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ベトナム労働法と日本労働法の違い

ベトナム労働法と日本労働法の違い

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ベトナムへの進出にあたっては、現地の労働法制を十分に理解し、日本の労働法との相違点を把握することが重要です。日本とベトナムはいずれもアジア圏に位置していますが、労働契約のルールや労働条件を定める法制度には多くの違いがあります。本稿では、ベトナム労働法と日本労働法の主な相違点について概観します。

雇用契約の締結に関する違い

労働契約の種類と期間

ベトナムの労働法では、有期契約は最大1回まで更新することが可能であり、それ以上継続して雇用する場合には、無期契約に切り替える必要があります(ベトナム労働法第20条)。

一方、日本の労働法では、同一社員との有期契約が通算5年を超えて継続した場合に無期転換権が発生しますが、更新回数そのものに制限はありません(※通算5年での無期転換に関する例外あり)(労働契約法第18条)。

有期契約

試用期間(試用契約)の取り扱い

ベトナムでは、職種に応じて最大6ヵ月の試用期間を設定することができます。具体的には、一般社員の場合は30日または60日、管理職等については最大180日とされています(ベトナム労働法第25条)。

また、ベトナム労働法では、試用期間内であれば、企業は事前の通知や補償を行うことなく試用契約を解除することが可能とされています。そのため、試用社員が求める水準に達しない場合には、即時に不採用とすることも法的に認められています(ベトナム労働法第27条)。

使用期間契約
一方、日本では「試用期間」という制度はあるものの、試用社員であっても簡単に解雇できるわけではありません。実務上は労働契約が成立しているとみなされ、客観的かつ合理的な理由がない解雇は無効となる可能性があります(労働契約法第16条)。

このように、試用期間中の人員入れ替えに関する柔軟性は、ベトナムの方が高いといえます。その分、ベトナムでは日本に比べ、試用期間中に人材を適切に見極めることがより重要となります。

労働契約の言語と就業規則の登録

ベトナムでは、労働契約書をベトナム語で作成すること自体は義務付けられていません。ただし、労働紛争に関する公式な手続はベトナム語で行われるため、実務上は、日・英・ベトナム語などのバイリンガル(またはマルチリンガル)で契約書を作成し、あらかじめ優先言語を明記しておくことが一般的です。日本企業が英文や日本語のみで契約を締結した場合であっても、公的な翻訳過程における誤訳が争点となる可能性があるため、注意が必要です。

さらに、ベトナムでは、従業員が10名以上在籍する場合、就業規則(社内規程)を所管当局に登録することが義務付けられています(ベトナム労働法第119条)。登録申請にあたっては、就業規則の内容がベトナム労働法に適合していない場合、申請自体が受理されません。

一方、日本でも従業員が10人以上の場合には、就業規則の作成および届出義務がありますが、内容審査はベトナムほど厳格ではありません。規程の一部が法令に違反している場合には、その部分の効力は否定されるものの、就業規則の届出自体は受理されるケースもあります(労働基準法第89条・第90条)。

登録

労働条件に関する違い

法定労働時間と休日

法定の労働時間の上限は、ベトナムでは1日8時間・週48時間と定められており、日本の1日8時間・週40時間(原則)と比べると、週あたりで8時間長い設定となっています(ベトナム労働法第105条/労働基準法第32条)。もっとも、日系企業においては、日本の制度に合わせて、週休二日制・週40時間勤務とするケースも多く見られます。

また、週休日(週休)については、両国とも、少なくとも週1日の休日を付与することが法律上義務付けられています(ベトナム労働法第111条/労働基準法第35条)。ただし、日本では、変形労働時間制を導入した場合には、4週間を通じて4日の休日を確保すれば足りるとされるなど、一定の柔軟な運用も認められています(労働基準法第35条第2項)。

労働時間

時間外労働の上限規制と割増賃金

ベトナムでは、時間外労働は原則として年間200時間以内に制限されており、特殊な事情がある業種であっても最大300時間までとされています。また、1ヵ月あたりの時間外労働についても、上限は40時間と定められています(ベトナム労働法第107条)。

