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王道で情報収集の「体幹」を鍛える

王道で情報収集の「体幹」を鍛える

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海外ビジネスにおいて、情報を収集し、読み解き、判断につなげる力がいっそう求められている。本連載では、公開情報の収集や現地の実態との照合といった基本動作に焦点を当て、海外ビジネスで求められる「情報力」について解説する。第2回は「情報収集の体幹」を取り上げ、基本的な情報や情報源を通じて現地の動きや変化を読み解く軸を育てる意味とメリットを考える。

特別な情報に走る前に、まず王道を行く

ビジネスで情報収集に携わると、どうしても「ほかの人とは違う情報」を取りに行きたくなります。公開資料には出てこない裏事情、限られたネットワークでしか流通していない話などです。また、街を歩き、人に会い、現場の空気に触れて初めて分かることもあります。

確かにこうした情報には独自の価値があります。ただ、手に入りにくい情報、定性的・感覚的な情報だけに偏ることには注意が必要で、こうした情報の意味や価値を判断するためにも、まずは基本的理解という土台を築くことが不可欠です。

図表1

そのためには、情報収集の王道を行く必要があります。具体的には次の2つです。1つ目は、その国のカタチを理解するための、歴史、宗教、言語、人口、政治、経済、産業などの基本情報の把握です。2つ目は、政府発表や主要統計、主要メディア、ジェトロやシンクタンクなどの発信を継続的に確認する、日々の情報収集です。ニュースキュレーションサービスも、こうした情報への効率よい接点として活用できます。誰でもアクセスできる情報を基に現地理解を深め、信頼できる情報源に継続的に触れることで、担当する国や地域について平均的で中庸な見方、いわば相場観や判断の軸ができていきます。これを「情報収集の体幹」と呼びます。

この2つの情報収集と情報源については、以下の寄稿でも詳しく解説しています。

東南アジアにおける情報収集のあり方〜外部環境の適切な把握を目指して〜

実際のビジネスでは、大枠を捉える情報やルーティン化した情報収集だけですべてが動くわけではありません。より詳細で踏み込んだ情報、入手に手間のかかる情報を集める必要も出てきます。こうしたなかで体幹をしっかり持っておくメリットは、第1に、収集したさまざまな情報の意味や位置づけを、全体感を持って理解・評価できることです。第2に、情報に接した際に「何かおかしい」という違和感を覚えやすくなることです。その違和感は、誤った情報を見極める手がかりにも、重要な変化に気づくきっかけにもなります。

基本情報で全体像を掴む

体幹をつくる初期段階では、担当する国の概要や主要指標をまとめた基本情報の一覧表の作成が有用です。私自身、シンガポール赴任時に、土地勘のない東南アジア、南西アジア、オセアニアを大づかみに理解するために作成しました。時間と労力はかかりますが、その価値は十分にあります。

一覧表には担当国の大枠を押さえるための項目を盛り込みます。例えば経済関連であれば、GDPや人口、産業構造、雇用、金融、財政、貿易、投資などです(図表2)。経済以外では、面積、民族、言語、宗教(国教)、歴史(建国・独立年、旧宗主国)、政治体制、国家元首、政府の長などを整理し、日本との関係についても、貿易、投資、進出企業数、在留邦人数などは網羅しておきたい項目です。

図表2

東南アジアのどこかの国の担当であれば、周辺の東南アジア諸国に加え、必要に応じて日本、中国、インドなども含めると、担当国の特徴がより明確になります。複数の国を比較する際は、できるだけ同じ情報源、定義、時点の数字を用いることが重要です。
この表は、面倒でも情報源を見ながら自分の手で作成することをお勧めします。生成AIでもまとめられますが、どこにいけばどのような基本情報が取れるのかを自分の目で一度確かめておくことは無駄ではありません。参照した情報源もリスト化しておけば、一覧表とともに組織で活用できます。

州(日本の都道府県)や都市のレベルのデータは国際機関で入手しづらいため、現地の政府や統計局のウェブサイトなどから集める必要があります。収集に手間取りそうな場合は、まず信頼できる第三者の資料で概況をつかみ、重要な指標については後から原典にあたるアプローチでも十分です。

こうした基本情報やそれをベースにした大づかみの現地理解は、日々入ってくるニュースや収集する情報を整理していくための「受け皿」としての役割を果たします。歴史を学ぶ際、個々の出来事や年号を細切れに暗記するのは骨が折れますが、先に大きな流れを押さえれば、各出来事の意義は理解しやすくなります。そして、そうした詳細な動きを知ることで、大きな流れへの理解もまた深まります。ビジネスにおける情報の扱いにも同じ構造が見出せます。

