
DXの前に仕事を引き算!JR西日本ヴィアインに学ぶ業務見直し術
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人手不足が続く宿泊業界では、限られた人員で日々のオペレーションを担いながら、サービスの質を高めることが求められています。その一方で、現場がルーティンワークに追われ、顧客に向き合う時間を十分に確保できないジレンマを抱える企業が多いのも実情です。
全国26棟、6,711室を展開するホテルチェーン株式会社JR西日本ヴィアインでは、社員のやりがいと働きやすさを両輪で高める「働きがい向上プロジェクト」を推進しています。その一環として開催した、やめたい仕事や変えたい仕事を募る「やめる仕事アワード」には、732件もの改善提案が集まりました。
前編では、同社の代表取締役社長・柴﨑紳一朗氏と、働きがい向上プロジェクト推進チーム 次長・入江学氏に、プロジェクト立ち上げの背景や現場の課題、そしてDXに先駆けて行う「仕事の引き算」の重要性について伺いました。
目次
顧客に向き合う時間を生む「働きがい向上プロジェクト」の狙い
――はじめに、JR西日本ヴィアインの事業概要と、柴﨑さんのご経歴について教えてください。
株式会社JR西日本ヴィアイン 代表取締役社長 柴﨑紳一朗氏(以下、柴﨑):私は2021年から本事業に携わり、親会社からの事業承継を経て2025年6月に代表取締役社長に就任しました。当社が掲げる「MY HOME HOTEL.」というコンセプトのもと、自宅のような寛ぎを提供するためには、現場スタッフが本来の業務であるおもてなしに集中できる環境づくりが不可欠だと考えています。

株式会社JR西日本ヴィアイン 代表取締役社長 柴﨑紳一朗氏
――入江さんの担当業務と社内での役割についてお聞かせください。
株式会社JR西日本ヴィアイン 働きがい向上プロジェクト推進チーム 次長 入江学氏(以下、入江):私は2002年に入社し、現場のマネージャーや支配人、本社の経営企画などを経て、現場と本社の双方の業務に携わってきました。
経営企画を担当するなかでは、他部門へ働きかける際に意図がうまく伝わらないなど、部門間の壁に直面することが多々ありました。そこで、すべての部門に等しく向き合う状態を作るため、2025年6月に社長直下の組織である「働きがい向上プロジェクト推進チーム」が発足し、私がリーダーを務めることとなりました。

株式会社JR西日本ヴィアイン 働きがい向上プロジェクト推進チーム 次長 入江学氏
――「働きがい向上プロジェクト」は、どのような経営課題から生まれたのでしょうか?
柴﨑:ホテルの現場では、社員が日々のルーティンワークに追われ、本来の業務である「ホスピタリティを発揮してお客様に価値を提供すること」がしづらい実情がありました。その結果、希望を抱いて入社したにもかかわらず、働きがいを見出せずに早期退職するケースも少なくありませんでした。
今後さらに労働人口が減少して人材確保が難しくなるなかで、社員が意欲を持って働ける環境をつくることは、最優先の経営課題です。そこで、働きがいを「やりがい・モチベーション」と「働きやすさ」の二軸で捉えることにしました。
社員のモチベーションを高めるだけでは、いずれ疲弊してしまう可能性があります。現場起点で働きやすさを整え、自然と社員の意欲や仕事のやりがいが高まる状態を目指し、働きがい向上プロジェクトが始動しました。
本音を引き出す!「やめる仕事アワード」誕生の背景と現場の課題
――2026年5月に「やめる仕事アワード」を開催したと伺いました。この取り組みの概要について教えてください。
入江:「やめる仕事アワード」とは、社員一人ひとりが日々の業務を見つめ直し、「やめてもよいのではないか」「やり方を変えられないか」と感じる仕事を提案する、全社員参加型の取り組みです。
単に仕事を減らすのではなく、不要な業務を見直して余白を生み出し、本来大切にすべき仕事やお客様に向き合う時間を増やすことを目的としています。
――「やめる仕事アワード」に至るまで、現場にはどのような課題があったのでしょうか?
