アサーションとは?取り入れるメリット・トレーニング方法を解説
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会社にはさまざまな人が集まります。人が集まれば、どうしても生まれてしまうのが軋轢や誤解です。それらを避けるためのコミュニケーション技法がアサーションです。この記事では、アサーションの具体的な意味や職場に取り入れることで得られるメリット、実践的なトレーニング方法、導入の手順について詳しく解説します。
目次
アサーションとは自他を尊重するコミュニケーション手法のこと
アサーションとは、相手を尊重しながら自分の意見を主張するコミュニケーション手法のことです。これは「ゆるやかな自己主張」とも呼ばれ、自己主張を行いつつ、他者の立場や感情にも配慮するバランスの取れたアプローチです。
元々は1950年代にアメリカで生まれた心理療法のひとつで、自己主張が苦手な人に向けたカウンセリング技法として発展しました。1960~70年代には公民権運動や女性解放運動に取り入れられることで市民権を獲得し、社会的にも広く認知されるようになりました。
日本へは、1980年代に心理学者の平木典子氏が著作や講演などを通して紹介し、主にビジネスや教育の現場でも導入されるようになりました。現在では、職場における円滑なコミュニケーションを促進するための有効な手法として注目されています。
アサーションの必要性
2000年代以降、アサーションが再び注目を集め始めるようになった背景には、いくつかの職場環境の変化があります。
テレワーク・リモートワークの普及
まず挙げられるのが、テレワークやリモートワークの普及です。働き方の多様化とコロナ禍の影響により、出社しない働き方が広まり、企業も柔軟な働き方を取り入れるようになりました。しかし、オンライン上のコミュニケーション、特にチャットやメールなどでは、相手の表情や感情などが伝わりにくく、意思の疎通にも支障が生じがちです。その結果、誤解や摩擦が生まれやすく、効果的なコミュニケーションの手法が求められるようになりました。
例えば、パーソル総合研究所が行った定量調査では、テレワーカーの約4割がコミュニケーションに対する不安を感じていることがわかっています。
(参照元:パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」)
これらの問題へ対処するために、相手の状態に配慮しつつ自分の意見を伝えるアサーションが、職場でのスキルとして重要視されるようになりました。
ハラスメント防止の強化
育児介護休業法の改正やパワハラ防止法の施行など、ハラスメントに対する意識も変化してきました。そうした社会情勢の変化を受けて、多くの企業がハラスメント防止対策を強化し、予防のための研修を実施しています。しかし、研修内容が表面的なものにとどまり、実際の行動に結びついていないケースが多いという現実もあります。
実際、厚生労働省が2023(令和5)年に行った調査でも、パワハラなどの相談件数は過去3年間でほぼ変わっていないとの結果が示されています。
(参照元:令和5年度 厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)
このような課題に対し、アサーションは効果的な解決策となり得ます。アサーションは、相手の感情や意見を尊重しつつ自分の意見を適切に伝えるコミュニケーション技術です。これを活用することで、職場環境の改善やハラスメント防止につながると期待されています。
メンタルヘルスの改善と予防
仕事や人間関係などの影響で、メンタルヘルスに不調をきたす人が増えています。厚生労働省が2023(令和5)年に行った調査でも、2020(令和2)年以降、精神障害の労災補償状況は増加傾向にあることがわかっています。そのきっかけとなった出来事の中で特に多いのは、上司や同僚とのトラブル、いじめといった対人関係の問題です。
(参照元:厚生労働省「精神障害の労災補償状況」表2-1)
多くの職場には、自己主張が苦手でストレスを溜めがちな「ノン・アサーティブタイプ」と呼ばれる社員がいます。そうしたタイプの社員がアサーションを学ぶことで自己主張の方法を習得すれば、ストレスが軽減され、メンタルヘルス改善にも大きく役立つと考えられます。
アサーションを取り入れるメリット
アサーションを取り入れることで具体的にどのような効果があるのか、今ひとつイメージが湧かないという人も多いでしょう。アサーションは職場環境の改善や業務の効率化に大きく貢献します。ここからは、主なメリットを3点紹介します。
価値観や立場の違う相手と対等に関わりやすくなる
仕事においては、上司や部下、同僚、協力会社、取引先など、価値観や立場の違う相手との関わりを避けられません。そうした状況で必ず生じるのが意見の対立です。自己主張ばかりしていても、また逆に遠慮ばかりしていても、良好な関係を築くことは難しくなります。良好なコミュニケーションのためには、相互理解を深め、誤解や摩擦を減らすことが不可欠です。
アサーションのスキルを身に付ければ、伝えたいことを正しく、不快感を与えずに伝えられるようになります。そのため、年齢や立場の違いなどによる価値観のギャップがあっても対等に意見を交換でき、相手と健全かつ長期的な関係を築けるようになります。
人間関係を円滑化できる
アサーションの取り組みは職場のコミュニケーションを大きく改善します。なぜなら、アサーションを意識することで、相手の感情を尊重しながら自分の意見を適切に伝えられるようになるからです。
