成功するリーダーが注目する 「コンパッション」理論と実践
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弊社スタディストが、経営者/リーダーの皆様向けに開催したオンラインイベント「成功するリーダーが注目する『コンパッション』理論と実践」にて、株式会社ビジネスリサーチラボの代表取締役・伊達洋駆さんに講演いただきました。
目次
はじめに
株式会社ビジネスリサーチラボ・伊達洋駆さん(以下、伊達):ビジネスリサーチラボはアカデミックリサーチというコンセプトのもと、企業の人事の方々や、人事をクライアントにするHR事業者の方々を対象に、データ分析のサービスを提供しています。
また、私は書籍を12冊出していますが、今回の講演に直接関連するのは『イノベーションを生み出すチームの作り方』という本です。講演の復習を兼ねて、手に取っていただけると幸いです。

なぜコンパッションが注目されつつあるのか
伊達:生成AIを始めとしたテクノロジーの発展、ハイブリッドワークのような働き方の普及、ワークライフバランスの変化などにより、ビジネスの環境は大きく変わってきています。その中で、リーダーシップの形も新しいあり方が模索されてきました。
本日お話しするのは、コンパッションをもとにしたリーダーシップのあり方です。

コンパッションは日本語に訳すのが難しい言葉ですが、「思いやり」や「慈しみ」などを意味します。
コンパッション型リーダーシップにはどのような効果があり、どのように実践すればいいのでしょうか。これからの時代を切り拓いていくような、新しいリーダーシップのあり方について知り、リーダーシップを再考するきっかけにしてください。

コンパッションとは何か
伊達:従来のリーダーシップは、成果を重視するものでした。一方でコンパッションは、学術的には「他者の苦しみや困難に心を寄せ、その状況を理解し、支援に繋げる姿勢」と定義されます。

コンパッションとは、単純に共感するというような、感情的な反応だけではありません。大きく分けて三つの要素が含まれています。
一つ目が、他者の苦しみを認識すること。二つ目が、その苦しみに対して思いやりの反応を示すこと。そして、三つ目が、他者の苦しみを和らげるような行動を起こすことです。
例えば、皆さんが職場におけるマネージャーで、メンバーが難しい状況に直面したとします。このとき、コンパッションの高いリーダーはメンバーの状況を聞き取り、どんな困難が生じていて、メンバーがどのような気持ちになっているのかを把握しようとします。つまり、苦しみを認識するのです。
そして、そのメンバーが直面している課題に対して気づきを与えたり、解決策を見出す助けとなるような問いかけをしたりします。命令するのではなく、本人の自主性を尊重しながら、必要となるようなサポートをしていくことが、職場におけるコンパッションの一例です。

従来は、プロジェクトがうまくいかなかった場合、期限や目標を強調してプレッシャーをかけることが少なくありませんでした。
一方、コンパッション型のリーダーは、メンバーがどのくらい疲れているのか、どんな風に不安になっているのかを確認します。チーム全体のモチベーション、お互いの関係性などに気を配ったうえで、業務の優先順位を見直したり、必要に応じて追加的なリソースを獲得したりして、メンバー全員が前向きに取り組める環境を整備していきます。
こうしたコンパッション型のリーダーシップに関しては、リーダーの多くが漠然と有益性を感じつつも、その効果が現れるまでには時間がかかると考えるかもしれません。ただ長期的には、メンバーの成長や持続的に成果を上げる仕組みの構築に繋がります。
コンパッションの意義
伊達:コンパッションがもたらす効果のひとつに、助け合う職場に繋がっていく点が挙げられます。他者に対して思いやりを持ち、それを行動で示していくことは、自分にも跳ね返ってくることです。これを専門的には「互恵的利他主義」と呼びます。

誰かが困っているときに手を差し伸べれば、自分が困ったときには他の人から手を差し伸べてもらえる、ということです。コンパッションはこうした互恵的な関係を築く一つの起点になり、非常に働きやすい職場作りにも繋がります。
加えて、コンパッションを受けると、仕事に対して意味を感じやすくなり、成長も実感しやすくなります。仕事に対してだけでなく、組織に対しても前向きになります。
特に上司からコンパッションを受けると、組織が自分を大切に思ってくれているという意識が芽生えます。すると、組織に対して愛着が湧き、帰属意識が高まります。

