
保守的な現場が変わる。DX人材が定着・活躍する組織の仕組み
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DX人材を採用しても定着しない、もしくは現場との温度差で孤立してしまうといった悩みは、多くの企業がDX推進の過程で直面する壁です。その背景には、人材不足だけではなく、既存の組織文化や評価制度、受け入れ体制の未整備といった課題があります。
本インタビューでは、DX・ハイクラス人材採用に特化した「戦略型RPO(採用代行)」を展開する株式会社uloqoの代表取締役・関川懸介氏に話を伺いました。
前編では、DX人材採用が難航する構造的な原因と、既存社員を「DXの旗振り役」として内製化するための条件について伺いました。
後編では、保守的な組織カルチャーをいかに変革していくのか、現場の反発を防ぎ組織を動かす仕組みづくり、そして「DX推進は自社には無理だ」と諦めかけている経営層が踏み出すべき最初の一歩について詳しく掘り下げていきます。
目次
DX人材の孤立を防ぎ、組織になじみやすくする「チーム採用」
――外部からDX人材を採用しても、既存の組織文化になじめずに孤立してしまうケースがあります。組織カルチャーを変革するためには、どのような要素が必要なのでしょうか?
株式会社uloqo 代表取締役 関川懸介氏(以下、関川):重要なポイントは3つあります。1つ目は、外部人材によるDXを進める場合、必ず「複数人を採用する」ことです。2つ目は、積極的な「社内外に向けた広報活動」の展開です。そして3つ目は、その人材を適切に評価する「人事評価制度」の構築です。
1つ目のポイントとして、複数人の外部人材を採用する狙いは、外部人材の知見や価値観を組織として受け入れやすい状態をつくるためです。
ある歴史の長い企業の事例では、DXの初期段階でエンジニア派遣などのSESサービスを活用し、外部人材を受け入れていきました。複数人といっても、いきなり大人数を揃える必要はありません。まずは2〜3人のチームから始めるだけでも、1人で送り込まれた外部人材が孤立してしまう状況は避けられ、十分に効果が見込めます。

実際にこの企業では段階的に規模を広げ、最終的には20人規模のDX人材チームを立ち上げました。保守的な現場にとって、それまで接点の少なかった外部人材と協働する大きな変化だったといいます。
その際、チーム単位でDX人材を受け入れたことで、組織側に「受け入れざるを得ない環境」が生まれました。結果として、外部人材の考え方や仕事の進め方が現場に浸透しやすくなったのです。
この企業では、当初は外部チームとして受け入れ、その後一部を正社員化しました。初期段階でまとまった人数と協働したことで、社内にDX人材を受け入れる土壌が整い、変革を進める体制づくりにつながりました。
――いきなり20人の採用は難しくても、チーム単位でDX推進の体制を作ることが肝心なのですね。
関川:はい、チーム単位での採用を検討したうえで、組織文化をアップデートすることが重要です。
もちろん、社内からDXの旗振り役を内製化して抜擢する場合、その方がマネジャークラスで十分な交渉力やパワーを持っているのであれば、1人でも文化を変えるエンジンとして機能する可能性はあります。
しかし、これまでDXをやってこなかった組織が外部からDX人材を採用する場合は、複数人で体制を構築する方が成功確率が高まるはずです。
広報活動で「やらされ感」をなくす。DXの取り組みを社内外に発信し、組織を動かす仕組み
――2つ目のポイントである「広報活動」について詳しく教えてください。
関川:DX推進においては、広報活動が重要な役割を果たします。ここでいう広報とは、一般的な採用広報やPRではなく、DX推進を組織に浸透させるためのコミュニケーション設計に近い考え方です。なお、これは外部から採用した人材に限った話ではなく、社内から旗振り役を抜擢する場合もまったく同じです。
社内外に対してDXの取り組みを積極的に発信することで、「会社として重要な施策であること」そして「外部からも評価されている取り組みであること」が共通認識として広がります。