一方、日本では、労使協定(いわゆる36協定)を締結することで、年間360時間、月45時間を上限として時間外労働を行わせることが可能です。もっとも、臨時的・特別な事情がある場合であっても、年間720時間以内などの追加的な上限規制が設けられています(労働基準法第36条)。

また、時間外割増賃金の率についても、両国には大きな違いがあります。ベトナムでは、通常勤務日の時間外労働については150%以上、週末の休日労働については200%以上、祝日や有給休暇日における労働については300%以上の賃金を支払うことが義務付けられています(ベトナム労働法第98条第1項)。さらに、深夜に及ぶ時間外労働の場合には、これらに加えて30%の割増が加算されます(ベトナム労働法第98条第2項・第3項)。

上限時間
これに対し、日本の時間外割増賃金率は、法定時間外労働で125%以上、法定休日労働で135%以上が基本とされており、ベトナムと比べると相対的に低い水準にとどまっています(労働基準法第37条および下位法令)。

もっとも、ベトナムの人件費水準自体が日本に比べて低いため、時間外労働に係る賃金の絶対額では、日本の方が高額となる点には留意が必要です。

年次有給休暇と法定祝日

年次有給休暇(年休)の付与日数についても、両国の制度には違いがあります。ベトナムでは、年間12日の有給休暇が法律で保障されており、その後は勤続5年ごとに1日ずつ付与日数が増加します(ベトナム労働法第113条第1項a/第114条)。

一方、日本では、入社後6ヵ月が経過した時点で10日の年次有給休暇が付与され、その後は勤続年数に応じて毎年付与日数が増加し、最大20日まで付与されます(労働基準法第39条)。

このように、ベトナムは初年度の付与日数自体は日本より多いものの、日本のように毎年日数が増える仕組みではなく、5年ごとに1日加算されるにとどまります。また、日本では未消化の年次有給休暇を翌年に繰り越すことができますが、ベトナムでは未使用の年休は原則として繰り越しが認められず、消滅する運用が一般的です(※社内ルールにより繰り越しを認める場合もあります)。

有給休暇
祝日についても、両国で取り扱いが異なります。ベトナムでは、テト(旧正月)や建国記念日など、年間合計11日間の祝日が法定の有給休日として定められており(ベトナム労働法第112条第1項)、これらの日には企業は労働者を休ませる義務があります。

一方、日本には年間16日の「国民の祝日」がありますが、これらが一律に法定休日として位置付けられているわけではありません。ただし、実務上は、日本企業の多くが祝日を休日として取り扱っています。

賃金体系と最低賃金制度

ベトナムでは、政府が毎年、地域別に最低賃金(地域別最低賃金)を定めています。2026年適用の最低賃金のうち、最も水準が高い地域であるホーチミン市やハノイ市などでは、最低賃金は月額531万ドン程度(約3万円前後)とされています。これを時間給に換算すると、時給約25,500ドン(約150円)となり、日本の最低賃金と比べると、極めて低い水準にとどまっています。

一方、日本の最低賃金は都道府県ごとに定められており、現在では全国の多くの地域で時給1,000円を超えています。単純な水準比較で見ても、日本の最低賃金はベトナムの約6倍以上となっており、両国の人件費構造には大きな差があることが分かります。

最低賃金

社会保険制度と福利厚生

両国の社会保険制度にも、大きな違いがあります。ベトナムでは、企業は労働者の給与に対して約21.5%相当の社会保険料を負担します。一方、日本では、健康保険、年金保険、雇用保険などを合計した企業負担は、賃金のおおむね15%前後とされており、保険料率自体はベトナムより低い水準です。ただし、賃金水準の違いから、従業員一人当たりの企業負担額は、日本の方が高額となる点には留意が必要です。