収集した情報を体幹に紐づける

大枠と個別情報の往復について、国の経済発展段階を捉える基本指標である「1人当たりGDP」を例に考えてみます。数値自体にも意味はありますが、実務においてより重要なのは、その水準に応じてどのような需要が立ち上がり、産業や消費の姿がどう変わり得るかについて仮説を持てることです(図表3)。

図表3

一般に、2,500~3,000米ドルになると本格的な経済発展が始まり、消費者においては必需品に近い耐久消費財から順に需要が盛り上がるとされています。5,000米ドルになれば、飲食や娯楽、教育など、サービスや体験への需要も強まります。繁華街でおしゃれなコーヒーショップなどが目立ち始めるのが一例です。

こうした目安を持ったうえで、統計と実際の街の様子を照らし合わせれば、いろいろな気づきにつながりますし、数値の持つ意味もより具体的に理解できます。なお、こうした数値に厳密な境界があるわけではない点、主要都市の数値は全国平均を大きく上回る点には留意が必要です(首都の数値は全国平均の2~3倍となることが多いように見受けられます)。

日本企業の中には、新興アジアでの事業機会を検討する際、各国の現在の1人当たりGDPが中国のいつ頃に相当するかを押さえ、その後の中国でどの産業が伸び、どのような需要が顕在化したのかを材料に、議論を活性化しているところもあります(現在のインドネシアやベトナムの1人当たりGDPは5,000米ドル程度で、これは中国では上海万博を開催した2010年あたりです)。もちろん、国情の違い、スマートフォンやAIの浸透といった要素を勘案する必要はありますが、何が類似していて、何が異なるのかを考えることにも意味があります。1人当たりGDPはそれ自体が何かの答えになるわけではありませんが、入手しやすく比較もしやすいからこそ、問いを立てる材料として重宝されるのです。

筆者が2020年頃、タイとベトナムで中間層を主要ターゲットとして出店しているタイ系小売企業の関係者から聞いた話も、こうした数字と結びつけることで意味を持ちます。その方によると、バンコクの店舗では友人と異なる商品を選ぶことに満足を覚える顧客が増えている一方、ホーチミンでは周囲の人も購入していることが商品の選択基準になる顧客が多いとのことでした。これをもって両都市の消費者像を一般化することや、違いを経済発展・所得水準だけで説明することはできません。とはいえ、バンコクの1人当たりGDPはホーチミンの2倍強である点を踏まえ、その数値と購買行動の関係を考えると、現場で得た1つの情報が経済発展について考える汎用性のある素材になります。

体幹は、定性的な情報を理解する際にも役立ちます。例えば、米中対立が深まるなかで、東南アジアの国々に「親米」「親中」といったラベルが貼られることがあります。そうすると、さまざまな外交上の動きがすべてその姿勢の表れのように見えてしまいます。しかし、この地域の歴史や外交についての基本的な解説に触れていれば、各国は基本的に米中いずれか一方に与することを避け、外交上の自律性を確保しようとしていることが見えてきます。ある国が中国との経済関係を強化しているからといって、ただちに中国傾斜と解釈するのは事態を単純化し過ぎた見方とも言えます。

他方、米中間でバランスを取ることに腐心してきた国が特定の分野で明らかに一方に大きく接近し、もう一方と距離を置く動きを強めているのであれば、それは背景を探るべき、注目に値する変化かもしれません。東南アジア各国の外交姿勢について基礎的認識を持っているからこそ、変わっていないものと変わり始めたものを区別できるのです。

今回見てきたように、特に情報力を鍛える初期段階では、一定の時間と労力を投じる必要があります。しかし、この地道な積み重ねが情報を判断する軸をつくります。日々の収集活動を通じて得られるさまざまな情報(ニュース、統計、政策、現地の声など)を体幹に紐づけて理解したり、吟味したりすることで、そうした情報の具体的な意味を明確にできます。同時に、新たな情報を踏まえて軸そのものを見直すことで、体幹は少しずつ鍛えられていきます。1人当たりGDPのように一見すると無味乾燥な統計も、過去や他国との比較、経験や事例と結びつければ、経済・社会の実像や自社事業への示唆を考えるための生きた情報になります。

次回は、こうしてつくった体幹を土台に、情報の信頼性をどのように見極めるかを考えます。

執筆者
岡野 陽二
JSIP エバンジェリスト
コンサルティングファーム所属
シニアマネージャー

政府系機関、総合商社系シンクタンクを経て現職。一貫して、日本企業の中国を含むアジアでのビジネス展開の支援やインテリジェンスの提供に従事。中国、シンガポールでの駐在経験あり。「情報の力で日本企業の海外ビジネスを支える」がキャリアを通じたミッション。

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