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紛争回避のための業務委託契約の実務ポイント その3

紛争回避のための業務委託契約の実務ポイント その3

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タイ現地のパートナーや代理店との業務委託における紛争を回避するために、契約で定めておくべき条項として、前回までに当事者、契約の目的、期間、業務内容、報酬や再委託、債務不履行について解説してきました。今回は、成果物の権利、競業禁止義務、守秘義務、準拠法、紛争解決手段について説明します。

10. 成果物の権利

受託者に依頼した業務の結果として、著作権や特許権などの知的財産権の取り扱いが問題となる場合には、成果物に関する権利が委託者に帰属するのか、受託者に帰属するのか、その条件を明確に定めておく必要があります。

委託者の依頼に基づき、一定のサービスや成果物を受託者が作成する契約である以上、成果物の権利は委託者である日本企業に帰属すると定めるのが一般的です。もっとも、成果物の権利が委託者に帰属するのであれば、その作成に必要な情報や材料の提供については、委託者が負担すべきとするのが公平です。したがって、成果物に必要な経費や材料について、どちらが負担するかも契約上明確にしておく必要があります。

11. 競業避止義務

業務委託契約においては、契約期間中および終了後の競業避止義務を定めることも珍しくありません。ただし、受託者は従業員とは異なり、委託者のためだけに業務を行うものではないため、一方的に競業を制限することは難しい場合があります。そのため、競業避止義務を設ける場合には、当事者間で十分に協議し、合意の上で契約内容を明確に定めることが重要です。

12. 守秘義務

業務委託契約は、一回限りの契約とは異なり、一定期間にわたって継続することが想定されます。また、委託者が業務の遂行を受託者に委ねる以上、業務に必要な情報が委託者から受託者に開示されることも前提となります。したがって、守秘義務条項は非常に重要な条項となります。ただし、守秘義務を過度に厳しく定めると、業務の円滑な遂行を妨げるおそれもあるため、実務上のバランスを考慮して定めることが望まれます。

(1)守秘義務条項の対象となる情報

守秘義務の対象となる情報として、以下のように定めることが一般的です。

(i) 当事者およびその業務に関するすべての情報
(ii) 業務委託契約の履行に必要なものとして開示された情報
(iii) 当事者が秘密情報と指定した情報
(iv) その他当事者が指定した情報

このうち、(i)から(iv)に進むにつれて対象範囲は徐々に限定されていきます。たとえば、(i)のようにあらゆる情報を守秘義務の対象とすると、範囲が広すぎるとの懸念があります。一方、(iii)のように当事者が秘密情報と指定した情報のみに限定すれば、当事者の意向を反映しやすい反面、日々の業務の中で都度秘密情報にするかどうかを判断しなければならず、円滑な業務遂行を妨げる可能性もあります。そのため、案件ごとに、どの範囲を守秘義務の対象とするかは検討する必要があります。

(2)守秘義務条項の例外規定

上記のように守秘義務の対象範囲を定めたうえで、守秘義務条項の適用除外規定を設けることも一般的です。この適用除外規定には、主に以下の2つのケースがあります。

(a) 守秘義務の対象となる情報についての例外を定める場合
(b) 秘密情報の開示先についての例外を定める場合

(a) 守秘義務の対象となる情報についての例外

守秘義務の対象から除外される情報として、一般的には次のようなものが挙げられます。

(i) 開示・受領の時点で既に 公知であった情報
(ii) 第三者から秘密保持義務を 負うことなく適法に取得した情報
(iii) 相手方から開示された時点で、 既に自ら保有していた情報
(iv) 相手方から取得した情報を使用 せずに、独自に開発した情報

(b) 秘密情報の開示先についての例外

秘密情報の開示先に関する例外としては、グループ会社や外部の専門家(弁護士、会計士、税理士、コンサルタントなど)、および行政当局や司法機関などを定めることが一般的です。もっとも、上記のような守秘義務を設けていたとしても、漏洩時の自社に対するリスクが高い情報を扱う業務については、業務委託の対象とせず、自社で直接対応すべきと判断される場合もあります。

13. 準拠法

タイ法上、契約の準拠法をタイ法にしなければならないという規定はなく、当事者間の合意によって自由に定めることができます。したがって、日本企業である委託者と、タイ法人である受託者との間で、合意により準拠法を選択することになります。このような場合、準拠法としては以下のような選択肢が考えられます。

