
製造現場の見える化を利益へ。旭鉄工のDXと「儲かるカイゼン」
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「DXを推進しているのに、改善や利益につながらない」。そう感じている製造業の経営者は少なくありません。
そうした課題を克服し、大きな成果を上げているのが自動車部品メーカーの旭鉄工株式会社です。同社はIoT(Internet of Things)を活用して製造現場の問題を見える化することで、約200の製造ラインにおいて生産性を平均43%向上させ、年間10億円規模の収益向上にもつながっています。同社代表取締役社長の木村哲也氏は、この仕組みを「儲かるDX」と呼んでいます。
単なる問題発見で終わらせず、現場での改善行動につなげ、最終的に利益として結実させるために、同社はDXやAIをどう推進してきたのでしょうか。
前編では、著書『付加価値ファースト~常識を壊す旭鉄工の経営~』『AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル』でも数々の実践事例を紹介している木村氏に、見える化した問題を利益につなげる「儲かるDX」の仕組みと、それを支える経営者としての関わり方について伺いました。
目次
見える化すべきは「数字」ではなく、製造現場に潜む「問題」
――長年勤めたトヨタ自動車を退職し、2013年に旭鉄工へ移られたそうですね。当時の旭鉄工を見て、現場や経営の面でどのような課題を感じ、まず何から着手されたのでしょうか。
旭鉄工株式会社 代表取締役社長 木村哲也氏(以下、木村):旭鉄工は、当時から高い製造技術力を持っている会社でした。一方で収益性は低く、生産しても適正な利益を出しにくい赤字体質でもありました。
さらに、人口減少によって国内市場が縮小していくことは確実で、このまま利益を出せない状態が続けば、いずれ会社が立ちゆかなくなることは明らかでした。そうした危機感から、大胆に改善を進めて、競争力を強化する必要があると考えました。
しかし、当時の現場は、勘と経験に頼った管理が中心でした。「設備がなぜ止まったのかが分からない」、残業が多いのも「忙しいから仕方がない」、電力も「これくらい使うものだ」という感覚が現場にありました。
つまり、現場で何が起きているのかを正確に把握できず、どこから改善すべきかの優先順位も見えにくい状態だったのです。問題が見えなければ、現場の努力も経営判断も感覚に頼らざるを得ません。 トヨタ自動車の生産調査部時代に学んだTPS(トヨタ生産方式)によるカイゼンを進めようにも、必要なデータがありませんでした。
そこで、IoTを使って設備の稼働状況を見える化しました。実際にデータを取ってみると、「こんなに機械が止まっていたのか」と私自身もショックを受けました。問題がなかったのではなく、ただ見えていなかっただけだったのです。
こうして浮き彫りになった問題に対し、現地現物で原因を確かめ、改善する仕組みを作っていきました。
――トヨタ自動車で学んだ考え方をもとに、旭鉄工での問題をどのように改善へつなげていったのでしょうか。
木村:見える化した問題を改善につなげるうえで土台になったのが、トヨタで学んだ「問題は直して初めて価値になる」という考え方です。問題を見つけること自体が目的ではありません。見つけた問題の原因を確かめ、対策を打ち、現場の動きや成果が変わって初めて、改善に価値が生まれます。
例えば、トヨタでは些細な設備停止の要因を「サイクルタイム(作業工程の周期)遅れ」「チョコ停(設備の一時的な停止)」「ドカ停(長時間の設備停止)」といった形に分類します。そのうえで原因を一つひとつ確かめ、対策を打ち、同じ問題を繰り返さない状態に改善していく。この考え方が、旭鉄工の改善活動の土台になっています。
一方で、トヨタで学んだ考え方を、そのまま旭鉄工に持ち込んで実践するだけでは難しい面もありました。トヨタでは、現場を細かく見て問題を見つけ、改善につなげるための人員や仕組みが整っています。しかし、中小企業である旭鉄工では、同じだけの人員をかけて現場の状態を見続けることは現実的ではありません。
だからこそ、旭鉄工ではデジタルを積極的に組み合わせる必要がありました。人が常に見続けなくても現場の状態を把握できるよう、IoTで設備の動きや停止状況を捉える。「人の手をかけられない」という制約があったからこそ、旭鉄工ならではの改善スタイルを生むきっかけになったのです。
見える化すべきなのは、数字そのものではなく「問題」です。たくさんのデータを集め、きれいなダッシュボードを作っても、現場の行動が変わらなければ意味がありません。
