新興国ビジネス成功の鍵:組織体制の強化
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本シリーズでは、JICAが中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)の参加企業1,000社以上を対象に行なった調査をもとに特定した「成功企業に共通する12の教訓」に、実践的なビジネスの視点を加え、新興国市場での持続可能なビジネス展開のポイントを3回に分けて解説します。新興国進出を目指す企業にとって、本シリーズが指針となれば幸いです。
目次
SDGs・ESGが企業戦略の中心に
近年、持続可能な開発目標(SDGs)や環境・社会・ガバナンス(ESG)投資が、企業の経営戦略においてますます重視されるようになっています。特に、新興国や開発途上国におけるビジネス展開では、単なる収益追求にとどまらず、社会的課題の解決や持続可能な成長への取り組みが求められています。
SDGsの17の目標には、貧困削減(目標1)、クリーンエネルギーの推進(目標7)、産業と技術革新(目標9)、気候変動対策(目標13)など、途上国でのビジネス展開と密接に関わるテーマが多く含まれています。これに伴い、ESG投資の視点から課題解決に資する事業への関心が高まり、金融機関や投資家からの資金調達の可能性も広がっています。
また、SDGsやESGの視点を事業戦略に組み込むことで、国際機関や政府機関からの支援を受けやすくなるだけでなく、現地コミュニティとの良好な関係構築にもつながります。こうした要素を踏まえながら新興国でのビジネス展開を検討することが、長期的な成功の鍵となります。
一方で、新興国への進出は多くの企業にとって成長の大きなチャンスですが、同時にさまざまなリスクや課題も伴います。日本国内で成功している企業であっても、新興国市場では思い通りにいかないケースが少なくありません。例えば、「現地の市場ニーズに合わず売れなかった」「信頼できるパートナーが見つからなかった」「規制の壁に阻まれた」など、多くの企業が海外展開の壁に直面しています。
しかし、逆に言えば、これらの課題を克服できた企業は、成功の可能性を大きく高めることができます。JICAは、中小企業・SDGsビジネス支援事業を通じて得られた知見をもとに、成功企業に共通する12の教訓を整理しました。今回は、12の教訓(下記の図参照)の中から、教訓1、2にあたる組織体制に関わる重要な要素を取り上げます。
新興国市場は、企業にとって大きな成長のチャンスである一方で、リスクを伴う挑戦の場でもあります。今回取り上げる「海外展開に能動的に取り組む組織体制の構築」 と「経営リソースの確保」は、こうした市場で成功するための基盤となる重要な要素です。
組織体制に関わる2つの重要な要素
教訓1:海外展開に能動的に取り組む組織体制の構築
海外展開を成功させるには、企業内に強力な推進体制を整えることが不可欠です。組織全体が海外事業に積極的に取り組む姿勢を持ち、全社的な協力体制が構築されているかが、成功の鍵となります。また、新興国では入手できる情報が限られており、ビジネス環境が予想以上に厳しい場合も少なくありません。そのため、小手先の対応では解決できない課題や、短期間での解決が困難な問題に直面することもあります。こうした課題を克服するためには、全社をあげた中長期的な関与と投資が求められます。
• 経営層の関与と意思決定の迅速化
海外事業の意思決定をスピーディに行い、戦略を明確にする。
• 全社的な理解と協力
担当部門に限らず、営業、財務、設計など社内全体で協力できる体制を構築する。また、部門横断的な連携を強化し、情報共有を徹底する。
• 長期的な視点
短期的な利益にとらわれず、持続可能な成長を見据えた中長期の計画を策定する。
• 経営リソースの確保
必要な経営資源(人材・資金等)を必要なタイミングで投入できる体制を整える。新興国特有のビジネス環境に適応できる人材を育成する。
【長期的な視点の例】オリオン機械/Orion Machinery Asia Co., Ltd.
オリオン機械は、進出先の酪農事業を推進するにあたり、日本とは異なる時間の流れを理解することが重要だと考え、短期的な効率化や結論を急がず、相手の立場に立って辛抱強く対応する姿勢で事業に取り組んでいる。
教訓2:海外展開を行うための経営リソースの確保
新興国でのビジネスは、想定以上に時間とコストがかかることが一般的です。また、予期せぬ課題も多いため、資金や人材などの経営リソースを十分に確保し、持続可能なビジネスモデルを構築することが重要です。
• 資金計画の策定と国内の収益基盤の整備
長期的な海外展開を継続するために、十分な資金計画を立てるとともに、国内の収益基盤を強化する。特に、予期せぬコスト増加に対応できる余裕を持つことが重要。
• 資金調達ニーズの確認
初期投資資金や運転資金などの必要額を把握し、金融機関からの借り入れの可否も含めて確認する。
• 人的リソースの確保と育成
海外市場への展開には、適切な人材の配置が不可欠。現地の文化や商習慣を理解したスタッフを確保し、必要に応じて現地人材の育成も進める。
• 撤退基準の設定
事業が困難な状況になった場合に備え、許容できる限度額や撤退条件をあらかじめ検討しておく。
• 資金調達の多様化
金融機関や投資家と連携し、補助金や助成金の活用も視野に入れることで、資金調達の選択肢を広げ、経営リスクを分散する。
• 初期投資を抑えたビジネスモデルの検討
自社の経営リソースを考慮し、現地法人設立に限らず、代理店方式や合弁事業、Eコマースの活用など、初期投資を抑えたビジネスモデルの可能性を検討する。
• 持続的な推進体制の構築
社内担当者の異動や変更に左右されない海外展開の推進体制を整える。
【人的リソースの確保と育成の例】キンセイ産業/Kinsei Sangyo Co., Ltd.
キンセイ産業は、現地での販売やメンテナンスは可能な限り現地の人が担うべきと考え、進出国の大学生を日本でインターンとして受け入れるなど、現地で活躍できる人材の育成にも取り組んでいる。
次回は、現地市場での信頼関係の構築や、ビジネス環境に関する実践的なポイントを取り上げます。







