。本稿では、東南アジアにおける情報収集の土台として押さえておきたい視点と情報源を紹介する。

執筆者:岡野 陽二
JSIP エバンジェリスト
コンサルティングファーム所属 シニアマネージャー

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話し手
池西 亮
JSIP Pte. Ltd.
Co-founder

1983年神奈川県生まれ。新卒で株式会社リクルートに入社後、起業を経て、2017年よりSansan株式会社にてインド・シンガポールでの駐在を経験。2021年にJSIPをシンガポールで設立し、現在は更なる事業の開発を東南アジアを舞台に取り組んでいる。

JSIP Pte. Ltd.のロゴ
JSIP Pte. Ltd.

JSIP(ジェイシップ)は、東南アジアで新規事業に取り組む日系企業向けに、事業の立ち上がりと拡大のスピードを加速させることを目的に作られた共創型のコミュニティプラットフォーム。同じミッションを持つ者同士が、業界や業種、組織の壁を超えて、有機的に連携することで、東南アジアにおける新規事業の成長が飛躍的に加速する土台をシンガポール中心に構築中です。