
業務改善が頓挫する理由とは?生産性を高める「仕組み化」の実践ステップ
- 業務プロセス
- # セミナーレポート
最終更新日:
公開日:

少子高齢化に伴う深刻な人手不足が叫ばれる昨今、多様な人材の採用や育成に投資するだけでは、生産年齢人口の減少スピードを補いきれなくなっています。これからの激動の時代において企業が持続的に成長を遂げるためには、根性論や個人のスキルに依存するのをやめ、組織全体を「仕組み化」して1人あたりの生産性を劇的に向上させることが不可欠です。
本記事では、書籍『リーンオペレーション「仕組み化」の教科書』出版記念セミナー(2026年5月開催)の内容をもとに、著者である庄司啓太郎の視点から、経営者が直面する「業務改善が定着しない」「属人化が解消されない」という課題の乗り越え方を解説します。
目次
人口減少時代に求められる「生産性1.7倍」への変革
株式会社スタディスト・庄司啓太郎(以下、庄司):私はこれまで20年ほど、製造業をメインターゲットとした業務改善のコンサルティングに従事し、数多くの企業のオペレーション改革に携わってきました。その中で、現在の日本が直面している人口減少は、これまでの延長線上では決して解決できない深刻な構造問題であると痛感しています。
人口動態の予測データによれば、2025年から2050年にかけて外国人労働者は591万人増加する見込みですが、日本の生産年齢人口(15〜64歳)はそれをはるかに上回るスピードで、1,734万人も減少します。差し引きすると、社会全体で約1,200万人もの労働資源が純減していくのです。
もちろん、外国人材やシニア層、主婦層の採用活動も進んでいますが、人口減少の圧倒的なスピードの前には追いつきません。私たちは今、まさに「100人の仕事を60人でこなさないといけない時代」の入り口に立っており、現状を維持するだけでも1人あたりの生産性を「1.7倍」に高める必要があります。
もう、多様な人材の採用や育成といったマンパワーだけに頼る時代は終わりました。これからの激動の時代を勝ち残るためには、人ではなく「仕組み」で戦うしか道はありません。組織全体を筋肉質な状態へと変革する「リーンオペレーション」の実践が、今こそ不可欠なのです。

(出典:荒木 秀之『外国人かAIか』、JICA 報告書、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」を基にスタディスト作成)
組織の活力を奪う2種類のロス:「資金の燃焼」と「時間の蒸発」
庄司:生産性を1.7倍に引き上げるためにまずやっていただきたいのが、自社のオペレーションに潜む「ロス(無駄)」を正しく認識することです。企業に存在するロスには、大きく分けて「資金の燃焼」と「時間の蒸発」の2種類があります。
「資金の燃焼」とは、手戻りや点検のミス、事故、あるいは採用や離職による人員の流動に伴い、追加のキャッシュアウトが発生する損失です。これらは「領収書が出るタイプ」の損失であり、PL(損益計算書)上でも費用として認識しやすいため、多くの企業が比較的すぐに気が付いて対処することができます。
よりシビアに向き合わなければならないのが「時間の蒸発」です。これは「探す・聞く・待つ・判断する」といった無駄な時間が固定費(特に人件費)の中に包含されてしまい、視覚的に気づきにくいため、忙しさに埋もれて放置されやすいタイプの損失です。

例えば、現場のメンバーがパソコンに向かってテキパキと働いているように見えても、内心は表情を変えずに「あのデータどこにあるんだよ……」とただ探し回っているだけ、というケースは珍しくありません。また、ブラックボックスになりやすいのが「教える」という時間です。良かれと思って開催している、丁寧で分かりやすいレクチャーであっても、若手からすれば「もうその話は聞いたし、知っているよ」と思っている可能性があります。
この「時間の蒸発」は本当に侮れません。1人あたり1日たった30分の「探索ロス」であっても、社員10人の組織であれば1日で合計5時間が消失します。これが1カ月(20営業日と仮定)で100時間になり、年間換算するとなんと1,200時間の累積ロスが、無駄な費用として計上されることもなく、人件費の中に埋もれて消えていっているのです。

