
属人化を解消する業務標準化とは?ハイパフォーマーの思考を仕組みに
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現代のビジネス現場において、「職人の勘は言葉にできない」「マニュアルを作っても形骸化してしまう」という壁に阻まれ、人材育成に悩むリーダーや経営者は少なくありません。
そこで今回、暗黙知、ナレッジマネジメントを探究して約30年、独自のメソドロジー「フレーム&ワークモジュール® 」の開発者である一般社団法人ナレッジマネジメント・ラボ 代表理事の田原祐子氏に、知識ではなくプロセスを教える人材育成の基本と、田原氏自身が「大失敗!」と語る経験から導き出された標準化の重要性・暗黙知の形式知化について伺いました。
目次
即戦力を育てる外資系の育成手法「知識ではなくプロセスを教える」
――ナレッジマネジメント(人の持つ知識やノウハウを組織全体で共有・活用し、生産性向上やイノベーションにつなげる経営手法)の分野に取り組むようになった、田原さんの原点をお聞かせいただけますか?
一般社団法人ナレッジマネジメント・ラボ 代表理事 田原祐子氏(以下、田原):私はもう30年ほど人材育成に携わっているのですが、昔から「仕事ができる人とできない人って何が違うんだろう」とずっと疑問に思っていました。
人材育成の現場では、仕事がうまくできない人に対して「センスがない」「能力がない」「スキルがない」と片付けてしまうことがよくあります。しかし、それは教える側の怠慢であって、できるようになるまで教えるのが教える側の仕事だと思っています。
私のキャリアのスタートは、外資系の人材派遣会社での教育トレーナーでした。そこで学んだ育成の手法が、今の私の考え方のベースになっています。

――日本の一般的な人材育成とは何が違ったのでしょうか?
田原:通常、日本で人を育てる時というのは知識を教えることですよね。知識を教えて、「じゃあ、あとは現場でやってみて」とOJT(On-the-Job Training)で任せてしまうことが多いです。しかし外資系のその会社では、知識ではなくプロセスやステップを教えるんです。
知識だけを教えても、現場での行動はその人任せになってしまいます。そうではなく、「何をどうするのか」「この順番でこうする」と具体的なやり方を教えます。
――プロセスを教えることで、育成のスピードや質は変わるのでしょうか?
田原:劇的に変わります。以前私が担当していた人材派遣会社では、その業務未経験の方であっても、短期間の研修で即戦力として現場で活躍できるようになる、再現性の高い指導方法と仕組みがありました。
それが可能だったのは、単なる知識を教えるだけでなく、教育プログラムがあり、考え方が非常にしっかりしていたからです。具体的なやり方を教え、かつ標準となる「型(フレーム)」があるからこそ、経験が蓄積できるんです。型がなければ「今日はうまくいった」「今日はうまくいかなかった」で終わってしまい、日々の業務からの学びや蓄積がありません。しかし、プロセスや型が決まっていれば「今日は、プロセスのこの部分がうまくいったから、次はもっとこうやろう」と日々向上し、自ら学習して成長することができます。
ナレッジマネジメントの罠とベテランが暗黙知を言語化できない3つの理由
――その後、ナレッジマネジメントの専門家として活動されるわけですが、日本企業にその考え方を導入するにあたって苦労されたことはありましたか?
田原:実は、初期の頃に大失敗を経験しているんです。私が今の活動を始めた2000年頃、マイケル・ポランニーの『暗黙知の次元』や、野中郁次郎先生・竹内弘高先生の『知識創造企業』といった本が出版され、ナレッジマネジメントが注目され始めていました。
しかし、それらの本には概念や議論は書かれていても、暗黙知を形式知化する具体的な方法や再現性のあるプロセスまでは書かれていませんでした。
そこである時、全社的なコンサルティングに入っていたエネルギー関連会社の、優秀な営業担当者が多くいる支店で、初めての「ナレッジマネジメント研修」を実施したんです。参加者に「今日は皆さんのナレッジを出してください」とお願いし、これは良い研修になるぞと思い、研修をスタートしました。
――優秀な方々なら、たくさんのノウハウが出てきそうですね。
田原:ところが、全くと言ってよいほど、ナレッジやノウハウが出てこなかったんです! 4時間の研修中、皆さんに「あなたのナレッジを出してください」とお願いしても、少し意見が出るだけで、本質的なノウハウは全く出てきませんでした。私は生きた心地がせず、まるで針のむしろのような状態でしたね。
なぜ彼らが暗黙知を出せなかったのか、後になって3つの理由が分かりました。
1つ目は、ベテランは自分がやっている工夫を当たり前だと思っており、それが価値のある暗黙知だと認識していないこと。2つ目は、うまくできているけれど、それをどう言語化していいか、その方法を知らないこと。そして3つ目は、ライバルがたくさんいるから教えたくない、ということです。
ハイパフォーマーとローパフォーマーの違いは「プロセスの先読み」にある
――その大失敗の後、どのようにしてノウハウを引き出したのでしょうか?
