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頑張る前にキャパシティを確保せよ!脳疲労をリセットする「戦略的暇」のすすめ

頑張る前にキャパシティを確保せよ!脳疲労をリセットする「戦略的暇」のすすめ

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夜はしっかり寝ているはずなのに、疲れがとれない。休日もなんとなく仕事のことを考えてしまい、心から休めた気がしない――。このような慢性疲労やデジタル疲れに悩むビジネスパーソンが増えています。

そこで今回は『戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」』著者の森下彰大氏にお話を伺いました。

森下氏は、講談社「クーリエ・ジャポン」の編集者として海外の潮流を伝える活動を行う傍ら、一般社団法人日本デジタルデトックス協会の理事を務めています。2025年春に著書『戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」』(飛鳥新社)を刊行し、注目を集めています。前編では、現代社会における余白の欠如やスキルよりも不足したエネルギーを確保することの重要性、そしてデジタルに依存するのではなく、共存するためのスキル(デジタルデトックス)の具体的なアプローチについて語っていただきました。

現代人に決定的に欠けている「余白」と戦略的暇の真意

――森下さんが『戦略的暇』を執筆されたきっかけや、そこに込めた思いをお聞かせいただけますでしょうか。

森下:協会活動を進めるなかで、飛鳥新社の編集者さんにご紹介をいただいたことから企画がスタートしました。この本の根底には、僕が一般社団法人日本デジタルデトックス協会(DDJ)の活動を通して痛感した現代社会への問題意識があります。

DDJでは、デジタル機器を手放してキャンプをしたり、ヨガを体験してもらったりといったイベントを数多く開催してきました。活動を始めた当初は、「わざわざ便利なスマホを手放して、一体何をやっているんだ?」という懐疑的な声もありました。けれど、僕自身が「この活動を通して社会に何を提供しているのか」を深く考えたとき、「それは“暇を作る作業”をしているのだ」という考えに思い至りました。

――暇を作る作業ですか。

森下:世の中には疲弊している人や、仕事で本来のパフォーマンスを発揮できない人、人生の選択に悩んでいる人がたくさんいます。そうした人たちが、僕たちのイベントで現代社会の喧騒から離れ、立ち止まる場所を得るだけで、驚くほど回復していくのを目の当たりにしてきました。

参加者の方からは、「頭がすっきりし、自分自身と向き合う時間が生まれた」という感想が数多く寄せられました。

そこから、現代社会にいかに余白がないかを痛感しました。 余白さえあれば、人は自ずとエネルギーを充足させ、自分の能力を高めたり、「自分には本当は何が向いているのか」と新しいことを模索したりする試行錯誤ができるはずだと。

でも、今の社会にはそうした戦略的な暇が決定的に欠けています。疲れたままに動いても、成果をあげられないどころか、年収や売上目標、その他のKPIといった単一の指標に取り込まれやすくなります。視野狭窄に陥ってしまい、いま頑張っていることが果たして自分の幸福や社会の豊かさに繋がるのかどうか──そうしたことを考える余裕すら失われてしまうからです。

そんな状態で、馬車馬のように働き続けていれば、いつか必ず燃え尽きてしまいます。だからこそ、社会に暇という余白を作ることが、結果的に個人の充実や社会の豊かさにつながっていくというメッセージを込めています。

ケイパビリティよりまずは自分のキャパシティを確保する

――真面目な人ほど、少しでも余白ができると新しい予定やタスクで埋めてしまいがちです。「もっと頑張らなきゃ」と焦ってしまうんですよね。

森下:おっしゃる通りです。みんな悩んでいるからこそ「もっと頑張らなきゃ」と思い込んでいるんですよね。いまの日本では、学校教育の段階から極めて短期間で結果を出すことを求められ続け、「頑張り続けることが美徳だ」という価値観が染み付いてしまっています。

脳が疲労している状態で走り続けるのは、疲労困憊の状態で50メートル走のタイムを上げようとするのと同じで、良い判断なんてできるはずがありません。ですから、努力のベクトルを「成果を出すこと」から「暇を作る・余白を作る」方向へと変える必要があると強く感じています。

