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外国人材の現場育成を成功させる「モノサシ・理由・メリット」の3ステップ。文化の壁を越える実践テクニック

外国人材の現場育成を成功させる「モノサシ・理由・メリット」の3ステップ。文化の壁を越える実践テクニック

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日本における少子高齢化が加速するなかで、外国人材の受け入れや定着支援は、多くの企業にとって避けては通れないテーマとなっています。そして、外国人材の受け入れにおいては、現場の理解や日々のコミュニケーションが定着の成否を大きく左右するといっても過言ではありません。

本記事では、株式会社エイムソウル 代表取締役 稲垣隆司氏に、外国人材が安心して働ける職場づくりのポイントや、文化の違いを超えて信頼関係を築くための工夫についてお話を伺いました。

前編はこちらから)

外国人材定着に成功する企業の共通点。現場のPDCAが外国人材定着の鍵

――定着率の高い企業は、業界ごとに「リーディングカンパニー」のような存在がいるのでしょうか?

株式会社エイムソウル 代表取締役社長 稲垣隆司氏(以下、稲垣):これが非常に面白いところで、必ずしも大企業がうまくいっているわけではないのです。むしろ、ホテルやコンビニなど、現場で小さな改善を繰り返し、仕組みとして定着させている企業のほうが成果を上げています。

例えば、ホテルでは、外国籍スタッフがフロントや清掃などの中心メンバーとして活躍し、日々の業務改善を積み重ねています。コンビニでも、外国人スタッフがレジや品出しを正確にこなす姿を目にすることが増えましたね。

こうした成果は「計画・実行・検証・改善」、いわゆるPDCAを現場レベルで地道に回しているからこそ生まれています。理論だけではなく、実践を通じてルールを磨き続けている企業が、結果として外国人材の定着にも成功しているのです。

――国・地域ごとの文化の差は、現場の運用にどのような影響を与えるのでしょうか?

稲垣:そうですね。国や地域ごとの文化の差は、現場のマネジメントやチーム運営に大きく影響すると考えています。

そのことがよくわかる面白い調査結果を一つご紹介しますね。ある調査結果では、日本人は月に1回の遅刻しか許さないという結果が出たのに対し、インド人は月に4回までは許されるという驚きのデータが出たのです。インドでは月に2、3回の遅刻なら、時間を守ることができると逆に評価を上げることができるというのはビックリですよね。

このような認識のズレが、納期や会議、報連相のタイミングなど、あらゆる場面で影響してきます。ただし、それを「遅い」「だらしない」ととらえるのではなく、文化的な前提の違いとして理解することが大切です。

現場育成は「モノサシ・理由・メリット」の3ステップで伝える

――現場育成を浸透させるために、どのような工夫をすればいいのでしょうか?

稲垣:当社では「モノサシ・理由・メリット」という3つのステップで伝えることが大事だと考えています。

例えば、「ヘルメットを被りなさい」と指示しても、あご紐を締めなかったり、上司の前でだけ着用したりするなど、行動が徹底されないことがあります。その原因は、「どの程度すればよいのか」という基準が曖昧だからです。まずは”モノサシ”を明確にし、「現場に入る前に着用する」「あご紐を締める」といった具体的な行動基準を示します。

次に「怪我をすれば作業が止まる」「安全意識が信頼につながる」といった”理由”を共有し、最後に「自分を守れる」「評価が上がる」などの”メリット”を伝えます。

「モノサシ・理由・メリット」の3つをセットで伝えることで、こちらが伝えたいことが正確に伝えられ、相手の行動が変わります。単に注意するのではなく、背景を共有しながら考える姿勢が文化を超えて浸透させる鍵になると考えています。

――研修内容を現場へ浸透させるために意識した方が良いポイントを教えてください。

稲垣:研修で学んだ内容を現場に根付かせるためには、まず「自社の言葉に置き換えること」が大切です。研修後に現場のリーダーが中心となり、自分たちの現場に合わせて内容を整理し直すようにサポートをしています。

また、暗黙的に行われているルールや慣習を見直し、必要に応じて修正していくことも重要です。こうした取り組みを続けることで、社員一人ひとりが自分の言葉で理解し、納得して行動できるようになります。

組織全体の受け入れ力を高める。「3つの意識」と「5つの行動」の実践方法

異文化を受容する意識・モチベーション
出典:CQI-Ⅱ(外国人受け入れ力診断&受け入れ研修)

――企業として外国人材の受け入れを進める際に、まずは何を意識すべきですか?