• 委託者の設立準拠法である日本法
• 受託者の設立準拠法であるタイ法
• 両者の設立準拠法とは異なる第三国の法律

いずれも合理的な選択ではありますが、実務上はいずれか一方の当事者の設立準拠法を採用するのが一般的です。

たとえば、受託者がタイ法人であっても、その親会社が日本法人であり、実際の判断や交渉が日本法人間で行われるようなケースでは、日本法を準拠法とする選択も合理的であると思われます。

一方で、受託者がタイ法人であり、業務もタイ国内で行われることが想定される場合には、実務上、不可避的にタイ法が適用される場面も想定されます。そうであれば、契約書の準拠法としてタイ法を選択することも、合理的な判断といえます。

14. 紛争解決手段

紛争解決手段は、大きく分けて裁判と仲裁が想定されます。この選択は、準拠法とあわせて検討する必要があります。

準拠法を日本法としつつタイの裁判所を、または準拠法をタイ法としつつ日本の裁判所を紛争解決手段として定めることは、各裁判所の法的機能を踏まえると、実務上は合理的ではありません。そのため、準拠法を日本法とする場合は日本の裁判所または仲裁を、準拠法をタイ法とする場合はタイの裁判所または仲裁を選択するのが一般的です。

(1) 裁判を選択する場合

委託者である日本企業がタイ法を準拠法とし、タイの裁判所を紛争解決手段としたとしても、日本企業にとって著しく不利益になることはないと考えます。タイの裁判所においては、タイ語で対応しなければならないという負担はあるものの、日本企業というだけで不利益な判断をされることはなく、きちんと主張と証拠を揃えれば、日本企業にとっても有利な判決を得られる可能性は十分にあります。

もっとも、仮に裁判で勝訴判決を得たとしても、基本的にその執行は国をまたいで行うことはできません。たとえば、日本で勝訴判決を得たとしても、その判決内容に従って相手方の財産への強制執行を行おうとする場合は、相手方の所在地の裁判所において、執行裁判を提起する必要があります。

また、裁判になると、公開の法廷で争われることになりますし、言語の問題もあります。

(2) 仲裁を選択する場合

ニューヨーク条約に加盟している当事者間であれば、仲裁判断の執行に関する問題がなく、また、非公開の場所で英語により手続を進められるというメリットもあるため、仲裁を利用することも考えられます。仲裁は、国籍の異なる当事者間の紛争解決手段としても珍しくありません。

仲裁を選択する場合、どの仲裁機関を利用するかが重要な検討事項となります。日本企業が委託者であり、タイ企業が受託者である場合、東南アジアにおいて圧倒的な実績を誇るシンガポール国際仲裁センター(SIAC)が第一の候補となります。また、タイ国内にもThailand Arbitration CenterやThai Arbitration Instituteといった仲裁機関があり、いずれも利用可能です(図表1)。

なお、仲裁を利用するには、事前に当事者間で合意しておく必要があるため、契約書内に仲裁合意を明記しておく必要があります。利用する仲裁機関ごとに定型文が用意されていますので、それを参考に定めるとよいでしょう。

図表1 主な仲裁機関

おわりに

これまで全3回にわたり、タイでの業務委託契約において定めておくべき条項について解説してきました。それらの項目と確認すべきポイントを整理したものが、図表2になります。

図表2 業務委託契約チェックリスト

タイでは、日本とは異なる商習慣や法制度が存在するため、契約内容に曖昧な部分があると、後々のトラブルにつながる可能性があります。特に現地のパートナーや代理店との間では、各条項を十分に精査し、双方の認識にズレが生じないよう、丁寧な調整と合意形成を行うことが重要です。

将来的な紛争や誤解を防ぐためにも、図表2を参考にしつつ、契約書の内容については現地の専門家とも連携しながら、慎重に進めていただくことをおすすめします。

執筆者
安西 明毅
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
バンコクオフィス代表 弁護士

2004年に同年にアンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業に入所。駐在経験のあるマレーシア・タイを中心として海外における日本企業による進出および進出後の一般企業法務、コンプライアンス、労務・紛争・不正調査案件ならびに金融案件を扱っている。

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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業では、日常的な企業法務相談、M&A、会社法、金融取引から事業再生、訴訟、税法に至るまで、各分野の専門家チームを組成し、国内案件のみならずクロスボーダー案件についても、海外拠点または関係の深い海外法律事務所を通じて、ワンストップで対応します。