田原:参加者たちから「そんなにナレッジが知りたかったら、自分で現場に来てください」と言われまして、そこから毎日毎日、営業の同行訪問をしたんです。1日5〜6件の訪問を、3カ月間ずっと続けました。
そこでハイパフォーマー(成績優秀者)、ベテラン、ローパフォーマー、若手と、様々な社員の営業に同行することで、誰が、何を、どのように行っているのかを徹底的に観察・分析しました。
複数の支店がありますが、支店社が異なっても会社は同じなので、初回面談からクロージングまでの基本的な流れは同じです。しかし、徐々にそのばらつきと違いが克明に分かるようになってきました。
――ハイパフォーマーとローパフォーマーでは、具体的に何が違ったのですか?
田原:大きく違うのは、業務のプロセスが練り込まれており、最適化されているかどうかです。ハイパフォーマーは、後に起こることを予測して、前もって、事前に行動のプロセスに組み込んでいるんです。
「この資料を持っていったら、きっとお客様からこんな質問が出るだろう。だから事前にこのデータも準備しておこう」と先読みをしているため、手戻りや無駄がありません。設計開発の現場などでも、「この材料は曲がりやすいから、次の工程を考えて、こういう設計は最初からやめておこう」といった具合です。
一方でローパフォーマーは、手順が表面的なんです。細かく後のことを予測せず、目の前のことだけを、ただの「作業」として処理しているため、結果的にうまくいかないことが多いのです。
――能力の差というより、経験に基づいたプロセスの違いなのですね。
田原:そうです。経験を積むことで、その経験をパターン化(型化)しているんです。ハイパフォーマーは標準(型)が自分の中にできているため、失敗した時も「今日はどこがうまくいかなかったのか」を振り返り、プロセスを改善することができます。
――そうしたハイパフォーマーの頭の中にある先読みの思考は、どのようにして他の人も使える形に落とし込むのでしょうか?
田原:業務の表面的な手順だけでなく、行動の目的や、それに応じて、何を見てどう考えなくてはならないかという判断のプロセスをセットにして抽出します。
先ほど例に挙げました「お客様に資料を渡す」という手順を元に考えると、渡すという行動自体は誰でもできますが、ハイパフォーマーは事前に、顧客を分析して準備をするというプロセスがあり、さらに、「相手のこの発言が出たら、この資料を出す」といった、顧客の状況に合わせた明確な判断基準を持っています。
この「何を見て、どう判断したか」という深い思考プロセスを手順と紐付けて細かく分解し、どこに重要なノウハウが隠れているかを特定してブロックのように切り出すのです。
これを私は、「モジュール化」と呼んでいます。
このように頭の中の先読みのパターンを可視化し、組織全体で使える標準の型に落とし込むことで、誰もがハイパフォーマーのプロセスを再現できるようになるのです。
これに気づいた時、私がかつて外資系企業でやっていた「知識ではなく、プロセスを教える」という手法の重要性を、改めて痛感しました。
思考を可視化する「モジュール化」で、誰もが真似できる標準の型を作る
――「ライバルに教えたくない」とノウハウを出し渋るベテラン社員に対しては、組織としてどうアプローチすべきでしょうか。
田原:そこは評価の仕組みを変える必要があります。知識の有無や最終的な結果だけで評価するのではなく、プロセスが正しく踏まれているか、そしてノウハウを他者に共有し教えているかという、人材育成や組織に貢献しているかという点を評価軸に組み込むべきです。
そのためには、業務をモジュール化(可視化・細分化)し、どこができていてどこができていないのかや、プロセスのどこにノウハウがあるかを、明確に区切って評価できる形にしておかなければなりません。
――日本企業は、そうしたプロセスが苦手だと言われますね。
田原:根深い問題だと思います。日本企業に多いメンバーシップ型雇用では、職務の境界が曖昧で「背中を見て覚えろ」となりがちです。一方で外資系に多いジョブ型雇用は、業務が明確化されているため、手順を教えやすく、短期間で業務を習得できます。
「型にはまるのは嫌だ」「自分の好きなやり方でやりたい」と言う人もいますが、ビジネスプロセスを可視化し、型を作ることをしなければ、組織の成長は止まってしまいます。
もちろん、創意工夫は大切です。それも、「標準=型」を中心とした日々の実践によって、その業務が「うまくできた理由」「うまくいかなかった理由」をベースにして、気づき考える力が育っていきます。そして、「標準=型」も、アップデートしていき、組織全体のレベルをあげていきます。
一方、超ハイパフォーマーのやり方は、その人の属人的なキャラクターに依存していることが多く、他の人が真似できないことが大半です。ただ、それを「あの人だからできるんだ」で終わらせてはなりません。組織全体で共有できる型をつくること、つまり「標準化」が、ナレッジマネジメントの絶対条件なのです。
まとめ
ベテランの退職による技術喪失を防ぐためには、知識や結果だけを追い求めるのではなく、業務プロセスを標準化し、教える仕組みを作ることが不可欠です。田原氏の失敗経験が示すように、ベテラン自身も自らの暗黙知を自覚していないものです。
この現状を変えるためには、現場の行動を観察・分析し、ハイパフォーマー特有の先を見越した思考と行動のプロセスを言語化することが大切です。そこで初めて、組織の財産としてナレッジを共有、蓄積することが可能になります。
後編では、田原氏の独自のメソドロジー「フレーム&ワークモジュール® 」をもとに、具体的な方法を探っていきます。
(後編はこちらから)
取材・文:池田アユリ






