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「日本人は働かない?」〜アジアで急落する日本企業のイメージ

「日本人は働かない?」〜アジアで急落する日本企業のイメージ

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今回は、ショッキングな話を二つ紹介したい。一つは、あるタイ人経営者との対話である。筆者の長年の友人と食事をしていたとき、話題は「最近の日本企業がどう見えているか」に及んだ。タイでは日本車のシェアが急速に低下し、タイ人の日系企業離れも顕著なことから、私は厳しい指摘がなされるのを身構えて待っていた。

変わる日本企業の強みと、変わらない弱み

彼は今の日本企業のイメージをこう話してくれた。

「例えば、タイにある台湾、韓国、中国、日本企業などのアジア企業を比較して、どの企業を勤務先に選ぶかと聞かれれば、いまだに日本企業はトップの選択肢に挙がると思う。日本企業は“絶対にクビを切らない”というイメージがあり、タイ人はそこにポジティブな信頼感を持っている。」

ネガティブイメージから入るかと思っていたので意外な指摘だった。確かに、雇用の安定性は日本企業の強みであり、それは海外でも変わらない。特にコロナ禍で際立った従業員を守る姿勢は、実は海外拠点から高い評価を得ている。

ただし、中には「ぬるま湯的な長期雇用」になっている日本企業もある。そうした企業がのんびりした気質のタイ人にとって“お気楽な勤務先”となっているケースもあり、手放しに褒め称えるわけにはいかないことは留意しておきたい。

その経営者はこう続ける。

「ただし、日本企業はイノベーションのイメージから遠くかけ離れてしまった。今、“テクノロジーの国と言えばどこか?”と聞けば、ほとんどのタイ人は中国と答えるだろう。EVは政治的な背景もあり売れているので評価が難しいが、エネルギー効率だけでなく、シンプルにセンスが良く、技術力が高いと思われて売れている。タイ人の若者は、身の回りのITガジェットでアジアのブランドならサムソンやシャオミを選んでいる。全般的な消費者イメージとして、日本製品は堅牢だがデザインセンスが低いと思われているよ。」

かつて“技術と新しさの象徴”であった日系企業が、いまや“ローテクでカッコ悪い存在”と見なされ始めている現実を示唆する声であり、こうしたイメージは特に若い世代の間で顕著である。

最後にその経営者はこう付け加えた。

「僕が一番疑問に思うのは、“どうして日本人はいまだに英語を話さないのか?”ということだ。日本人は誠実で勤勉だが、英語を話さないから一緒に仕事をしたくてもできない。勤務先としても、“日本語必須”というイメージが定着してしまっている。これだけグローバル化した時代に、これは本当に残念だし、不思議なことだよ。」

彼が最後に指摘した「英語」という弱点は、何十年も前から変わらない。どれだけグローバル化が叫ばれても、世界から見た日本人のイメージは、国際感覚に乏しいかつての姿のままだ。たかが言語と思うかもしれないが、こうした内向きなイメージこそが優秀な人材の獲得を妨げ続け、企業の競争力を決定的なまでに削いでいることは厳然たる事実である。

かつて日本経済が隆盛を誇っていた頃は、アジアの人々の多くが日本語を学んでくれていたので、それで良かった。しかし今は、日本企業が自ら海外に対して自分をアピールしなくてはいけない。それなのに、日本人の英語力という弱点は30年前からあまり変わっていないように私には思える。これは日本人の危機感の欠如を示す一つの典型例ではないだろうか。

「ホワイトすぎて仕事をしない」日本人

もう一つのショッキングな例を、今度はある日本人から聞いた。

その職場には最近、30歳前後の比較的若手の駐在員が赴任してきたそうだが、その社員の行動が問題になっているという。

「ある社員が、日本勤務時の有給休暇をたくさん持ち越したまま海外に赴任してきたんです。休暇を余らせると本社人事から指摘が入るので、タイ赴任後も彼はせっせと休みを取得しています。それを見たタイ人社員たちが、“まだタイで成果も出していないのに、あの人は一体何をしに来たの?”と呆れてクレームが上がってきたんです。」

