
インドの成長を取り込む日系企業の活用可能性
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世界各国が注目する国の一つとして、成長著しいインドを挙げることに異論はないだろう。一方で、日本と同じ「アジア圏」として一括りにはできないインドの多様性が、その成長を享受する上で大きな挑戦となる。本稿では、インド市場の基礎的な概観と、日系企業にとっての活用の方向性を示す。
目次
日系企業にとってのインドの活用方向性
急成長するインド市場の魅力と4つの活用戦略
インドの人口が2023年に中国を超えて世界一になったことは記憶に新しいだろう。その14億人に上る人口に支えられ、名目GDPも2023年には3.5兆ドルの世界5位となった(図表1)。今後も高い成長が続くと見込まれ、2050年には人口が16.7億人で世界1位(図表2)、GDPも世界2位になるとも言われている。


これらマクロ経済動向の背景には、拡大する人口の雇用確保と経済の高付加価値化を企図するインド政府の思惑が存在しており、それが翻って日系企業にとってのインドの活用方向性となる。
例えば、2014年から始まった“Make in India”は、国内製造業の振興を通じた雇用と経済の強靭化を図る政策パッケージであり、25の重点分野において国内投資のみならず、FDIの積極的な呼び込みが図られている。製造業の振興はこれらの政策的な後押しが中心となる一方、賃金水準や将来的な拡大が予測されるアフリカ市場に対する地政学的なポジションなどが魅力となり、生産・輸出拠点としてインドへの注目が集まっている。
圧倒的な人口は、単なる生産活動における労働力としてだけでなく、人材ハブとしてのインドの役割の拡大も意味している。また、インドの高度人材の厚さは、国内のイノベーション創出の源泉ともなっている。インドは2014年以降に設立されたスタートアップの数がアメリカと中国に次ぐ世界3位の7万社に達しており、CBインサイツ※1によれば、2024年7月17日時点のインドのユニコーン企業数は70社となっている(図表3)。一方で、インド政府は、2023年10月時点でインドにはすでに111社のユニコーン企業が誕生したと発表している。

アカデミア領域では、インドの2019年から2021年のTop1%補正論文数(分数カウント法)※2において、日本の12位を上回る8位に位置するなど、国際的な存在感を高めている。先端分野の宇宙開発領域では、インド宇宙研究機関(ISRO)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が2023年8月23日に、アメリカ、旧ソ連、中国に続き4ヵ国目となる月面への探査機の着陸に成功するとともに、世界で初めて月の南極に着陸した。これらは、圧倒的な数を強みとした従来のインドの得意とする量的な戦いから、質への転換を着実に遂げていることの証左だろう。
日系企業にとってインドは、高い経済成長を取り込むという①市場としての魅力に加えて、②生産・輸出拠点、③人材活用、④イノベーションの4つの活用可能性が考えられる。
※1 https://www.cbinsights.com/research-unicorn-companies
※2 引用数が上位1%に入る論文の生産への貢献度を示すことで、国別の科学研究力を定量化する指標
https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2023/RM328_42.html
成長市場としてのインド
中間所得層の拡大ポテンシャル
インド政府が発表する2023年度のGVA(粗付加価値)推計値※3を産業部門別に見ると、第三次セクターの比率が最も高く、全体の約55%を占める(図表4)。成長率の観点では、前年比で第一次セクターが5.5%、第二次セクターが8.7%、第三次セクターが9.6%と、第三次セクターがインド経済の牽引役であることがわかる。支出部門別に見ると、家計支出が全体の約60%を占め、内需中心の構造となっている(図表5)。


