
仕組みだけでは人は動かない。理念を行動に変える「任せて支える」組織づくり
- 経営・事業運営
- # インタビュー
最終更新日:
公開日:

前編では、特定の人に依存しない店舗運営を目指し、マニュアルやチェックリスト、データやAIを活用しながら、現場の改善につなげるヤマナミ麺芸社の仕組みを紹介しました。
その一方で、仕組みを整えるだけで、会社の考えが浸透し、一人ひとりが自ら考えて行動できるようになるわけではありません。仕組みを現場で機能させるには、人への働きかけも欠かせません。
同社では、月2回の方針勉強会を15年にわたって続け、会社が大切にする考え方を繰り返し伝えています。また、全社員が小さな改善を積み重ねる「100本ノック」や、上司と部下による定期的な対話(1on1)を通じて、現場が自ら考え、改善する力を育てています。
そこにあるのは、本部がすべて答えを用意するのではなく、現場が主体となって改善を続けられる組織づくりです。本部は理念や方針を共有し、改善を後押しする仕組みを整える。そして、日々の改善は現場に任せながら、上司との対話や評価、結果の検証を通じて、その実践を支えています。
後編では、同社の代表取締役社長、吉岩拓弥氏に、理念や方針を日々の行動へつなげるためのコミュニケーションと、現場に「任せる」ことと「支える」ことを両立する組織づくりについて伺います。
目次
理念は「伝える」だけでは届かない。月2回の方針勉強会を15年続ける理由
――会社の理念や方針を、現場の日々の行動まで落とし込むために、どのような取り組みを行っていますか。
株式会社ヤマナミ麺芸社 代表取締役社長 吉岩拓弥氏(以下、吉岩):毎年、会社の方針をまとめた経営計画書をつくっています。ただ、「今年はこういう方針です」と計画書を渡すだけでは、なかなか現場には浸透しません。大切なのは、「なぜこの方針なのか」という意図や目的まで理解してもらうことだと考えています。
そのため、月2回の「方針勉強会」を開いています。経営計画書に出てくる言葉などを約100語にまとめたヤマナミ麺芸社独自の用語集があり、勉強会では一つひとつの言葉の意味を会社の方針と結びつけながら、私自身が説明しています。
月2回開催しているのは、店舗や製麺の部門がシフト勤務のためです。基本的に同じ内容を2回話し、都合の良い回に参加できるようにしています。また、堅い話ばかりでは伝わりにくいので、過去の失敗談なども交えながら、できるだけ楽しく興味をもって聞いてもらえるように工夫しています。
――繰り返し、会社の考え方を伝え続けることを大切にされているのですね。
吉岩:はい。ただ、伝えるだけでは足りないとも考えています。方針勉強会で理解しても、それをすぐに実践できるわけではありません。だから私たちは、学んだことを実践し、その行動を評価するところまでつなげることを大切にしています。
人事評価に、「つよく、やさしく、おもしろく」に基づいた行動評価項目を入れています。会社が大切にする考え方を理解し、日々の仕事の中で実践する。そうした実践を人事評価に反映し、キャリアや昇進、昇給などにつなげる仕組みです。そこまで連動させなければ、理念を実際の行動として定着させるのは難しいと考えています。
「100本ノック」で改善脳を育てる。対話が生まれる仕掛けとは
――理念や方針を伝える取り組みのほかに、現場が自ら考え、改善していく力はどのように育てているのでしょうか。
吉岩:改善する習慣を身につけてもらうために、全社員が日々の仕事の中から100個の改善点を見つけ、実際に改善に取り組む「100本ノック」を行っています。部署を異動したら、新しい現場で改めて100本の改善に取り組むのがルールです。
ただ、一つひとつの改善は、大きなものである必要はありません。例えば、「物の置き場所を変えて、一歩動く距離を減らした」といった小さな改善でもいい。大切なのは、改善の大きさよりも日々の仕事の中から改善点を繰り返し探すことです。
新卒や中途で入社したばかりの人は、仕事をしながら「もっと良くできないか」と考える習慣が身についていない場合があります。それでも100個の改善を探し続けていると、「ここを変えられないか」「もっとやりやすくできないか」と、日々の仕事の中で改善点を考えるアンテナが立つようになります。私はそれを「改善脳」と呼んでいます。
改善したら、それで終わりではありません。本当に時間が短くなったのか、成果につながったのかまで振り返ります。また、取り組んだこと自体も評価の対象にしています。
――100個の改善を見つけるとなると、入社したばかりの人にとっては簡単ではなさそうです。
吉岩:最初は私も、「こんな昭和式の100本ノックをやったら、新卒が辞めるのではないか」と思いながら始めました。しかし、実際には思わぬ効果がありました。
新しい現場に来たばかりの人が、1人で100個も改善点を見つけるのは簡単ではありません。だからこそ、長く働いている人やパートスタッフに「やりにくいところはありませんか」「これはどうすれば良いですか」と聞くようになります。
すると、改善の種が見つかるだけでなく、それまであまり接点のなかった人との会話も生まれます。100本ノックが周囲とのコミュニケーションを取るきっかけにもなっているのです。
100本ノックも、本人任せにはしていません。直属の上司と毎週15分の面談で、業務の状況や改善について振り返ります。「先週は何本できた?」「今週も探していこう」と一緒に振り返り、次の目標を立てます。
上司自身もかつて100本ノックを経験しているので、その大変さが分かります。だからこそ、部下が達成したときには「おめでとう」と一緒に喜べる。こうした対話やサポートも含めて、改善を続ける仕組みにしています。
入社したばかりの頃は、会社に貢献できている実感を持ちにくいものです。しかし、「一歩減らした」「1つ作業をなくした」といった小さな改善でも、自分の提案によって仕事が少し良くなる。その経験を積み重ねることが、自分も会社や職場に貢献できているという実感につながるのだと思います。