さらに、コンパッションがきちんと機能していくと、お互いの信頼関係も強固になっていきます。事業環境の変化に対応する必要に迫られるなど、対処が難しい状況においても前向きに取り組めるようになります。新しい課題に対して挑戦していこうという積極的な姿勢を生み出す効果もあります。
自分へのコンパッション
伊達:急速に環境が変化する現代において、マネジメントを行うリーダーは本当に大変で、他者に対するコンパッションだけではパンクしてしまいます。
そこで、自分に対するコンパッションも非常に大切です。自分に対するコンパッションは、「セルフコンパッション」と呼びます。
セルフコンパッションは主に、3つの要素から構成されると言われます。

一つ目はセルフ・カインドネスで、自分に対し優しく接する、ということです。自身の欠点や失敗を受容し、親友に接するような、優しく温かい態度を向けます。
二つ目はコモン・ヒューマニティです。苦しみや困難は自分だけに訪れるものではなく、誰にでも起こり得るものと考えると、だいぶ気が楽になります。
三つ目はマインドフルネス、自分のありのままを受け入れることです。例えば、失敗して気持ちが落ち込んだり、焦りを感じたりする状況に陥ったとします。その状況をそのまま、「自分は焦っている」「自分は辛い気持ちになっている」と観察し、自身が陥っている感情や思考を受け止めていきます。
つまり、セルフコンパッションとは、自分に優しく接し、困難は他の誰にでもあることなのだと考え、ありのままの自分の感情に向き合っていくことです。
高い目標を掲げて進む中、うまくいかない状況に陥ると、パフォーマンスが高い人ほど自分を責めがちです。何か自分に問題があったのではないか、と自己批判に陥りやすいのです。
しかし、自分への批判が行き過ぎてしまうと、ストレスや不安が次々に生まれてしまい、結果的に前向きに取り組めなくなり、問題解決の妨げになってしまうことがあります。
一方、セルフコンパッションを高めることで、マイナスのスパイラルを防げます。一時的にうまくいかないことがあったとしても、前向きに対処し、立て直すことができます。実際に、セルフコンパッションが高いと、ストレスがかかるような状況においても、冷静さを保って行動を取れることが実証されています。

他者と自分へのコンパッションの高め方
伊達:興味深い点は、自分へのコンパッションが高い人は、他者に対するコンパッションも高いという調査結果が出ていることです。そのため、他者に対して思いやりを持つことに意識を向けると同時に、自分に対しても思いやりを向けていくことが重要です。
特に伝えたいのは、セルフコンパッションは決して甘えではないということです。実際にパフォーマンス向上に繋がりますし、特に難しい状況で仕事をしている方々にとっては強い武器になり得ます。
他者や自分に対するコンパッションは、トレーニングを適切に行えば高められることが証明されています。8週間くらい継続的にトレーニングを行うと、コンパッションが高まり、6か月~1年ほど効果が続きます。習慣化するとコンパッションを持つことが普通になってきます。
ここで、コンパッションを高めるための方法を二つ紹介します。

一つ目は、他者に対するコンパッションを高める方法です。家族や親友などの顔を思い浮かべ、「○○さんが幸せでありますように」といった温かい気持ちを心の中で送ります。
そして、その気持ちを少しずつ、段階的に広げていきます。例えば同僚や、そこまで親しくない知人などに対しても、幸せでありますようにと頭の中で考えていきます。最終的には、自分とあまり関係が良くない人、あまり好きではない人、知らない人に対しても、幸せでありますように、と思いやりの気持ちを向けていきます。
この方法は時間もそれほどかかりませんし、心の中で行えるため、通勤電車の中やちょっとした休憩時間などに実践するとよいのではないでしょうか。

