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コスパ・タイパ競争から抜け出し、ディファレンスを作る!ランダムさを取り入れる、自分と組織のデトックス術

コスパ・タイパ競争から抜け出し、ディファレンスを作る!ランダムさを取り入れる、自分と組織のデトックス術

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現代社会は、短期的な成果や効率を求める「コスパ」や「タイパ」のプレッシャーにあふれています。しかし、その競争に疲弊し、自分らしさを見失っているビジネスパーソンも少なくありません。

前編では、『戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」』(飛鳥新社)の著者であり、一般社団法人日本デジタルデトックス協会 理事も務める森下彰大氏に、ステップ1として「デジタルとの共存を目指すデジタルデトックス」について伺い、脳のキャパシティを確保する重要性について伺いました。

後編ではその実践をさらに深め、他者との比較から抜け出す「時計時間デトックス」や「自分デトックス」について深堀ります。そして組織として休息をどうデザインしていくべきか、現代だからこその真の競争力について迫ります。

ステップ2:短期的な効率から離れ、考古学のように「長い時間軸」を持つ

――前編ではステップ1のデジタルデトックスについて伺いました。続いて、ステップ2の「時計時間デトックス」について教えていただけますか。

森下:ステップ2で最もお伝えしたいのは、「時間軸を長く持つこと」の重要性です。

現代のビジネスパーソンは、単一のKPIに向かって常に効率とスピードを求められ、早く大きく成長することが正義だという価値観に縛られています。しかし、ビジネス以外の世界を見渡すと、時間軸はずっと長いんです。

例えば、考古学の分野では、未来のテクノロジーの発達に託すために、「あえて発掘しないエリアを残しておく」という視点があります。ポンペイ遺跡にもそのようなエリアが保存されていると聞きます。将来、超音波などの技術が発達すれば、土を掘り返して遺跡を傷つけることなく地中の状態がわかるかもしれない。だから今の世代ではあえて手を出さず、未来に委ねるという発想です。

――ビジネスの世界では、なかなか考えられない発想ですね。

森下:そうなんです。ビジネスの世界では使える資源は今すぐ使い倒すのが当たり前になっています。ヒューマンリソースという言葉があるように、人も資源として捉えられ、燃え尽きたら次を補充する。ビジネスにおけるこの短期的な効率志向は、非常に特異で、きわめて不自然な状態だと言えます。この効率志向から意図的に離れる時間を作らないと、自分に対しても他者に対しても、ゆったりと構えることができなくなってしまいます。

AIに代替されない「ディファレンス(独自の価値)」を育てる

――スタートアップの現場などでは、周りのすごい人たちを見ると「もっと早く、もっとやらなきゃ」と焦燥感に駆られてしまいます。周りに惑わされないためにはどうすればよいでしょうか。

森下:効率やスピードという尺度から離れたとき、基準になるのは自分が純粋に関心を持てるか、これをやっていて苦にならないか、という「主観的な感覚」です。

ビジネスの世界には年商や資金調達のスピード、年収など、比較しやすい数字が溢れています。しかし、他社の真似をして早く売り上げを立てるベター&ファスター(相対的な改善と加速)の競争に参加すると、いずれAIや、より安く大量にこなせる人材に負けてしまいます。経営学者のクリスチャン・マスビアウ氏が述べているように、最大の競争戦略はディファレンス(独自の価値)であること。つまり、異なっているということです。

――ベター&ファスターではなく、ディファレンスですか。

森下:はい。僕自身の原体験ですが、学生時代は足の速さや容姿といったわかりやすい基準で他者と比較し、コンプレックスを抱いていました。ある時、アメリカに留学した際、現地の女性から「あなたの目はエキゾチックで素敵ね」と言われたんです。

日本では目がぱっちりしていることが評価されると思っていましたが、海外では僕の細い目が逆に関心をひいて、ある種の価値になった。このとき、「違い」そのものが価値になるのだと、強烈に実感しました。

これは、ビジネスでも言えることだと思います。自分が戦う場所や尺度を変えるだけで、全く違う評価が生まれる。この思考の切り替えは非常に重要で、ビジネスや個人の生存戦略においても、いかにニッチで稀な存在になるか、ディファレンスがあるかが大切なのです。