そこで旭鉄工では、IoTによって設備の停止状況や待ち時間、段取り、エネルギーロスといった、「付加価値を生んでいない問題」を把握します。そして、現場で状況を確認し、小さな改善を積み重ねているのです。
改善を「経営の数字」につなげて初めて利益になる
――問題を見える化し、改善を積み重ねるだけでなく、それを利益につなげるためには何が重要なのでしょうか。
木村:大切なのは、改善を現場の努力だけで終わらせないことです。ムダをなくして生まれた時間を、新しい仕事や品質向上、生産能力の向上につなげる。そうして付加価値と利益を増やしていくことが重要です。
――著書の中では、こうした考え方を「儲かるDX」と表現されていますね。具体的にどのような考え方なのでしょうか。
木村:「儲かるDX」の根底にあるのが、「付加価値ファースト」という考え方です。単に人を減らしたり、コストを削減したりすることが目的ではありません。人に付加価値の高い仕事をしてもらうためにムダをなくす。改善を単なるコスト削減で終わらせないための、旭鉄工の判断基準でもあります。
この考え方を、経営の数字にも接続しています。旭鉄工では、IoTで得たサイクルタイムや可動率などのデータを、日々の「ラインストップミーティング」で確認し、現場の改善テーマに落とし込んでいきました。 さらに、改善の進捗やノウハウをボードで共有して横展開し、月次の収支フォロー会議では、現場の改善状況と原価・収益の動きをあわせて確認しています。
つまり、設備停止や待ち時間、サイクルタイムの遅れといった現場の問題を、単なる作業改善ではなく、労務費、生産性、原価、収益に影響する要素として捉え直しているのです。この仕組みによって現場の問題を「改善して終わり」にせず、付加価値労働生産性や損益分岐点といった経営指標にまで反映させて管理できるようにしました。
改善の成果が経営の数字として分かるようになれば、現場のモチベーションも高まります。そして、この仕組みによって、実際に損益分岐点を29億円下げ、同じ売上高で利益を10億円上乗せすることができました。
数字で問題を捉え、現地現物で原因を確認し、それを乗り越えて初めて会社の利益につながる。この一連の流れこそが「儲かるDX」の本質です。

経営者自身の「DXの自分ごと化」から変革は始まる
――「儲かるカイゼン」を実践するためにDXやAIを取り入れたいと考えても、なかなか現場への導入が進まない企業も多いと思います。実際に活用が進む企業との違いはどこにあるのでしょうか。
木村:取り組みがスムーズに進む企業の共通点として、「やらなければならない」という危機意識や、強いリーダーシップを持つ人が中心にいることが挙げられます。
私たちの取り組みに対して「面白い」「すごい」と言ってくださる方は多いのですが、実際に自社で取り入れるかどうかは別の話です。経営者が危機意識を持ち、トップダウンで方向性を示した方がDXは進みやすいという側面もあると思います。
DX推進において最も大切なのは、経営者が腹をくくることです。つまり、現場の行動が変わるまで、自分が変革の当事者であり続けると決めること。DXを自分ごととして捉えず、社員に「やっておいて」と丸投げしていては、うまくいかないケースのほうが多いと思います。
――著書でも「経営者自身がDX人材になること」の重要性を説いていますよね。
木村:そうですね。経営者が人任せにせずトップに立つことこそが、DXを加速させるための鍵だと考えています。
もちろん、技術的な専門知識は詳しい人材に任せればいいと思います。しかし、「何のためにデジタル技術を使うのか」「会社をどのような方向へ変えていくのか」を決めるのは、経営者の仕事です。
経営者に必要なのは、デジタルを理解する感覚と変革をやり切る覚悟です。自分にできる範囲の変革だけでは、大きな成果を得ることはできません。現場の社員が存分に力を発揮するためには、経営者が当事者意識を持って取り組むことが大切です。
高度な知識は不要。「面白そう」から気軽に始めるDX・AI活用
――旭鉄工ではAI活用も進んでいますが、木村さんご自身は、経営者としてどのようにAIを学び、活用を広げてきたのでしょうか。
木村:私は、AIに限らず、面白そうなものがあれば使ってみたいと考えるタイプなんです。例えば最近も、血糖値をリアルタイムで測れる機器を購入し試しています。食べる順番や食べ物によって数値がどう変わるのかを見ると、「なぜ上がったのか」「次はどう変えてみるか」と自然に考えたくなるんですよね。
AIについても同じで、最初から高いレベルで使いこなそうとする必要はありません。近年はたくさんのAIが開発されていますが、あらゆるものをすべて試す必要はなく、まずは「面白そう」と興味を持ち、自分で手を動かして、「こんなことができるんだ」という感覚を持つことが第一歩だと思います。