力強い経済の印象が強い一方、一人当たりGDPは未だ発展途上であることがインド市場の特徴である。インドの一人当たりGDPは約2,500USDであり、ASEAN諸国と比較するとラオスの約2,000USDと大きな差はない。一般的に、一人当たりGDPが5,000USDを超えると自動車普及が加速すると言われているが、一般社団法人日本自動車工業会のデータ※4によると、インドは2022年に四輪車販売台数で473万台を記録し、日本の420万台を上回り世界3位となった。
一方、2021年時点の人口千人当たりの四輪車普及台数で見ると53台であり、自動車大国であるアメリカの880台/千人、日本の622台/千人、中国の208台/千人と比較しても低い水準に留まる。これは経済のドライバーとなる中間所得層以上が未だ限定的であり、インド経済の成長に伴い、さらなる市場拡大のポテンシャルを秘めていることを示す。
インド人の所得別割合を見ると、6,000USD以上の年間所得を持つ中間所得層は3割程度であると言われており、インド市場は未だ特定の層によってのみに牽引されている。一方で、14億人という巨大な人口を持つ市場では、一部の層にリーチするだけでも大きな市場が形成されることがわかる。さらに、インド市場の将来を見通すと、中間所得層以上の人口は2047年には90%程度になると予測されており、市場としてのインドの魅力は明らかだろう。
多様性と規制が鍵を握るインド市場攻略
成長市場としてのポテンシャルがある一方で、日系企業が留意すべきはインド市場の多様性である。例えば、人種では北部のインド・アーリア系、南部のドラヴィダ系、東北山岳部のチベット系など様々な民族で構成され、公用語のヒンディー語の他に、憲法で公認されている州の言語が21ある。つまり、インドは複数の国の集合体として形成されているとも言える。
さらに、多様性に拍車をかけるのが、各民族や宗教がそれぞれ異なる慣習を持つだけでなく、同じ民族や宗教であっても、家庭や個人ごとに慣習が異なる点である。人口の8割をヒンドゥー教徒が占めるといっても、その全てが同一の食事制限を持つわけではなく、完全なベジタリアンは4割、特定の日や肉の種類のみを摂取する層が4割、ノンベジタリアンは2割であるなど、いわゆるマスマーケティングが必ずしも馴染む市場ではない(図表6)。

これに加えて留意すべきは、地域ごとに異なる規制である。インドでは28の州(State)と8つの連邦直轄領(Union territories)からなる連邦制の政治制度を採用しており、インド憲法では、国家としての連邦議会だけでなく、各州の州議会にも立法権が認められている。連邦と州の議会が制定する法律の所管については、インド憲法246条および別表7に定めがあり、連邦のみに立法権があるUnion List、州のみに立法権があるState List、連邦と州の両方に立法権があるConcurrent Listの3つに区分され、州の立法権限の範囲には、税制や事業規制など幅広い領域が含まれる。
ヒンドゥー教による制約があるアルコールを例にとってみても、保守的なヒンディー教徒が多い北部・西部では規制が厳しく、モディ首相の出身地であるグジャラート州はDry State(禁酒州)と呼ばれ、州都ガンディナガルの国際金融特区であるGIFTシティー域内レストランなどを除き、飲食施設でのアルコールの提供に制約がある。一方で、かつてポルトガル領であったゴア州では酒税や飲酒可能年齢も他の州に比べて低く(デリーを含む最も遅い飲酒可能年齢が25歳であるのに対し、ゴア州では18歳)、酒類に対して寛容である。
インドの市場成長ポテンシャルは言うまでもないが、「インド」という全体で議論することはできない。市場成長の恩恵を享受するためには、自社が提供する製品やサービスの価値を、どこの誰に訴求するかを明確に定義することが、市場攻略の重要な要件となることを強く認識する必要がある。
※3 https://pib.gov.in/PressReleaseIframePage.aspx?PRID=2022323
※4 https://www.jama.or.jp/statistics/facts/world/index.html
生産・輸出拠点としてのインド
雇用創出と経済自立に向けた製造業振興
インドの圧倒的な人口規模は前述の通りだが、インドの人口は平均年齢が28歳であり、人口ボーナス期にあることから、毎年1,000万人の労働人口が増加している。さらに、インド人の賃金は中国やタイなど日系の製造業が進出してきた他国に比べて未だ低い水準にある(図表7)。これらのインド独自の要因に加え、中国の地政学リスクも相まって、インドに対する生産・輸出拠点としての魅力度が高まっている。

