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多様な部下を育て活かす現場の上司力

多様な部下を育て活かす現場の上司力

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弊社スタディストが主催するイベント『2025年の組織戦略』にて、事業リーダーの皆様にお届けしたいトピックの有識者や実践者に講演していただきました。

本講演『多様な部下を育て活かす 現場の上司力』では、株式会社FeelWorks代表取締役・前川孝雄様から、多様な部下をマネジメントする上司の在り方についてお話しいただきました。500社以上の人材育成を支援し、著作も約40冊出版されています。

はじめに

株式会社FeelWorks代表取締役 前川孝雄様(※以下、前川):
FeelWorks代表取締役の前川と申します。「上司力」という言葉にこだわっており、独自開発した「上司力研修」シリーズはこれまで500社以上で開講しています。

業績向上とマネジメントの狭間で奮闘する上司たち

前川:上司や経営層の方々に研修を実施する中で、部下の方々のマネジメントが非常に難しくなってきたと感じています。まず、職場を取り巻く環境が大きく変わってきました。ハラスメント厳禁や働き方改革による残業抑制、1on1ミーティングによるキャリア支援、プレイングマネジャーの増加、コンプライアンスの厳格化、若手の離職防止といった問題が管理職にのしかかっています。それを見て、管理職になりたくない、割に合わないと考える社員が増えてきました。

問題の最大の原因は、日本は少子高齢化で若者が減っていて、年功序列のピラミッド組織を築くのが難しくなったことだと思われます。加えて、女性の活躍やシニアの方々でも元気であれば働いてもらう、外国人の方も働いてもらうといった流れがあります。

その中で、あうんの呼吸でやるような、旧来型のマネジメントが通じなくなってきています。単純に思える指示でも、詳細について丁寧にコミュニケーションを取らないと難しい状況になっていて、それに慣れていない40代半ば以上の管理職・経営者の方々が苦労しておられます。

ダイバーシティマネジメントが求められる時代

現場とのギャップと新作法の必要性

前川:現場で起こっているギャップは以下のようなものです。

若手部下の場合
●管理職が抱きがちなイメージ
「指示待ちで積極性がない」という方が非常に多いです。

●実際の姿
若者のキャリア支援をしてきた私の立場から言うと、実際の若手部下は貢献心や好奇心が強く、学習意欲も高いです。リクルートキャリアの就職プロセス調査によると、近年の新入社員の就職の決め手は「自らの成長が期待できること」がトップでした。世代間での価値観の違いのため、入社前後のギャップで諦めてしまう方が多いと思われます。

転職サービスに登録する新入社員は13年前の28倍います。今すぐ転職したいわけではないがオファーを待っている状態です。「会社での職位が上がるより、労働市場で評価されるプロフェッショナルになりたい」という意識が強いのが特徴です。

女性部下の場合
●管理職が抱きがちなイメージ
「ワーママは家庭最優先」というイメージを持ち、仕事の負荷を下げようとしがちです。

●実際の姿
「家庭や子育ても大事だけれど、仕事も頑張りたい」と考える女性もおり、過剰な気遣いで仕事を取り上げられると、キャリアダウンしたように感じる人もいます。管理職になることへの不安も、長時間労働など労働条件に対するものより、適性があるか、能力が足りているかなど内面的なもののほうが多いです。

年上部下の場合
●管理職が抱きがちなイメージ
定年再雇用で給与が上がらず、職位も上がらないため「モチベーションをなくしている」とのイメージを持っています。

●実際の姿
実際の年上部下はモチベーションというよりも、会社の中でのステップアップが目指せない中でキャリアの目標を見失っている状態です。しっかりと寄り添い、仕事の意味付けや働きがいを抱けるようサポートすることが大事です。部下のタイプこうしたギャップを見て感じるのが、固定観念や無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)から自分を解放することの重要性です。従来のマネジメントが駄目なのではありませんが、環境が変わって社員が多様になってきているため、新作法を学んでいく必要があるのです。ピラミッド組織からサークル組織へ

