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AI活用が失敗する原因は「組織カルチャー」にある。斉藤徹氏が語る、少人数で最大価値を生む「タイニーチーム」の正体

AI活用が失敗する原因は「組織カルチャー」にある。斉藤徹氏が語る、少人数で最大価値を生む「タイニーチーム」の正体

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人手不足が続き、ビジネス環境が大きく変わるなかで、生成AIを活用した「少数精鋭の組織づくり」への関心が高まっています。しかし、多くの経営者がAIの重要性を理解していながら、組織全体での活用には至っていないのが現状です。

今回は、日本IBMを経て29歳で起業し、30年以上にわたってベンチャー経営の最前線に立ってきた株式会社hint代表の斉藤徹氏にお話を伺いました。斉藤氏はビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授として組織論・起業論の研究・教育にも取り組み、2025年には『そして僕たちは、組織を進化させていく』を出版。

AI時代の組織のあり方やシリコンバレーで注目される「タイニーチーム」の考え方、独自理論「組織のAIぐるぐるモデル」について詳しくお話を伺いました。

なぜAI導入企業の多くが失敗するのか?最大の壁は「組織のカルチャー」

――日本の会社の多くが生成AIの活用に足踏みしているという現状が続いていますが、改めて斉藤様はどのようにお考えでしょうか?

株式会社hint代表 斉藤徹氏(以下、斉藤):おっしゃる通り、多くの経営者の方が「AIを使わなければ取り残される」という危機感を持たれています。しかし、AIを導入した企業の多くがうまく活用できておらず、現場への定着は思うように進んでいません。

この原因については、「導入したソフトが使いにくい」や「社員の知識が足りない」だと考えられがちです。しかし、近年の生成AI、例えばChatGPTなどは対話型で非常に使いやすく、技術的なハードルはかつてないほど低くなっているのです。実は、AI活用がうまく進まない原因はツールではなく、それを使う「人」と「組織のカルチャー」にあります。

AIが真の成果をもたらすのは、社員が前向きに学習し、好奇心を持って新しい技術に向き合えるときだけです。経営者がいくら「AIを使うように」と指示しても、受け入れる土台となる「組織文化(カルチャー)」が整っていなければ、AIは定着しません。

――具体的に、どのような組織カルチャーだとAI活用がうまくいかないのでしょうか?

斉藤:私は組織の状態を、横軸に「関係性の質(仲が良いか、心理的安全性があるか)」、縦軸に「目的達成の意識(結果へのこだわりがあるか)」をとって、4つのタイプに分類して考えています。

まず、関係性も目的達成意識も低いのが「無関心チーム」です。ここでは、「今週のイベントの準備手伝ってくれない?」と頼んでも、「手が離せなくて無理です」と冷たく返されるような、互いに無関心な状態です。このような組織にAIを導入しようとしても、「忙しいのでできません」と拒絶されたり、やらされ仕事でいいかげんに使って終わりになったりしてしまいます。

その一方で、日本社会には、関係性は良いけれど目的達成意識が低い「順応チーム」が多く見られます。いわゆる「仲良しクラブ」のような状態で、会議自体は盛り上がっても、画期的なアイデアは生まれません。

その他にも注意すべきなのが、目標達成意識は高いが人間関係が悪い「達成チーム」です。ここでは、数字やノルマが絶対視され、メンバー同士が激しく競い合っています。そのため、個人のノウハウや暗黙知が共有されず、組織としての成長が止まってしまうのです。

優秀な層ほど個人でAIを使いこなしていますが、「手の内を明かせば自分の優位性が失われる」と考えるため、その活用術がチームに広まることはありません。

シリコンバレーが注目する「タイニーチーム」が少人数で巨額の価値を生む理由

――AIを組織の力にするためには、関係性と目的達成意識の双方が高い状態を目指すべきなのでしょうか?

斉藤:その通りです。私が「創発チーム」と定義している状態が、まさにその理想形です。これは、良好な関係性のもとで心理的安全性が担保され、かつ全員が高い目的意識を持って自律的に動いている状態を指します。

この環境が整って初めて、AIはその真価を発揮します。そのような「創発チーム」の究極形として、現在シリコンバレーで注目を集めているのが「タイニーチーム(Tiny Team)」です。

――「タイニーチーム」とは、どのようなチームなのでしょうか?

斉藤:タイニーチームとは、非常に少人数でありながら、大企業並みの巨大な価値を生み出すチームのことです。代表的な例として、「Cognition AI(コグニション・エーアイ)」があります。創業時はわずか7人のチームでしたが、半年ほどで企業価値が20億ドル(約3,000億円)に達しました。

他にも、AIコーディングツール「Cursor(カーソル)」を開発した「Anysphere(エニースフィア)」や、AI検索の「Perplexity AI(パープレキシティ・エーアイ)」なども、少人数で急成長を遂げたタイニーチームの代表例です。

彼らの特徴は、単に優秀だというだけではありません。AIを単なる「効率化の道具」として使うのではなく、対等な「チームメイト」として扱っている点が決定的に違います。人とAIが対話しながら開発を進め、スピーディにプロダクトを創出する。これこそがAI時代の新しい組織のあり方です。

――天才たちが集まっているからこそできることのようにも思えますが、一般的な日本企業でも再現可能なのでしょうか?

斉藤:もちろん、彼らのような天才を集めることは容易ではありませんし、資金力も違います。しかし、彼らが実践している「仕組み」や「メカニズム」を抽出して適用することは、どのような組織でも可能です。

重要なのは、彼らが少人数であることのメリットを最大限に活かしている点です。人数が少ないため、阿吽の呼吸でアクションを起こすことができます。日本の組織ではアンケートで社員の満足度を測定するケースが目立ちますが、タイニーチームであれば個人のやる気は一目でわかるのです。

そして何より、仕事自体を楽しんでいます。まるでゲームをするかのように熱中する「フロー状態」になれる人材が、AI時代に価値を発揮するのです。

ハーバード・ビジネス・スクールとウォートン校がP&G社と行った実験でも、興味深いデータが出ています。新製品のアイデア出しにおいて、最も質の高いアウトプットを出したのは「AI単独」でも「人間1人とAI」でもなく、「人間2〜3人とAI」のチームでした。

これは、人間同士の対話や多様な視点がAIと組み合わさることで、一人では到達できない「ひらめき」が生まれることを示しています。AI時代にこそ、人間同士の信頼関係やチームワークが会社を推進させる源泉になるのです。

目指すべきは内発的な動機を起点とした「組織のAIぐるぐるモデル」

――AIと共創する際、人間が最後まで手放してはいけない役割とは何でしょうか?

斉藤:AI時代における人間の役割は、「はじめ」と「終わり」に集約されます。まず「はじめ」とは、「目的設定」や「内発的な欲求」です。AIには「これがやりたい」という欲求がありません。人間が強い意志を持って方向性を定めない限り、AIという強力なエンジンは空回りしてしまいます。

その一方で、「終わり」の役割とは最終的な「価値判断」と「社会的知性(人を動かす力)」です。AIはデジタルなデータの世界には強いですが、現実の生身の世界に「接地」していません。そのため、複雑な現実社会における責任ある判断や、人の心を揺さぶるような働きかけは人間にしかできないのです。その中間の「実務(プロセス)」はAIに任せても、この両端だけは人間が握り続ける必要があります。

――では、その考え方を組織として実践するには、具体的にどうすればよいのでしょうか?

斉藤:この「はじめと終わりを人間が握る」という構造を、組織の仕組みとして回し続けるためのフォーマットが、私が提唱する「組織のAIぐるぐるモデル」です。これは、組織の中に「やる気・知識・ひらめき」の好循環を生み出す仕組みで、天才ではない普通の組織がタイニーチームのような成果を出すための実践的なモデルです。

マーケティングの世界には、アマゾンが有名にした「フライホイール効果」というものがあります。サービスが良くなるとユーザーが増え、ユーザーが増えるとデータが集まり、そのデータでAIが賢くなってさらにサービスが良くなる……という、市場における好循環のことです。この市場の好循環を生み出すには、組織の中にも同じような強い循環が不可欠になります。それが、内発的な動機を起点とした「組織のAIぐるぐるモデル」なのです。

――「やる気・知識・ひらめき」の循環とは、どのようなメカニズムですか?

斉藤:個人の「やる気」から生まれた経験をAIがナレッジ化し、それをチーム全体の「ひらめき」へと変換する仕組みです。具体的には、3つのステップで循環が回ります。

まず、すべての起点となるのはメンバーの「やる気(内発的動機)」です。一人ひとりが仕事に意味を感じ、主体的に取り組む状態になると、会議や雑談のなかで「もっとこうしたい」「顧客からこんな反応があった」といった個人の経験(暗黙知)がどんどん表に出てくるようになります。

これまでは、このような暗黙知をマニュアル化して共有するには膨大な手間がかかりました。しかしAI時代では、会議の音声やチャットの記録をそのままAIに読み込ませるだけで、組織の知識(ナレッジ)として蓄積できます。

こうして知識が溜まることで、例えば新人がAIに問いかけた際、ベテランの経験に基づいた最適なアドバイスが返ってくるようになります。その結果、経験の浅いメンバーでも質の高い「ひらめき」を得られるようになり、成果が出ることでさらに「やる気」が高まる。これが、私が考えるAI時代の成長サイクルです。

後編では、「組織のAIぐるぐるモデル」を回すための起点となる「関係性の質」の重要性や、暗黙知を組織の力に変える具体的な手法「共鳴化」、自社独自の強みをAIに実装する「プライベートAI」の構築について伺います。

取材・文:小町ヒロキ

話し手
斉藤 徹
株式会社hint 代表取締役
ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授

1961年、川崎生まれ。駒場東邦中学校・高等学校、慶應義塾大学理工学部を経て、1985年、日本IBM株式会社入社。29歳で日本IBMを退職。1991年2月、株式会社フレックスファームを創業し、ベンチャーの世界に飛び込む。その後、激しいアップダウンの後に、2005年、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業。さらに2021年、株式会社hint創業。

2016年、学習院大学経済学部特別客員教授に就任。2020年、ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授に就任。専門分野は組織論と起業論。また、2019年には、ライフワークとして、幸せ視点の経営学を学ぶオンラインスクール「hintアカデミー」を創設。卒業生は1500名を超えている。

2021年に出版した『だから僕たちは、組織を変えていける』は「だかぼく」の愛称で親しまれ、10万部を超えて「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」(マネジメント部門) を受賞した。最新の著書は「だかぼく」の続編『そして、僕たちは組織を進化させていく』。他にも『小さくはじめよう』『業界破壊企業』、『再起動 (リブート)』、『ソーシャルシフト』など著書は多数ある。