日系企業からはインドの労働市場としての魅力が認められる一方、インド政府も市場成長の実現に向けた製造業の拡大が大きな課題の一つとなっている。増加する労働人口に対して雇用を生み出し、人口を経済価値化する必要があるため、雇用創出効果の高い製造業に注力している。世界銀行が公表している2022年の労働従事者の部門別割合を見ると、サービス部門が31%、農業部門が43%という水準に対して、産業部門は26%の水準に留まり、GVAの内訳でも製造業は14%と未だ発展途上にある。国内の製造業の振興を通じた雇用と経済の強靭化を図る政策パッケージである“Make in India”が目指す、GDPに占める製造業のシェアを2025年までに25%まで引き上げるという目標には届いていないのが実情である。
インドが製造業に力を入れる背景には、雇用の確保以外にも、輸入依存度の高い経済からの脱却という目的もある。インドは従来から輸入が輸出を上回る経済構造となっており、2023年には2,500億ドルに上る貿易赤字を計上している。主に輸入品目は天然資源が上位に挙がるが、本来であれば国内での製造が期待される機械・電子などの品目についても輸入超過の状況が続いている。労働集約型かつ輸出型の製造業の発展なしには、中高度経済の実現は困難だという指摘もあり、インドが掲げる独立100周年である2047年までの先進国入りには、製造業の強化が必須とも言える。
日系企業の進出を後押しする優遇措置
これらの課題に対して、インド政府は前述の“Make in India”に加え、経済安全保障や輸入依存度の低減を目指す経済・外交の大戦略である“Self-Reliant India”を2020年5月に打ち出し、製造業の振興を強力に推進している。Make in Indiaでは、対外的には基本関税引き上げや輸入規制を行う一方、インド国内へ進出する外資企業に対しては、法人税の引き下げや生産連動型優遇策(Product Linked Incentive、以下「PLI」)スキームを中心とする優遇措置を講じている。日系企業にとっては、高い経済成長の恩恵を受けるためにインドに製造拠点を持つことが必要条件とも言える。
加えて、これまでインド市場進出への大きな足かせとなっていた関税は、2023年度以降に関税率構造の改正の一環として、経済安全保障や製造業の振興に資する重要物資を中心に引き下げが進み、製造業のインド進出に追い風になると評価されている。2024年度の予算案では、携帯電話、部品用プリント基板(PCBA)、太陽電池・パネル製造用の資本財、重要鉱物、皮革・織物、貴金属などの関税率が軽減・免除されることが定められた。
PLIスキームは、国内生産を促す生産連動型優遇策であり、インド国内で製造された製品の売上高の増加分を補助金として企業に支払うものである。携帯電話や電子機器・電子部品の分野を中心に導入された後、国内外での需要拡大に関連する太陽光発電モジュールなどの分野、インド経済への貢献度が高い自動車分野、農家の収入増加につながる食品分野と、その対象範囲を拡大している。
政府のポータルサイトである「Invest India」※5によると、2024年度現在、13の分野(図表8)が対象となっており、日系企業が国際的に競争力を持つ分野が含まれていることがわかる。また、これらの産業拡大に伴い、間接的、横断的に必要となる建機・建設業、物流業、設備・機器産業にも大きなビジネス機会が生まれることが予想される。