また、ベトナムでは、これらの社会保険料とは別に、企業は従業員の基本給の2%相当額を労働組合費として納付する義務があります。これは、社内に労働組合が存在するか否かにかかわらず発生する負担であり、法令上定められています(ベトナム労働組合法第29条)。これに対し、日本にはこのような法定の企業拠出による組合費制度はなく、労働組合費は原則として組合員個人が負担します(チェックオフ方式による給与天引きはあります)。

福利厚生の面では、ベトナムの女性労働者は、社会保険から給付を受ける形で、出産前後あわせて6ヵ月間の産休を取得することができます。この期間中は、給与全額相当の手当が支給されます(ベトナム労働法第139条)。内訳としては、出産前に最大2ヵ月、出産後に少なくとも4ヵ月の休養期間が確保される仕組みです。

社会保険料
一方、日本の産前産後休業は、出産前6週間、出産後8週間の合計14週間(約3.5か月)とされています。

さらに、日本では育児休業制度が整備されており、男女を問わず、原則として最長1年程度(一定条件下で延長可)の育児休業が保障され、育児休業給付金も支給されます。ベトナムにおいても、父親は出生時に5日から14日の有給休暇(いわゆる父親産休)を取得できる制度がありますが、日本の育児休業制度のような長期の休業制度は設けられていません。

労務管理と契約終了に関する違い

解雇

従業員の解雇(契約解除)に関する法規制は、ベトナムでは極めて厳格です。重大な違反など、法令で定められた具体的な要件を満たさない限り、使用者による一方的な解雇は認められていません(使用者による一方的解除:ベトナム労働法第36条/懲戒解雇:第125条)。

さらに、懲戒解雇(懲戒処分としての解雇)を行う場合には、事前に労働組合と協議することが求められるなど、厳格な手続要件も課されています(懲戒手続:ベトナム労働法第122条)。

また、経営上の理由による整理解雇についても、労働者使用計画の策定など、非常に厳しい要件が法定されています(ベトナム労働法第42条/労働使用計画:第44条)。加えて、有期契約については、前述のとおり更新は1回までに制限されており、長期間にわたり有期雇用を継続することは法律上認められていません(ベトナム労働法第20条)。

これらの規定は、社会主義国であるベトナムにおいて労働者保護を重視する政策の一環であり、労働者に極めて有利な法制度となっています。

懲戒解雇の手続き
一方、日本の労働法においても、「客観的合理的な理由のない解雇は無効」とされており、企業が自由に解雇できない点では共通しています(労働契約法第16条)。整理解雇についても、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の妥当性という、いわゆる整理解雇の4要件が求められ、安易な解雇は認められていません。

もっとも、日本では、懲戒解雇でない限り、ベトナムのように厳格な事前手続が法律上求められているわけではなく、解雇の有効性は事後的に裁判所で判断される点が大きな違いです。

総じて、日本企業にとって、ベトナムの解雇規制は日本以上に厳しいものと認識すべきでしょう。特にベトナムでは、紛争が生じた場合に労働者に有利な判断が下される傾向が強いとされており、安易な解雇は将来的な訴訟リスクを高めることになります。その意味でも、前述のとおり、試用期間中における人材の見極めが極めて重要となります。

解雇予告期間と退職時の補償

解雇予告や退職時の補償についても、両国の制度には違いがあります。ベトナムでは、従業員を解雇する場合、契約期間に応じた予告期間が法律で定められています。具体的には、無期契約の場合は少なくとも45日前、12ヵ月以上36ヵ月以下の有期契約では少なくとも30日前、12か月未満の有期契約では少なくとも3日前に解雇予告を行う必要があります(ベトナム労働法第36条第2項)。

また、ベトナムでは、解雇時に「失業手当」や「退職手当」に相当する補償金の支払いが義務付けられています。勤続1年以上の労働者に対しては、勤続年数に応じた退職手当として、原則として「基本給の0.5ヵ月分×勤続年数」(ただし、失業保険の加入期間を除く)が支給されます(ベトナム労働法第46条)。