――AIを社内へ広げるうえで、どのような取り組みをしていますか。
木村:弊社では以前、部長クラスの社員を集め、私がChatGPTの勉強会を開いたことがあります。その勉強会ではWordの文章をAIへ知識としてアップロードするとどのようなことができるのかを実演しました。
目の前で実際に動く様子を見せると、みんな面白がっていましたね。その中から1人でも「面白そうだからやってみよう」と興味を持つ社員がいればいいなと考えています。
現在は「AI経営設計室」という専門部署を中心に、社内へAI活用を広げています。工場で少人数の勉強会を定期開催するなど、社員が自発的に学ぶ動きも出始めました。
――「旭鉄工だからDXやAI活用が実現できたのでは」と感じる経営者の方もいらっしゃると思います。そうした企業が一歩踏み出すために、伝えたいメッセージはありますか。
木村:高いレベルでなくてもとにかくやってみること。そして社員が新しい取り組みを始めたら、邪魔をせず見守ることが重要だと思います。また、最初から必要以上にROI(投資対効果)を求めないことも大切なポイントです。
私自身、DXやAIに関する特別な知識があったわけではなく、便利だと思ったものを試しながら「自社で活かすためにはどうすべきか」を徹底して考えてきました。
そうした実践を通して実感したのは、どんなシステムを入れるか以上に、現場で一番困っている問題を見える化し、現地現物で確認して改善につなげることが重要だということです。そうした目の前の小さな取り組みからでも、十分に成果を出せるのではないでしょうか。
デジタル化で仕事を増やさない。人間が楽になるAI活用のあり方
――新しい技術を試すだけでなく、現場で実際に使われる形にするために、旭鉄工ではどのような工夫をされていますか。
木村:見える化した問題をそのままにしないための工夫として、自社開発のIoTシステム「iXacs(アイザックス)」を活用しています。iXacsでは、設備に後付けしたセンサーなどを通じて、時間あたりの生産数、停止時間、停止時刻、サイクルタイムなどを収集します。旭鉄工では、そこから得た約200本の製造ラインのデータをAIで分析し、改善案を出す仕組みを取り入れています。
AIの活用により、これまで蓄積してきた改善ノウハウがさらに細かく残せるようになりました。人間が情報を記録・閲覧する場合、あまり細かすぎると現場の負担になってしまいます。しかし、AIが読み解くのであれば情報量が多ければ多いほど利便性が高く、より詳細な分析もできると考えています。
今後は、製造部門で培った活用方法を全社へ広げていく予定です。ただ、経営や営業活動の分野ではAIから適切なコメントを引き出すのが難しい部分があり、今も改善を続けています。
――実際に製造現場でDX化やAI活用を進めてきた中で、難しさを感じた点や、大切だと考えていることを教えてください。
木村:難しいのは、DXやAIで見える化した情報を、「人間の行動」につなげることです。AIがいくらデータを分析してレポートを出しても、それを読むだけで現場の動きが変わらなければ意味がありません。
例えば、弊社のツールでは、AIが前日の工場稼働データを巡回し、レポートを作成する機能があります。ただ、指摘が多すぎると現場は読み切れず、対応が後手に回ってしまう。そこで、AIに対して「見つかった課題に◯・△・✕をつけ、✕だけを改善点として挙げてほしい」と指示しています。停止時間やサイクルタイムの遅れなど、本当に手当てすべき問題に絞って示すことで、現場が次の行動に移りやすくなる。アウトプットを極力シンプルにすることで、DXやAI導入によって人間が疲弊するのを防ぐうえでも不可欠です。
DXやAIは、現場の作業負荷を軽減するために使うものです。デジタル化によって人間の作業が増えてしまうのは本末転倒であり、取り組みも途絶えてしまうでしょう。「DXのおかげで仕事が楽になった」「作業のムダが減った」と現場が実感できる状態にすることが大切です。
デジタル化は目的ではなく、あくまでも手段にすぎません。だからこそ、最終的な判断と責任は人間が持つべきだと考えています。経営者自身がその本質を理解し、現場の行動が変わるまで率先して取り組むこと。これこそが、DXを確実な経営成果につなげるための重要なポイントだと思います。
後編では、旭鉄工で年間150人を超える社員から改善報告が寄せられる仕組みに注目し、現場から挑戦が生まれる風土をどのように育ててきたのかについて伺います。
(後編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ
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