これをよりリアルに捉えるために、皆様にはぜひ「シビアな金銭感覚」を持っていただきたいと考えています。仮に社内の時間単価を諸経費込みで4,000円とみなしましょう。もし現場で、先輩が後輩につきっきりで1時間教育を行っているとすれば、それは「お互いの財布から4,000円ずつ、計8,000円をその場に投下して教育している」状態と同じです。
5人が集まる1時間の研修であれば、全員分を合わせて1時間あたり20,000円、仮にこれを毎週やれば年間で約100万円ものコストがかかっています。「20,000円の現金をその場で払ってでも、本当にこの研修をやりたいのか」というリアルな金銭感覚を持てるかどうかが、隠れたロスを断ち切るための分岐点になります。
もちろん、やみくもにお金を減らせと言いたいわけではありません。ロスを断ち切る究極の目的はコスト削減そのものではなく、手元に残った「余力」を、新商品開発やサービス品質向上、人への投資、品質管理の強化といった「付加価値の最大化・成長への投資」へ再投資することにあります。
業務改善が頓挫する3つの構造問題と「9 Steps」
庄司:多くの企業がすでに何らかの標準化やマニュアル化に取り組んでいるにもかかわらず、「完璧にできている」と言い切れないのはなぜでしょうか。私は、その原因は現場のモチベーションや意志の低さではなく、取り組みの「設計(構造)」にあると考えています。
具体的には、①「完了した状態」が定義されておらず到達点が曖昧なまま走っている、②経営と現場の目標がバラバラで道を見失っている、③一時的なイベントで終わってしまい改善を継続できない、という3つの構造問題がぐるぐる回っているのです。
この構造問題を打破し、最適な経営資源で成果を最大化するために、私たちが提唱しているのが「9 Steps(ナイン・ステップス)」というフレームワークです。
- STEP 1:現状の可視化
- STEP 2:標準化・単純化
- STEP 3:外部化
- STEP 4:自動化
- STEP 5:育成効率化・定着化
- STEP 6:安定遂行
- STEP 7:手戻り防止
- STEP 8:価値強化
- STEP 9:改善定着
これは単なる1本線のプロセスではなく、自分たちの組織のどこに問題があるのかをマッピングするための「下地(地図)」のようなものです。
実際、最近弊社の社内でも、部門ごとに自分たちの業務をこの9ステップに当てはめてみるワークショップを行いました。すると、「目指す姿はあるけれど、時間が足りない、人が足りない」という最終的な悩みは同じでも、ある部門は「STEP 1(現状の可視化)」で躓いており、別の部門は「STEP 6(安定遂行)」ができていないなど、課題の所在が全く異なることが浮き彫りになりました。困っている事象の根本原因がどこにあるのかを特定できることこそが、このフレームワークの価値なのです。

▼関連記事
リーンオペレーションとは?実践に向けた9つのステップを紹介
社員をコア業務に集中させる「判断・定型・自動」の仕分け方
庄司:9つのステップの中でも、特に多くの企業が最初につまずく「STEP 1(現状の可視化)」と「STEP 2(標準化/単純化)」の局面で重要になるのが、業務の特性を「判断」「定型」「自動」の3つに分類する「Routing(ルーティング)」という考え方です。
これからの経営において、「その業務は本当に自社の社員でやるべきなのか、それとも外部に任せるべきなのか」という問いは、極めて重要な意思決定になります。私はこれらを次のように切り分けています。
・判断創造系業務(人が行うべき領域): 高度な経験や判断を必要とする非定型的な業務(例:顧客との信頼関係を構築する商談・交渉など) 。企業の付加価値創出に直結するため、社員の採用・育成・定着によって自社で強くしていくべきコア領域です。
・定型作業系業務(外部化すべき領域): ルールや手順に沿って実行する定型的な業務(例:定型的なアポ打診メールの送信など)。自社で抱える必要のない仕事は切り分け、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などの外部リソースを活用して効率と品質を最適化します。
・自動処理系業務(自動化すべき領域): ルールが完全に固定化されており、人間が介在する必要がない業務(例:データの転記など)。システムやAIなどを活用し、自動化に要するコストとのバランスを見極めながら仕組みに任せていきます。