その結果、DX推進を担う人材が承認され、社内で動きやすくなります。こうした発信の積み重ねが、組織全体のDX推進機運を高めていくのです。
――DX人材が社内の変革を進めやすくするための設計が重要ということですね。
関川:その通りです。社内外への発信を通じて「会社から期待されている」「外部からも評価されている」と本人が実感できる状態をつくることが、DX人材の孤立を防ぎ、変革を前に進める土台になります。
そして、この発信と並んで欠かせないのが、挑戦そのものを正当に評価する仕組みです。DXは既存業務の延長ではなく、新しい仕組みをつくる取り組み。手持ちの業務との兼任で「DXも進めてほしい」と任せるだけでは続きません。
DX人材が挑戦し続けられる組織をつくる鍵は「減点主義からの脱却」
―― 3つ目のポイントである「人事評価制度」について詳しく教えてください。
関川:DX推進に挑戦する人材は、部門間の調整や現場からの反発など、多くの壁を乗り越えながら変革を進めます。そのため「この取り組みをやり遂げれば正当に評価される」という状態を作らなければ、推進する理由が曖昧になってしまいます。
これは外部から採用した人材に限った話ではありません。社内から旗振り役を抜擢する場合もまったく同じで、むしろ既存社員を起用するときほど重要になります。普段の業務に加えてDX推進という不慣れな役割を引き受けてもらう以上、その挑戦が正当に評価される状態をつくらなければ、本人は動きにくく、周囲の協力も得られないためです。
―― 日本企業では、DXをはじめとする変革が進まないという声が聞かれますが、それはなぜなのでしょうか?
関川:日本企業の中には、変革人材が力を発揮しづらい評価や組織文化が残っているケースがあります。その背景の1つにあるのが、いわゆる「減点主義」の考え方です。
これは、ミスなく既存業務を遂行することを重視し、失敗や逸脱を避ける方向に評価が働く仕組みを指します。優秀な人材を多く抱える大企業では、組織を安定運営するうえで合理的に機能してきた側面もあります。
その一方で、DXは既存業務の延長ではなく、正解が見えない中で新しい仕組みや価値を生み出していく活動という側面があります。つまり、試行錯誤や挑戦が前提となっており、時にはミスもつきものなのです。
そのようなDX推進業務に対して従来型の評価を適用すると、「失敗したくない」「前例を変えたくない」という意識が強くなり、誰もリスクを取らなくなります。結果として、DX人材が十分に活躍できなかったり、組織全体が変革に消極的になってしまうのです。
だからこそ、DXを進める企業には従来とは異なる評価の考え方が必要だと考えています。
―― では、具体的にどのように制度を変えていけばよいのでしょうか?
関川:DX推進のミッションを明確にし、新たな取り組みを評価する仕組みを部分的に導入することが重要です。
DX推進プロジェクトでは失敗を減点するのではなく、挑戦や成果を評価する「加点方式」を取り入れ、小さな成功体験を積み重ねると良いですね。「挑戦がしっかりと評価される」という認識が広がることで、組織全体の文化も徐々に変わっていくはずです。
現場に熱量を求めない?デジタルを日常のインフラにする工夫
―― これまで関川さんが支援してきた企業で、DXが組織に定着し、現場までしっかり浸透している組織にはどのような特徴がありますか?
関川:DXが成功する企業は、社員が意識しなくても自然にデジタルを活用できる環境を整備しているという特徴があります。
社員一人ひとりにDXを自分ごと化してもらうのは簡単ではありません。特に大手企業では、全員が高い目的意識を持って取り組むことは現実的ではないでしょう。
そのため、社員が意識しなくてもデジタルを使える環境づくりを進めることが重要なのです。例えば、誰でも業務データを確認・活用できる仕組みを整えたり、AIアプリを提供する部門が各部署の課題をヒアリングし、現場に合わせてツールを展開したりしています。
こうした環境が整うことで、デジタルは特別な施策ではなく日常の業務基盤となり、社員の中にも「自分たちはDXが進む会社で働いている」という認識が生まれます。

―― デジタルツールが身近にある環境を定着させるために、経営層やDX推進側にはどのようなスタンスや体制が求められるのでしょうか?