例えば、自己主張が強すぎると、攻撃的なコミュニケーションになりがちです。相手との関係を損なわないためには、どのような態度や言い方が攻撃的なのか、よく理解しなければなりません。
アサーションを身に付けることで、相手を不快にさせることなく自分の意見を主張できるようになり、職場内の人間関係も良好な状態を保てます。また、言いたいことを我慢せず適切に表現できれば、対人関係におけるストレスも減少します。
組織の生産性向上につながる
アサーションを意識して職場のコミュニケーションが改善されれば、生産性の向上にもつながります。コミュニケーション不足は、伝達ミスや認識のズレを引き起こし、業務の効率を低下させる要因です。アサーションを実践することで、これらの問題が解消され、仕事がスムーズに進行します。万が一トラブルが生じた場合にも懸念点や問題点を適切に伝えられるため、迅速な対処が可能です。
また、職場のコミュニケーション改善は、従業員同士や上司との信頼関係の強化、そしてイノベーションの促進やモチベーションの向上にもつながります。信頼が深まることで、従業員は主体的に仕事に取り組み、チーム全体のパフォーマンスが向上します。その結果、組織全体の生産性が向上し、企業の成長にも寄与するでしょう。
アサーションの具体的な活用シーン
アサーションの重要性を認識していても、職場で実際にどのように活用すればよいのかがイメージしにくいという方は多いでしょう。例えば、以下のような場面でアサーションを意識することが大切です。
人事評価
人事評価を伝える際には、言いにくいことを伝えなければならないケースも多く、そのような状況でアサーションスキルを活用することは非常に有効です。アサーションを身に付けることで、相手を傷つけずに自分の意図を伝えられます。また、不用意に相手を傷つけたり、逆に傷つけることを恐れて回りくどい言い方をしたりすることも避けられます。
さらに、アサーションは人事評価を伝えられる側にも有益です。アサーションが社内に広まっていると、職場の心理的安全性が高まり、評価を伝えられる側もその内容を受け入れやすくなるからです。心理的安全性の高い組織では、ポジティブな発言だけでなく、改善が必要な点も伝えやすくなり、オープンな対話が促進されます。そのため、人事評価を伝えられる側も心に余裕を持って評価を受け入れ、次へと活かせます。
採用面接
採用面接では、担当者が高圧的な態度を取って応募者が委縮してしまう状況が起こりがちです。しかし、人材不足が社会問題となっている昨今、そのような採用面接をしていると優秀な人材を逃しかねません。そこで活用すべきなのが、アサーションです。例えば、質問をする際に相手の意見を尊重し、圧迫感を与えないよう配慮するといった形で活用できます。
採用担当者は、採用となった応募者が入社後に力を十分発揮できるよう、面接の段階から努める必要があります。また、仮に応募者が不採用の場合でも、何らかの形で関係が続くことを考慮しなければなりません。アサーションを用いることで、応募者に対しても礼儀正しく敬意を払ったコミュニケーションが可能となり、未来のつながりやポジティブな印象を残せます。
営業・CS(カスタマーサクセス)
営業活動では、顧客や取引先といった立場の違う人たちと円滑にコミュニケーションを取らなければなりません。良好な関係構築と効果的な交渉にも、アサーションが役立ちます。例えば、顧客や取引先から無理難題を突きつけられた場合でも、自社の立場を尊重しながら適切に意見や条件を伝えたり、相手の状況を理解しつつ建設的に自社の対案を提示したりできます。
また、アサーションはCS(カスタマーサクセス)にも有効です。CSは、受動的に顧客のニーズや要望に応えるのではなく、主体的に「顧客の成功」を支援する活動です。相手との対等な関係構築につながるアサーションを活用すれば、先手を取ったコミュニケーションができ、強い信頼関係を築けます。
アサーションにおける自己表現の種類
アサーションを活用する際、あらかじめ理解しておく必要があるのが、自己表現の種類です。アサーションでは、自己表現には以下の3つのタイプがあるとされています。
アグレッシブ(攻撃型)
自分の権利や欲求を主張し、他人に対してあまり配慮しないタイプの自己主張です。このタイプの自己主張をする人がいると、組織内で軋轢が生じやすくなります。自己中心的な言動が多く、勝ち負けで物事を決める傾向があるからです。自分の意見を主張するために威圧的になり、相手を批判することも少なくありません。
特に注意すべきなのは、上司がこのタイプの自己主張をするケースです。何らかのハラスメントを起こし、対処が必要となることもあります。
ノン・アサーティブ(非主張型)
自分の意見を伝えるのが苦手で、自己主張ができないタイプです。このようなタイプの人は相手に対して気遣いはできるものの、自己主張ができないためストレスを溜めがちです。また、相手からの攻撃を恐れて自己主張を避けることもあります。
ノン・アサーティブ(非主張型)の人の特徴は、言い訳が多かったり、決断が必要な場面で曖昧な態度を取ったりすることです。長期的には、こうした傾向が仕事や職場の人間関係に悪影響を与える場合もあります。
アサーティブ(バランス型)
アグレッシブ(攻撃型)とノン・アサーティブ(非主張型)をバランスよく取り入れた自己主張です。相手に配慮しつつ、自分の意見もきちんと伝えます。アサーションが目指す理想のタイプです。