稲垣:前編でもお伝えしましたが、外国人材の受け入れには「受容する必要性の理解」、「受容する自信」、「受容する熱意」という3つの意識が欠かせません。その中でも最初に取り組むべきは、「なぜ外国人材を採用するのか」という部分を明確にすることです。

当社の研修や診断では、部署や職種ごとの意識データを可視化できます。例えば「必要性の理解」が低い部署や、「受け入れることへの自信」が不足している層が一目で分かります。その結果を踏まえ、説明会やリテラシー研修を重点的に実施することで、組織全体の受け入れ力を高めることができます。

国籍や業界といった平均値では実態を捉えきれません。結局は、企業ごと・部署ごと・人ごとに丁寧に見ていくことが重要だと考えています。

――組織全体で意識を浸透させるために、どのような工夫が必要でしょうか?

異文化受容行動

稲垣:上記の「3つの意識」と合わせて、「安心・安全な環境構築」、「個人的な関係性づくり」、「改善に向けたフィードバック」、「意見や提案の傾聴」、「コミュニケーションの工夫」という「5つの行動」も非常に重要です。

これは国籍を問わず共通するマネジメントの考え方であり、外国人材に限らず多様な人材の活躍を支える基盤となります。

女性活躍を推進した企業の中には、新卒採用の段階で女性比率を大きく引き上げた例があります。現場に新たな人材を「混ぜる」ことで現存する課題が見え、マネジメント層の理解や関心が高まりました。これは外国人材の受け入れでも同じです。実際に一緒に働くことでお互いの違いを学び、理解が深まっていくと信じています。

「自分たちは知らない」という前提で宗教や文化へ向き合う

――宗教や異なる文化とは、どのように向き合っていけば良いでしょうか?

稲垣:日本人は宗教に関するリテラシーが高いとは言えず、私自身、インドネシアで何度も恥をかいた経験があります。

真に海外の方への理解を深めるためには、知ったかぶりをするのではなく、まずは「自分たちは知らない」という前提に立つことが大切です。その上で、相手の習慣や考え方を知り、職場でどのようにすり合わせていくかを決めていくことが、「多様性を受け入れる力」につながります。

具体的な事例をお話しすると、あるパン工場では階段の踏み外し事故が相次いでいました。その原因は、最後の3段を黄色く塗って「注意喚起」していたものの、外国人スタッフにはその意味が伝わっていなかったことだったそうです。

日本人にとって「黄色=注意」は共通認識ですが、海外ではそうとは限りません。こうした“当たり前”の違いが事故やトラブルにつながってしまうので、そういう部分は注意深く考えていく必要があると思います。

2040年には688万人に。外国人労働者増加時代に問われる「何を守り、何を変えるか」

――外国人材から見て、「日本で働く魅力」は今もあるのでしょうか?

稲垣:外国人材から見て、今も日本は「働く魅力」がまだまだあると思います。円安や経済の停滞が話題になりますが、東南アジアの新卒初任給は月2〜4万円ほどという低い水準が続いています。仮に日本で25万円前後もらえるとしたら、そこには4~5倍という大きな差があります。

また、金銭的な側面だけではなく、日本のものづくりや接客の丁寧さ、アニメやファッションなど、日本の文化そのものに憧れを持つ若者も多いです。海外から見れば、今も日本は働きたい国であるため、自国の文化や強みを見直すことが、これからの採用力にもつながっていくと思います。

――最後に、今後のご展望とこの記事を読んでいる経営者へメッセージをお願いします。

稲垣:外国人労働者は現在およそ230万人ですが、15年後の2040年にはおよそ688万人まで増えると推計されています。この先、日本社会が本格的に多文化共生を進めていくなかで問われるのは、「何を守り、何を変えるか」という線引きであると思います。

日本の文化には、守るべき大切な価値が多く存在します。ルールを守る姿勢やチームワーク、人を思いやる心などは、日本ならではの強みです。その一方で、過度な忖度や、みんなが同じであることを重んじる考え方にとらわれすぎると、多様な人材の力を十分に活かせません。そのため、「何を守り、何を変えるのか」その境界を見極めることが重要だと考えています。

当社では現在、これまでの調査をもとに「日本文化の中で守るべきポイント」を整理しつつ、企業ごとに異なる価値観やルールをデータで可視化する仕組みを整えています。感覚ではなく、数値と行動に基づいて「文化の壁」を越える支援を今後も進めていきたいと考えています。

前編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ

話し手
稲垣 隆司
株式会社エイムソウル
代表取締役

1998年急成長したベンチャー企業で人事部責任者を務め、年間600名の新卒採用の仕組みを作る。2002年からは人事コンサルティング会社でコンサル部門責任者として年間100社の採用をサポート。2005年株式会社エイムソウルを設立し800社を超える顧客の人事課題解決に取り組む。2014年インドネシアに進出し、日系企業に特化して人事課題解決に取り組む。著書に『なぜ外国人に「ちゃんと」が伝わらないのか』(三修社)がある。