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ベトナムの労働契約終了時の金銭精算と契約更新

ベトナムの労働契約終了時の金銭精算と契約更新

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前回は、労働契約終了の主な事由や通知手続、懲戒解雇に関する基本的な流れを解説しました。今回は、契約終了時に企業が対応すべき「金銭的義務(給与、未消化有給の買い取り、退職手当など)」に加え、有期労働契約の更新や無期労働契約への移行リスクなど、実務で見落としがちなポイントを中心にまとめます。

契約終了時に企業が支払うべき金銭

賃金(未払い給与)の精算

労働法第48条第1項柱書によれば、企業は契約終了から14営業日以内に未払い給与を含むすべての金銭を労働者に支給しなければなりません。社内規定で月末締めや翌月払いと定めていても、法定期限である14営業日は厳格に適用されるため、注意が必要です。

未消化の有給休暇の買い取り

労働法第113条第3項により、労働者が退職時に未使用の年次有給休暇を残している場合、その日数分を企業が買い取らなければなりません。買い取り額は、政令第145/2020/ND-CP号 第67条第3項に基づき、退職前月の給与(または直近の給与)を基準とした1日当たりの給与額×未消化日数で計算します。実務では、労働者が退職直前に昇給やインセンティブを得た場合、これが日割り賃金に反映されるかを確認することが重要です。

退職手当(Severance Allowance)

ベトナム労働法上の退職手当は、日本の「退職金」とは異なります。支給計算に際し、以下の点に留意が必要です。

▶ 基本ルール
12ヵ月以上勤務した労働者が、懲戒解雇以外の理由で契約終了となる場合、1年につき半月分の賃金相当額を支給しなければなりません(労働法第46条第1項)。「半月分の賃金」は、退職前6ヵ月の平均給与を基準とし、勤務年数分を算定します。

▶ 失業保険への加入期間の控除
労働法第46条第2項により、失業保険に加入していた期間は退職手当の算定から控除されます。企業が適切に社会保険・失業保険の手続きを行っていれば、退職手当の会社負担を抑えられる可能性があります。

▶ 試用期間・産休期間の扱い
試用期間中や産休期間(6ヵ月間)に失業保険へ未加入だった場合、当該期間は退職手当の対象となる可能性があります。たとえば、試用期間60日間が失業保険の対象外であれば、その分の退職手当を企業が負担する必要があります。

▶ 外国人労働者の取扱い
外国人労働者はベトナムの失業保険の加入対象外とされており、一定条件を満たす場合のみ社会保険へ加入できますが、失業保険は適用されません。そのため、12ヵ月以上勤務した外国人労働者が契約終了する場合、企業は全期間分の退職手当を負担する必要があります。高額人材の場合、退職手当も高額になる可能性があるため、事前にコスト試算しておくことが望ましいです。

有期労働契約の更新と無期労働契約への移行

ベトナムにおける有期労働契約の特徴

有期労働契約(36ヵ月以下)は通常1回の更新が可能です。更新後も継続して契約を締結する場合、原則として無期労働契約へ移行します(労働法第20条)。契約期間が満了しているにもかかわらず、企業が労働者の就労を黙示的に容認していると、無期労働契約とみなされるリスクがあります。

契約満了時の通知・締結手続き

労働法第45条第1項に基づき、契約期間が満了する場合、企業には通知義務があります(本連載第1回で解説)。ただし、契約満了については法定の事前通知期間は定められておらず、終了日までに書面通知を行えば足りると解されます。トラブル回避のため、実務では契約を更新せずに終了する場合は早めの意思表示を行い、新たに契約を締結する場合は満了日から30日以内に手続きを完了させることが推奨されます(労働法第20条第2項a号)。

無期労働契約への移行

労働法第20条第2項b号では、有期契約の満了日から30日以内に新たな契約を締結しない場合、自動的に無期労働契約へ転換すると規定されています。一度無期契約へ転換すると、解雇要件や手続きが厳格化し、企業の負担が大きくなります。更新回数の管理を怠り、意図せず無期契約へ移行しないよう、人事部門で契約期限の管理を徹底することが重要です。

実務上の注意点とまとめ

厳格な書面通知と期限管理

労働契約終了時には、法定の通知手続きを遵守し、終了日に間に合うよう書面通知を行う必要があります。特に、有期契約の更新・不更新の意思表示は早めに準備することが望ましいです。

金銭精算のリスク管理

給与精算、未消化有給の買い取り、退職手当の3点セットを確実に支給する必要があります。退職手当は失業保険未加入期間をカバーすることから、想定より金額が増えるケースもあるため、事前に社会保険・失業保険の加入履歴を確認し、コスト管理体制を整備しましょう。

外国人労働者への留意点

外国人労働者は失業保険の加入対象外であるため、全期間分の退職手当が発生します。雇用・契約締結の段階で想定コストを織り込んでおくことが重要です。

無期契約への移行リスク

有期契約を繰り返す場合は、上限回数や満了日後30日以内の再契約を徹底管理し、黙示的な継続による無期契約への移行を防ぐことが必要です。

コンプライアンスの徹底

ベトナムは労働者保護の意識が強く、法定手続違反があれば「違法な労働契約の解除」として裁判等で不利な判断を受けるリスクがあります。社内規定と実務の整合性を常に点検し、問題があれば早急に整備することを推奨します。

おわりに

全2回にわたり、ベトナムでの労働契約終了時に企業が注意すべきポイントを解説しました。ベトナム労働法は労働者保護を重視し、厳格かつ詳細な手続きを規定しているため、通知手続・懲戒手続・金銭的支払い義務を漏れなく履行することが重要です。また、有期契約の更新管理を怠ると無期契約へ移行し、企業側のリスクが増大するため、契約期限の管理や更新計画の策定にも十分な注意が必要です。

ベトナムの現地法令は頻繁に改正され、政令(Decree)や通達(Circular)の追加・変更も少なくありません。最新の法令動向に常にアンテナを張り、専門家に相談しながら適切な雇用管理を行うことが、企業のリスク最小化と労働者との良好な関係維持につながるといえます。

執筆者
工藤 拓人
CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.
代表弁護士

2014年から現在に至るまでベトナムに居住し、日系企業の進出および運営に関連する法務全般に幅広く携わっている。ベトナムでの日系企業の顧問業務、M&A、不動産、労務、知的財産対応などを専門的に取り扱う。また、個人として、日本人の海外におけるスタートアップ展開の支援も行っている。

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CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.

弁護士法人キャスグローバルのベトナム拠点として2014年にホーチミン、2022年にハノイに拠点を設立し、ベトナムにおける日系企業の法務全般を、日本人とベトナム人弁護士が連携してサポートしている。現在、約300社への支援を継続して行っており、クライアントは製造業、商社、IT、不動産、エンタメ、小売、飲食、その他サービス業など多岐にわたる。