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ベトナムVATと日本の消費税 制度の違いと事業運営への影響

ベトナムVATと日本の消費税 制度の違いと事業運営への影響

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日本の消費税とベトナムの付加価値税(VAT)はいずれも物やサービスの取引に課される税だが、運用や手続には違いがある。本稿では、決済手段、申告頻度、納付方法、還付の仕組み、還付までの期間の5点で両国制度を比較し、業種別の留意点も整理する。ベトナムで事業を行う企業が、税務手続や資金繰りに備える一助となれば幸いである。

決済手段の違い(現金/非現金要件)

日本では、消費税の仕入税額控除にあたり、現金・非現金いずれの決済手段でも認められており、支払い方法に制限はない。一方、ベトナムでは非現金決済が原則であり、特に取引金額が2,000万VND(約12万円)以上の場合は、銀行振込など非現金手段での支払いが控除要件とされている。これは、正規のVATインボイスに加え、銀行送金記録などの証憑がなければ仕入税額控除が認められないという運用に基づく。

また、適切なVATインボイスが取得されていない場合や、インボイス上の社名誤記といった不備がある場合には、控除が否認される可能性も高い。したがって、ベトナムでは取引の都度インボイスの内容を確認し、非現金決済を徹底することが求められる。

補足:2025年7月施行の改正VAT法では、VAT込み500万VND(約3万円)以上のすべての取引について非現金決済が必須となり、従来以上に厳格な管理が求められるため、企業は支払い方針の見直しが急務である。

申告頻度の違い(年次申告 vs 月次/四半期申告)

日本では、消費税の確定申告は原則として年1回、事業年度末に行う。一方、ベトナムでは月次または四半期ごとの申告・納付が必要であり、新設後12ヵ月未満の企業や、前年度売上が500億VND未満の小規模企業は3ヵ月に一度の申告で済むが、それ以外の企業には毎月の申告が義務づけられている。

このため、ベトナムでは月次ベースで取引を集計し、速やかに申告書を作成する体制と人員の確保が欠かせない。日本の感覚で年度末にまとめて対応しようとすると間に合わないため、現地の申告頻度に合わせた経理・税務スケジュールの整備が必要である。

納付方法の違い(予定納税の有無等)

日本では、前年度の消費税額に応じて中間納付(予定納税)を行い、年度末に精算する仕組みとなっている。一方、ベトナムには予定納税の制度がなく、各月または四半期ごとに実績ベースでVATを算出し、翌月に納付する方式である。納税はその都度完結するため、常に最新の納税額を把握し、計画的に資金を確保しておく必要がある。特に資金繰りに余裕のない企業では、納税漏れを防ぐための内部管理体制の整備が重要となる。

還付の仕組みの違い(自動還付 vs 要申請)

日本では、確定申告時に仕入税額が売上税額を上回ると、その差額は自動的に還付される。特に輸出取引が多い企業では、確定申告のみで還付が受けられるため、還付額を前提に資金計画を立てることも一般的である。

一方、ベトナムではVAT申告だけで還付は受けられず、別途還付申請と厳格な審査を経る必要がある。申請には契約書、インボイス、輸出入関連書類などの詳細資料が求められ、税務当局による実地調査や質問対応も避けられない。特に初回申請では、税務調査(監査)が必ず実施されるのが通例であり、還付は当局の承認を要する特別な手続という位置づけである。

また、還付の条件も年々厳しくなっており、多くの企業では仕入超過分を次期に繰り越して調整する対応が一般的となっている。ベトナムで還付を受けるハードルは高く、手続には相応の時間と労力を要することを念頭に置く必要がある。

還付までの期間の違い(迅速性 vs 長期化)

上記の制度面の違いにより、還付金の受け取りにかかる期間にも日越間で大きな差がある。日本では、確定申告書の提出から1~2ヵ月程度で還付金が振り込まれるのが一般的である。

一方、ベトナムでは申請後の審査に長期間を要するケースが多く、還付までの所要期間は案件や地域により数ヵ月から数年と幅がある。たとえば、ハノイ市では比較的短い場合で2~10ヵ月程度で還付されるが、ホーチミン市では2~3年を要する事例も少なくない。

こうした所用期間はあくまで現時点での傾向であり、当局の運用方針や担当官の対応によって地域・時期毎に大きく変動する可能性がある。そのため、ベトナムではVAT還付を前提とした資金計画は避け、保守的な予算編成が推奨されている。