――著書の中でもキャパシティ(許容量)という言葉が印象的でした。

森下:現代の多くの人は、隙間時間を活用してとにかく効率を上げて、自分のケイパビリティ(能力)を向上させようと必死です。最近ではリスキリング(変化する社会や技術に対応し、新たな価値を創出するスキルを獲得すること)の必要性も盛んに叫ばれていますよね。

ですが、僕は「その前に、キャパシティを確保する方が大事なのではないか?」と問いたいのです。器が満杯なのに、新しいものを詰め込めるはずがありません。スマホの充電は100%で満タンなのに、自分自身の充電ができていない人があまりにも多すぎる。キャパシティがなさすぎる状態にまず気づき、立ち止まって考えてほしいというのが、この本の最も伝えたいメッセージです。

ステップ1:デジタルとの共存を目指すデジタルデトックス

――余白を空けたとしても、そのあとの過ごし方に悩む人も多いと思います。具体的にどのように休めばいいのでしょうか?

森下:本の中では、戦略的暇の実践 として3つのステップを紹介しています。ステップ1が「デジタルデトックス」、ステップ2が「時計時間デトックス」、ステップ3が「自分デトックス」です。

大前提として認識すべきなのは、「私たちは皆、すでに疲れている」ということです。現代は仕事でもプライベートでも常にデジタル機器を通して新しい情報や価値観に晒されており、脳が休まる暇がありません。自覚がなくても、脳は常に過労状態にあるんです。だからこそ、ステップ1の脳を回復させることがすべての出発点になります。

――「私は疲れていない」と思っている人でも、実は脳疲労を起こしている可能性があるのですね。

森下:その通りです。日常的にデジタルに接続されていると、疲労感さえ麻痺してしまいます。「自分は疲れていない」と主張する方でも、1泊2日のデジタルデトックスを体験してスマホから離れると、「こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだ」「目の奥の痛みが消えた」と驚かれます。手放してみて初めて、自分がどれほど疲れていたかに気がつくのです。脳の疲れは非常にわかりにくいため、「まずは休んでみよう!」と行動を起こす価値は十分にあります。

――デジタルデトックスと聞くと、完全にスマホを断って山にこもるようなハードなイメージがあります。

森下:多くの方にそうとられがちですが、僕たちが提唱しているのは、テクノロジーとの共存です。「使うか、使わないか」ではなく、「デジタルとともにある私たちが今、どの状態にあるのか」を考えることが根底にあります。

最高の休息は「麻雀」や「運動」にあり?脳をストレスから切り離すアクティブ・レスト

――デジタルデトックスは、テクノロジーと共存するための実験でもあるんですね。

森下:はい。休養にはパッシブ・レスト(消極的休養)とアクティブ・レスト(積極的休養)があり、どちらも重要です。

その中で、現代人には圧倒的にアクティブ・レストが足りていないと感じます。 脳の疲れというのは、ただ横になってソファーでゴロゴロしながらスマホを見ている間も、疲労は蓄積され続けます。最高のデジタルデトックスは、実は運動など体を動かすことだったりするんです。僕の場合は、友人と麻雀をすることも最高のアクティブ・レストになっています。

――麻雀ですか! 逆に頭を使って疲れそうなイメージがありますが……。

森下:それが、すごく疲れが抜けるんです(笑)。麻雀をしている間は、仕事のモヤモヤや「あのメールに返信しなきゃ」といった日常のタスクを考えている余裕がありません。麻雀中は状況が刻々と変わるので、目の前のことに集中せざるを得ません。結果的に1つのことに没頭するので、仕事のストレスから完全に切り離されるのです。

僕が独立したての頃は、夜中も働き詰めで「ご飯が美味しい」という感覚すらなくなり、ただ食べ物を摂取するだけの状態でした。その結果、不調を感じる時期もありました。

だからこそ、趣味の時間を一種の聖域のような場所にして、それを大切に守り抜くことが重要だと、体験をもって断言できます。休息の基準は、自分が抱えている日常のストレスから離れられるかどうかにあります。

