
ベトナム商標制度の基礎 日本法との違いから見る出願・登録と権利保護
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ベトナムの商標制度は、パリ条約等の世界的な基準を踏まえて整備されており、大枠は日本法と共通する一方、存続期間の計算方法や不使用取消しの期間などに相違点があります。本稿では、ベトナム知的財産法に基づき、日本法との違いにも触れながら、商標の出願・登録から権利保護までの基本的な制度を解説します。
※本稿は、ベトナム知的財産法(統一文書第67/VBHN-VPQH号(2026年3月23日)。以下「知財法」とし、条番号のみの引用は同法)に基づきます。知財法は、2005年法(第50/2005/QH11号)を、第36/2009/QH12号、第42/2019/QH14号、第07/2022/QH15号、第93/2025/QH15号、第131/2025/QH15号(2026年4月1日施行)により累次改正したものです。
目次
商標権の発生
日本法と同様、権利の発生は登録主義です。商標権は、次のいずれかにより発生します(知財法第6条第3項a号)。
① ベトナムへの直接出願による登録(保護証書の交付決定)
② マドリッドプロトコルによる国際登録の承認
例外は周知商標(ベトナム領域内で関連する公衆の一部に広く知られた商標)で、登録手続によらず、使用に基づいて権利が確立します(同法第6条第3項a号、第4条第20号、第121条第1項)。周知性は、認知消費者数・流通範囲・売上高・販売数量・使用期間・信用力・保護国数など8項目で判断されます(同法第75条)。
保護要件
保護要件は、次の2点です(知財法第72条第1項)。
① 文字・語・図形・影像・立体形状またはその結合による視認可能な標章(一または二以上の色彩で表現)もしくは図形的に表現できる音の標章であること
② 識別力があること
動き商標や、文字・図形等を伴わない単一色のみの標章は同項の列挙になく、登録は困難です(日本法は明文で許容)。音商標は2022年改正で導入されました(日本でも音は商標の保護対象とされています)。
②の識別力を欠く類型としては、記述的標章(c号)、慣用標章(b号)、単純な図形・数字・文字(a号)等があり(知財法第74条第2項)、日本法第3条第1項各号にほぼ対応します。使用による識別力の獲得も可能です。同項は他人の権利との抵触についても定めており、知財法第74条第2項のうち、実務上重要なものは次の通りです。
- 先願先登録商標との同一・混同類似(同一・類似の商品役務)【e号】
- 出願日前から使用・認識される他人の周知商標【g号】
- 登録の効力終了から3年内の他人の商標【h号】
- 他人の周知商標(非類似の商品役務にも及ぶ)【i号】
- 他人が使用中の商号【k号】
- 周知の著作物中のキャラクター名称・影像【p号】
特に、日本語のみで構成された商標は、ベトナムにおける「一般的でない言語の文字」に該当し、原則として識別力を欠くと判断される可能性があるため、注意が必要です。
その他の不登録事由としては、国旗・国章、国家機関の表象、指導者・著名人の氏名・肖像、誤認混同を生じさせる標章、商品の性質上不可避の形状、他人の著作物の複製等があります(知財法第73条、日本法第4条各号におおむね対応)。
出願人
自ら生産する商品・提供するサービスについて登録を受けられるほか(知財法第87条第1項)、他人が生産した製品を自ら市場に投入する者も、生産者が当該商標を使用しておらず、登録に反対しないことを条件に出願できます(同条第2項)。
出願手続き
ベトナムにおける商標出願から登録までの流れは、図表1の通りです。

存続期間
登録証明書は交付日から効力を生じ、出願日から10年で満了します。更新は10年ごとで、回数は無制限です(知財法第93条第6項)。日本法第19条第1項は設定登録日起算ですが、ベトナムは出願日起算のため、審査が数年に及ぶと登録直後に更新期限が到来することもあり、期限管理上の要注意ポイントです。更新料が未納の場合、次の効力期間の開始日から自動的に効力が終了します(同法第95条第2項)。
権利の内容と侵害
所有者は、使用権、他人の使用を禁止する権利、処分権を有します(知財法第123条第1項)。「使用」とは、商品・包装・取引書類への付与、販売・販売の申出・広告・展示・蔵置・輸送、輸入等です(同法第124条第5項)。侵害行為は知財法第129条第1項に規定されており、主な類型は次の通りです。
- 同一商品役務×同一標章(混同のおそれ不要)【a号】
- 類似・関連する商品役務、または類似標章(混同のおそれが要件)【b号・c号】
- 著名商標は非類似の商品役務にも及ぶ(混同・関係の誤認のおそれが要件)【d号】

不使用による取消し
所有者は継続使用義務を負い、ライセンシーによる使用も所有者の使用とみなされます(知財法第136条第2項)。5年間、正当な理由なく継続して使用されない場合、第三者の請求により効力が終了します(同法第95条第1項d号、第4項)。ただし、終了請求日の3ヵ月以上前に使用が開始・再開された場合を除きます。
日本法第50条第1項の3年に対し、ベトナムは5年です。不使用を理由として他社の障害商標を排除するには、原則として5年の不使用の立証が必要となります。
その他の取消し事由
保護証書は、次の事由を理由に取り消されます。
① 悪意による出願(知財法第96条第1項a号)
② 登録を受ける権利の欠缺・保護要件不充足・先願主義違反等(同条第2項)
請求期間は原則として保護期間の全期間ですが、②による商標の取消請求は、交付日または国際登録がベトナムで効力を生じた日から5年に限られます(同条第4項。日本法第47条第1項の除斥期間に類似)。冒認・先取り出願への対抗手段として実務上極めて有用で、悪意出願は拒絶理由でもあります(第117条第1項b号)。
譲渡・ライセンス
譲渡
書面契約により行い(知財法第138条)、出所・特性の混同を生じさせてはならず(同法第139条第4項)、譲受人は登録適格が必要です(同条第5項)。国家管理機関に登録して初めて効力を生じます(同法第148条第1項)。

ライセンス
書面契約が必要で(第141条第2項)、独占・非独占・再許諾の類型が定められています(同法第143条)。当事者間の合意に従い効力を生じ(同法第148条第2項)、登録なくして第三者対抗力を有します(同条第3項括弧書き)。ライセンシーは、契約に基づき生産された旨を商品・包装に表示する義務を負います(同法第142条第4項)。

エンフォースメント(権利行使)
侵害は、民事・行政・刑事の各措置で処理されます(知財法第199条第1項、第200条)。模倣品(商標偽造商品:第213条第2項)の製造・輸入・保管・運送・販売等は行政処罰の対象となり、犯罪の構成要件を満たせば刑事責任も生じます(同法第212条)。
民事では、裁判所に対し、侵害行為の差止め、謝罪・公開訂正、損害賠償等を求めることができます(知財法第202条)。損害額が算定困難な場合は、裁判所が10億ドンを上限に認定します(同法第205条第1項)。精神的損害は基礎給与額の10倍~100倍(同条第2項)、弁護士費用も請求できます(同条第3項)。日本法第38条の推定規定と比べ、法定上限のある裁量賠償が用意されている点が特徴です。
まとめ

商標登録については先願主義が採用されているため、特に重要なのは、できるだけ早めに出願することです。特にベトナムでは、登録まで1年以上かかることが多いため、ベトナム進出前の出願が推奨されます。
商標出願に係る費用は、登録予定区分数等によって変わってきます。登録を検討する際には、ベトナム現地の専門家にご相談ください。









