
ベトナムにおける労働契約の終了事由と通知手続き
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ベトナムでは労働者保護の観点が非常に強く、トラブルが発生してからでは国内での解決が困難なため、労働契約終了時には事前準備と適切な手続きが求められます。そこで本稿では、ベトナムにおける労働契約終了の基本的な考え方や主要な終了事由、通知手続、懲戒解雇の流れについて解説します。
目次
1. 労働契約終了の基本的な考え方
ベトナム労働法(法律第45/2019/QH14号、2021年1月1日施行、以下「労働法」という)では、労働者保護を中心に規定が整備されており、企業(使用者)は労働契約終了時に厳格な手続きを踏む必要があります。
特に、通知手続や懲戒解雇の聴聞手続などが、形式面・内容面の双方で厳しく定められており、手続違反があれば「違法な労働契約終了」とみなされるリスクがあります。
2. 主な労働契約の終了事由
労働法第34条では、労働契約が終了する事由が列挙されています。その中で、企業が日常的に対応する必要がある主な終了事由は以下のとおりです。その他の事由については、労働法第34条をご参照ください。
(1) 労働契約期間の満了
有期労働契約の場合、契約期間が満了すると労働契約は終了します。契約期間満了後に新たな契約を締結せず、そのまま労働を継続させると、無期労働契約に移行する場合があるため注意が必要です(労働法第20条)。
(2) 両当事者の合意(合意解除)
労使双方が労働契約を終了させることで合意した場合、その合意に基づき労働契約は終了します。
(3) 懲戒解雇処分
労働者が重大な違反を犯した場合、法令に則った懲戒手続を踏むことにより、懲戒解雇処分が認められる場合があります(労働法第125条)。
(4) 片方当事者からの一方的解除
使用者である企業側からは、法律上定められた一定の事由(無断欠勤の連続や業務評価基準に達しない場合など)が認められる場合に限り、一方的に契約を解除することができます(労働法第36条)。なお、労働者側から一方的に契約を解除される場合もあります。
3. 労働者への通知義務と通知期間
契約終了に際しては、労働法第45条第1項に基づき、企業は労働者に対して書面による通知を行う必要があります。
終了事由によって通知の要否や期間が異なるため、以下の点に注意してください。
(1)契約期間満了および合意解除の場合
・通知の要否
原則として、企業は労働契約の終了に際して書面による通知を行う必要があります。
・ 通知期間(期限)
契約満了や合意解除の場合、事前通知期間は法定されていません。そのため、契約終了日までに通知を行えば足りると解されます。
・実務上のポイント
法定の通知期限はないものの、労働者とのトラブルを防止するため、可能な限り早めに通知することが望ましいです。契約更新を行わない場合は、事前に通知することで労働者の予見可能性を高めることができます。
(2)会社による一方的解除の場合
・対象となる事由
一定の法定事由(無断欠勤が5営業日以上、業務評価基準に達しない、治療を続けても回復が見込めない等)がある場合に限り、一方的解除が認められます(労働法第36条)。
・通知期間(事前通知の必要性)
契約形態(期間の長さ)に応じて、以下の法定通知期間が定められています(労働法第36条第2項)。
無期労働契約:45日以上前に通知
12ヵ月以上36ヵ月以下の有期労働契約:30日以上前に通知
12ヵ月未満の有期労働契約:3営業日以上前に通知
・通知不要のケース
無断欠勤が5営業日以上続き、労働者との連絡が取れない場合など、事前通知が物理的に不可能な場合は通知不要とされています。
4. 一方的解除事由の具体例
労働法第36条では、企業側から一方的解除が可能となる事由が複数規定されています。一方的解除を検討する際は、特に以下の事由について慎重に確認してください。下記以外にも法定事由が定められているため、詳細は労働法第36条をご確認ください。
(1) 理由なく5営業日以上連続して無断欠勤
事前通知が不要となるケースに該当する場合があります。
(2) 定年到達
就業規則や労働契約で定年後の再雇用を定めていない場合、定年到達をもって一方的解除が認められます。
(3) 業務評価基準に達しない場合
事前に詳細かつ客観的な評価基準を定めていることが重要です。
(4) 長期治療後も回復が見込めない場合
医師などの専門家による診断書が必要となる場合があります。
5. 懲戒解雇(懲戒処分)における注意点
(1) 懲戒解雇事由
労働法第125条では、職場において重大な違反(窃盗、横領、暴力行為等)があった場合、所定の手続きを踏むことで懲戒解雇が認められています。ただし、実際には、就業規則に明記されていない場合懲戒手続を行えないとの解釈もあるため、就業規則を有していること、懲戒事由が就業規則に明記されていること、さらに、その明記を証明できることなどが実務上重要となります。
また、懲戒処分自体が後に無効とされるリスクを考慮し、対象の労働者と話し合いを行い、合意退職に至るケースも多く見られます。
(2) 懲戒解雇時の聴聞手続
懲戒解雇(懲戒処分)には、以下のような聴聞手続が必須とされています(政令第145/2020/ND-CP号第70条)。これらの手続を経ずに懲戒解雇を行った場合、手続違反で懲戒処分が無効となり、違法な労働契約の解除とみなされる恐れがあります。
・書面による事前通知
会社は、聴聞会を開催する少なくとも5営業日前に、当該従業員および弁護人(いる場合)に対して、聴聞会の日時、場所、対象従業員の氏名、違反内容を通知する必要があります。
・日程調整
当事者や弁護人が日程に応じられない場合は、変更について合意する必要があります。合意が得られない場合、会社は最終的に聴聞会の日程を決定することができます。
・聴聞会の実施
聴聞会当日、当事者や弁護人が出席しない場合でも、事前通知を行っていれば、会社は聴聞会を実施することができます。
・議事録の作成
聴聞会の議事録は、その終了前に作成し、参加者の署名を得る必要があります。署名を拒否された場合は、拒否の理由を議事録に記載します。
・懲戒処分の決定・通知
懲戒権限を有する者が法定期間内に懲戒処分を決定し、当事者に対して通知します。
(3) 懲戒手続における原則
懲戒手続においては、以下のような原則や労働者の権利が存在します。これらに違反した場合、懲戒処分自体が無効とされる可能性があるため、注意が必要です。
・ 使用者の立証責任
使用者は、従業員の故意または過失を立証しなければなりません(労働法第122条第1項a号)。
・労働組合の関与
対象従業員が労働組合の構成員である場合、当該労働組合には懲戒処分(聴聞会)への参加権限があります(同条第1項b号)。
・弁護の権利
当事者は、弁護士または労働組合による弁護を依頼する権利を有します(同条第1項c号)。
・重複処分の禁止
1つの違反行為に対して、複数の懲戒処分を重複して科すことはできません(同条第2項)。
・最重処分の適用
一度に複数の違反行為がある場合、最も重大な違反行為に対して、最も重い処分のみが適用されます(同条第3項)。
6. まとめ
ベトナムにおける労働契約の終了では、終了事由が法令上正当であること、通知や聴聞など厳格な手続を遵守することの2点が特に重要です。これらを怠ると、違法な労働契約の解除とみなされ、企業が大きなリスクを負う可能性があります。
次回は、契約終了時に企業が支払うべき賃金や退職手当、未消化有給の買い取りなど、金銭的な義務を中心に解説します。








