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ベトナムでの賃金比較の落とし穴 〜人事制度の違いとリスク〜

ベトナムでの賃金比較の落とし穴 〜人事制度の違いとリスク〜

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ベトナムでは、人材の採用や引き留めを目的に、他社と賃金水準を比較したいという要望が増えています。しかし、単純に同業他社と比較し賃金水準を見直すことは、中長期的な問題を招く可能性があり、お勧めできません。本稿では、非日系企業との人事制度の違いや法的リスクの観点から、日系企業が留意すべき点を解説します。

ベトナムにおける日系企業の賃金水準の特徴

近年、人材獲得競争において、日系の競合他社だけではなく、ベトナムのローカル企業や韓国系、欧米系企業を相手にしなければならないこともあり、ローカル系や外資系企業の賃金水準を参考にしたいというニーズが高まっています。弊社PERSOLKELLYベトナムの人材紹介データ(2022~2023年)を比較すると、ローカル系の賃金水準を100%とした場合、日系企業は初級職でローカル系を上回るものの、役職が中級職や上級職になるにつれ、ローカル系を下回る傾向が見られます(図表1)。役職が上がるほど、市場競争力が低下しているのです。

図表1 親会社の国籍ごとの役職別賃金比較

非日系企業との賃金水準比較に潜むリスク

人件費を抑えたいという本音を抱えつつも、採用や引き留めのために「背に腹は代えられない」とマーケットデータを参考に賃金水準の引き上げを検討する日系企業も少なくありません。しかし、単純な賃金引き上げはお勧めできません。その理由は、日系企業とローカル系や欧米系企業の昇給・昇格を支える人事制度の思想に根本的な違いがあるためです。結果的に同じ役職名を持ちながら、実際には同レベルの業務を担っていないケースが見受けられます。

 

例えば、日系企業では長期勤務の従業員を評価してアシスタントマネジャーやマネジャーへ昇格させることがよくあります。この場合、役職本来の機能を果たしていない名目上の管理者(部下のいないマネジャーなど)が多く存在し、結果的に管理者数が増える一方で賃金水準が低くなる傾向があります。一方、ローカル系や欧米系企業では、役職ごとの仕事内容が職務記述書(ジョブディスクリプション)で明確に定義されており、管理者数を絞ることで高い賃金水準を維持しています。

 

そのため、日系企業がローカル系や欧米系企業の同じ役職の賃金水準を基に引き上げを行うと、多くの(名目上の管理者を含む)管理者の賃金を一斉に上げることとなり、人件費が不必要に高騰するリスクを伴います。

減給、降格、解雇が“できない”三重苦

また、画一的に従業員の賃金を引き上げたり昇格させたりすることで、労働者保護が強いベトナムの労働法の下、賃金の下方硬直性を増すリスクがあります。

減給、降格、解雇が“できない”三重苦のイラスト

① 基本給を下げることができない

ベトナムでは、基本給の減額は懲戒処分(労働法第124条)の項目に含まれておらず、懲戒処分であっても基本給を下げることは認められていません。そのため、固定人件費の高騰を避けるには、変動賞与やコミッション(インセンティブ)など、状況に応じて調整可能な賃金形態を活用することが基本方針となります。一方で、手当については、手当の定義や支給基準をハンドブックや賃金規程などの社内規程に明記し、その資格を失った場合に支給を停止することが可能です。例えば、チーフアカウント資格を喪失した場合にチーフアカウント手当を停止する、といった対応が可能です。変動給や手当を意図的に設計することが重要です。

② 降格は懲戒処分でしかできない

降格処分は懲戒処分(労働法第124条)の一つとして規定されていますが、懲戒手続きが煩雑であり、会社側に従業員の過失を立証する義務が課されます。また、就業規則に具体的な違反行為を明記する必要がありますが、「パフォーマンスが悪い」「マネジャーの適性がない」といった理由による降格は、たとえ明記されていても、労働局での就業規則登録時に認められない可能性が高いです。

③ 解雇のハードルが高い

解雇による雇用契約の解除は難しく、一般的には会社と従業員との合意の上の解除(労働法第34条第3項)が必要です。違法解雇と認定され、会社が従業員を復帰させることを望まず、従業員もそれに合意する場合には、「賃金の最低4ヵ月分+解雇手当(勤続年数×賃金の0.5ヵ月分)+解雇期間中の社会保険料」の支払いが求められます(労働法第41条第1~3項)。ただし、これを支払ったからといって解雇が成立するわけではなく、一人の従業員との雇用契約解除に多大な労力を要するのが現状です。

今後の対応策

このようなリスクを踏まえ、会社内で賃金の考え方をあらかじめ明確にすることが重要です。専門性の高い人、役職が高い人、創造性の高い人、管理能力の高い人など、「どのような人に賃金を手厚く支払うべきか」を言語化し、限られた原資の中で「手厚く支払うべき人」と「そうでない人」を明確に区別して、メリハリのある賃金分配を行うべきです。これにより、優秀な人材の採用や引き留めに賃金を効果的に活用できるようになります。

 

さらに、賃金制度を見直すだけでなく、採用、等級、昇進・昇格、人事評価、人材育成など、人事制度全体のロジックを一貫させることで、組織内で優秀な人(求める人材)の定義やそうあるための筋道が可視化され、従業員にとっても公平性や納得感、透明性の高い人事制度を構築できます。人事制度に課題を感じている場合は、ぜひ弊社までご相談ください。

執筆者
野尻 康平
PERSOLKELLY VIETNAM CO., LTD.
Senior HR Consultant

大学卒業後、日本にて金融関係の専門紙の記者を経て、2019年よりベトナム在住。ベトナムで人材教育コンサルタントとして従業員研修事業に携わる。2023年より現職。日系企業の人事労務のヘルプデスク、人事制度設計、就業規則の作成、各種セミナー講師を務める。

PERSOLKELLY VIETNAM CO., LTD. のロゴ
PERSOLKELLY VIETNAM CO., LTD.

アジア太平洋地域で最大級の人材サービス会社。PERSOLKELLYはPERSOLグループ(旧テンプスタッフ、旧インテリジェンス)とアメリカ大手派遣会社Kelly Serviceとの合弁事業です。アジア・オセアニア13ヵ国・地域にて事業を展開。各種サービスを通して、雇用・労働に関する課題解決に取り組んでいます。