絞り込み検索
Keyword
Category
Tag
トップ ASEAN・海外展開
インドネシア労務管理の基礎 病欠・昇給・退職・解雇をめぐる実務対応

インドネシア労務管理の基礎 病欠・昇給・退職・解雇をめぐる実務対応

  • ASEAN・海外展開
  • # 寄稿記事

最終更新日:

公開日:

バナー画像です

この春から新たに海外赴任された出向者も多いことでしょう。インドネシアでは、従業員の病欠対応や昇給、退職、解雇といった労務実務が日本と大きく異なり、戸惑う場面も少なくありません。本稿では、赴任間もない経営者が押さえておくべきインドネシアの労務管理の基礎を解説します。

人事書類へのサインは厳禁

インドネシアの労働法では、外国人が人事業務に関与することを禁じています。ひとたび労働局に発覚すれば、多額の罰金を示唆され、「指導で済ませたければ……」といった便宜の要求に発展する可能性もあります。問題視されるのは、“関与した記録”の有無であり、中でも最も発覚しやすいのが「人事書類へのサイン」です。サインを求められた書類が人事関連であれば、権限を持つインドネシア国籍者に署名させるようにしてください。

病欠時は診断書の原本確認を徹底

インドネシアの労働法では、病欠した従業員に対して賃金を削減したり、年次有給休暇として処理したりすることを禁じています。病欠の悪用を防ぐためにも、医師が作成した診断書の原本を会社に提出させることを徹底する必要があります。「頻繁に金曜日に病欠する」といった明らかに不自然なケースがある場合は、診断書に記載されたクリニックに連絡し、事実確認を行いましょう。ニセの診断書を会社に提出したことが証明されれば、犯罪として警察に通報することも可能です。

正社員登用は退職金負担を考慮

インドネシアでは、正社員の場合、たとえ自主退職であっても、あるいは違反行為や犯罪による解雇であっても、会社は退職金を支払わなければなりません。さらに、勤続24年を経ての定年退職の場合には、固定給の約32ヵ月分(新法を適用している会社では約26ヵ月分)の退職金支給が定められており、これはアジアでもトップクラスの水準です。

こうした背景から、正社員としての登用には慎重にならざるを得ず、熟練の技術を必要としない単純反復作業には、契約社員を活用する企業が増えています。

最低賃金の上昇=全員昇給ではない

インドネシアでは、ほぼ毎年最低賃金が引き上げられ、年によっては5〜8%の上昇幅となることもあります。そこで注意が必要なのが、この上昇率をそのまま全従業員に適用してしまうケースです。

最低賃金とは、その名の通り“最も低い賃金”を指します。これを上回る水準で給与を受け取っている従業員に対する昇給は義務ではなく、会社規則(就業規則/労働協約)で特別な定めがない限り、経営者の裁量に委ねられます。

「最低賃金の上昇率を全員に反映しなければなりません!前任の社長もそうしていました」といった声に新任者が惑わされることもあるようですが、最低賃金の上昇率が高ければ高いほど、役職者など高給者の昇給額も跳ね上がることになります。最低賃金の上昇率を、そのまま昇給率とするのは避けましょう。

解雇には段階的警告が必要

会社規則に定められた違反行為を行った従業員に対しては、第1、第2、第3と段階的に警告書を与えることができます。ただし、第3警告書を発行しても、その有効期間中(最長6ヵ月)にさらに違反が繰り返されなければ、懲戒解雇することはできません。こうした背景から、解雇のハードルは高く、正当に解雇に至るまでには時間がかかるのが実情です。

とはいえ、解雇に追い込むことができなくとも、諦める必要はありません。警告書を発行した事実を根拠に、当年の賞与をゼロにする、昇給を見送る、あるいは降格させるといった処分を行うことも可能です。万一、労働局に駆け込まれた場合でも、警告書の発行記録を担当官に示すことで、違反者が一方的に援護される可能性は低くなります。

おわりに

仕事人としては厳しくあっても、ここがインドネシアであること、そして従業員を含め多くの関係者に支えられていることを、私たち日本人は忘れてはなりません。つたないインドネシア語でも、気持ちで伝えようとする姿勢が大切です。

喜びや悲しみといった感情は人との関わりのなかで生まれるものです。世界で最も寛容だといわれるインドネシアの人々の心に触れたとき、きっと最高の駐在生活が待っていると信じています。だからこそ、組織や役職を超えた人間関係の構築を大切にしていきましょう。

執筆者
森 智和
PT. PERSOLKELLY Consulting Indonesia
Manager

2003年よりインドネシアに移住し、学業、人材紹介営業を経て2014年よりパーソルインドネシアに所属。2015年に労務コンサルティング部を発足し、会員企業に対するアドバイスや情報発信を行っている。著書『インドネシア労務のツボ』(2024年5月)

PT. PERSOLKELLY Consulting Indonesia のロゴ
PT. PERSOLKELLY Consulting Indonesia

アジア太平洋地域で最大級の人材サービス会社。PERSOLKELLYはPERSOLグループ(旧テンプスタッフ、旧インテリジェンス)とアメリカ大手派遣会社Kelly Serviceとの合弁事業です。アジア・オセアニア13ヵ国・地域にて事業を展開。各種サービスを通して、雇用・労働に関する課題解決に取り組んでいます。