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マレーシアのスタートアップエコシステム 外資の参入が生む新たな機会と挑戦

マレーシアのスタートアップエコシステム 外資の参入が生む新たな機会と挑戦

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2021年、マレーシア政府は2025年までにユニコーン企業5社を含むスタートアップ5,000社の設立を目標に掲げた。現在、国内のスタートアップは3,000社を超え、MYStartup(マレーシアのスタートアップ向けポータルサイト)の登録企業数は22年から23年で42.7%増加している。スタートアップ・エコシステムには地元のプレーヤーが積極的に参加しているが、国際的なリソースの介入により、さらなる成長が見込まれる。

スタートアップの課題と政府の取り組み

マレーシア・スタートアップ・エコシステム・ロードマップ(SUPER 2021-2030)では、スタートアップが直面する主な課題として、1. 資金、2. 人材、3. 商業化・イノベーション、4. 支援政策、5. 国際的なリソースと機会の不足が挙げられている。現在、公的機関主導の取り組みは資金調達や人材確保、イノベーション促進に焦点を当てているが、国境を越えたリソースやスタートアップ支援を強化する政策は依然として限定的である。

こうした課題に対応するために、現在、マレーシア技術革新研究アクセラレーター(MRANTI)のグローバル・アクセラレーター・プログラム(GAP)とKL20の2つの機関が、スタートアップの課題解決に向けたリソースを提供している。MRANTIのGAPは、マレーシア国外での事業拡大を支援し、KL20は世界的な人材やベンチャーキャピタル(VC)企業、革新的なスタートアップをマレーシアに誘致する活動を行っている。スタートアップが事業規模を拡大するにつれて、グローバルに連携したエコシステムを構築することが、国際的な資金調達や人材確保に重要な影響を与えるため、その実現がますます求められている。また、マレーシア政府だけでなく、外国のステークホルダーがマレーシアの市場や成長の機会に参入する道が開かれつつある。

外国資本の動向

アジア諸国はマレーシアにとって最大の外国直接投資(FDI)源であり、特にシンガポール、香港、日本がアジアの上位3ヵ国となっている(図表1)。マレーシアのスタートアップの重点分野と同様、FDIの主要セクターは製造業であり、特に日本からのFDIが目立つ。そのため、シンガポール、香港、日本のプレーヤーがこの分野で徐々に台頭しており、資金やイノベーションリソースなどの国境を越えたリソースを提供する傾向が見られる。

図表1 マレーシア向けFDIの割合

資金調達の課題

2023年、マレーシアはASEAN地域の株式資金調達額のうち、わずか1%を占めている(図表2)。ASEANの中では、シンガポールとインドネシアが株式資金調達のほぼ90%を占めている中、マレーシアのスタートアップ企業は資金調達において2つの側面から課題を抱えている。

図表2 2023年のASEAN6ヵ国の株式資金調達額

第一に、ラフィジ経済相は、政府系ファンドが大規模な既存企業に資金提供をする傾向がある一方、地元のVC企業はスタートアップに資金を提供する傾向があると指摘している。しかし、マレーシアの登録資本法人の数は137社と少なく、近年大きな増加が見られない(図表3)。

図表3 マレーシアにおけるスタートアップ投資を行う登録企業数

第二に、ベンチャーキャピタルの資金の61.17%が依然としてマレーシア政府機関または政府系ファンドから提供されている(図表4)。マレーシアの政府系ファンドであるKhazanah Nasional Berhadは、スタートアップ企業に対して「政府やその機関だけに頼ることなく」より多角的な支援システムの構築を推進している。

図表4 VC企業の資金源

外国資本とスタートアップエコシステムの連携

まだ発展途上ではあるが、シンガポールのVC企業はマレーシアのスタートアップエコシステムへの投資を始めている。シンガポールを拠点とするアーリーステージスタートアップの投資家Antlerは、これまでに世界中で1,000件以上の取引を行っており、2023年にはマレーシアに初のオフィスを開設した。同社は、今後3年間で30社以上のマレーシアのスタートアップに投資することを目標に、2024年にKhazanahと共同で7社に最初の投資を行った。また、2024年8月には、東南アジア(SEA)のアーリーステージのハイテク企業に焦点を当て、マレーシアを含む地域でのインキュベーター的なレジデンス・プログラムに資金を提供する計画で、2度目のファンド(7,200万ドル)をクローズした。

日本と香港のVC企業は、まだマレーシアへの投資の初期段階にある。Aerodyneなど、実績のあるスタートアップ企業は、Drone FundやRealTech Fundから資金を調達したり、Soft SpaceがGMO Financialと提携するなどして、日本からのオフショア資金を確保している。さらに、日本のSBIホールディングスとマレーシアの投資会社OSK Ventures International Berhadの合弁会社は、2024年6月に2号目のVCファンドを立ち上げた。このファンドは、マレーシアのスタートアップだけでなく、成長中の東南アジアのテクノロジー系スタートアップにも投資することを目的としている。

イノベーションの課題

現在、マレーシアのスタートアップのイノベーションは、主にコングロマリット、インキュベーター、アクセラレーターなどの国内のステークホルダーや、政府主導のイノベーションイニシアチブによって推進されている。しかし、マレーシアのスタートアップとグローバル市場を結びつけるステークホルダーが不足しており、これは大きな課題となっている。例えば、KhazanahはシリコンバレーのイノベーションプラットフォームであるPlug and Playと提携しており、スタートアップや投資家、企業とのパートナーシップを結んでいるが、このプログラムは主にマレーシア企業のイノベーションニーズに焦点を当てている。そのため、海外展開を目指すスタートアップは、主にMRANTIのGAPに依存せざるを得ない。

国際的パートナーシップによる成長支援

日本のLeave a Nest Groupは、2024年1月にディープテックインキュベーションエコシステム「Center of Garage Malaysia(CoGMY)」を設立した(図表5)。このグループは、これまでにもマレーシアのスタートアップ企業Aerodyneや日本のスタートアップ企業と提携し、実証実験を行っている。CoGMYは、三菱、ユーグレナ、コバシホールディングスなどの日本企業から支援を受けており、日本およびマレーシアの工場、スタートアップ企業、コングロマリット、大学といったパートナーとも提携している。

図表5 CoGMYのエコシステム

また、CoGMYはアフリカのパートナーであるAOアライアンスホールディングスを通じて、日本と東南アジア諸国の技術を組み合わせ、アフリカ市場への適用を目指している。これにより、マレーシアの技術系スタートアップは、メンターシップ、グローバル市場、コラボレーションのための作業スペースなど、多くのパートナーにアクセスが可能となる。

さらに、City University of Hong Kong(香港城市大学)は、2023年に起業家育成プログラム「HK Tech 300」を東南アジアに初めて拡大し、マレーシアをローンチ国として選んだ。地域の大学やインキュベーターとの提携により、このプログラムへのアクセスが容易となり、優れたマレーシアのスタートアップ企業は、グレーターチャイナでのビジネスマッチングサービスやメンターシップ、共同投資の機会などのリソースを獲得しやすくなり、イノベーションの促進が期待される。

まとめ

マレーシア市場に関心を持つ外国のプレーヤーは、2023年からスタートアップシーンへの参入を加速している。国内の資本プレーヤーが少なく、マレーシア政府への依存が続いている現状において、グローバルVCや投資企業は、スタートアップが必要とする資金のギャップを埋める重要な役割を果たすことができる。また、日本と香港のファンドや投資機関は、マレーシアのスタートアップが海外市場に進出するためのルートを提供し始めており、支援の幅が広がっている。

執筆者
山中 真次
JSIP エバンジェリスト
Global Angle Pte. Ltd.
Managing Director

シンガポールを拠点に、日系企業の海外事業コンサルティング、海外進出支援を行うGLOBAL ANGLE、また、美容・小売・飲食・フィットネス等店舗事業の事業開発や海外事業アドバイザリーを行うBRAND BOUTIQUE Pte. Ltd.の代表を務める。美容・IT関連複数社の海外事業顧問を兼務。

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JSIP(ジェイシップ)は、東南アジアで新規事業に取り組む日系企業向けに、事業の立ち上がりと拡大のスピードを加速させることを目的に作られた共創型のコミュニティプラットフォーム。同じミッションを持つ者同士が、業界や業種、組織の壁を超えて、有機的に連携することで、東南アジアにおける新規事業の成長が飛躍的に加速する土台をシンガポール中心に構築中です。