
ベトナムからのフルリモート勤務 家族帯同とキャリア継続両立のカギ
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コロナ禍以降、ベトナム駐在に帯同する配偶者のフルリモート就労に関する問い合わせが急増している。これまで、帯同とキャリア継続の両立は難しいとされてきたが、リモートワークの定着や企業規程の柔軟化により、日本雇用のまま海外で働く事例が確実に増えている。本稿では、ベトナム帯同を前提に、日本雇用のままフルリモート勤務を行う際の留意点について解説する。
目次
日本出国時の整理
日本雇用のままベトナムでフルリモート勤務を行う例として、ご主人の駐在が決まった際に、奥様が日本での雇用契約を維持しつつ、家族全員でベトナムへ移住するケースがある。最近では、逆に奥様の駐在にあわせて、ご主人がフルリモートで帯同する例も見られる。こうした動きは、働き方の多様化を象徴するものである一方で、在留資格、労働許可、個人所得税などの課題を無視することはできない。
配偶者が家族帯同で日本を出国し、日本の非居住者となる場合、引き続き日本企業に雇用されていても、出国時に年末調整を行う必要がある。これは通常の年末調整を出国のタイミングで別途実施するものである。2ヵ所以上から給与を得ている場合や、年間収入が2,000万円以上ある場合など、確定申告が必要なケースでは、準確定申告を行うか、納税管理人を選任して代理で確定申告を行ってもらうことになる。出国時の年末調整の取扱いは、出向者と同様であり、日本の社会保険についても継続加入が可能である。

ベトナムのビザ・労働許可証
出向者の場合、一般的にはベトナム法人からの招聘状に基づき商用ビザを取得して入国し、同時に労働許可証を申請・取得する。その後、商用ビザをレジデンスカード(もしくは就労ビザ)へ切り替えるのが通常の流れである。出向者の家族は、出向者のレジデンスカードに紐づく家族帯同ビザで入国する。配偶者が日本企業の雇用契約を維持したまま、あるいは業務委託契約によりリモート勤務を行う場合、ベトナムでの労働許可証の取得は不要であり、ビザは家族帯同ビザとなる。
労務面では、形式上はベトナムで労働する者に対して労働許可証の取得が求められているが、ベトナムからリモートで業務を行う場合は雇用主がベトナム国内に存在せず、報酬も国外で発生するため、労働法上は取得の対象外とされる。
一方、税務面では、雇用主の所在国や給与の支払元にかかわらず、配偶者本人がベトナム居住者に該当する場合は納税義務を負う。そのため、ベトナムからリモートで業務を行う場合、所属企業の所在地や給与支払の発生場所、収入の通貨に関係なく、全世界所得が課税対象となり、ベトナムで所得税の申告・納付義務が生じる。
労務と税務の取扱いの違いは、図表1のとおりである。
ベトナム入国後の税務関係
「日本」の税務
ベトナム入国後に日本での課税が発生するかは、配偶者の日本における居住・非居住の判定、勤務場所、そして業務内容によって判断される。基本的には、日本国内で行う業務が日本国内源泉所得とされるため、ベトナムからリモートで業務を行う場合には、日本での課税対象とはならないと考えられる。
一方で、一時帰国中に日本で勤務した分や、日本法人から受け取る役員報酬については、20.42%の源泉課税が行われる。また、ベトナム滞在中に賞与が支給される場合でも、その賞与の対象期間に日本での勤務日が含まれている場合には、その勤務相当分に限り20.42%の源泉課税が適用される(図表2)。
さらに、家族帯同のケースで、配偶者が日本企業との雇用契約から「業務委託契約」に変更する場合も、原則として業務が日本国内で行われない限り、日本の源泉所得には該当しない。そのため、ベトナムからリモートで日本企業に成果物を納品する場合、日本での課税は発生しない。ただし、一時帰国時に日本国内で業務を行った部分については、日本国内源泉所得として、日本企業が報酬支払時に20.42%の源泉徴収を行う必要がある。

「ベトナム」の税務
上述のとおり、ベトナムからリモートで業務を行う場合、労働許可証の取得は必要ないものの、ベトナム居住者に該当するため、全世界所得に対してベトナムで納税義務が発生する。ここでは、ベトナムの個人所得税に関する基本的な考え方と手続きについて説明する。
ベトナム居住者・非居住者
図表3のいずれかに該当する場合、ベトナムにおける居住者とみなされ、全世界所得が課税対象となる。家族帯同ビザでの滞在であっても、日本企業に雇用され、日本の銀行口座に給与が振り込まれている場合でも、この判定に影響はない。
一方、図表3のいずれにも該当しない場合は、ベトナム非居住者となる。法令上の明確な定義はないが、実務上はレジデンスカード(家族帯同ビザ)を保持している場合、居住者と判断されることがある。そのため、183日未満の滞在でレジデンスカードを保有している場合は、海外の居住証明書を取得しておくことが望ましい。

税率
ベトナムの居住者には、全世界所得に対して5%から35%の累進課税が適用される。一方、非居住者には、ベトナム源泉所得に対して一律20%の課税が行われる。本稿をご覧の方の多くは、ベトナム居住者に該当するケースと想定される。
給与を円などの外貨で受け取っている場合は、給与支給日のベトナム商業銀行の為替レートを用いてベトナムドンに換算し、その金額を基準に税率が決定される。参考として、図表4に円換算金額別の税率目安を示すので、ご自身の課税水準をイメージしていただきたい。

申告方法
ベトナムからリモートで業務を行う場合、ベトナム法人に所属していないため、申告および納税は「個人」として行う必要がある。個人で申告を行う場合は、海外で受け取る四半期分の給与をまとめて、各四半期の翌月末までに申告する。たとえば、1月・2月・3月に受け取る給与は、4月末までに申告することとなる。
また、暦年(1月〜12月)の所得については、翌年4月末までに確定申告を行う。入国初年度におけるベトナム滞在期間が暦年で183日未満の場合は、入国月から起算して12ヵ月間の課税所得を計算し、その12ヵ月が経過した日から90日以内に確定申告を行う必要がある。
本帰国の際は、帰国する年に暦年で183日以上滞在しているベトナム居住者のみ、帰国日から45日以内に確定申告を行う必要がある点にご留意いただきたい。

ベトナムにおけるPE(恒久的施設)リスク
ベトナムにおけるPE(恒久的施設)とは、外国法人がベトナムで事業を行うための拠点を指し、支店や事務所、工場、建設現場などの固定的施設のほか、ベトナムで183日を超えてサービス提供を行う「サービスPE」、ベトナムで契約締結権を有する「代理人PE」などが含まれる。
家族帯同の配偶者が、日本本社との雇用関係を維持したままベトナムの自宅でリモートワークを行う場合、通常はこれらのPE要件には該当しない。主な理由としては、自宅が会社の事業用施設とみなされにくいこと、配偶者がベトナムにおいて契約締結権を持たないこと、またベトナム国内の顧客に対してサービスを提供していないことなどが挙げられる。
おわりに
近年、リモートワークの普及により、海外駐在に帯同する配偶者もキャリアを継続できる環境が整いつつある。しかし、税務に関するルールを十分に理解しないまま就労を続けると、本人の意図に反して「無意識の脱税」とみなされるおそれがある。本稿が、制度理解や必要な手続きの確認に役立ち、安心してキャリアを継続する一助となれば幸いである。
なお、ベトナムでの税務手続きはすべてベトナム語で行う必要があり、個人で完結させるのは現実的に難しい。対応にあたっては、信頼できる専門家に相談しながら進めることが望ましい。
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