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「クビにしにくい国、日本」の真実とは?日本型雇用制度の功罪

「クビにしにくい国、日本」の真実とは?日本型雇用制度の功罪

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前回は、英語によるコミュニケーションを日本企業の弱点として取り上げたが、もう一つの障壁は「雇用制度」であろう。企業と従業員の関係性は日本と海外で大きく異なるが、近年、このテーマは国内外でますます重要視されている。今回は、国際的に見た日本の雇用制度や人事制度の特徴と留意点について考えたい。

「日本は解雇が難しい国」は本当か?

日本の雇用制度で長年指摘されている課題は、「解雇が難しい」という点である。奇しくも、2024年9月に行われた自民党総裁選では複数の議員がこの問題に言及し、争点の一つとして再び議論を呼んでいる。

しかし、国際的に見れば、日本は決して「解雇が難しい」国ではないことが統計的に示されている。雇用保護の指標としてしばしば参照されるOECD統計によれば、日本の数値は6段階スケールで2.08(数値が小さいほど解雇が容易)であり、OECD平均の2.27を下回っている。先進国の中では、フランスやドイツの方がはるかに解雇が難しいことが知られている。

また、世界銀行の統計では、アジア諸国も含めた解雇条件の比較データを参照することができる。それによれば、日本の「1ヵ月前の解雇事前通知」は、予告なく解雇できるアメリカに比べれば厳しいが、2ヵ月以上前の通知が必要な欧州と比べれば、さほど厳しい条件とは言えない。また、解雇に際して必要な保証金についても、日本には明確な規定がない。ヨーロッパ諸国では最低でも2~3ヵ月分の給与、アジア諸国では半年以上の給与を支払う必要があるケースも多く、日本は解雇時の会社負担が特に高い国とは言えないだろう。

しかし、ルールに定めがないからといって解雇がしやすいかというと、現実的にはそうではない。日本では企業の都合で解雇をする場合、「解雇判断に合理性があるか」「解雇を避けるための努力を十分に行ったか」など、いわゆる整理解雇の4要件を満たさなければならず、この判定基準があいまいなことで、逆に「解雇しづらい」国となっている。

一方、筆者はタイで会社を経営しているが、タイでは5年勤務した従業員を会社都合で解雇する場合、実に「半年分」の解雇補償金を支払わなければならない。これは会社にとって大きな負担である一方で、最悪の場合は「お金を払えば辞めさせられる」という不思議な安心感を感じる面もある。日本では、一人の問題社員を辞めさせられるかどうかに延々とエネルギーを費やすケースが多く、「どちらが解雇しやすい国なのか」と考えさせられることも少なくない。

このように、雇用制度というのは単純なルールで決まっているわけではなく、各国の文化や慣行とセットで考える必要があり、簡単に国際比較ができない難しい問題である。

図表1 解雇の難易度(数値が小さいほど解雇が容易)
図表2 解雇事前通知義務(5年以上勤務者)
図表3 解雇保証金(5年以上勤務者)

メンバーシップ型雇用の問題はどこにあるのか

とりわけ日本には、世界でも特殊な雇用形態が育まれてきた歴史がある。企業は労働者を雇用する際に、職務や勤務地を具体的に定めない契約を結ぶことが可能で、これが近年「メンバーシップ型雇用」と呼ばれるようになっている。

メンバーシップ型雇用は日本独自の概念であり、適切な英訳が難しい言葉でもある。通常、業務内容を明確にするのは当然だが、日本では戦時中に企業が従業員の生活を保障する「生活給」の概念が生まれ、職務内容ではなく従業員の年齢や家族構成に基づいて処遇を決めることが一般化した。この制度はGHQ統制下を経ても存続し、戦後も日本の強い労働組合体制によって堅持されてきた歴史がある。

また、メンバーシップ型雇用は日本人のメンタリティにも合致していた。その代表例が松下電器(現:パナソニック)である。1929年の世界恐慌で多くの日本企業が経営難に陥る中、創業者の松下幸之助は「一人のクビも切ってはいけない」と厳命した。給与を全額支給する代わりに、従業員が一丸となって休日返上で働き、危機を乗り越えた。こうした美談は多くの経営者の共感を呼び、松下は日本企業の経営者のロールモデルとなった。「大家族経営」とも称されるメンバーシップ的な経営スタイルは、昭和の日本的経営のスタンダードとなったのである。

一方、昭和から平成、令和へと時代が移る中で、メンバーシップ型雇用には多くの課題が指摘されるようになった。

まず、「人材の流動性の低さにつながりやすい」という点である。メンバーシップ型では職務を限定しない代わりに、転勤やジョブローテーションの権限が会社にあり、その結果、長期勤続を前提とした終身雇用や年功序列のルールが形成されやすい。しかし、ビジネスの変化が激しい現代においては、組織内の人材を適切に入れ替えずして競争に勝つことは難しい。このように人材が固定化されることで、組織内にイノベーションが起こりづらくなる側面があることは否めない。