さらに、経済的理由による人員整理(いわゆる整理解雇)を行う場合には、少なくとも2ヵ月分の賃金に相当する失業手当を支払うことが労働法で定められています(ベトナム労働法第47条第1項)。

解雇・退職
一方、日本では、労働基準法により、解雇の30日前予告、または30日分の解雇予告手当の支払いが義務付けられています(労働基準法第20条)。ただし、日本には法律上の退職金制度は存在せず、退職金は各企業の就業規則や社内制度に基づいて支給される任意の制度です(実務上、支給している企業が多いのは事実です)。

このため、法定の解雇補償という観点で比較すると、ベトナムの方が日本よりも手厚い制度となる場合があります。

労働組合の役割

ベトナムでは、企業内労働組合の設置や労働者による組合加入が、法律によって強く保護・奨励されています。企業は、従業員からの要請があった場合に組合設立を妨げることはできず、また、前述のとおり、懲戒解雇を行う際には労働組合との協議や同意が求められるなど、労働組合は労使関係に深く関与する存在となっています。さらに、ベトナムでは、企業規模の大小を問わず、賃金総額の2%に相当する労働組合費を企業が負担することが法定されており、社内に労働組合が結成されていない場合であっても、拠出義務が生じます。

一方、日本では、労働組合は労働者の自主的な団体と位置付けられており、企業が法令に基づいて組合費を支払う制度はありません。労働組合の有無や加入の可否も労働者の自由であり、組合に加入していない労働者も多く存在します。

労働組合の役割

労働紛争の解決

ベトナムで労働紛争が裁判に発展した場合、日本と比べて手続や判断の予見可能性が低く、不透明性が高いと指摘されることがあります。そのため、日本企業としては、現地で労働争議が生じないよう、日頃から労使間のコミュニケーションを密にし、労働条件や職場環境に対する不満を早期に把握することが重要です。

労働紛争の解決
万一、紛争が法的手続に移行した場合、ベトナムでは企業側に不利な判断が下されやすい傾向があるとされており、対応を誤るとリスクが拡大しかねません。このため、問題が顕在化した段階で、早めに現地事情に精通した専門家へ相談し、適切な対応を講じることが望まれます。

おわりに

以上、ベトナム労働法と日本労働法の主な違いについて、総括的に整理してきました。ベトナムでは、2021年1月に新しい労働法(2019年労働法)が施行されましたが、制度の根幹が大きく変わったわけではなく、従来どおり労働者保護を重視する姿勢が維持されています(施行法:2019年法律第45/2019/QH14号)。

現地で事業を運営するにあたっては、契約期間の制限、解雇規制、時間外労働の上限、社会保険負担といった、日本とは異なる制度が事業運営に与える影響を正確に理解することが不可欠です。そのうえで、労働契約書や就業規則を現地法に適合させ、実務として適切に運用していく必要があります。

また、必要に応じて現地の法律専門家の助言を得ながら、労働法制の改正動向にも継続的に目を向けておくことが重要です。日本企業がベトナムで安心して事業を展開していくためには、日本流のやり方に固執するのではなく、現地の法制度や労働慣行を理解し、柔軟に適応していく姿勢が求められます。

執筆者
工藤 拓人
CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.
代表弁護士

2014年から現在に至るまでベトナムに居住し、日系企業の進出および運営に関連する法務全般に幅広く携わっている。ベトナムでの日系企業の顧問業務、M&A、不動産、労務、知的財産対応などを専門的に取り扱う。また、個人として、日本人の海外におけるスタートアップ展開の支援も行っている。

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弁護士法人キャスグローバルのベトナム拠点として2014年にホーチミン、2022年にハノイに拠点を設立し、ベトナムにおける日系企業の法務全般を、日本人とベトナム人弁護士が連携してサポートしている。現在、約300社への支援を継続して行っており、クライアントは製造業、商社、IT、不動産、エンタメ、小売、飲食、その他サービス業など多岐にわたる。