このタイプは、自分の意見を伝えるだけでなく、相手の意見も尊重するため、建設的なコミュニケーションが可能です。その結果、さまざまな場面で良好な人間関係を築きやすくなり、自分自身もストレスを溜めこむことがありません。
アサーションのトレーニング方法
アサーティブな自己主張を身に付けるには、トレーニングが不可欠です。ここからは、アサーションスキルを高めるための主なトレーニング法を紹介します。
DESC法
アサーションのスキルを4つに分類したトレーニング方法です。コミュニケーションの際、Describe(描写)、Express(表現)、Specify(提案)Choose(選択肢の提示)を意識することにより、自分の気持ちを相手にわかりやすく伝えられます。
このトレーニング法を用いる際には、最初にChoose(選択肢の提示)から考えることが重要です。相手に納得してほしいことが曖昧なままでは、合理的な説明ができません。
また、この方法は納得性を高める効果がある一方、相手を思い通りに動かす方法ではないことも理解しておきましょう。
ABCDE理論
論理療法のひとつともされるカウンセリング理論です。ABCDEはそれぞれActivating event(出来事や状況)、Belief(信念やものの見方)、Consequence(結果としての感情や行動)、Dispute(非合理的なBeliefに対しての反論)、Effect(Disputeがもたらす効果)を意味します。
ポイントは、Activating eventとConsequenceの間にBeliefがあると意識することです。このBeliefがネガティブなものや非合理なものであれば、それに対するDisputeを繰り返し、Effectにつなげます。自分の考えが本当に正しいのかを自問自答し、より健康的かつ建設的な考えに変換するトレーニング法です。
I(アイ)メッセージ
自分の意見を伝える際、主語を「私」に置き換えるトレーニング方法です。
例えば、「あなたは間違っている」のように「あなた」を主語にすると相手を攻撃する口調になりがちですが、「私には違う考えがある」と言えば攻撃性が和らぎます。このように、「あなた」を主語とするYOU(ユー)メッセージは、命令や攻撃のニュアンスを強めることを認識することが重要です。
ただし、明確な指示が必要な場合、Iメッセージを使うと相手に伝わりにくくなることもあります。そのため、状況に応じてIメッセージと他の方法を使い分けることが大切です。
言語的・非言語的アサーション
コミュニケーションを取る際、言葉だけでなくボディランゲージや表情、声のトーンなど非言語的な要素も意識する方法です。
対面のコミュニケーションでは、言葉のみならず態度や仕草が相手に大きく影響します。言葉が攻撃的でなくとも、態度や仕草が攻撃的だと相手は不快に感じることがあります。また、ZOOM会議のようなオンライン上のコミュニケーションにおいては、少しリアクションをオーバーにすると相手に伝わりやすくなります。
このように、相手にとって気持ち良くやり取りできる非言語的アサーションを意識することが大切です。
アサーション権
自己主張が苦手なノン・アサーティブ型の人にとっては、アサーション権という考え方が役立ちます。アサーション権とは、お互いの権利を侵さない範囲で、自分の意見や気持ちを伝えてよいとする権利のことです。この権利は、誰もが等しく有しています。
自己主張をすることに罪悪感を覚えてしまう人は、このアサーション権を思い出しましょう。そうして自己主張に対する捉え方を変えれば、よりアサーティブな行動を目指せるようになります。
アサーションを導入する際のポイント
アサーションの導入には、一定の困難さを伴います。そのため、適切なアプローチが必要不可欠です。正しい方法による実践が成功への鍵となります。
具体的な場面を想定したロールプレイを行う
トレーニングで知識を身に付けたとしても、それだけではなかなか実践には結びつきません。そのため、具体的な場面を想定したロールプレイを行ってみましょう。
例えば、上司と部下、店員と顧客などの設定で実際に会話をします。重要なポイントは、演じる人の元々の性格とは関係なく、それぞれの役にアグレッシブやノン・アサーティブなどを当てはめることです。各タイプになりきることで、攻撃的な自己主張をしてしまう人の感情や、そのような自己主張をされた際の感覚などを理解できます。自社で取り組むのが難しい場合には、アサーティブトレーニングの研修を行う団体に依頼するのもひとつの方法です。
長期的に継続して取り組む
アサーションスキルは、一度の研修で身に付くものではありません。日常的な実践と定期的なトレーニングを通じて向上させていく必要があります。自己評価やフィードバックを受けながら、改善点を見出していきましょう。また、新しい状況や相手に応じてスキルを発展させていくことも大切です。
実際に職場の環境をアサーティブなものに変えるためには、職場全体での長期的なトレーニングの継続が必要です。そこで、定期的にアサーショントレーニングを開催することにより、社内へと浸透させられます。社内で共通認識を持つためには、まず上層部から積極的に取り組むのがおすすめです。
まとめ
アサーションは、個人のコミュニケーションの取り方を変えるだけではなく、従業員のエンゲージメントや生産性の向上など、組織全体にもよい影響をもたらします。長期的な組織の活性化を目指して、アサーショントレーニングを導入しましょう。

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