若手社員の離職が転機に。「任せる」と「支える」を両立するマネジメントへ
――貴社では、数字や方針を共有しながら現場に改善を任せ、必要なサポートを行っています。こうした吉岩社長のマネジメントの考え方は、どのような経験から培われたのでしょうか。
吉岩:会社のビジョンをラーメン店中心のものから食品メーカーへと変えていく過程で、社内独立制度を利用して独立する社員が増えた時期がありました。同じ頃、将来を一緒につくっていく人材を育てようと新卒採用にも力を入れていたのですが、独立と採用が重なり、次第に現場で新人を教えたり支えたりする人が不足していきました。
当時は、新入社員の成長を十分にサポートできず、「マニュアルを見れば仕事は分かるだろう」と、本人に任せてしまう場面もありました。しかし、マニュアルがあっても、分からないことを聞いたり、困ったときに相談したりできる相手がいなければ、人はなかなか育ちません。実際、新卒社員も3年で半分以上が辞めるような状態になっていました。
これはまずいと思い、現場の状況を把握し、必要なサポートにつなげるために、店舗や製造のマネジメントそのものをDXによって支えられないかと考えました。それが、現在のデータ・AIの活用などの仕組みづくりにつながっています。
――こうした取り組みを通じて、人材の定着にはどのような変化がありましたか。
吉岩:数字にも変化が表れています。離職率は、取り組み前の3年間の平均38.5%から、取り組み後の2年間の平均25.8%へ低下しました。新卒社員についても、直近3年間で採用した11名は現在まで1人も辞めていません。
もちろん、定着にはさまざまな要因があるため、特定の取り組みだけの成果だとは考えていません。一方で、かつての経験から、仕組みを用意して本人に任せるだけではなく、周囲が対話しながら成長を支えることが大切だと考えるようになりました。

――仕組み化を進めすぎれば、現場の自由を奪ってしまう可能性もあるのではないでしょうか。本部が決めることと、現場に任せることのバランスをどう考えていますか。
吉岩:すべてを本部から「こうしてください」と押し付けられたら、仕事は面白くないと思います。それに、本部では現場の細かな問題まですべて把握できません。ですから、大枠の仕組みは本部でつくり、日々の細かな改善は現場に任せるようにしています。
例えば、食材の置き場所ひとつをとっても、「よく使用する食材はこちらの引き出しに置いたほうが取りやすく、提供時間も短くなる」といった改善があります。こうした実務に直結する改善は、現場でどんどん変えてもらえばいいと思っています。ただし、「改善しました」で終わりにはしません。本当に提供時間が短くなったのか、改善によってどのような変化があったのかを振り返ります。結果を振り返る際には、本部も一緒に検証します。
本部がすべての答えを決めるのではなく、改善するための大枠をつくり、現場が自ら考えて試してみる。その結果をみんなで確認しながら次の改善につなげていく。そうした形を大切にしています。
頑張りを「正当に評価する」仕組みへ
――面談をはじめ、こうした取り組みの実施状況まで記録・可視化しているのは、なぜなのでしょうか。
吉岩:この会社に縁があって入ってくれたメンバーは、人生の時間をこの会社に預けてくれているわけです。だからこそ、一緒に成長して、一緒に良くなっていきたいという思いがあります。
ただ、その中には仕組みをしっかり理解して実践してくれるメンバーもいれば、正直、あまり実践してくれない人もいます。そこを同じように評価してしまうのは、私は失礼だと思うのです。頑張っている人には、ちゃんとそれが伝わる評価をしたい。そのためには、実施状況が見えるデータが欠かせないと考えています。
こうした仕組みは、「サボれない仕組み」と言われてしまうこともあるかもしれません。ただ、決して監視するためのものではありません。日々の取り組みを見えるようにすることで、努力している人の頑張りを見逃さず、きちんと評価したいのです。そうした公正な評価の積み重ねが、一人ひとりの成長を支え、人が育つ組織につながっていくのだと思っています。
――そのような仕組みを通じて、今後どのような組織をつくっていきたいと考えていますか。
吉岩:そうですね。一人ひとりが今何ができていて、これから何を目指すのかを明確にし、その道筋を会社として描きながら、少しずつ成長していける環境をつくることが大切です。そこまでできて初めて、人が育つ会社になるのだと思っています。
そうして「つよく、やさしく、おもしろく」を実践しながら成長する人が増えることが、私たちの目指す麺産業の未来にもつながっていくと考えています。今後は、そのことを証明していきたいですね。
仕組み化の第一歩は「現場が困っていること」を解決すること
――最後に、人手不足やオペレーション改善に悩み、これから仕組み化に取り組もうとしている経営者やリーダーへ、メッセージをお願いします。
吉岩:最初の一歩は、現場が困っていることから仕組み化を始めることだと考えています。いきなり大きな仕組みをつくる必要はありません。例えば、「業者への発注が面倒でエラーが多い」「シフトを組むのが大変だ」など、現場が日々困っていることがいくつもあると思います。
まずは、そうした困りごとを解決するために、みんなで仕組みづくりに取り組んでみると良いと思います。実際にみんなが困っていることであれば、「この仕組みを良くしていこう」といった意識も生まれやすいはずです。
そこから1個ずつ、コツコツと仕組み化する範囲を広げていけばいいと思います。それにより、誰か特定の人に依存する会社から、仕組みを通じて人が育つ会社へ変わっていくきっかけになるのではないでしょうか。
(前編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ
最新記事