ステップ3:人生にランダムさを取り戻す。ジョブズの道草がイノベーションを生む理由

――ステップ1で脳を回復させ、ステップ2で時間軸を広げたところで、最後のステップ3である「自分デトックス」についてもお聞かせください。

森下:ステップ3の「自分デトックス」は、固定化された自分という役割からいかに離れ、人生にランダムさを取り込めるか、というテーマです。

僕たちは「いい大学を出て有名企業に入るべき」「こういうキャラでなければならない」といったある種の呪いに縛られがちです。最近流行りの性格診断なども、「自分が何者であるか」を定義して安心したい欲求の表れですよね。

しかし、仏教の無我の教えにもあるように、本来確固たる自分など存在せず、環境や一緒にいる人によって変わるものです。だからこそ、自分が信じている情報の固定観念から離れ、全く違う環境に身を投じるランダムさが重要になります。

――効率を追い求めていると、ランダムな出来事や無駄なことは排除してしまいがちですね。

森下:その通りです。効率が邪魔をして、ランダムさを排除してしまうのです。けれど、イノベーションは効率を超えた体験から生まれます。

本の中でも触れていますが、スティーブ・ジョブズの事例がまさにそれです。彼は大学を中退した後もキャンパスに残り、自分の興味の赴くままにカリグラフィーの授業に潜り込むなど、あえてフラフラしている時期がありました。しかし、その道草の時間が、後になって美しいフォントを持つMacやiPhoneのアイデアとして結晶化していったのです。

また、僕が好きなエピソードを紹介すると、オランダで大成功している、あるチョコレート菓子メーカーがあります。

創業者は元報道ジャーナリストなのですが、カカオ農園で蔓延する児童労働の現実を目の当たりにし、強いショックを受けました。その現場で感じた強烈なインスピレーションと衝動が彼の原動力となり、「児童労働に関わっていないチョコレートを自ら作る」と決意しました。目先の効率に縛られることなく、サプライチェーンを徹底的に透明化し、自分たちの思いを貫き通しました。その結果、たとえ価格が高くても、その誠実さとストーリーが消費者の心を打ち、ブランド独自の揺るぎない価値が支持され、結果として大きな成功を収めたのです。

すぐに事業にならなくても、興味のおもむくままに道草を食い、試行錯誤する時間が、後になって結晶化していくのだと思います。

休むことは未来への投資。世界で広がる組織の余白デザインと情報休暇

――組織の中で働いていると、「余白作り」を実践するのは難しいと感じる人も多いと思います。組織レベルではどのように変わっていくべきでしょうか?

森下:従業員の集中力を最大化させるために取り組む企業が海外では増えてきた印象があります。

たとえば、フォーカスタイム制度などがそうです。メール返信や会議などのタスクが細々と入らないようにする時間帯を組織で定め、従業員が重要な業務にのみ集中できるようにすることで、生産性が改善された事例もあります。

ユニークな事例としては「ノーミーティング・ポリシー」を導入した海外企業もあります。この企業では特例で会議を開催することもありますが、会議の開催にあたっては一定の条件が設けられています。要は「雑多な会議で集中力が細切れになる」ことを防ぐようにしているのです。

同社の従業員たちは、「いったん慣れると生産性と解放感が大幅にアップした」と回答しています。

先の例のように、従業員が情報疲労に陥ることを防ぐような仕組みづくりのほか、単に出社をしないことが休みなのではなく、仕事に関連する情報から離れられる「情報休暇」を組織が保証することが重要だと感じます。すでに研究では、メールチェックの数が多いワーカーほど「ストレスレベルが高い」ということも判明しています。

――会議を減らすなどの余白づくりが、結果的にパフォーマンスの向上につながるのですね。

森下:はい。さらに重要な変化として、海外では起業家の燃え尽きを防ぐために、多くの経営者たちが動き始めています。投資家とスタートアップ創業者たちがメンタルヘルスのケアを推進する宣誓書には、数多くの署名が集まりました。この取り組みに賛同する企業は、数万社規模に拡大しています。

投資家たちも、ただ「死ぬ気で働け」とプレッシャーをかけるだけでは企業が持続しないことに気づき始めているのです。働く人のウェルビーイングや休息への投資を、組織としてどうデザインするかは、「やったらいいよね」という福利厚生の次元を超えています。サステナビリティへの取り組みと同様に、経営の必須課題として求められるようになってきています。

ストレスを減らす秘訣は「裁量権」。自分だけの小さな聖域を作ろう

――森下さんがこの活動を行う原点は、どこから来ているのでしょう?

森下:子どもの頃の原体験からあるかもしれません。岐阜の田舎町で生まれ育ったので、何か悩んだり、疲れたりした時は自然に囲まれて、ゆっくり過ごしたいなと思います(笑)。立ち止まることの大切さは、小さい頃から無意識に感じていたのかもしれません。

また、僕は高校時代にサッカーの強豪校にいましたが、そこでは「休んでいる時にこそ能力が上がるんだ」と休息の重要性を徹底的に教え込まれました。

人生の中で何十年も働き続けるウルトラマラソンに参加している以上、休み方のリテラシーをもっと身につける必要があります。効率至上主義の世界から一歩引いて、キャパシティを広げるための「戦略的暇」を意図的につくり、自分だけのディファレンスを育む生き方を見つけてほしいと思います。

――最後に、これから休みを見直したい読者へメッセージをお願いします。

森下:働く人々にとって大きなストレスになるのは、自分に裁量がないこと。つまり選択の自由がないことです。

自分で何かを選択できない、選択の自由がないという状況が続くと、寿命を縮めるほどの強いストレスになります。ですから、個人レベルでできる対策として、趣味でも副業でも構わないので、自分が主導権を持てる小さなスペースを作りましょう。自分で決断し、自律的に動くリハビリをしておくことが大切です。

直感や知識を頼りに自分がアクションを起こしている──戦略的暇の実践においては、この感覚を持つことが非常に大事だと考えています。

まとめ

効率に縛られた競争は、いずれAIや安価な労働力に代替される限界を迎えます。他者と比較するベター&ファスターの働き方から抜け出し、自分だけのディファレンスを見つけるためには、人生にランダムさを取り込む「戦略的暇」が不可欠です。

組織においても、生産性を高めるためのノー・ミーティングや、投資家によるメンタルヘルス推進など、余白づくりはすでに経営の必須課題となっています。まずは自分自身が主導権を持てる小さな時間を確保し、戦略的に休むことから始めてみてはいかがでしょうか。

(前編はこちらから)
取材・文:池田アユリ

話し手
森下 彰大
一般社団法人日本デジタルデトックス協会
一般社団法人日本デジタルデトックス協会理事 / 講談社「クーリエ・ジャポン」編集者 / Voicyパーソナリティ

1992年、岐阜県養老町生まれ。中京大学国際英語学科を卒業。在学中にアメリカの大学に1年間留学し、マーケティングと心理学を専攻。学生時代は音楽活動にものめり込む。その後、日本語教育や貿易業に携わる傍らでメディア向けの記事執筆を副業で始める。その後独立し、2019年にライティング・エージェント「ANCHOR」を立ち上げ、記事制作業を本格化。現在は「クーリエ・ジャポン」の編集者として、ウェルビーイングや企業文化の醸成を中心にリサーチ・取材・執筆活動を行う。日本デジタルデトックス協会では企業・教育機関向けの講義やデジタルデトックス(DD)体験イベントを提供する。 米留学中にDDが今後の「新しい休み方」になると直感し、実践と研究を開始する。しかし社会人になり自身がデジタル疲れに悩まされるように。体調の悪化から危機感を持ち、会社員生活を続けながら小規模なDDイベントを始める。その過程で、「今の私たちに足りていないのは、余白(一時休止)ではないか」と考えるようになり、戦略的に余白―暇を作り出すための方法を模索。多忙な現代社会の中で人生を変えるための「戦略的“暇”」を提唱している。 2020年より日本初となるDDを専門的に学び実践する「デジタルデトックス・アドバイザー®︎養成講座」を開講。のべ100名以上の修了生を輩出している(2025年時点)。