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企業のMVVが形骸化してしまう理由とは何か。西田徹が語る「MVVの社内浸透」を実現する3つのポイント

企業のMVVが形骸化してしまう理由とは何か。西田徹が語る「MVVの社内浸透」を実現する3つのポイント

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「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」をつくったものの、社内へ浸透させて社員の行動につなげていくことができずに悩んでいる経営者は非常に多いです。最近では多くの企業がMVVの再策定や社内浸透に取り組んでいるが、MVVが形骸化してしまっている会社も少なくありません。
本記事では、企業文化の浸透に関する課題と成功事例を取り上げ、西田徹氏にその本質について伺いました。

なぜ今、MVVの浸透が求められるのか?VUCA時代におけるMVVの重要性

※以下、敬称略

—— 近年、企業のMVVの重要性が再認識されています。その背景にはどのような要因があるのでしょうか?

西田:これまでのMVVは、企業のブランドを示す「表面的な要素」として扱われることが多かったです。しかし、時代の変化に伴い、MVVは単なるスローガンではなく、社員が実際に行動するための指針として機能することが求められるようになりました。
VUCAと呼ばれる時代において、上司の指示に従うだけでは企業の成長は望めません。現場の社員が状況に応じて適切に判断し、行動するための基準としてMVVが重要になってきたのです。

また、Z世代の社員にとっては、「私はなぜこの会社で働くのか?」「この会社は社会にどう貢献しているのか?」といった問いに対する納得感が不可欠になっています。彼らは給与や待遇よりも、企業理念への共感を重視する傾向にあります。そのため、企業はMVVを伝え、社員が共感できる環境をつくることが重要だと言えるでしょう。

—— MVVの重要性は企業の成長フェーズとも関係しているのでしょうか?

西田:MVVの浸透が特に求められるのは、企業が成長フェーズにあるときです。社員数が100人程度であれば、創業者の理念が自然と組織に浸透しやすいですが、500人や1,000人と規模が拡大すると、明文化されたMVVがなければ組織の一体感が失われてしまいます。
特に、M&Aを繰り返して急成長する企業では、異なる文化を持つ社員が集まるため、MVVの再策定や再浸透が不可欠です。その作業を怠ると企業の理念が曖昧になり、組織の求心力が低下するリスクがありますね。

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トップダウンでは伝わらない? MVVが浸透しない企業に共通する課題とは

—— 企業がMVVを掲げても社員に浸透しないケースは少なくありません。それにはどのような理由があるのでしょうか?

西田:MVVが浸透しないと悩んでいる会社の中には「どの企業にも当てはまる言葉」を使ってしまっているケースも多いです。例えば、「誠実」や「挑戦」、「信頼」といった言葉はどんな会社でも掲げることができます。ありきたりな言葉だけでは企業ならではの文化や価値観を表現することができないのです。ありきたりな言葉をMVVに使ってしまうと、MVVが単なる形式的なスローガンになり、実際の行動には結びつかなくなる可能性が高くなってしまいます。西田徹氏
また、MVVがトップダウンで決められ、現場社員が関与していない場合も社内には浸透しづらい傾向があります。もちろん、カリスマ的な創業経営者の場合はトップダウンでも浸透するケースはあるのですが、そのような会社は稀だと考えた方が良いかもしれません。

過去に経営トップの意向で人事部がMVVを策定し、すぐに評価制度にも組み込んだ会社がありましたが、現場の社員には「上から押し付けられたもの」という意識が強く、MVVが浸透しませんでした。その結果、社員の行動変容にはつながらず、MVVが形骸化してしまうという事態につながってしまったのです。

「社員の関与・ストーリーテリング・リーダーの体現」がMVV浸透のカギ

—— では、MVVを効果的に浸透させるには、どのような方法が有効なのでしょうか?

西田:MVVを社内に定着させるには、社員の関与やストーリーテリング、リーダーの体現が重要です。特に、MVVを「自分ごと」として捉えられるかどうかが成功の鍵を握ります。

とあるホテルを運営する会社では、社長が策定したMVVが現場になかなか浸透しませんでした。そこで、会社設立10周年を機に、フロントスタッフやシェフなど現場の社員15名を中心としたMVV再策定プロジェクトを立ち上げました。社員自ら議論を重ねたことで、「経営層が決めたもの」ではなく「自分たちがつくったもの」として受け入れられ、自然と現場に根付いていきました。

MVVの浸透には、単なるアンケートではなく、社員同士の議論を通じた策定プロセスが効果的です。また、ワークショップを実施し「MVVと自分の仕事がどうつながるか」を自発的に考える場を設けることで、MVVが単なる言葉だけではなく、具体的な行動指針となります。

—— MVVを実際の行動に落とし込むための「ストーリーテリングの活用」について教えてください。

西田:成功事例を具体的なストーリーとして社内で共有すれば、MVVは単なるスローガンではなく、実践につながる行動指針として浸透します。さらに、MVVが根付いている企業では、経営層やリーダーが日常の会話で積極的にMVVを引用することが多いです。例えば、「このプロジェクトは当社のミッションに直結しているのか?」と確認したり、「今の仕事で意識しているバリューは何?」と問いかけたりすることで、社員の意識にMVVを根付かせる工夫をしています。

—— MVVを根付かせるには、リーダー自身が日常のコミュニケーションに落とし込み、MVVを体現することが重要なんですね。

西田:企業が「誠実さ」や「挑戦」を掲げていても、上司が不誠実な行動を取っていれば、社員は「形だけのものだ」と思ってしまいます。逆に、リーダー自身がMVVを意識した行動をしているだけで、社員も「自分たちもやらなければ」と感じるようになるものです。

リーダー研修を通じて、具体的事例とともにMVVの重要性を伝えることが有効です。また、社内でMVVを体現しているリーダーを表彰し、ロールモデルとして共有することで、他のリーダーにも良い影響を与えることができます。このような取り組みを積み重ねることで、MVVは単なるスローガンではなく、企業文化として定着していくのです。

MVVが機能しなくなる瞬間とは?見直しが必要なタイミングとその理由

—— MVVの再策定が必要なタイミングについてはどう考えていますか?