――ストレスから離れるための逃げを意図的に作るということですね。

森下:はい、逃げていいんです。日本人は真面目な国民性なので、暇や逃げるという言葉にネガティブなイメージを持ちがちです。ただ、今は逃げるための努力をしないと、あっという間にストレスに飲み込まれてしまいます。

特にリモートワークが普及した現在、仕事はどこまでも追いかけてきます。自分で明確な境界線を引く「休む勇気」が、これからの時代には強く求められていると思います。週末でも、朝でも、夜でも、どこかで「ここは譲れない」という自分の時間を決めて、極力外部のタスクに引きずられないためのルールを設けることも重要です。

日々の移動中や寝室、トイレにスマホを持ち込んでいる人がいるとしたら、それは脳が休めないばかりかひらめきの空間を奪うことにもなりかねません。まずは、「ここにはスマホを持ち込まない」というルールを決めてみるのはいかがでしょう。大きな発見が得られるかもしれません。

――現代において、ステップ1のデジタルデトックスが、一番の課題かもしれませんね。

スマホを持たずに我に返る時間を。同調圧力を抜けて余白を取り戻す

――会社などの人間関係においては、「すぐに返信しないと」といった同調圧力も強いように感じます。

森下:そこが一番の課題ですよね。同調圧力を作ってしまう原因を、組織側が認めて変えていく必要があります。SNSでも「みんながやっているからやめられない」というデータがあるように、日本社会全体が「頑張って働くことが美徳」という同調圧力に包まれています。

これを変えるには、「もっと休もうよ」「自分の人生をもっと楽しむ時間を作ったほうが、結果的に仕事の効率も上がるんじゃない?」という、逆の同調圧力を作っていくしかありません。ある意味、社会運動に近いところもあります。

社会のパラダイムが変わるにはまだ時間がかかりますが、まずは自分1人だけでも休み方を見直してみる。休日だけでも、平日の夜だけでも、あるいは仕事中にトイレに行く数分間だけでも、スマホを持たずに我に返る時間を作る。そうした個人の小さなアクティビズムが、これからの時代を生き抜くためには絶対に必要だと考えています。

まとめ

現代人の多くは、無自覚のうちに脳疲労を抱え、キャパシティが限界に達しています。効率を求めてスキルを詰め込む前に、まずは自分自身の器を回復させることが急務です。その第一歩となるのが、デジタルと健全に共存するデジタルデトックス。日常のストレスから強制的に離れられるアクティブ・レストを取り入れ、戦略的に暇を作ることが、結果として日々のパフォーマンス向上や人生の豊かさへとつながっていくのです。

(後編はこちらから)
取材・文:池田アユリ

話し手
森下 彰大
一般社団法人日本デジタルデトックス協会
一般社団法人日本デジタルデトックス協会理事 / 講談社「クーリエ・ジャポン」編集者 / Voicyパーソナリティ

1992年、岐阜県養老町生まれ。中京大学国際英語学科を卒業。在学中にアメリカの大学に1年間留学し、マーケティングと心理学を専攻。学生時代は音楽活動にものめり込む。その後、日本語教育や貿易業に携わる傍らでメディア向けの記事執筆を副業で始める。その後独立し、2019年にライティング・エージェント「ANCHOR」を立ち上げ、記事制作業を本格化。現在は「クーリエ・ジャポン」の編集者として、ウェルビーイングや企業文化の醸成を中心にリサーチ・取材・執筆活動を行う。日本デジタルデトックス協会では企業・教育機関向けの講義やデジタルデトックス(DD)体験イベントを提供する。 米留学中にDDが今後の「新しい休み方」になると直感し、実践と研究を開始する。しかし社会人になり自身がデジタル疲れに悩まされるように。体調の悪化から危機感を持ち、会社員生活を続けながら小規模なDDイベントを始める。その過程で、「今の私たちに足りていないのは、余白(一時休止)ではないか」と考えるようになり、戦略的に余白―暇を作り出すための方法を模索。多忙な現代社会の中で人生を変えるための「戦略的“暇”」を提唱している。 2020年より日本初となるDDを専門的に学び実践する「デジタルデトックス・アドバイザー®︎養成講座」を開講。のべ100名以上の修了生を輩出している(2025年時点)。