法令上は所定期間内の処理が定められているものの、実務では担当官の裁量や追加資料の要求などにより遅延が発生し、必ずしも法定どおりに還付されないのが現状である。ベトナムで事業を行う企業は、VAT還付に時間を要する前提で資金繰りを検討することが肝要である。図表1 日本の消費税とベトナムの付加価値税(VAT)の違い

業種別に見たVAT上の留意点

製造業

工場設備や機械の導入など、操業前の大型投資により多額の仕入VATが発生する場合、一定の条件を満たせば還付申請が可能となる。従来は、投資段階でのVAT累計額が3億VNDを超えれば申請可能とされ、多くの企業がこの基準を目安に還付を行ってきた。

しかし、改正VAT法では新たに「売上計上開始後1年以内」という申請期限が設けられた点に注意が必要である。たとえ還付額が基準を超えていても、売上開始から1年を過ぎると申請できなくなるリスクがある。これにより、従来のように還付の時期を柔軟に調整することが難しくなり、投資段階から計画的に申請スケジュールを立てる必要がある。

さらに、同改正では、これまで規定が曖昧だった既存事業の生産能力向上や設備のアップグレードといった拡張投資に関するVAT還付も明確に認められるようになった。増産投資などに該当する場合は、適用の可否を専門家と確認しながら手続きを進めることが望ましい。

貿易業

商品の輸出入を扱う貿易業では、輸出取引が多いほど仕入VAT超過となりやすい。しかし、改正VAT法により「輸入した商品をそのまま輸出する取引」については、今後VAT還付が認められなくなった。これは、三国間取引など単に商品を通過させるだけのビジネスモデルに対し、還付を認めない方針への転換である。一方、保税区の企業(EPE)向けの販売は、引き続き還付対象となる。

そのため、取引形態や販売先によってVAT負担は大きく異なり、価格設定や事業計画の見直しが不可欠である。加えて、輸出取引では税率0%が適用される場合でも、適切な輸出証憑の提出が求められる。書類不備によるリスクを回避するため、輸出入関連書類の管理体制を万全に整えておくことが重要である。

サービス業

サービス事業では、提供先が国外の顧客や輸出加工企業(EPE)の場合、VAT0%が適用されるケースがある。従来は、会計・監査、事務所賃貸など幅広いサービスが「輸出サービス」として0%対象とされてきた。しかし、改正VAT法により、EPE向けサービスのうち製造活動に直接関与しないものは0%適用外と明確化された。これまで0%扱いとしていた事業者は、製造工程に直接関連しないサービスが今後課税対象となる可能性が高いため注意が必要である。

もっとも、「直接関与しないサービス」の範囲は現時点で明確に定義されておらず流動的であるため、今後のガイドラインや通達を注視しつつ、契約条件(税抜価格か税込価格か等)を慎重に見直す必要があるだろう。

また、海外顧客向けサービスの提供については、サービスの提供地や消費地によってVATの扱いが変わる点にも留意すべきである。電子サービスも含め、ベトナムでは課税対象とされる事例が増えており、日本の感覚で安易に0%免税取引と判断せず、取引ごとに適用税率やインボイス発行要件を個別に確認することが重要である。

おわりに

日本の消費税とベトナムのVAT制度の相違点を理解することは、ベトナムでの事業運営において税務コンプライアンスを確保し、キャッシュフロー上の不測の事態を回避するために不可欠である。特に、VAT還付をめぐる手続の複雑さや所要時間の長さは企業活動に大きな影響を及ぼしうるため、制度変更の動向も踏まえて慎重に対応したい。

今後もベトナム当局の運用は変化する可能性があり、実務上は担当官の裁量によって追加資料が求められるなど、不確実性が残る。自社での対応が難しい場合は、最新動向に精通した会計・税務の専門家に相談しながら、適切なプロセス整備や申請手続きを進めることが、リスク軽減と信頼性確保の観点から推奨される。

執筆者
熊谷 克樹
I-GLOCAL CO., LTD.
コンサルタント

I-GLOCALハノイ事務所所属。東京国税局で税務調査に従事した後、日系企業向けに税務・会計アドバイザリー業務を提供。当局の視点を踏まえた実務支援に強みを持つ。ベトナム人の妻を持ち、散歩と水泳が趣味。

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I-GLOCALは2003年にベトナム初の日系会計事務所として設立。ベトナム進出支援から進出後の会計・税務・人事労務を中心とした経営管理支援、M&Aアドバイザリーや買収後のPMIまで、幅広い領域をワンストップで提供。現在の契約社数は1,000社を超え、豊富な経験と事例を基にした問題解決力が強み。