旧来型の組織は、ポストと報酬で動機づけするピラミッド組織と言えます。頑張れば職位や給料が上がるというイメージです。

しかしこれからは、組織の目的、何のために自分の会社があるのかという存在意義をはっきりさせる必要があります。その上で、目的実現に向けて、多様な社員一人ひとりが持ち味を活かせる役割を思い切って任せていく、個々の尊重が重要です。

「サークル組織」とあるように、上司と部下は上下関係ではなく、一人ひとり重要な役割があって対等だと考えます。上司は単なるリーダーという役割です。このようにコンセプトチェンジしていくのが、多様性の時代には大切なのではないでしょうか。

「働きやすさ」から「働きがい」の創出へ

「働きやすさ」から「働きがい」の創出へ

前川:働きやすさの整備が注目されがちですが、最も大切なのは働きがいの創出です。

心理学者のハーズバーグは、労働環境や条件(休暇や労働時間、リモートワークなど)、賃金といった働きやすさを「衛生要因」、仕事内容や責任、承認、達成感などの働きがいを「動機づけ要因」と呼び、「衛生要因を改善すると従業員の不満足は減るが、満足には繋がりにくい」と主張しました。与えられた権益が当たり前になり、多様な方々がそれぞれの権利主張を強める事態になると、会社は潰れてしまうのではないでしょうか。

加えて、人の成長や活躍を阻害するリスクも出てきます。人が成長する上では、本人の力よりも少しストレッチが必要な仕事を任せることが大切です。本人が努力や工夫によって乗り越えて、振り返って初めて成長できます。しかし、若者に仕事を任せて育てたくても、残業の禁止や産休や育休の推奨によって、成長の機会が減っていく恐れがあります。

衛生要因の改善は確かに大事ですが、仕事の満足を高めていく要因は動機づけ要因だと考えます。今大事なのは働きがいを一人ひとりに持ってもらうことです。

人を惹きつけ離職を防ぐ4つのファクター

前川:働きがいについては、ハーバードビジネスレビューに、人を惹きつけ離職を防ぐ4つのファクターを位置づけた論文が載りました。短期的に有効なのは「物理的な待遇」「つながり・連帯」で、先程の「衛生要因」に近い部分です。一方で、中長期的に有効なのは「能力開発・成長の機会」、「意義・パーパス」です。

能力開発・成長の機会によって、成長実感を一人ひとりが持つことが非常に大切です。ここには経営者や管理職など上司の関わりが欠かせません。いかに本人が成長していても、周りからの働きかけによって本人が実感しなければ意味がないのです。また、意義やパーパスは働きがいに繋がり、意義のある仕事をしていると納得できれば、人はさらに頑張れます。

人材育成も、会社が変わり求める人材も変わったからリスキリングせよという上からの押しつけではなく、一人ひとりのキャリアに寄り添うボトムアップに変える必要があります。学ぶことは、人生の可能性を広げます。自分はどのように幸せに生きたいのか、そのためキャリアや働き方はどうしたいのか、実現するために何を学びたいのか、という流れにすべきです。

社員のやる気を引き出す「内発的動機づけ」

管理職から支援職へ前川:上司力の話に戻すと、昔ロバート・カッツは「組織の中でステージが上がると求められるスキルが変わる」と述べました。一般社員はテクニカルスキル、自分が動いて仕事をします。管理者になるとヒューマンスキル、人を動かして仕事をします。経営者になるとコンセプチュアルスキル、組織全体の方向性を決めることが必要です。

中核はヒューマンスキルですが、人を動かすには、心を動かさなければなりません。「社長や上司の言うことはもっともだ、この上司のもとで働くと成長実感がある、このチームでいることが誇らしい」といった実感が大切です。

