ASEAN進出を成功に導く「仕組みづくり」と「人材戦略」。グローバル展開における業務標準化の重要性
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株式会社スタディストでは、海外事業責任者向けにオンラインセミナー「ASEAN多拠点化を実現させる組織マネジメント ~ガバナンス対応と標準化の実践~」を開催しました。
人口減少や人材不足が深刻化する日本において、グローバル展開はもはや成長戦略の一つではなく、避けられない選択となりつつあります。特に東南アジアをはじめとする新興国では経済成長や市場拡大が続いており、海外拠点の設立や業務移管が加速しているのが現状です。
しかし、現地での事業運営は簡単ではありません。言語や文化、労働慣習の違いなど、日本では見えづらい課題が数多く存在します。そこで求められるのが、業務の標準化やマニュアル化、そして人材の定着と育成を見据えた「仕組み」の構築です。
本セミナーの第一部では、株式会社東京コンサルティングファームの田附浩明(たつき・ひろあき)氏が登壇しました。ASEANでの支援実績をもとに企業が海外展開を進めるなかで直面する具体的な課題と、標準化を軸とした対応のポイントについてお話しいただきました。
目次
はじめに
田附氏はASEAN諸国を中心に日系企業の海外展開支援やガバナンス構築、業務標準化のコンサルティングを手がけており、製造業からサービス業まで多様な業種に携わっていらっしゃいます。
現場で実際に機能するマニュアルの整備や人材育成を見据えた仕組みづくりを得意としており、今回のセミナーでは制度論にとどまらない実務視点での課題解決策を具体的に語っていただきました。
縮小する国内市場とASEAN諸国の持続的成長
株式会社東京コンサルティングファーム・田附浩明氏(以下、田附):日本はこの30年間、GDPの成長率が約10%程度にとどまっています。少子高齢化が進むなかで、生産年齢人口は今後さらに減少することが確実視されているのです。現在は約1億2,000万人ほどの人口ですが、2070年には約8,000万人規模まで人口が減少するという予測もあります。
このような国内の状況を踏まえると、企業の持続的な成長には海外市場の開拓が必要不可欠です。特に注目されている市場が東南アジア諸国で、年平均8〜10%という高成長を続けています。
多くの日本企業がASEAN諸国への進出を進めている背景には、単に販路を広げるだけでなく、人材不足という構造的課題への対応という側面もあります。
海外拠点運営における二重の経営課題:人材確保と管理体制の構築
田附:日本国内では、採用活動そのものが非常に難しくなってきています。特に生産年齢人口の急減により「採用したくても働き手がいない」という状況に陥っているのです。企業側は人を雇いたくても、求める人材が市場に存在しないという構造的なミスマッチが起きています。
このような状況に対する解決策としては、大きく2つのアプローチが考えられます。
1つ目は、外国人材を日本に受け入れることです。技能実習※1、特定技能、高度人材など、複数の在留資格制度を活用し、必要な労働力を確保する動きが進んでいます。
2つ目は、業務自体を海外拠点へ移管する方針です。かつては工場などの製造拠点に限られていましたが、近年ではIT開発やバックオフィス業務、会計処理など、非製造分野にも広がりを見せています。これは安価な労働力の活用に加え、日本国内で人材確保が難しい分野での人材不足を補う狙いがあります。
ただし、拠点が増えることで新たな課題も生じます。言語や文化、労働慣習の違いが原因となり、現地スタッフとの労務管理では、誤解やトラブルが起きやすくなります。また、各拠点での業務手法にばらつきが生まれ、品質や生産性にムラが出てしまうのが現状です。
これらの背景を踏まえると、拠点を増やすだけではなく、それらを一貫した管理体制のもとで運用するための仕組みづくりが求められていると感じています。
※1:2027年までに「育成就労制度」へ移行変更
属人化と教育の限界が企業成長を妨げる
田附:拠点の増加には、もう1つの大きな課題があります。それは、人材の教育と定着に関する問題です。海外拠点の立ち上げ段階では、どうしても経験者の中途採用に頼ることが多くなります。しかし、それに依存しすぎると組織としての成長が個人のスキル頼みになるリスクがあります。

