
「チーフアカウンタント」の役割と実務上の注意点
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チーフアカウンタントは、ベトナム法人の会計責任者を指す役職である。日本にはない役職のため、その必要性について誤解されることが多く、適切な人材採用に悩む企業も少なくない。また、チーフアカウンタントに関連する経理不正の事例も年々増加している。本稿では、その役割と実務上の留意点について解説したい。
目次
1. チーフアカウンタントの任命
政令174/2016/ND-CP第20条によれば、企業は会社設立日から12ヵ月以内にチーフアカウンタントを1名任命する必要がある。その任命方法として、図表1の2つの選択肢がある。

会社設立後12ヵ月間は、チーフアカウンタント代理人を採用すれば、チーフアカウンタントの任命は不要とされている。しかし、求められる能力・要件はチーフアカウンタントと同等であることから、結局のところ設立当初より上記いずれかの対応が実務上必要となる点に留意いただきたい。
なお、企業が法令上の「零細企業」に該当する場合、チーフアカウンタントの任命は不要とされている。しかし、実務上は同様の役割を担う会計担当者が必要であることから、零細企業であってもチーフアカウンタントを採用または外部委託しているケースが多い。零細企業の定義は図表2の通りである。

2. チーフアカウンタントの概要と実務対応
チーフアカウンタントの概要と実務上の対応について以下の表をご覧いただきたい。
チーフアカウンタントの主要な業務として、財務諸表・会計帳簿・支払証憑への署名がある。チーフアカウンタントを会計事務所に外部委託する場合、外部委託先は各企業の支払業務に対する承認可否の判断根拠を持たないため、支払証憑への署名はサービス対象外となることが多い。そのため、外部委託を選択した場合でも、支払業務に責任を持って対応できる経理担当者が必要である。
このように、チーフアカウンタントの業務内容は多岐にわたり、加えて法令により各種罰則も明確に定められている。そのため、企業はチーフアカウンタントの責任義務を労働契約書や財務規定などの社内規定に明記しておくことを推奨する。
3. チーフアカウンタント試験の実態
チーフアカウンタントになるには、まず養成講座を受講し、その後の試験に合格する必要がある。養成講座の受講には、会計に関する大学または専門学校の卒業やその後の実務経験といった前提条件があるが、難易度はそれほど高くない。試験問題は定型化された内容が多く、合格率は非公開であるものの、驚異の95~99.9%にも上ると言われている。
つまり、養成講座の受講条件を満たせば、ほとんどの人が合格できる可能性があるため、試験結果が実務能力を正確に反映しているとは言い難い。そのため、チーフアカウンタントを自社で採用する際には、実力や適性を慎重に見極める必要がある。

4. チーフアカウンタントを自社採用する場合の注意点
チーフアカウンタントの自社採用を検討する際には、以下の事項に留意する必要がある。現在の社内体制に問題がないかを含め確認していただきたい。
- ベトナムの会計税務は法令の曖昧な部分が多く、とりわけ外資企業に対する税務調査は厳しいことから、経理に関する経歴を持つ人材を採用することが望ましい。特に、日系企業かつ同業種での経験がある人材が理想的である。
- 過去には、チーフアカウンタントが経理処理を不正し、逮捕された事例がある。そのため、同一人物を長期にわたり雇用する際は慎重な対応が求められる。
- チーフアカウンタントは機密性の高い職務を担うため、社内の他の従業員と血縁関係がある人物の採用は避ける方が良い。
- 退職や産休・育休による欠員が発生する可能性がある。
- チーフアカウンタントで日本語対応が可能なベトナム人は少なく、ベトナム語または英語での対応が一般的である。
- 経験豊富なチーフアカウンタントの給与相場は高い一方、試験の難易度と実力能力は比例していないため、採用面接では、候補者の経験や知識を十分に見極める必要がある。なお、弊社ではチーフアカウンタント採用面接への同席サポートも行っているため、必要に応じてお問い合わせいただきたい。
- チーフアカウンタントの候補者数は他のポジションと比べて少なく、採用活動には一定の期間を確保する必要がある。
- チーフアカウンタントが担当する各種資料(財務諸表や給与計算など)はバックアップをとり、外国人を含む管理者がいつでも閲覧できる状態にしておくことが重要である。
5. おわりに
チーフアカウンタントは、企業にとって経理の要となる重要なポジションである。一方で、チーフアカウンタント試験は誰でも取得できる可能性がある資格であるため、適切な人材の採用は難易度が高く、採用の失敗が不正につながるケースも少なくない。
このポジションは外部委託も可能であるため、会社設立直後は無理に採用を進めず、本業の立ち上げに専念する選択肢も検討に値する。業種によって適切なタイミングは異なるが、ベトナムでの事業運営が安定した段階で、自社採用を検討することを推奨する。