これを専門用語で「内発的動機づけ」と言います。社会心理学者エドワード・L・デシによると、心の内側からモチベーションを上げるには、2つの条件があります。ひとつは有能感、自分がやる意味・意義がある仕事で、頑張ればできるという感覚です。もうひとつが自己統制で、マニュアル通りに行うのではなく、目的に納得し、自己裁量で取り組めることです。

そのために上司に求められる働きは、目的を語り合って納得してもらうことです。上司は管理職ではなく、支援職に変わっていく必要があります。

旧来的マネジメントは「外発的動機づけ」で、飴と鞭を使って上からやれと言えば通用したかもしれませんが、今それをやると無能感に繋がり、管理されるほど「やらされ感」が増してしまいます。

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一人ひとりを活かす現場の上司力

前川:上司力の6つのコンセプトは以下のようなものです。

STEP1:上司と部下の絶対的な信頼関係

前川:仕事や業務の前に人としての信頼関係を構築することが第一です。さまざまなバックグラウンドを持つ人が共に働く時代のため、上司の言葉が意図通りに伝わらず、悪気はないのにハラスメントになるリスクもあります。しかし信頼関係があれば、悪いほうに解釈される事態を防げます。

そのために必要なのは「愛他主義」の実践です。利己主義、つまり自分の利益のために部下に働けと言っても、内発的動機づけは生まれません。部下のために行動する利他主義もありますが、それを超越したものが愛他主義です。部下に愛情を注ぎ、一人ひとりの人生や気持ちを温かく受け止め、全身全霊で応援する気持ちで関係性をつくります。

STEP2:アドバイスよりまずは傾聴の努力

前川:上司が先に言いたいことを言うと、部下に強いインパクトを与え、気持ちが削がれることが多々あります。そこで、まず部下の話をしっかり聞く、傾聴が重要です。傾聴は、相手を理解しようと問いかけること、問題解決よりも本人の気持ちを聴くことです。そうすると、部下も受け止められたと感じ、信頼関係構築にも繋がります。

STEP3:仕事の意義や目的を理解させる

前川:仕事の意義や目的を組織全体に理解させると、組織の中にやる気が広がり、組織は自律自走し始めます。仕事の意義や目的には2つあります。

ひとつは、組織のビジョンです。我々の組織はどこに向かおうとしているのか、明確に言語化して、対話の中で納得することが大切です。

もうひとつは、一人ひとりに任せている仕事の目的についても、対話し納得してもらうことです。部下には作業ではなく仕事を任せましょう。作業は決められたやり方の通りに行うものですが、仕事は目的を伝えた上で、そこに至る作業部分は自分なりの工夫でやるよう任せるものです。すると、同じ作業をしていたとしても、自分で工夫するため、仕事が面白く感じます。本人の能力のレベルに応じて、少しだけストレスがかかる仕事を任せ、この部分は自分で考えるよう促すと、人材育成にも繋がります。

STEP4:小さなキャリアの階段づくりを

前川:上司は支援職として日々部下を見守り、伴走しながら応援しなければいけません。そのために、小さなキャリアの階段づくりをします。部下との対話の中でスモールステップを設定し、たとえ0.1段だとしても、自分で登ったという成長実感を持たせることが重要です。

半年や1年後の中長期の目標を設定した後、まず1ヶ月目に目指して欲しいような段階的な目標を設定します。そして、そのスモールステップに至るための工夫は部下に任せます。クリアできたら次は2ヶ月目の目標設定をする、ということを繰り返します。実際は上司のマネジメントによるものでも、部下は自分の力で成長できたという成長実感を得られます。

STEP5:「誰かの役に立っている」「誰かに必要とされている」実感演出

前川:上司は「あなたの持ち味が活きてこの仕事ができた」「あなたの役割のおかげでチームがこの問題をクリアできた」といった声掛けを日々行いましょう。上司と部下の間だけではなく、同僚同士でもそういうコミュニケーションができるチームの空気をつくるため、リスペクトする声掛けをした社員にも感謝します。

