
インドネシアにおける契約書の言語規制
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インドネシアでは、2009年の言語法制定以降、契約書に使用すべき言語を巡る議論が続いている。特に、インドネシア人と外国人との間で締結される契約では重要な論点となっており、2015年の最高裁判決により英語のみの契約が無効とされたことで、実務にも大きな影響が生じた。本稿では、本規制について制定の経緯とともに概説する。
目次
言語法の制定
2009年、国旗、言語、紋章及び国家に関する法律2009年第24号(以下、「言語法」という)が制定され、インドネシアの州、政府機関、インドネシアに本拠を置く民間団体、またはインドネシア人を一方当事者とする契約や覚書については、インドネシア語の使用が義務付けられている(言語法第31条第1項)。
言語法上、「使用」の意味については明確に定義されておらず、一般的には、インドネシア語版の契約書を作成し、両当事者がこれに署名することが必要であると解されている。また、インドネシア語に加えて、英語等の外国語による契約書を作成することも認められているが(言語法第31条第2項)、外国語版の契約書を作成した場合に、インドネシア語版との間で内容に齟齬が生じた際、どちらの契約書を優先するかについては、言語法上明確な規定はなかった。
2015年の最高裁判決
2013年6月、西ジャカルタ地方裁判所は、英語版のみで締結されたローン契約について、インドネシア語版の契約書が作成されていないことを理由の一つとして、当該契約を無効とする判決を下した。その後、控訴審であるジャカルタ高等裁判所は2014年5月に第一審判決を維持し、さらに2015年8月には最高裁判所も同様の判断を示したことにより、当該契約を無効とする判決が確定した。
言語法では、インドネシア語版契約書等を作成しない場合の法的効果について規定されておらず、実務では、契約締結時に英語版の契約書のみを作成し、インドネシア語版の契約書を作成しないケースも多く見られていた。しかし、上記最高裁判決以降は、インドネシア語版の契約書を作成することを前提とした慎重な対応が求められている。
2019年の大統領規則制定
2009年の言語法の施行規則として、2010年にインドネシア語の使用に関する大統領規則2010年第16号が制定されていたが、その後、同規則は、インドネシア語の使用に関する大統領規則2019年第63号(以下、「新規則」という)に置き換えられている。

新規則では、図表1の4項目が規定されている。
なお、新規則においても、インドネシア語版の契約書を作成しない場合の法的効果は規定されておらず、インドネシア語版の契約書を作成しない取引については、2015年の最高裁判決と同様に、契約が無効となる可能性がある。

2023年の最高裁通達
2023年、最高裁判所は、裁判所による業務遂行のガイドラインに関する通達2023年第3号(以下、「2023年通達」という)を制定した。
2023年通達では、一般民事に関する項目において、インドネシアの民間団体または個人が外国当事者と外国語で契約を締結した場合、インドネシア語訳が付されていないことのみを理由として契約の無効を主張することはできないとされている。ただし、インドネシア語訳が存在しないことが一方当事者の悪意(iktikad tidak baik)によるものであると証明された場合は、この限りではない(2023年通達B第1項)。
もっとも、2023年通達は、言語法や新規則を改廃する効力を有する法令ではなく、最高裁判所の管轄下にある裁判官に対する運用指針にとどまる。そのため、裁判所外に法的拘束力はなく、仲裁機関等の独立した判断主体では、引き続き言語法や新規則に基づく判断がなされると考えられる。
したがって、2023年通達のみを根拠として英語のみで契約を締結することは避け、引き続きインドネシア語版契約書を作成するとともに、英語等との二言語併記とし、優先言語を明記する対応が必要である。