今はAIの進歩も著しく、テクノロジーと人間の境界線は日々変わっています。だからこそ、これからの時代は「外部に任せる力(外部化・自動化の力)」がある会社こそが、高い競争力を発揮すると考えています。機械や外部に任せられる定型作業を徹底的に削ぎ落とすことで、自社の社員を「人間ならではの付加価値を生む仕事(STEP 8)」に集中させることができるからです。
このように業務の特性を見極め、コア業務へとリソースをシフトしていくことが「仕組み化」の本質ですが、これは一度の取り組みで完成するものではありません。
本当に私たちが目指すべきゴールは、この一連の改善活動を一時的なイベントで終わらせないことです。現場に浸透させ、月に1回は現場から自発的に改善提案が当たり前のように上がってくる、そんな「改善の定着(STEP 9)」の状態を作ること。これこそが最後に立ちはだかる大きな壁であり、リーンオペレーションが目指す究極の姿なのです。
セミナー時の質疑応答内容
Q1. 通常業務だけで全員がいっぱいいっぱいです。一体どこの業務から手をつければいいですか?
庄司: 可視化が大事だと分かっていても、その可視化の作業自体が重荷になって動けない、というご相談は本当に多くいただきます。費用をかけずに、今すぐできるおすすめの方法があります。それは、社内で「グーチング(愚痴を言い合う場)」を作ることです。
現場のメンバーが日頃から感じている「これが面倒くさい」「やりたくない」という本音(愚痴)の中にこそ、改善すべき重大なロスのヒントが眠っています。まずはその不満をざっくばらんに場に出してみる。それだけで、取り組むべき業務の優先順位が見えてくるため、ここが最初のスタートラインになります。
ただし、ただ不満を吐き出すだけの「愚痴大会」で終わらせないためのポイントがあります。それは、出た愚痴をマネジメント側が「ルールや仕組みで解決できるもの」と「ツールの導入で自動化できるもの」に分類(仕分け)していくことです。これによって、現場の不満がそのまま、次に打つべき具体的な改善タスクへと昇華されます。
Q2. 業務を効率化して余力が生まれたとしても、現場に任せていると結局また別の細かい雑務で時間が埋まってしまう気がします。
庄司: 現場のメンバーは、新たに無駄な時間を増やしているわけではありません。なんとなく楽になった、という定性的な状態のままだからこそ、その空いた時間に優先度の高くない別のタスクが入り込んでしまうのです。
これをお財布に例えると、割引によって偶然浮いた200円や300円をそのまま財布に入れたままにしていると、普段のお金に紛れていつの間にか消費してしまうのと同じです。これを防ぐには、「削減された時間を定量的に測定し、その『余白』を別の封筒に分けるように目に見える状態にすること」が重要です。
「これまで10時間かかっていたこの定型業務が、仕組み化によって1.5時間削減できた。だからこの1.5時間は、新規事業のリサーチや顧客フォローの強化に充てる」というように、浮いた時間を明確な「余白」として可視化し、意図的に次の付加価値業務をアサインする。ここまで経営陣や管理職が設計して初めて、効率化への投資は本当のROI(投資対効果)を生み出し始めます。
まとめ:今日から始める「カチノコリ(価値残り)」への道
人口減少が加速する市場環境において企業が勝ち残るためのロードマップは、極めてシンプルです。まずは「資金の燃焼」と「時間の蒸発」という組織のロスを可視化して流出を止め、外部化や自動化、標準化によって削り出した時間や人手をしっかりと手元に残します。そして、その余力を次の成長や人への投資、組織の強靭化へと意図的に再投資していくのです。
皆様の会社は今、大事だと思ってやってきた仕事が、組織の成長を鈍くする「重り」になってはいないでしょうか。私たちは、組織内の人材を強くする「Teachmeシリーズ」の提供とノンコア業務を切り離すBPOや自動化の両面から、企業のリーンオペレーション実現<を支援しています。「現在地」と「登るべきルート」の地図さえ手に入れば、あとは登るだけです。まずは社内の小さな「愚痴」を集めることから、一歩を踏み出してみませんか。



最新記事