西田:MVVは、一度つくったらそのまま使い続けるものではなく、企業の成長や環境変化に応じて見直す必要があります。1,000名規模のあるサービス業では設立から数十年が経過し、MVVが現場の実態と乖離していたため、社員の意見を取り入れて再策定しました。

また、新しい市場に進出するときや事業の方向性が大きく変わるときも、MVVの再策定が必要です。企業の変化に合わせ、社員が共感できるMVVを掲げ続けることが組織の成長には欠かせませんね。

—— MVVを見直す際に注意すべきポイントはありますか?

西田:MVVの見直しには、社員の意見を反映することが重要です。トップダウンで再策定すると、経営層の意向が強く反映されすぎてしまい、社員が共感しづらくなることがあります。そのため、現場の社員を巻き込んだワークショップやアンケートを活用し、「今の会社にとって本当に大切な価値観は何か?」を探るプロセスが必要です。

また、それ以外のポイントとしては、MVVの変更が企業のアイデンティティにどのような影響を与えるかを慎重に考慮することです。例えば、創業者が掲げた理念を急に変更すると、長年勤める社員が戸惑う可能性があります。そのため、過去のMVVを尊重しつつ、現在のビジョンと調和させる形で再策定することが大切です。

—— MVVを再策定した後の効果的な浸透施策にはどのような方法があるでしょうか?

西田:MVVの再策定後に最も避けるべきなのは、「発表して終わり」にすることです。多くの企業では、新しいMVVを社内報やポスターで告知するだけで終わってしまいますが、それでは社員の意識や行動は変わりません。

そこで大事なのが、ワークショップや研修で、社員がMVVの仕事への影響を考える機会をつくることです。また、経営層やリーダーが日常的にMVVを言語化し、業務に結びつけて語ることも欠かせません。実践を促す仕組みを整えることで、MVVは浸透しやすくなります。

「自己決定理論」から読み解くMVV浸透の仕組みとは? 「定量×定性」の測定で見える課題

—— MVVの浸透度を測定し、改善するにはどのような方法があるのでしょうか?

西田:MVVの浸透度を正確に把握するには、数値による「定量測定」と意見を集める「定性測定」の両方が欠かせません。

定量測定では社員アンケートを活用します。「MVVを自分の言葉で説明できますか?」などの質問に5段階で回答してもらい、会社全体や部門ごとの傾向を見える化します。定性測定ではグループディスカッションや個別インタビューを行います。「MVVを実感した具体的な場面はありますか?」といった質問で、数字だけでは見えない現場の実態を把握します。例えば「管理職がMVVを体現していない」という声が多ければ、リーダー向け研修を強化するといった対応ができます。数値だけに頼らず、社員の生の声にも耳を傾けることが、MVVの浸透の近道です。

—— MVV浸透の心理学的アプローチについても教えてください。

西田:MVVの浸透には、アメリカの心理学者であるエドワード・デシの「自己決定理論」が関係しています。この理論では、社員が自主的にMVVを受け入れ、実践するためには「自己決定感・有能感・関係性」の3つの要素が必要とされています。自己決定感・有能感・関係性

  • 自己決定感:自分(自分たち)で決めたことは、それを実行する動機づけが強く働く
  • 有能性:自分(自分たち)はそれをうまくやれているという感覚が、さらなる実行への動機づけと
    して強く働く
  • 関係性:皆で一緒に取り組んでいるという感覚が、実行の動機づけとして強く働く

トップダウンの指示ではなく、社員が自らMVVを考えて行動できる環境をつくり、MVVを実践することで成功体験を得られるようにします。そして、同僚や上司とMVVに基づいた関係を築き、共感を生むことが大切なのです。

MVVは単に経営層が掲げるものとして扱うのではほとんど意味がありません。社員が自ら積極的に関与し、日々の業務と結びつけられる仕組みをつくることが、MVVを真の意味で浸透させるには必要不可欠なのです。

—— 本日はMVVの浸透について、具体的な事例を交えながら詳しくお話しいただき、ありがとうございました。社員がMVVを自分ごととして捉え、行動につなげていくためのポイントを理解することができました。貴重なお話をありがとうございました。

 

話し手
西田 徹
バランスト・グロース・コンサルティング株式会社
取締役

1988年という日本における組織開発の黎明期からリクルートにて360度リーダーシップサーベイなどの営業と商品開発に従事。その後ボストン コンサルティング グループにて大手情報システム企業の人事制度構築、大手化粧品会社の商品開発プロセス改革などに関わる。2017年より現職。著名消費財メーカーの研究所活性化、著名飲料メーカーのサクセッションプランでのエグゼクティブ・コーチング、巨大グローバル企業での韓国・上海・台湾におけるシニアリーダー育成研修(英語)、著名アパレルメーカーのMVV作成など、多数の組織開発プロジェクトの実績を持つ。
主な著書:『組織が変われない3つの理由』日本能率協会マネジメントセンター