インフラ整備と人材確保が課題
一方で、インド国内の製造業の振興には、複雑な法制・税制への対応、用地取得、インフラ整備、人材要件のマッチングなどの課題があり、日系企業の生産拠点の運営にあたっては、インフラと人材が大きな足かせとなるだろう。
インフラの観点では、電力・水・物流それぞれの分野において、そもそもインフラが整備されていないことと、整備されているインフラの品質が問題視されている。水を例に見ると、インドの一人当たり水資源量は1,700立方メートル(㎥)未満で、水ストレス下にあると言われる状態が続いている上、上下水道インフラが未整備もしくは老朽化していることにより、工業用水が手に入らない、もしくは用水の品質が悪いという問題も挙げられる。
人材の観点に目を転じると、インドの労働市場では買い手市場の様相を呈しているが、必ずしも日系企業が求める人材要件に適する人材が獲得できるわけではない。例えば、安価な賃金で製造現場での活躍が期待される人材を求めた場合、農村部の余剰労働力がターゲットの一つとなるが、いわゆる中等教育の就学率の低さも相まって、製造業に従事するには企業側で相応の教育が必要となることを意味する。
これに対し、労働市場において売り手の一つとなる層は高等教育の修了者である。政府の公表※6では高等教育の修了者の2022年度の失業率は全国で7.3%としているが、報道では大卒者の失業率が30%程にも達し、社会問題化しているとも言われている。一方、これらの層は製造現場での就労を望まず、安い賃金を受け入れないエリート意識を持つ場合もあることが課題となる。
ただし、これらの課題に対して政府も手をこまねいているわけではなく、改善が実感として評価され始めている。特にインフラに対しては、これまで思わしい成果を実現できていなかったが、インド政府は2021年にインフラ開発計画である“PM Gati Shakti”を発表し、道路、鉄道、空港、港湾、水路などの複数のモードを包括的に管理・統合することで、全体最適かつ効率的なインフラ整備を目指している。2024年度の予算※7でも、総予算48.2兆インドルピーのうち、利払い費24%に次ぐ11%を交通部門に充てることとされている(図表9)。
人材に対しては、若年層に対する雇用とスキル習得の支援が本予算の重要テーマとして強調されており、製造業における人材確保の後押しとなると期待される。国際協力銀行が行った「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2023年度海外直接投資アンケート調査結果(第35回)-」において、「インフラが未整備」をインドの課題として挙げている企業の割合が低下の一途を辿っていることも、インドの製造・生産拠点としての潜在的な魅力度が現実のものとなっている証左だろう(図表10)。


インド国内の課題が解消されつつあることで、日本企業の製造業がインドの高い成長を刈り取るために、現地での生産・製造拠点の参入を本格的に検討する環境が整い始めていると考えられる。人材獲得が一つの課題となることは想定されるが、インドの人材ケイパビリティを前提としながら、人材獲得が困難な分野では機械化・自動化を組み合わせ、最適な生産・製造ラインを構築することで、その課題にも対応できるだろう。とりわけ日本国内でも人材獲得が困難となっている現状を考えると、インドの生産・製造拠点をグローバルモデルプラントとして昇華させることも一つの手ではないか。
※5 https://www.investindia.gov.in/production-linked-incentives-schemes-india
※6 https://www.mospi.gov.in/sites/default/files/publication_reports/AR_PLFS_2022_23N.pdf (p11)
※7 https://www.indiabudget.gov.in/doc/Budget_at_Glance/budget_at_a_glance.pdf(p.10)
人材活用拠点としてのインド
教育政策が生み出す豊富なIT人材
先に言及した製造業における生産・製造プロセスでの人材活用も重要だが、インドで特に注目すべきは豊富なIT人材である。国別のITエンジニア数を見ると、日本の140万人を超え、インドは300万人に達しており、これはアメリカに次ぐ規模とされている(図表11)。さらに、インドのITエンジニアは、これまで得意としてきた先進国のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などの単純なアウトソースから、高付加価値領域まで対応範囲を広げてきている。インド出身者が世界的なテック企業のトップに就任していることも、インド人材の高度化を示す好例だろう。

インドがITエンジニアの輩出源となっている要因の一つは教育にある。大学進学率は他国に比べて低い2割程度であるが、圧倒的な人口を背景に大学生の数は3,000万人にも達する。さらに、カースト制度などの影響で、情報工学を中心に理工系を選考する学生が多いのも特徴である。このうち、インド工科大学(IIT)などのトップ校の卒業生は、海外のグローバル企業のキャリアを求める傾向が強いが、大卒者の失業率は依然として高く、これらの理工系学生が国内に留まっている現状がある。
これらの人材は、IT人材が不足している日系企業にとって大きな活用機会となる。政策的にも人材開発に積極的に取り組んでおり、2020年7月には「国家教育政策2020」を発表し、「国家教育政策1968(1992年改正)」から32年ぶりの改定となった。国家教育政策2020では、教育カリキュラムや学校制度、規制の変更、教員教育、インフラ整備、資金調達など、あらゆる方面に言及されている。特筆すべきは、職業教育を含む高等教育の総就学率を2035年までに26.3%(2018年)から50%に引き上げるという目標と、「知識詰込み型」教育から「課題解決能力開発型」教育への転換を掲げている点である。これにより、さらに高度な人材がインドの労働市場に投入され、日系企業によるインドの優秀人材へのアクセスが広がることが期待される。
アウトソーシングやSSCとしての人材活用
これらのインドの労働市場環境を前提に、産業界におけるインド人材の活用状況に目を転じると、特に日系企業によるインド人材の活用方向性としてアウトソーシングが考えられる。一般にアウトソーシングといえばノンコア業務のBPOが思い浮かぶが、インドが力をつけているのは開発業務を含む高付加価値業務である。インドの人材供給力とコスト競争力は言うまでもないが、現地のアウトソーシング企業の成長に伴い、IoT・AI・自動化などの新技術への投資も進んでいる。インドのアウトソーシング市場は、Tata Consulancy Services, Infosys, Wiprom HCL Technologies, Tech Mahindraなどの現地大手IT企業の存在感が大きいが、AIの進展は大手IT企業におけるノンコア業務のBPOの収益機会を奪う可能性があり、新技術への投資を通じた高付加価値業務への転換が経営上の大きな課題となっている。
一部の大手IT企業では、新技術への対応を進める中で自動車の組み込みソフトウェアの開発を請け負っており、日系自動車OEMの一部では、パワートレイン領域などで組み込みソフトウェア開発のアウトソーシングが進んでいる。さらに、インドの現地企業が単独で事業領域を拡大するだけでなく、Tech Mahindraと住友商事が共同で自動車エンジニアリング事業会社を設立するなど、日系自動車関連企業にとってインド人材を活用する機会が整い始めている。
アウトソース先としての活用に加え、シェアードサービスセンター(SSC)としての活用も検討に値するだろう。SSCとは、グループ内の各企業に共通する間接業務(人事、経理、ITサポートなど)を1つの組織に集約し、グループ全体で効率的にシェアして運用する仕組みで、企業経営の管理体制強化やコスト削減に加え、業務の専門性・品質向上にも寄与する。
アフリカ市場を見据えた中長期的な成長の獲得に向けて、生産・製造拠点としてのインドの魅力が高まっていることは前述の通りであるが、日系企業がこれまで注力してきた他地域とは異なるニーズを持つインド・アフリカ地域をターゲットとした製品開発を行う場合、生産・製造拠点だけでなく、研究・開発拠点もインドに集約することが考えられる。例えば、日系自動車OEMはこれまで中国やタイを中心とする東南アジアに海外拠点を設立し、その中には開発機能も含まれているが、これらをインドにも広げ、グローバルサプライチェーンの拠点としてインドを位置づけるという構想も描けるだろう。

【COLUMN:アフリカ進出の足がかりとしての活用】
本稿では詳細を言及しないが、インドは中長期的な市場ポテンシャルが見込まれるアフリカ地域への進出を狙う場合の重要な拠点となる。「グローバルサウス」の盟主としてのインドのアフリカ地域に対するポジションや地理的な観点から、インドで生産・製造拠点を設けることは、さらなる自社の成長の試金石とも捉えることができる。
日本に始まり東南アジアで構築したサプライチェーンをさらにインドに広げ、これを中長期的にはアフリカを組み込むことで、インドの生産・製造拠点としての活用は、インド国内の成長のみならず、中長期的なアフリカ地域の成長の刈り取りにも寄与するだろう。

イノベーション拠点としてのインド
米中に次ぐ世界第3位のスタートアップ大国
高度IT人材の活躍の受け皿となっているのが、スタートアップ市場や外資企業を中心とするイノベーションセンターの設置だ。特にイノベーションセンターの取り組みは、日系企業がインドで生産・製造ならびに研究・開発を推し進める際の人材獲得に向けた重要な視点となる。
スタートアップ市場としてのインドは報道でも頻繁に取り上げられているため、読者の皆さんもすでにご存知だろうが、本稿では改めてその概観を述べる。世界最大級のベンチャー企業データベース「Crunchbase」に掲載されている2014年1月1日以降に設立された国・地域別のスタートアップ数を見ると、アメリカの28万社、EUの13万社に次いで、インドは7万社で3位に位置しており、中国の2万社、日本の1万社を大きく上回っている。
さらに、インド政府の主力イニシアチブであるスタートアップ促進策「Startup India」のポータルサイト※8によると、商工省産業国内取引促進局(DPIIT)に登録されているスタートアップ数は2024年9月時点で約15万社に迫っており、その成長ぶりがうかがえる。また、DPIITの下に設立された投資誘致機関「Invest India」のポータルサイトによると、2023年10月時点でインドには111社のユニコーンが存在し、評価額は3,496億7,000万ドルに上るとされており※9、経済産業省の調査※10によると、このユニコーン企業数は、2021年時点でアメリカ、中国に次ぐ3位に位置し、日本の11社と比較しても大きな差がある。
インド政府は多くの雇用機会を創出するために、スタートアップ市場の拡大を重要視しており、エコシステムの整備を通じてその拡大を支えている。スタートアップ・エコシステムとは、スタートアップとそれを支援するプレイヤー(支援政策立案・実施を行う政府機関、資金供給を行う投資家、人材・場所ならびに研究成果を供給する教育機関、市場アクセスや生産力を供給する企業など)が相互補完関係を形成し、スタートアップが継続的に誕生・成長する環境を指す。これにより、持続的なイノベーション創出や経済成長が可能となる。
社会課題解決に向けた日系企業とインドスタートアップの共創

とりわけインドのスタートアップでは、社会課題に取り組むソーシャルテック・スタートアップの存在感が大きく、DPIITによると、推定2万社のソーシャルテック・スタートアップのうち23%がヘルスケア・ライフサイエンス、教育、農業、グリーンテクノロジーなどのセクターにまたがっている※11。日系企業がインドのスタートアップとの協業を考える際、単なる投資収益の獲得機会として捉えるのではなく、スタートアップが見出す社会や市場のニーズ、ビジネスモデルに対して、自社の技術やオペレーション力といった資金力以外の強みを活かし、シナジーを生み出すことが望ましいと考えられる。
代表的な例として、スズキの100%子会社Next Bharatおよびベンチャーファンドの設立や、パナソニック・ライフソリューションズ・インドのアクセラレータープログラム“Panasonic Ignition Programme”の立ち上げなどが挙げられる。こうした取り組みはモデルケースとして評価できるだろう。
グローバル競争力強化のための拠点

イノベーション拠点としての活用は、インドの成長力を自社に取り込むだけでなく、インドで生産・製造や研究・開発を推し進める際の人材獲得にも不可欠な要素だ。インドの優秀な人材は海外志向が強く、エリート意識を持つため、そうした人材を国内ひいては自社に取り込むためには、それに見合う魅力を自社が備えることが鍵となる。グローバル企業の取り組みを見ると、MicrosoftやIBMなどのIT系企業が先行する形で、両社ともに1998年にインドに研究・開発センターを設立し、Microsoftのハイデラバード拠点は本社があるアメリカに次ぐ規模となっている。また、Intel、Google、Amazonも2010年代にインドでR&D拠点・イノベーションセンターを設立し、人材のスキル開発や最先端技術の研究を行っている。インドの人材は仕事に求める要件として、専門性の強化、先進性、給与・待遇を重視する傾向があり、グローバル企業はインドを経営上の重要拠点として位置づけることでこの要件に応え、人材獲得競争に勝ち抜くことを意図していると考えられる。
同様の取り組みを進めている日系企業も存在する。例えば、楽天は2014年にインドにおける高度技術人材の獲得とグローバルなイノベーションハブの創設を目的とした開発拠点「楽天インド」を設立し、2022年には従業員数1,500人規模に達している。さらに、インドを成長戦略の中心に位置づけ、トップマネジメントが従業員や取引先、パートナーに対してそのコミットメントを明示している。製造業では、スズキが2022年にR&Dセンターを設立し、インドの大学やスタートアップとの連携、研究者との交流の強化など、多様な技術系人材が成長できる環境づくりに取り組むとともに、インド市場のみならずグローバルでの競争力を強化する拠点として位置づけている。
インドのイノベーション拠点を含む人材獲得のためには、トップマネジメントのコミットメントに加えて、優秀な人材の海外志向・エリート意識に応えることが課題となる。また、日系企業がインドに進出する際には、優秀な人材に対して適切な報酬を提供できる給与体系や評価制度、教育体制の整備が必要だろう。これらはインド進出に限らず日系企業がグローバル競争で勝ち抜くためには避けては通れない課題である。これらの課題に一つひとつ取り組み、日系企業がインドの成長を活用し、更なる発展を遂げることを願うとともに、インドは真剣に向き合う価値のある市場であることを改めて強調したい。
※8 https://www.startupindia.gov.in/
※9 https://www.investindia.gov.in/indian-unicorn-landscape
※10 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/004_03_00.pdf
※11 https://www.startupindia.gov.in/content/sih/en/reources/startup_india_notes
【COLUMN:スタートアップハブとして台頭するベンガルール・ハイデラバード】
インドのスタートアップハブとして在感を示しているのは、ベンガルールとハイデラバードである。ベンガルールは、軍需産業の拠点であった歴史を背景に理系高度人材が集積しており、ITソフトウェア産業の発展に伴いグローバル企業の研究開発拠点が設置されたことで、人材や資金面での強みを持っている。一方、ハイデラバードは、グローバル企業のR&D拠点の進出が進んでいるだけでなく、インド工科大学のハイデラバード校やインド商科大学院をはじめとする国内有数の教育機関を有している。また、テランガナ州のエコシステム形成に向けた強力なリーダーシップも特徴である。

【COLUMN:インドの主要都市が持つ多様性の比較】
本文で述べた通り、インドは地域ごとに異なる特徴を持つ多様性がある。その多様性を、主要4都市の地理・文化・経済の観点から比較する。
・デリー
8つの連邦直轄領の1つであり、インド経済の中心的な役割を担う。サービス業を中心とした産業構造であり、多くの日系企業が進出。
・ムンバイ
インド西部・マハーラーシュトラ州の州都であり、インドの最大の金融都市。金融機関の他、国内外の大手企業の拠点でもある。
・コルカタ
インド東部・西ベンガル州の州都であり、英領インドの首都時代から工業が盛ん。市域の人口密度はデリーやムンバイ以上。
・チェンナイ
インド南部・タミル・ナードゥ州の州都であり、南インドの玄関口とも呼ばれる。各国の自動車メーカーとその関連企業が進出。


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