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ベトナムにおけるセクハラ対応 ~日系企業が見直すべき就業規則と初動対応~

ベトナムにおけるセクハラ対応 ~日系企業が見直すべき就業規則と初動対応~

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ベトナムに進出する日系企業において、セクシャルハラスメント対応の重要性が高まっています。近年は、ベトナム人従業員から日本人駐在員やベトナム人管理職に対する告発も見られます。これは単にトラブルが増えたというより、ベトナム人従業員側の権利意識が高まっている表れといえます。本稿では、ベトナム法上のセクハラの考え方と実務対応について解説します。

セクハラの定義

ベトナム労働法(No.45/2019/QH14、以下「労働法」という)第3条第9項は、「職場におけるセクシャルハラスメント」を、①「職場」における、②相手方が望まず、または受け入れない、③性的性質を有する行為として定義しています。重要なことは、沈黙は同意に該当しないという点です。

さらに、政令145号(No.145/2020/NĐ-CP、以下「政令145号」という)第84条は、セクハラをより具体的に整理しています。同条第1項は、性的関係と引き換えに雇用上の利益を与える、または不利益を示唆するような「交換型」の行為だけでなく、交換目的がなくても、職場環境を不快・不安定にし、被害者の身体、精神、業務効率、生活に悪影響を与える「環境型」の行為も対象に含めています(すなわち、第三者へ不快感を与えることもセクハラに該当し得ます)。

また、同条第2項は、セクハラの類型として、(i)身体的行為、(ii)言語による行為、(iii)非言語的行為を挙げています。例えば、社内チャットで性的な冗談や画像を送ること、オンライン会議中に性的な含意を持つ発言や仕草をすること、社内懇親会で従業員の身体や恋愛・結婚・妊娠に関する発言を繰り返すことなども、事案によっては職場セクハラとして問題になり得ます。

「職場」の範囲

政令145号第84条第3項は、「職場」の範囲について、会社の事務所や工場に限らず、業務に関連する社会活動、会議、研修、出張、会食、電話での会話、電子的手段によるコミュニケーション(オンライン会議、メール、チャット等)、使用者が手配する通勤手段(社用バスや送迎車等)、使用者が提供する場所、その他使用者が定める場所を含む、「業務に関連を有する場所又は空間」と規定しています。したがって、「勤務時間外だった」「社外の会食だった」「社用車の中だった」「Zaloや社内チャットでのやり取りだった」という事情だけで対象外になるわけではありません。

図表1

就業規則への明記の必要性

ベトナムでは、セクハラ対応を単なる人事マナーの問題として扱うのではなく、就業規則上で整備することが重要です。

労働法第118条第2項(d)は、就業規則の主要内容として、「職場におけるセクシャルハラスメントの防止・対応」および「処理手順・手続」を含めることを求めています。さらに、同法第119条第1項により、10名以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を管轄当局に登録する必要があります。

政令145号第85条第1項は、就業規則または就業規則に添付される付属文書に、少なくとも、①職場セクハラの禁止、②会社の業務・職場の性質に応じた具体的行為類型、③苦情・告発・処理の責任、期限、手順、④加害者または虚偽通報者に対する懲戒処分の形式、⑤被害者への損害賠償および回復措置を定めるべきことを規定しています。

ここで注意すべき点は、実務上、単にセクハラ禁止ポリシーを別紙で作成しているだけでは足りない可能性があることです。実際に懲戒処分を行うためには、就業規則上に、処分対象となる行為、処分の種類、処理手続、権限者を明確に定めておくことが望ましいです。就業規則に規定がないこと自体に対する直接の罰則はないものの、実際には規定がないと就業規則の登録審査で差し戻される可能性があります。

セクハラに対する懲戒処分

労働法第124条は、懲戒処分の種類として、①譴責(けんせき)、②6ヵ月を超えない昇給期間の延長、③降格、④解雇を定めています。同法第125条第2項は、就業規則に定められた職場セクハラ行為について、懲戒解雇処分を適用できる場合があると規定しています。

もっとも、解雇処分以外のセクハラによる懲戒処分については具体的な規定がありません。就業規則、労働法、労働契約に規定のない懲戒処分はできないため(労働法第127条3項)、解雇以外の懲戒処分をするためには、就業規則にどのような行為がセクハラに該当し、どの程度の行為について譴責、昇給停止、降格、解雇を適用するのかを、できる限り具体的に定めておく必要があります。実務上は、違反の程度に応じて、譴責から解雇までのグラデーションを整備することを推奨いたします。

通報を受けた後の初動

セクハラの通報を受けた場合、会社は、まず被害申告者の安全確保、秘密保持、証拠保全(申告者、加害者とされる者、目撃者への事情聴取を含む)を優先すべきです。ただ、いきなり申告者と被申告者を同席させて事情聴取を行うことは、被害申告者に強い心理的負担を与える可能性があるため、慎重に判断する必要があります。