上司は部下の心を動かさなければなりません。そのためには、心理学者・マズローの欲求5段階説における、「社会帰属欲求」と「承認欲求」を満たすことが大切です。社会帰属欲求とは、善い目的に向かっているチームの一員であると誇らしく感じることです。承認欲求とは、自分だから任されている仕事があり、目的に納得できて、自分の頑張りが認められていると感じることです。組織に帰属し承認させること

STEP6:業務より、一人ひとりを活かす組織づくり

前川:かけがえのない存在として一人ひとりを見て、あなただからこのチームでこの役割を担って欲しいと心から伝え、日々フィードバックしてください。

また、部下は上司の期待通りに変わっていくことも意識しましょう。社会心理学者・ローゼンタールの「ピグマリオン効果」によると、相手に対し良い期待をして肯定的な向き合い方をすると、相手はどんどん良くなっていきます。逆に、固定観念や無意識の偏見に基づき、悪い期待や決めつけをすると、相手はどんどん駄目になってしまいます。これは「ゴーレム効果」と言われます。

一人ひとりの社員には必ず良いところがあり、そこを活かせば必ず成長し活躍できるという視点で向き合いましょう。弱みや強みとは、光の当て方により異なるものです。一人ひとり持ち味があり、光の当て方によって、強みにも弱みにもなります。持ち味が強みになるような役割を任せるようにしてください。

「安心して働けるホーム」をつくる

前川:一人ひとりを活かす現場の上司力について、6つのステップを紹介しました。6つのどこにフォーカスして組織マネジメントをするかは、組織によって違うでしょう。ぜひ上司力を駆使してアレンジしてください。現場の上司力

一番大切なのは、社員の皆さん一人ひとりに、この職場は「安心して働けるホーム」だと思ってもらうことです(心理的安全性)。アウェイだと感じた瞬間に、人は萎縮してしまい力を発揮できません。

その上で上司に求められるのは、部下一人ひとりの持ち味を踏まえて仕事を任せ、育て活かし、共通の目的に向かう組織の力を高め、個人では達成できない結果を導き出すことです。そのためには、多様な部下と誤解を生まないコミュニケーションが欠かせません。

従来のマネジメントは画一性の中で指示・管理すれば通用したかもしれませんが、これからは多様性の時代なので、共感して支援することが大切です。上司の方々は管理職から支援職へ脱皮していくことが求められます。情緒の働きがいを取り戻そう

冒頭で述べたように、最近多くの人たちが管理職になるのを避けたがる風潮がありますが、上司の仕事は働きがいにあふれた、素晴らしい仕事です。

上司力を学び駆使すると、一人ではできない大きな仕事ができます。また、自分が関わることによって、部下が一皮むける瞬間に関われる感動を味わえます。さらに、上司自身が成長する醍醐味もあります。

忙しくて部下と関わる時間がない上司が多いですが、本来上司の仕事は部下を動かすことです。組織を挙げて棚卸しを行い、内向きの調整業務など不要な業務はやめましょう。会社も社員のマイクロマネジメントをやめ、信じて任せていくことが大切です。特に現場管理職には権限と裁量を持たせ、ロールモデルになるような上司をたくさんつくりましょう。

まとめ

管理職ではなく支援職に変わっていく必要性など、参考になる内容がたくさんありました。本講演が、皆様の事業運営をさらに良いものにしていく一助となれば幸いです。

話し手
前川 孝雄
株式会社FeelWorks 代表取締役
株式会社働きがい創造研究所 会長
青山学院大学 兼任講師

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。兵庫県明石市生まれ。大阪公立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。㈱リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに研修事業と出版事業を営む。独自開発した「上司力®研修」「新入社員のはたらく心得」などで500社以上を支援。30年以上一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し、人材育成やキャリア支援に詳しい。(一社)企業研究会サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。著書は『人を活かす経営の新常識』『本物の「上司力」』『「働きがいあふれる」チームのつくり方』『50歳からの逆転キャリア戦略』等約40冊。