二つ目は、セルフコンパッションを高める「2つの椅子」というエクササイズです。椅子を2つ用意し、片方の椅子を「批判的な椅子」と設定します。この椅子に座るときには、「なぜこんな簡単なミスをしたのか」「自分は本当に駄目だ」「よくこういうこと起きるよね」というように、自分自身を批判します。
そして、もう片方の椅子は「思いやりの椅子」と設定し、こちらの椅子に座ったら、自分に対する思いやりを表現します。例えばミスを犯した場合、「誰でも間違えることがある」「どういうときにミスをするのか認識できただけでも良かった」というように、親友のように励まし支える声を表現します。
この、批判的な椅子に座り、次に思いやりの椅子に座り、また批判的な椅子に戻り、という手順を繰り返していくと、自己批判のパターンがある程度見えてきます。そのうえ、思いやりの声を自分に実際に向けていることになるため、セルフコンパッションも高まります。
2つの椅子のエクササイズは、実際に部屋の中に椅子を用意して行ってもよいですが、頭の中で想像して行うことも可能です。特に、自己批判傾向が強いリーダーが行うと、気持ちが楽になるのでおすすめです。こちらもそれほど難しくないため、ぜひ取り組んでみてください。
従来のリーダーシップとの違い
伊達:従来のリーダーシップでは、目標達成のためにメンバーの成果や進捗をマネジメントしていくことに重点が置かれてきました。実際、そうしたリーダーシップを発揮した人は、一定の成果を上げてきました。
こうした従来的なリーダーシップに意味がないわけではありませんが、それに加えて、新しいリーダーシップがあることを今日はお伝えしました。コンパッション型のリーダーシップにおいては、メンバーの成長のプロセスに注目し、失敗を学びの機会に変えていくことが可能です。

また、セルフコンパッション――自分に対するコンパッションも重要です。自分に思いやりを持つことで、安定的に働けるようになり、持続可能な形でメンバーをリードできます。加えて、完璧主義ゆえのストレスを抱えてしまう状況も避けられます。
さらに、自分に対して思いやりを持つ姿勢が他者に対しても広がり、お互いに思いやりを持つ、互恵的な関係性を築くことにも繋がります。
コンパッション型のリーダーシップのもとでは、上司と部下がお互いにサポートし合ったり思い合ったりしながら、持続的により高い成果を上げていくことができます。

コンパッション型のリーダーシップは一見軟弱に思えるかもしれませんが、このコンパッションを適切に発揮していくと、大きな成果を持続的に得られます。効果についても研究の中で何度も実証されているので、ぜひ気軽に取り組んでみてください。
今のリーダーは、多様性の尊重や部下の心理的安全性の確保など、多くの課題に直面しています。メンバーもリーダー自身も前向きに仕事に取り組んでいくために、他者に対しても自分に対してもコンパッションを持ち、コンパッションを軸としたリーダーシップを発揮していくことが重要です。

質疑応答
Q1.上司やリーダーを育てる立場ですが、現状成果が出ず、成果が出ていないことに気付いていない方を導くにはどうしたらよいでしょうか?
伊達:成果が出ていないことに気付けないのは、誰しも自分を守りたい気持ちがあり、他者からのネガティブな指摘を忘れやすいためです。現状を受け入れるよう導くには、まず上司やリーダーのセルフコンパッションを高めることが重要です。
例えば、自分は駄目なところがあってもよい、他に良いところがある、といった考え方ができるよう促します。そうすると、自分が置かれた状況や成果を冷静に把握できるようになります。
Q2.コンパッションの時間と、日々の業務の時間との割合はどれくらいが望ましいでしょうか?
伊達:今はコンパッションの時間、今はコンパッションが必要ない時間、というように分けるのではなく、コンパッションを日常的な業務の中に織り込んでいくやり方をおすすめします。
メンバーも自分自身も、誰かがネガティブな気持ちになっている時間はコンパッションの出番だ、と考えるとよいでしょう。
Q3.関係性の悪い相手に対しても思いやりを持つとのことですが、その後、関係性の悪い相手にどのようにアプローチしていくのでしょうか?
伊達:これは切り分けて考えたほうがよいかもしれません。余裕があるときに、今後相手との関係性を良くしていく必要性があるかも含めて検討しつつ、コンパッションを高めます。一方で、心の中では思いやりの気持ちを持っても、実際の行動としては選択的に起こしていけばよく、必ずしも全員に対して行動する必要はありません。
まとめ
コンパッション理論に基づくリーダーシップについて解説していただきました。多様に変化する社会に適応しながら持続的な成果を得たい、新たなリーダーシップの形を模索したいなど、皆様が抱える課題を解決する一助となれば幸いです。
『イノベーションを生み出すチームの作り方
成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』伊達 洋駆 (著)
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