実際、経験者の採用を続けることは人件費の高騰に繋がります。結果的にコスト面での持続性が保てなくなる企業も少なくありません。また、求めるスキルセットを持つ人材が市場にいない場合、採用そのものができず、企業の成長が止まってしまうケースもあります。
これらの問題を防ぐためには、未経験者を採用して社内で育成する体制が必要不可欠です。その仕組みの基盤となるのが、業務の標準化です。業務が標準化されていれば、マニュアルや教育資料に基づいて育成が可能になり、指導する側の負担も軽減されるからです。
標準化されていない場合、業務は特定の社員の知識に依存した属人的なものとなります。その結果、「引き継ぎがうまくいかない」「ノウハウが共有されない」といった問題が頻繁に起こってしまうのです。最悪の場合、品質や生産性が低下し、企業の業績にも悪影響を及ぼしかねません。
親会社と子会社の視点から見た標準化の価値とは?
田附:標準化の意義は、親会社と子会社の双方に存在します。親会社にとっての標準化は、拠点ごとの業務を一元管理するための「統制手段」です。バラバラな手法ではガバナンスが効かず、課題の把握すらできません。
子会社や現場にとっても、標準化には大きなメリットがあります。目的は「属人化の解消」と「教育の効率化」の2点です。駐在員が任期満了で帰任する際、業務が一気にブラックボックス化してしまうケースは少なくありません。このようなリスクを回避するためにも、業務手順を標準化し、未経験者でも再現可能な形に落とし込むことが必要です。これにより、教育の負担が減り、拠点間の比較・改善もスムーズに行えます。

マニュアルの本質は「誰でも再現できる」状態づくり
田附:標準化を進める上で鍵となるのが、誰でも理解・実行できるマニュアルの整備です。しかし「誰でも理解・実行できる」状態を実現するのは簡単ではありません。例えば、よくある文章中心のマニュアルは多言語環境では伝わりにくく、属人化の解消には不向きです。
そこで有効なのが、写真や動画を活用した視覚的なマニュアルです。視覚情報であれば直感的に内容を理解できるため、未経験者でも迷わず作業ができ、教育の負担も軽減されます。
また、同じ業務を複数拠点で行う場合でも、標準化された手順を比較・改善することで、全体の品質や生産性を向上させることが可能です。マニュアルは単なる手順書ではなく、再現性のある組織運営を支える仕組みそのものだと考えています。
ジョブローテーションを活用した人材開発戦略
田附:海外では転職によって待遇を上げる文化が根づいており、社内で人を育てる発想が浸透していないケースが多く見られます。しかし、日本企業が現地で中長期的に安定した組織運営を行うには、自社内で育成する仕組みが欠かせません。
まずは誰でも業務を行えるようにマニュアルを整備し、教育の負担を軽減します。そのうえで、ジョブローテーションを通じてさまざまな業務を経験させ、全体の流れを把握できる人材を育てていきます。
このサイクルにより、業務スキルだけでなく管理能力や改善意識も評価でき、管理職候補を選抜することが可能になります。自分が他人の作成したマニュアルを使うことで、「使いやすさ」の視点が養われ、マニュアルの質を高める好循環も生まれます。

まとめ
海外展開を進める日本企業が直面する課題には、人材不足や拠点ごとの業務ばらつきがあります。これらを解決する鍵となるのが、業務の標準化とマニュアル化です。誰もが同じ手順で業務を行える環境を整えることで、属人化を防ぎ、未経験者の早期戦力化や現地管理者の育成が可能になります。標準化は単なる効率化の手段ではなく、持続的な組織成長を支える重要な基盤です。
(後編はこちらから)