関川:デジタル環境を整備し、DXを推進するうえでのポイントは、現場に対して最初から強い目的意識や熱量を求めないことです。「DXのためにシステムを使ってくれ」ではなく、「気付いたら業務が楽になっていた」という状態を目指すべきです。
DX推進側には目的意識やビジョンが必要ですが、それを受け取る現場に同じ熱量を求めても、DXは定着しない場合が多いです。また、DXを現場任せにしないことも見落としてはならない点と言えます。
変革が進んでいる企業を見ると、経営陣の近くにDX人材を置き、意思決定できる体制を整えています。例えば、外部からCTOとして専門家を招いたり、推進力のある人材を経営直下に配置したりするケースです。
DXは現場だけの努力では進みません。経営が方向性を示し、必要な環境や権限を整えながら推進を支援することが重要だと考えています。
経営者の第一歩。現場の課題整理から始めるDX推進
――自社は保守的だから、DX推進や人材採用は難しい」と諦めかけている経営層は、何から始めるべきかお聞かせください。
関川:経営層がDXの重要性を本当に認識するには、自ら体験することが一番の近道です。騙されたと思ってまずは1カ月、とことんご自身でAIを使ってみてください。
例えば、日々の情報収集や、長文レポートの要約、新規事業のアイデア出しなど、自身の業務に組み込んでみるのです。実際に手を動かすことで、自分の業務がどれだけ楽になるかを実感でき、それが何よりの動機付けになります。
――経営層自身がDXの利便性を体験した後、それを組織へ落とし込むにはどうすればよいのでしょうか?
関川:まずは、何が自社の事業成長を阻害しているのか、現場に足を運んで改めて見に行くことが大事です。
多くの企業の現場では、すでに何らかの課題や非効率が表面化しています。現場の状況を整理し、「どこにボトルネックがあるのか」を可視化することがDX推進の第一歩となります。
DXは、手段であって目的ではありません。何を変えるべきなのかが明確になれば、優先順位も見え、具体的な取り組みに落とし込みやすくなります。
――自社の課題を明確にしたうえで、具体的な解決策を決める際に大切なポイントを教えてください。
関川:課題や現状が明らかになったら、コンサルティングファームやアドバイザリーサービスなど、デジタル領域に知見のある専門家を交えて検討することをおすすめします。
経営者は事業への理解が深い一方で、デジタル活用の選択肢を十分に持ち合わせていないケースも少なくありません。専門家と対話することで、自社だけでは思いつかなかった解決方法や優先順位が見えてくる場合もあります。
その一方で、「DXで何をすればいいかわからない」という状態のまま、いきなり外部からDX人材を採用するのはあまり良い方法ではありません。まずは課題を整理し、その解決策を専門家と検討したうえで、必要な人材像や組織体制を考えるべきです。
――最後に、DX変革を進めている読者の皆様へメッセージをお願いします。
関川:DXの成否を分けるのは、技術そのものではありません。重要なのは、人材・組織・評価基準をどう設計するかです。
DX人材を採用する際は、まず「何のためにDXを進めるのか」というビジョンを言語化し、自社に必要な人材要件を明確にする必要があります。その部分が曖昧なまま採用を進めても、入社後の役割にズレが生まれ、人材が活躍できずに離れてしまう可能性があります。
また、DX推進は外部採用だけで完結しません。社内から旗振り役を抜擢する方法もあれば、外部人材をチームで受け入れ、組織に新しい知見をなじませていく方法もあります。
大切なのは、DXへの挑戦が正当に評価され、その重要性が社内外に伝わる環境をつくることです。そうした土台があってこそ、DX人材は孤立せず、組織変革を前に進める力になります。
「自社にはDXは難しい」と決めつける前に、まずは自社の課題を見つめ直し、必要な人材・体制・評価制度を設計することから始めてみてください。
(前編はこちら)
取材・文:小町ヒロキ