人材育成の面では、「専門能力を獲得しづらい」という弱みもある。メンバーシップ型には、自社の文脈に特化したゼネラリスト型人材を育成できる強みがある一方で、「社内でしか通用しない人材」を生んでしまうリスクをはらんでいる。近年、特定の分野に強みを持つ「T型人材」や、2つ以上の分野に精通した「π型人材」の必要性が叫ばれているように、経営人材にも専門性が求められる時代である。そうした時代にマッチした人材育成効果が、メンバーシップ型では得られにくいのである。

さらに、「報酬が市場相場と乖離しやすい」という点も大きな問題である。メンバーシップ型の組織では、社内の序列が「能力」によって決まる「職能等級」がベースとなっている。等級は、平社員→主任→係長といった形で上がっていくが、これらの呼称は担当している「仕事」というよりは「〇〇ができる」という能力によって定義されている。この仕組みは、注意しないと実質的な年功序列制度になりやすく、業務内容や責任と関係なく、なんとなく年功的に給与が決まってしまう傾向がある。

こうした問題が日本企業の競争力を削ぐ要因として指摘されることが増えてきた結果、「メンバーシップ型からジョブ型へ」という掛け声のもと、伝統的な日本型雇用を見直す動きが進んでいる。

海外拠点における「メンバーシップ型のねじれ」

しかし、そもそも日本以外の国々では、ジョブを定義せずに雇用することはあり得ない。そのため、日本企業の海外拠点では、雇用システム自体が既に「ジョブ型」で運用されてきた。日本本社ではまともな「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」が存在していなかったのに、海外拠点では必要に迫られ、初めて作成したという海外勤務社員も多い。

一方で、人事制度は日本から持ち込んだメンバーシップ型を海外拠点にも適用してきた歴史がある。そのため、人事制度が年功序列的で長期雇用を前提とするものになっているケースが多い。この結果、海外拠点では「雇用制度はジョブ型、人事制度はメンバーシップ型」という「ねじれ」が生じていると、筆者は海外の日系企業を見ながら感じている。

図:海外拠点における 「メンバーシップ型のねじれ」

この「ねじれ」は、メンバーシップ型の弱点を補う面もある。前述の3つの問題点に照らして見てみよう。

まず、人材の流動性については、海外ではもともと人材マーケットが活性化しているため、ある程度勝手に人材は流動していく。外部から良いオファーがあれば人材は一定数出ていくし、人が抜ければ企業は中途採用をせざるを得ない。結果として組織の新陳代謝は進みやすくなる。もちろん、単に流動していれば良いわけではなく、社内での評価や育成をしっかり行わなければ、「良い人が退社し、悪い人が入る」という「悪しき新陳代謝」になりかねない。人材の流動が好循環になるか悪循環になるかは、各社の経営力次第で決まる。

能力開発の観点では、海外では能力開発が「個々人の責任」とされている。どのような能力を身につけるかは個々のキャリアの充実に関わるため、海外では一人ひとりが専門能力の獲得に真剣になる。会社が研修を提供しなくても、自ら学校に通ったり資格を取得したりして、自分の履歴書をより魅力的にする努力を惜しまない。もちろん、人材育成意識の強い日系企業は積極的に社員向け研修を企画するが、これはプラスアルファの効果を発揮している。

ちなみに昨今、日本では「キャリア自律」という言葉をよく耳にするようになった。これは、キャリアを勤務先に委ねるのではなく、個々人がキャリア選択を自分事として考えようという発想だが、これもメンバーシップ型の考え方がベースにあるように思える。海外ではもともとキャリアは自己責任的なものであり、企業ではなく個人に属するものと考えるのが良いだろう。

最後に報酬制度であるが、これは「ねじれ」がむしろ問題を大きくしている日系企業の弱点である。市場ではジョブベースで給与が決まっているのに対し、社内のサラリーテーブルが年功的なままになっていることが多い。そうすると、必要な人材を社外から採用する際、やむを得ず「報酬テーブルからはみ出す」オファーで採用をすることになる。しかし、このときに元のテーブルを是正することは行われないため、徐々に報酬テーブルが有名無実化していってしまう。

このような問題が起こる理由の一つに、海外拠点には報酬テーブルを見直す権限やノウハウが不足しがちであるということがある。さらには、日本の給与が長年上がらない間に、海外拠点の上位職層の給与相場がむしろ高くなっており、日本本社がそのテーブルを許容できないという背景もある。報酬を市場に存在するジョブベースの給与に合わせて決定していかないと、もはや優秀な人材の確保は難しくなっている。

では「ジョブ型への移行」がすべてを解決するのかというと、そう簡単にはいかないと筆者は見ている。ジョブ型制度にも弱点があり、「業務の柔軟性の不足」「人材育成意識の欠如」、そして特にアジアにおいては「集団主義的文化との不整合」があげられる。次回コラムではジョブ型制度の問題点と、解決策について考えてみたい。

執筆者
中村 勝裕
Asian Identity Co., Ltd.
CEO

愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。愛称はJack。

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Asian Identity Co., Ltd.

2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させるというビジョンの実現に向けて"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応力を強みに、東南アジアに展開する多くの顧客企業の変革をサポートしている。