
トヨタが中国部品を採用へ タイ自動車サプライチェーンの転換点
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2025年8月、トヨタはタイで生産するハイブリッド車や電気自動車に、中国メーカー製の部品を採用する方針を打ち出した。これは、これまで日系サプライヤーが支えてきた供給網に、中国勢が本格的に入り込むことを意味する。本稿では、EVシフトが進むタイの自動車産業を俯瞰し、日系サプライヤーや国内物流への影響、日中の競争構造を整理する。
目次
EVシフトがもたらす現実
トヨタが中国部品を採用するというニュースを目にしたとき、私は「これからタイの日系自動車サプライチェーンは大きく変わるぞ…」と直感した。日系企業にとっては不利な局面を迎えるかもしれない不安と、時代が確実に動き出すことへのワクワク感を抱いた。
タイは「アジアのデトロイト」と呼ばれるASEAN最大の自動車生産拠点である。しかし近年、EVの普及が進み、構造変化が一段と鮮明になってきた。2025年1〜5月の新車販売シェアでは日本車が71%を占める一方、中国車は16%に拡大(図表1)。BYDをはじめとする中国メーカーが価格競争力を武器に急速に存在感を高めている。

EVにおいて要となるのはエンジンではなく、バッテリーやモーター、電装部品だ。これらの領域では中国メーカーが大量生産と技術開発で優位に立ち、日系部品より2〜3割安いとされる。トヨタが中国製部品を採用する背景には、こうした競争環境の現実がある。
転換を迫られる日系サプライヤー
調査会社マークラインズによると、ASEANには約2,770社の日系部品メーカーが拠点を構え、その半数がタイに集中している。これまでは品質と信頼を武器に、OEMとの長期的な関係を前提とした事業運営が可能だった。しかし、価格競争の激化によって、その前提は揺らぎ始めている。
とりわけエンジン関連部品を担ってきた二次サプライヤーにとって、EVシフトは事業存続を脅かす大きな変化だ。新規投資による事業転換か、あるいは撤退か。厳しい選択を迫られる企業も出てくるだろう。再編や統合の動きが加速し、日系同士にとどまらず、地場企業や中華系との合弁も現実味を帯びてきている。
日系サプライヤーは、従来の「品質と信頼」という強みに加え、コスト改善、開発スピード、環境対応といった新たな競争条件を満たす必要に迫られている。
中国部品は現地生産で供給
トヨタは、中国系サプライヤーがタイに合弁会社を設立し、現地で生産した部品をトヨタ工場へ供給する仕組みを整えつつある。吸音材メーカー「蕪湖躍飛」がサミット・グループと合弁を立ち上げた事例はその典型であり、金型や樹脂分野でも同様の動きが報じられている。
この方式により、関税や輸入規制の負担を回避しながら、現地調達率を維持することが可能となる。言い換えれば、物流の焦点は「タイ国内における工場間物流の再編」へと移りつつある。
タイ国内物流に広がる影響
現地生産の中国部品が増えることで、タイ国内の物流は一層複雑化していく。これまでの日系部品メーカーによるJIT(ジャスト・イン・タイム)配送は、地場に根付いた効率的な仕組みだった。今後は、中国系サプライヤーの工場からトヨタ工場へ至る新たな輸送ルートが加わり、倉庫や配送拠点の再編が不可欠となる。
さらに、中国系企業は大量生産とコスト管理を得意とする一方、JITのような「分刻みの納入」文化には不慣れな面がある。日系OEMが求める精度の高い物流オペレーションに対応できるかどうかは、現地物流企業の調整力にかかっている。ここにこそ、日系物流業者の強みと役割が残る。
日系と中華系物流の競争構造
物流業界の競争構造も変化していく。日系物流は、JIT納品、複雑な通関、品質基準の遵守といった領域で優位性を持つ。一方、中国系物流は価格の安さとスピードに加え、倉庫自動化やIT活用で攻勢を強めている。
結局のところ、「タイ国内のラストワンマイルをどう制するか」が勝負の分かれ目となるだろう。中国系サプライヤーが供給網を拡大すれば、それを支える物流パートナーも中国系に寄る可能性がある。しかし、品質管理やトラブル対応といった領域では、日系物流の信頼性が引き続き評価されると見られる。
共存と競争の新時代
タイは今後もASEAN最大の自動車生産拠点であり続けるだろう。ただし、その姿はかつての「日系独占」ではなく、多国籍のプレイヤーが共存する複合的な構造へと変わっていく。サプライチェーンは一段と複雑化し、物流は国際輸送から国内供給網まで広がりを見せる。競争は厳しさを増すが、その中でこそ新しい協力や価値創出の可能性が拓ける。
自動車メーカーも物流業者も、従来の延長線上に未来はない。求められるのは、変化に対応する柔軟さと、異なるプレイヤーと結びつく力だ。
不確実な時代を生き抜くカギは、「つながる力」と「変わる力」にある。
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