入江:会社の考えや方針が現場へ十分に伝わっていなかったことと、現場からの改善案が上がりにくくなっていたという2つの課題がありました。
1つ目は、方針の周知についてです。当社はこれまで全国各地のホテル拠点に対し、本社のさまざまな部署から個別に情報を届けていました。それぞれの部署は必要なことを伝えているつもりでも、ホテル側から見れば次々と指示が届き、情報の行き違いが起こるといったずれが生じていました。
2つ目は、改善案についてです。過去にも社員のアイデアを募る機会はあったものの、提案を担当部署へ届けると「それは実現できない」と退けられる場合がありました。また、改善案の検討状況が十分に共有されない例もあり、現場では次第に「提案しても無駄だ」という諦めが生まれていたようです。
こうした課題が明らかになったきっかけは、2024年に協力会社とともに実施した全拠点へのインタビューです。
当社では、ホテルの現場を経験してから本社に異動しているケースも多く、現場のスタッフとは元上司・元部下の関係にあることも少なくありません。かつての上司には本音を言いにくいという事情に加え、「本社の人」というだけでどうしても身構えてしまい、本当の課題が見えてこないという実情がありました。
そこで第三者に聞き手を担ってもらったところ、各ホテルの支配人・マネージャー・現場スタッフからさまざまな本音が寄せられ、私たちにとって大きな転換点になりました。
――第三者によるインタビューを行ったことで、どのような気づきが得られましたか?
入江:インタビューの結果を通じて、本当に見直すべきなのは本社の伝え方ではないかと気づきました。
会社はこれまでも手間を惜しまずに情報を周知し、各ホテルの現場を大切に考えてきたつもりでしたが、実際には「本社が指示し、ホテル側がそれを受けても実行できていない」という構図が生まれてしまっていたのです。そのような雰囲気が、改善の声を上げづらい環境にもつながっているのではと考えました。
そこで今回は、過去に通らなかった意見も含めて「諦めずにもう一度伝えてほしい」と呼びかけ、社員の声に改めて向き合うことから始めたのです。最初から「やめる仕事アワード」ありきで進めていたのではなく、働きやすい会社をつくるために試行錯誤した結果、この取り組みにたどり着きました。
ムダを残したDXは失敗する。「仕事の引き算」がもたらす成果
――現場の課題を把握した後、「必要のない仕事をやめる」という決断をした理由についてお聞かせください。
入江:働きがい向上プロジェクトでは、働きがいを「やりがい・モチベーション」と「働きやすさ」の二軸で捉えています。業務負担が大きい状態のままで社員のモチベーションを高めても、いずれ立ち行かなくなってしまうでしょう。
社員が仕事にやりがいを感じながら働き続けるためには、まず現場の声を聞き、日々の仕事で不便さや疑問を持っている要因を一つひとつ取り除く必要があると考えました。
そこで着目したのが、現在の仕事から必要のないものを見つけて、やめることです。不要な業務を減らして余白を生み出せれば、社員は本来大切にすべき仕事や、お客様に向き合うことへ力を注げるようになります。
また、今後の経営効率を考えるとAI活用やDX、生産性向上も欠かせません。しかし、現在の業務をそのまま移行すると、ムダなことや本来やらなくてもよいことまでDX化することになります。はじめに必要のない仕事を引き算し、そのうえで残った大切な仕事にDXやAIを活用する順番で進めることが重要だと考えました。
――仕事を減らす際には、サービス品質との両立も求められます。経営陣はどのような基準で判断したのでしょうか?
柴﨑:私たちの判断の軸は、「この仕事は本当にお客様に喜んでいただけるのか」という原点に立ち返ることです。現場の都合ではなく、顧客起点で見直すことを何よりも大切にしました。
「やめる」という言葉はネガティブな印象がありますが、今回の「やめる仕事アワード」は、私たちの仕事の根本やサービスで大切にしたいことを見つめ直すきっかけになりました。現在の方法に固執せず、別のやり方やDXの可能性を議論できるようになった点も、大きな収穫だったと思います。
後編では、「やめる仕事アワード」に732件もの提案が集まった仕掛けや、集まった声を改善につなげるための情報公開、現場から改善が生まれる文化をつくるうえで経営者が果たす役割について伺います。
(後編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ






