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暗黙知とは?形式知化する方法やポイントなどを解説

暗黙知とは?形式知化する方法やポイントなどを解説

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事業活動における重要課題のひとつは業務の標準化です。経営基盤の安定化を図るためには業務の属人化を防止し、特定の人材に依存することなく組織全体でナレッジを共有できる仕組みが欠かせません。そこで重要な課題となるのが暗黙知の形式知化です。本記事では暗黙知を形式知化する必要性や、具体的な方法について解説します。

暗黙知とは経験から自然に身につく、言語化が難しい知識やスキル

暗黙知とは、個人の経験や勘に対する依存度が高く、言語化・数値化が困難な知識を指します。たとえば長い年月をかけて培われた熟練工の技術、デザイン分野における美的感覚、あるいは経験則や直感的な洞察などは、言葉への置き換えや第三者との共有が困難な知識です。

暗黙知という概念を提唱したのは、ハンガリー出身の社会科学者・哲学者であるマイケル・ポランニー氏とされています。自身の著書『暗黙知の次元』の中では、暗黙知について以下のように述べています。

「ある人の顔を知っているとき、私たちはその顔を千人、いや百万人の中からでも見分けることができる。
しかし、通常、私たちは、どのようにして自分が知っている顔を見分けるのか分からない。
だからこうした認知の多くは言葉に置き換えられないのだ。」

引用:暗黙知の次元(p.18)|マイケル・ポランニー(著),高橋 勇夫(訳)|筑摩書房
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480088161/

形式知との違い

形式知は暗黙知の対義語で、言語や数値、図表などで具体的に表現できる知識を意味します。暗黙知は言語化・数値化が困難であり、実際の行動や体験を通じて初めて共有できるのに対し、形式知は体系化された理論や特定のルールで構成されており、第三者に対する情報の伝達・共有が比較的容易な点が特徴です。たとえば特定作業の手順を体系化した「作業マニュアル」、職場の労働条件や規律を定めた「就業規則」などが形式知に該当します。

実践知との違い

実践知は暗黙知の一種であり、経験や行動を経て体得した知識を指します。言語化・数値化が困難な暗黙知の中において、特に実践経験を重ねることで身についたもので、特定の状況下で最適な判断をするために必要となる知識です。例としては、自動車の運転方法や料理人の調理技術、営業活動の交渉力などが該当します。このように経験や体験を通じて得る部分が大きく、実際の行動を介して体得する感覚的な暗黙知を実践知と呼びます。

暗黙知と形式知の身近な例

暗黙知と形式知の代表的な例として以下の要素が挙げられます。

暗黙知の例

  • 熟練工の手作業による感覚
  • デザイナーの美的感覚
  • 直感力や洞察力のような無意識的な意思決定
  • 視覚や聴覚を介した違和感の察知
  • 対話や交渉におけるコミュニケーション能力
  • 自動車の運転や産業機械の操縦

形式知の例

  • 作業マニュアルや取扱説明書
  • 法律や規則
  • 数学の公式や定理
  • 料理の調理法を記したレシピ
  • 数値や属性をチャートやグラフに変換した図表
  • 財務諸表を作成する会計基準

知識・スキルを暗黙知のままにしておくリスク

属人性の高い専門知識や固有のスキルを暗黙知として放置した場合、以下のようなリスクが懸念されます。

業務の属人化で生産性が低下しやすくなる

模倣が困難な暗黙知は組織や個人の独自性を生み出す源泉であり、それが市場の競争優位性につながるというメリットがあります。しかし暗黙知は他者への伝達や共有が困難という性質上、業務の属人化を招く要因になりかねません。属人性の高い業務は担当者の不在時に停滞する可能性があり、最悪の場合は従業員の休職・退職によってノウハウそのものが喪失し、組織全体の生産性を大幅に低下させるリスクが懸念されます。

ナレッジの蓄積や活用が難しくなる

暗黙知は言葉への置き換えや第三者との共有が困難で、そのままでは知識や技術をナレッジに変換できません。たとえば特定業務の成功体験や失敗事例が個人の記憶の中に留まってしまうと、その経験を介して獲得した知見を第三者と共有する機会が失われます。それにより、熟練者やハイパフォーマーの高度なスキルが継承されず、自社独自の技術が失われたり、特定の状況下で同じ試行錯誤や失敗を繰り返したりするリスクが高まります。

従業員や企業の成長を妨げる恐れがある

暗黙知を形式知に変換することなく放置した場合、属人化によってナレッジの蓄積・活用が困難になり、人材育成や市場競争力の向上を妨げる要因となります。たとえば製造分野の業務は熟練工のスキルに対する依存度が高く、長年の経験によって培われた微細な感覚に頼る場面が少なくありません。熟練工の知識や技術を暗黙知として放置すると、他の従業員がスキルアップする機会を喪失するとともに、企業の成長と発展を阻害する恐れがあります。

暗黙知を形式知に変えるメリット

暗黙知を形式知へと変換し、組織全体で共有できれば以下のようなメリットを享受できます。

業務の属人化を防止できる

専門的な知識や高度な技術を形式知に変換し、ナレッジとして共有できれば属人化の解消が期待できます。例として、営業活動は非常に属人性の高い業務領域ですが、成約率の高い営業フローを体系化することで、新入社員や経験の浅い営業担当者でも一定以上の成果が見込めます。また、暗黙知を形式知へと変換して共有できれば、特定の従業員に業務が集中する事態を避けられると同時に、休職・退職によるノウハウの喪失を防止できる点も大きなメリットです。

業務の品質向上や効率化につながる

暗黙知を形式知に変換できれば、ナレッジの共有による業務品質の向上や作業の効率化につながります。たとえば製造分野における予防保全は、産業機械や生産設備のわずかな異変を感知する感覚的なスキルが求められる場面が多く、熟練工の勘や経験に依存しやすい業務領域です。熟練工が異変と見なす要素を言語化・数値化してマニュアルに落とし込めれば、管理者への質問や確認といった手間を削減しつつ、予防保全の品質向上と効率化が期待できます。

従業員全体でスキルアップできる

暗黙知を形式知に変えるメリットは、従業員一人ひとりのスキルアップにつながる点です。たとえば営業活動における「顧客の心理を掴む話し方」や「商談を成功させる流れ」といった抽象的なスキルを形式知に変換できれば、営業部門全体で商談化率や成約率の向上が期待できます。また、製造分野の熟練工が無意識に実行している「組み立て方のポイント」や「効率的な工具の使い方」などを共有できれば、全作業員の基礎的なスキルの底上げが見込めます。

形式知化の鍵となる「ナレッジマネジメント」

ナレッジマネジメントとは、個人が有する専門知識や高度な技術を形式知に変換・共有し、組織全体の成長やイノベーションの促進につなげる管理手法です。具体的には、以下の方法が例として挙げられます。

  • 熟練者の知識・技術を体系化してマニュアルに落とし込む
  • 業務の合理的な進め方や課題解決のフレームワークをデータベース化する
  • ハイパフォーマーの行動パターンをフローチャートに変換する など

このように体験的・感覚的な知識を文書化・データベース化し、事業活動に活用する管理手法がナレッジマネジメントです。

ナレッジマネジメントの4つの基本要素

ナレッジマネジメントを構成する基本的な要素は以下の4つです。

  1. 暗黙知を形式知に変換する「SECIモデル」
  2. SECIモデルを加速させる「場(Ba)」
  3. 競争優位性を高める「知識資産」
  4. 知識の創造・共有を担う「ナレッジリーダー」

1. 暗黙知を形式知に変換する「SECIモデル」

「SECIモデル」は、ナレッジマネジメントにおける代表的な基礎理論のひとつです。SECIは「Socialization(共同化)」「Externalization(表面化)」「Combination(連結化)」「Internalization(内面化)」の略称で、SECIモデルはこの4要素で構成されています。そして、この4つの要素を段階的に踏破し、抽象的な暗黙知を具体的な形式知へと変換することがSECIモデルの役割です。

共同化(Socialization)

共同化は、共通の経験を通じて暗黙知を移転・共有する工程です。代表的な暗黙知のひとつに「美的感覚」や「デザインセンス」が挙げられます。こうした暗黙知は特に言語化・数値化が難しい傾向にあるため、デザイン分野の暗黙知を共有しようとすると直接的な体験が必要です。そこで、まずはワークショップやグループセッションなどを介して、熟練デザイナーの色彩感覚やレイアウトのバランスといった暗黙知を第三者に伝えます。共同化の段階では、暗黙知を具体的な言語として理解する必要はありません。あくまでも共同作業を通じた体験と感覚の共有が主な目的です。

表面化(Externalization)

表面化は、共同化のプロセスで顕在化した暗黙知を形式知に変換する工程です。デザイン分野で例えるなら、人間が美しいと感じる配色やレイアウトには一定の原理原則が存在します。たとえば配色の割合を「ベースカラー:70%・メインカラー:25%・アクセントカラー:5%」とする「70:25:5の法則」、または縦横の比率がおよそ「1:1.618」になる「黄金比」などです。この工程では「なぜ美しいと感じるのか?」という問いを深く掘り下げて調査・分析し、対話を重ねながらその抽象的な概念を具体的な言語・数値に落とし込むことがポイントです。

連結化(Combination)

連結化は、表面化の工程で生み出された形式知を組み合わせ、新たな形式知を創出する工程です。たとえばWebサイトのヘッダー画像や記事内の画像に縦横比1:1.618の黄金比を取り入れ、Webサイト全体の配色ではメインカラーにコーポレートカラーを採用するといった方法です。それにより、視覚的な美しさとブランドの一貫性を演出する効果が期待できます。このようにデザインの原理原則や色彩心理、市場のトレンド、過去のプロジェクトデータなどを分析して組み合わせ、その体系化したナレッジをデータベースに蓄積します

内面化(Internalization)

内面化は、連結化で獲得した形式知を基盤として、新たな暗黙知を創造する工程です。デザイン分野でいえば、形式知として整理されたデザインの原理原則や配色のテクニックなどを、デザイナー自身の感覚的・直感的なスキルに昇華させる過程です。獲得したスキルを繰り返し実践的に活用し、自らの体験に落とし込むことで、形式知として学んだルールに頼らずとも最適解を直感的に導き出せるようになります。こうして獲得した新たな暗黙知を形式知に変換するサイクルを繰り返すことで、組織全体におけるナレッジの蓄積とスキルの底上げが期待できます。

2. SECIモデルを加速させる「場(Ba)」

SECIモデルを活用して暗黙知を形式知に変換するには、組織全体でナレッジを収集・蓄積・共有するための「場」が不可欠です。この場とは、単なる物理的な空間のみを意味するのではなく、ナレッジマネジメントを促進する多様な環境を指します。例としては、休憩室での雑談、定期的なワークショップやセミナーの開催、社内SNSの活用、情報共有プラットフォームの整備などが含まれます。こうした環境を整備することで、収集・蓄積したナレッジが組織全体に浸透し、SECIモデルのプロセスが組織文化として定着する基盤となります。

3. 競争優位性を高める「知識資産」

ナレッジマネジメントの土台を支えるのは、組織に蓄積されたナレッジや個人が有するノウハウなどの知識資産です。この知識資産は優れた顧客体験価値を創出する源泉であると同時に、市場の競争優位性を確立する礎となります。そのため、企業の持続的な発展に向けては、いかにしてナレッジやノウハウを継承する仕組みを構築するかが重要です。具体的には、知識の共有や技術の継承、ナレッジの体系化といった取り組みを評価する仕組みを整備するとともに、ナレッジを部門横断的に共有するITインフラの構築が求められます。

4. 知識の創造・共有を担う「ナレッジリーダー」

SECIモデルを組織文化として浸透させる上では、組織に属するすべての従業員が暗黙知をそのまま放置するリスクや、暗黙知を形式知に変換するメリットを理解しなくてはなりません。そのためには、強いリーダーシップを発揮してナレッジマネジメントを推進する中心的な存在が必要です。これをナレッジリーダーと呼びます。リーダーとなる存在がナレッジマネジメントの重要性やビジョンを示すことで、他の従業員にも知識や技術を共有する意識が育まれ、組織の中でSECIモデルが循環する環境を整備する一助となります。

暗黙知を形式知化するためのポイント

言語化・数値化が困難な暗黙知を形式知へ変換するためには、以下に挙げる3つのポイントを押さえることが大切です。

共有するべき暗黙知を洗い出す

ナレッジマネジメントにおける最初のポイントは暗黙知の洗い出しです。たとえば営業部門であれば、営業成績の高い担当者の営業フローを具体的な戦術レベルにまで細分化し、暗黙知を抽出します。具体的な方法としては、個人面談によるヒアリングやアンケート調査などが挙げられます。そして顕在化した暗黙知を形式知に変換し、初回面談のトークスクリプトを作成する、顧客のニーズや課題を引き出す質問をテンプレート化する、あるいはクロージング時の心理的アプローチをフローチャートに落とし込むといった方法でナレッジを体系化します。

自主的に情報共有してもらうための制度をつくる

ナレッジマネジメントを組織文化レベルに落とし込む上では、従業員が自発的に知識や技術を提供する仕組みが不可欠です。そのためには、ナレッジを提供する従業員に一定のインセンティブを与える必要があります。従業員が自身のナレッジを提供しようとすると、相応の時間や労力が必要です。また、自らのスキルを伝達・共有することで、組織における自身の重要性が低下すると考える人も少なくありません。そこで、積極的な情報の伝達と共有を促すべく、適切なインセンティブや評価制度を整備する必要があります。

ナレッジの共有や活用できる場をつくる

先述したように、SECIモデルを加速させるためには、組織全体でナレッジを収集・蓄積・共有する場が欠かせません。そこで重要な課題となるのが、ナレッジマネジメントツールの戦略的活用です。ナレッジマネジメントツールには、社内ヘルプデスクやグループウェア、学習管理システムのeラーニング、社内SNS、ドキュメント管理といった情報共有機能が集約されています。こうした先進的なソリューションを活用しつつ、ワークショップやセミナーを定期的に開催することで、SECIモデルに基づく暗黙知の形式知化を組織文化にまで浸透できる可能性が高まります。

まとめ

暗黙知とは、個人の経験や感覚といった内的洞察に根ざし、言語や数値といった形式的な表現が難しい抽象的な知識を意味する概念です。代表的な暗黙知として、熟練工の手作業による感覚やデザイナーの美的感覚、直感力や洞察力などの無意識的な意思決定が挙げられます。この暗黙知を形式知に変換し、事業活動に活用する管理手法をナレッジマネジメントと呼びます。ナレッジマネジメントには「SECIモデル」「場(Ba)」「知識資産」「ナレッジリーダー」の4要素が含まれます。この一連の仕組みを組織文化にまで浸透させられれば、業務の属人化を防止しつつ人材育成の合理化も促し、後継者問題の解消や市場競争力の向上へとつながるでしょう。