政令145号第86条第1項は、使用者に対し、職場セクハラ防止に関する法令の実施・監督、労働者への周知・教育、苦情・告発があった場合の迅速な防止・処理、被害者、申告者、被申告者の秘密、名誉、信用、人格、安全の保護を義務付けています。

また、懲戒処分を行う場合、労働法第122条第1項(a)により、使用者は労働者の過失を証明しなければなりません。同項(b)は、懲戒対象者が事業所の労働者代表組織の構成員である場合、その組織の参加が必要であると定めています。

そのため会社は、通報内容、(事情聴取を行う場合の)聴取日時・聴取者、提出資料、チャット履歴、防犯カメラ映像、目撃者の有無などを、できる限り客観的に記録する必要があります。特に、性的な発言や接触の内容について、曖昧な表現に置き換えすぎると、後から事実認定が困難になります。社内記録としては、必要な範囲で具体的に記載することが重要です。

なお、同法第122条第4項(d)により、妊娠中の女性労働者、産休中の労働者、12ヵ月未満の子を養育する労働者については、その期間中、懲戒処分を行うことができません。このような制限も、調査・処分のタイムラインを設計する際に確認が必要です。

図表2

行政処罰とレピュテーション棄損等のリスク

政令 No.12/2022/NĐ-CP 第11条第3項は、刑事責任を問うに至らない職場セクハラ行為について、1,500万ドンから3,000万ドンの罰金を定めています(同政令第6条第2項によれば、同政令上の罰金額は原則として個人に対する金額であり、組織に対する罰金額は個人の2倍とされています)。

さらに、労働法第35条第2項(d)は、労働者が職場でセクハラを受けた場合、事前通知なしに労働契約を一方的に解除できると規定しています。つまり、会社がセクハラ通報を軽視した場合、被害者の突然の退職、労働紛争、行政当局への申告、SNSでの拡散などに発展する可能性があります。

日系企業がすぐに確認すべき実務対応

日系企業としては、少なくとも以下の対応を確認すべきです。

第一に、就業規則にセクハラ防止、処理手続および懲戒処分が明記されているか確認する必要があります。古い就業規則のまま、セクハラに関する章がない場合や抽象的な禁止規定しかない場合は、改定を検討すべきです。

第二に、社内研修を実施することが重要です。特に、身体接触がなくても成立し得ること、社外イベントや電子チャットも対象になり得ること、相手の沈黙を同意と扱うべきではないことを明確に伝えるべきです。

第三に、通報窓口を設けることが望ましいです。

第四に、通報後の初動マニュアルを整備すべきです。誰が受付け、誰が調査し、誰が処分案を検討し、どこまで情報共有するのかを事前に決めておかないと、実際の通報時に対応が遅れたり、関係者に情報が漏れたりするリスクがあります。

第五に、日本本社との連携方法も決めておく必要があります。日本人駐在員が被申告者となった場合、現地法人だけで処理しきれないこともあります。

まとめ

加害者側は、いまだに「軽い冗談だった」「直接触っていない」「相手がその場で嫌がらなかった」といった感覚で受け止めてしまうことがあります。しかし、ベトナム法上のセクハラは身体接触を伴う行為に限られず、会社内で起きた場合だけが対象となるわけでもありません。日本人駐在員や管理職にとっては、現地法令や従業員の意識の変化を前提に、従来のコミュニケーションを見直す必要があります。

実際にセクハラの通報や告発があった場合には、「その行為がセクハラに該当するか」という認定だけでなく、「会社がどのようなルールを整備し、どのような手続で対応したか」が極めて重要です。特に、ベトナム人従業員から日本人駐在員や管理職に対する告発が増えている現在、日系企業は、セクハラ対応を単なる個人間トラブルとしてではなく、労務コンプライアンスの問題として捉える必要があります。

就業規則の整備、研修、通報窓口、初動対応マニュアルを事前に整えておくことが、会社と従業員の双方を守るための最も現実的な備えとなります。

図表3

執筆者
工藤 拓人
CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.
代表弁護士

2014年から現在に至るまでベトナムに居住し、日系企業の進出および運営に関連する法務全般に幅広く携わっている。ベトナムでの日系企業の顧問業務、M&A、不動産、労務、知的財産対応などを専門的に取り扱う。また、個人として、日本人の海外におけるスタートアップ展開の支援も行っている。

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CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.

弁護士法人キャスグローバルのベトナム拠点として2014年にホーチミン、2022年にハノイに拠点を設立し、ベトナムにおける日系企業の法務全般を、日本人とベトナム人弁護士が連携してサポートしている。現在、約300社への支援を継続して行っており、クライアントは製造業、商社、IT、不動産、エンタメ、小売、飲食、その他サービス業など多岐にわたる。