この話は、日本人に対する「勤勉」「責任感」といった従来のイメージが揺らぎつつあることを物語っている。近年、日本で起こっている「働き方改革」などの“ホワイト化”の流れが、日本国内ではポジティブに評価されていても、海外では不思議に思われているということだ。

特に、シンガポールやバンコクなどのアジアの大都市では、今や熾烈な競争が繰り広げられている。中国人やシンガポール人は昼夜を問わず働き、インド人は職場で積極的に自己アピールをする。のんびりしているイメージがあるタイ人ですら、Z世代の優秀層はとても上昇志向が強く、勤勉な人材が多い。そうしたトレンドに逆行するかのように、日本人だけがホワイト化しているのである。

かつて、東南アジアに駐在する日本人は「カラオケやゴルフばかりしている」と眉を顰められることもあった。しかし、一方で彼らはモーレツに仕事もしていたはずだ。カラオケやゴルフもほとんどが仕事のためだ。「たくさん遊ぶが、たくさん仕事もする」のが日本人であった。ホワイト化社会で覇気を失う日本人、モーレツな中国・インドに太刀打ちできるか。
ところが今では、過度なホワイト化環境で20代を過ごした人材が、「たくさん遊ぶが、仕事もしない日本人」と外国人から評価されてしまうということが起こっている。もちろん、こうした事例は一部にすぎないかもしれないが、「勤勉さ」という日本人最大の強みが損なわれつつあるとしたら、由々しき事態である。

最近、中国人のタイにおける働き方を表す言葉として「007」というものがあると聞いた。彼らは、本国から「0時から0時まで、週7日間働け」という厳しい命令を受けて仕事をしている。つまり「24時間、365日働け」という意味で、これはまさに日本のバブル時代のスローガンと同じである。

もちろん、体を壊すほどのブラック労働を推奨するつもりはないが、国家の命運をかけた経済戦争をしている現場で、モーレツに働く中国企業に対して日本人がホワイト労働で対抗できるかというと、はなはだ怪しいと思わざるを得ない。こうした現実は、日本の中にいるとなかなか気づけない事実だ。

環境認識が変わらないと変化は起こらない

これらの事象から見えてくるのは、「正しい環境認識の重要さ」である。

「働き方改革」は、国内の環境変化に対応するために良かれと思って導入された施策である。誰も国力を落とそうして始めたわけではない。しかし結果として、世界の情勢とはかけ離れたものになってしまった。

日本と同様に、自動車産業大国から急転落してしまったドイツでも、過度なホワイト化労働が経済低迷の一因であると指摘されている。将来起こりうる環境変化を、もし正しく見極めていれば、こうした事態にはならなかったのではないだろうか。

日本人に変化対応力がないわけでは決してない。むしろ、厳しい自然災害に鍛えられてきた日本人は、大きな変化が起きると、そこに対して迅速かつ柔軟に対応ができる国民だ。

問題なのは、変化の前提となる「環境認識」だ。状況が明らかな自然災害と異なり、じわじわと進行する環境変化には、同質性の高い日本社会にいると気づきづらい。黒船が「太平の眠りを覚ました」と言われたように、外部の力によってしか環境変化を認識することができないのが日本人なのかもしれない。

筆者から見て、この令和の時代においても、まだ日本は「太平の眠り」の中にいるように思われる。海外市場を直接見て、現地のビジネスリーダーたちの話をじっくり聞くことでしか気づけないことがある。そうした環境変化を実体験として獲得することが、そこからの迅速な変化を可能にするのだ。

大きな変化のタイミングが、やがて日本社会にも訪れることを筆者は願ってやまない。

執筆者
中村 勝裕
Asian Identity Co., Ltd.
CEO

愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。愛称はJack。

Asian Identity Co., Ltd. のロゴ
Asian Identity Co., Ltd.

2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させるというビジョンの実現に向けて"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応力を強みに、東南アジアに展開する多くの顧客企業の変革をサポートしている。