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ASEANにおける日系企業の基盤強化とGXの重要性

ASEANにおける日系企業の基盤強化とGXの重要性

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前回は、日系企業がグローバルな製造・輸出拠点を整備する中で、ASEAN域内に裾野の広いサプライチェーンを形成し、Win-Winの関係を築きながらASEANからの信頼を獲得してきた背景を述べた。今回は、これまで築いてきた産業基盤を時代の要請に合わせてアップグレードする必要性とその方向性について解説したい。

国際事業環境に合わせた産業アセットのアップグレード

日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)の各国に、他国に先駆けて進出し、資本の投下や人材育成を通じてローカル企業とも連携しながら、裾野の広い産業集積を共創し、ASEANが掲げる外資・輸出主導型経済を一緒に具現化してきたことについては、これまでの記事で述べてきた。しかし、築かれた産業基盤が今後も競争力を維持するためには、国際情勢に合わせて常にアップグレードする必要がある。

 

こうした中で近年、急速に事業環境を変えているのが気候変動問題であり、特にグローバル企業は、各所からの要請を踏まえ、生き残りをかけて自らのGreen Transformation(GX)に取り組む必要がある。具体例として、第一回の記事でもAppleが主要サプライヤーに対し、2030年までに納入部品の製造などに使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替えるよう要請していることに触れたが、主要な最終輸出地の政府機関による制度的措置の動きも見逃せない。

 

例えば、欧州連合(EU)は域内企業との公平な競争環境を確保する観点から、域外から輸入される鉄鋼やアルミ、ネジなどの関連製品に対し、製造時の温室効果ガス(GHG)の排出量に応じて、EU域内の炭素価格との差額を課金する越境炭素調整措置(CBAM)の導入を2026年初頭から予定している(図表1)。また、CBAMの本格実施に先立つGHG排出量の報告義務については、すでに2023年10月から開始しており、特にEU向けに鉄鋼製品を多く輸出するベトナムを中心に、ASEAN域内の企業もその対応に追われている。

図表1 企業のカーボンニュートラルに向けた基本方針(イメージ)

今後、こうした措置が本格的に動き出せば、GHG排出量が製品の競争力に大きく影響することになるが、ASEAN域内における企業のGXに向けた取り組みは、先進国と比較して遅れている※1。したがって、ASEANが輸出主導型経済を堅持していくためには、官民が一体となってGX推進の取り組みを進める必要があり、多くの日系企業が域内に投資している日本も、自分事としてASEANのGXに積極的に関与することが重要である。

 

※1例えば、再エネ電力調達100%を目指すイニシアティブであるRE100の加盟企業の各国における2023年の再エネ調達比率は、欧米では7割を超えているのに対し、ASEAN域内では約3割に留まっている(2023年実績)。

 

ASEANでのGX実現に重要な可視化・省エネ・再エネ

企業がGXを実現するために何を行う必要があるのかについて、企業がカーボンニュートラル(CN: Carbon Neutral)を達成するまでのプロセスを一般化した図(図表2)を用いて説明したい。まず、CNを目指すにあたって最初に取り組むべきことは、自社のGHG排出量を可視化することである。どのような経済活動から、どの程度のGHGが排出されているのかを正確に把握することは、CN達成に向けたロードマップの策定や、その後の効率的かつ効果的なアクションを行ううえで非常に重要である。

図表2 企業のカーボンニュートラルに向けた基本方針(イメージ)

 

次に実施すべきは省エネの推進であり、その取り組みは大きく二つに分けられる。第一に、LEDなどよりエネルギー効率の高い製品を導入することによる省エネ化。第二に、新たな設備投資を伴わず、運用のカイゼンなどを通じて無駄なエネルギー使用を削減する取り組みである。その後は、電力由来のGHG排出量を削減するために再生可能エネルギーなどのクリーン電力を導入し、最後に最も削減が困難な燃料由来のGHG排出量を、水素やバイオマスといった脱炭素燃料への転換によって削減・置換することでCNを達成する、というのが一般的なステップとなる。

こうした中で、先進国のような手厚い政府補助金などが見込めないASEANにおいて、早期にGHG排出量の削減を実現するためには、費用対効果の高い「可視化」「省エネ」「再生可能エネルギー(グリーン電力)」の3分野に特に集中的に取り組むことが重要であると考えられる。

GX分野で寄せられる日本への信頼と期待

各取り組みの詳細や推進にあたっての課題、および解決策については、次回以降で人材育成を中心に紹介する。最後に、ASEANから見たGX分野での日本に対する信頼と期待について触れたい。シンガポールのユソフ・イサーク研究所(ISEAS)がASEANの人々を対象に実施したアンケートでは、①GX分野のイノベーションを牽引する国、②ASEAN各国のGX推進において主導的な役割を果たし得る国、のいずれの質問においても日本が首位の座に君臨している(図表3)。

図表3 GX分野におけるASEANからの日本に対する信頼と期待

 

このようなASEANにおける日本のブランド力を最大限に生かしつつ、GX分野で積極的に取り組むことで、日本は国際競争力を維持・強化すると同時に、ASEANへのGX関連製品や技術の展開を進め、新たな時代においてもWin-Winの関係を構築していく必要がある。

執筆者
藤岡 亮介
日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)
事務局長

2013年経済産業省入省。入省後エレクトロニクス産業の振興、イラン等の中東・アフリカ諸国との関係強化、電力システム改革、エネルギー分野の国際協力、水素・分散型エネルギーシステムの推進等などの各種エネルギー政策に従事した後、2022年より現職。

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)のロゴ
日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)

日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)は、日本とASEAN間の経済・産業協力の推進や、ASEANに新たに加盟した国(当時)への支援等を目的として、1998年に経済産業大臣及びASEAN各国の経済大臣をメンバーとして創設された国際事業体。事務局はバンコクに設置され、日本政府からの各種拠出金で専門家会合開催、調査実施、人材育成及び実証支援等を実施。