絞り込み検索
Keyword
Category
Tag
トップ 経営・事業運営
旅館再生の鍵は「人時生産性」にあり!?老舗旅館「一の湯」小川尊也氏が語る改革の道筋とは

旅館再生の鍵は「人時生産性」にあり!?老舗旅館「一の湯」小川尊也氏が語る改革の道筋とは

  • 経営・事業運営
  • # セミナーレポート

最終更新日:

公開日:

バナー画像です

スタディストが主催するイベント『2025年の組織戦略』にて、事業リーダーの皆様にお届けしたいトピックの有識者や実践者に講演していただきました。

今回ご登壇いただいたのは、株式会社一の湯代表取締役社長・小川 尊也氏。創業395年という歴史を持つ老舗旅館でありながら、小川社長は従業員200人を抱え、旅館としての方向性について今の時代に即した形にモデルチェンジされています。

小川氏は、リーンオペレーションのフレームワークである「可視化、標準化、単純化、徹底化、価値強化」の5つのステップを背景に、「オペレーションの改善」と「価値強化」を実践しています。前編では、一の湯が重要視している「人時生産性」についてお話いただきます。

老舗旅館「一の湯」が目指す「宿泊の常識を変える」挑戦

株式会社一の湯代表取締役社長 小川 尊也氏(※以下、小川):
株式会社一の湯は、箱根で1630年に創業し、今年で395年を迎える老舗の温泉旅館です。現在は箱根を中心に9施設を運営し、将来的には200店舗まで拡大することを目指しています。その目標を達成すべく、当旅館はチェーンストアのマネジメントに力を注いでいます。

なぜ、私たちは多店舗展開、そして低価格販売を目指しているのか?それは、「宿泊業界の現状を変えたい」という思いからでした。近年、箱根では1泊5万円から10万円といった高価格帯の旅館が多く、私たちは「もっと気軽に、何度も旅行を楽しめる旅館を目指したい」と考えていました。

「高い価格を払わないと高い価値を得られない」という宿泊業界全体の常識から、「安かろう、よかろう」を目指していく――。それが、我々ができるお客様にとっての社会貢献であると思っています。

私たちのビジョンは「1つ先を行く価値」を常に提供することです。その中で革新と進化を繰り返し、「宿泊の常識」を変えていきたいと思っています。

私たちが取り組んでいる生産性向上や様々な改革は、「宿泊の常識を変え、宿によって日常生活の豊かさを提案する」という経営理念を達成するためにあります。それは「手段」であり、決して「目的」ではありません。従業員のため、お客様のため、そして私利私欲になっていないかという視点を常に持ちながら経営をしています。

▼あわせて読みたい
人時生産性とは何か? 意味や業界別の平均、改善方法にいたるまで詳しく解説

経営の羅針盤「人時生産性」の徹底活用

小川:私たちが生産性向上を図る上で最も重要視しているのが、「人時生産性」です。これは「従業員1人あたりが1時間に稼ぐ粗利益高(売上高から仕入れ額を差し引いた利益)」を指し、粗利益高を総労働時間で割ることで算出されます。一の湯では、この「人時生産性」を経営のKPI(重要業績評価指標)として、40年間徹底して活用しています。

現在、一の湯の「人時生産性」は5,000円です。これは、従業員1人1人が1時間に5,000円の稼ぎを生み出していることを意味します。粗利益における人件費の割合を約40%とすると、人件費は2,000円まで充てられます。つまり、年間約2,000時間の労働時間で考えると、従業員1人あたりの年収は400万円となるわけです。

一の湯の人時生産性

ただ、私はこの現状に満足していません。日本の平均年収が460万円の現状と比較すると、400万円ではこのサービス業に人材が入りにくいと考えているからです。宿泊業界はもっと「人時生産性」を高め、給与を上げ、適切な労働環境を整備する必要があるでしょう。未来を描けるキャリア形成を準備することが、私たちにできる唯一の準備だと考えています。

私は、生産性向上の本質を「利益を出すために、従業員の給与を下げる」ではなく、むしろ「従業員の給与を上げるため」であると強く思っています。生産性を上げることで、従業員はモチベーションが上がり、お客様にも喜んでいただけるサービスを提供することができます。「人時生産性」を高める取り組みは、従業員もお客様も幸せにさせるのです。

宿泊業で生産性向上を高めるには?

小川:ここで、「人時生産性」を上げるための方法を考えてみましょう。例えば、「人時生産性」を2倍にするためには、分子を2倍にする必要があります。分子の粗利は売上から仕入れ額を引いた数字なので、売上を2.5倍にしても仕入れを引くと粗利益率は約80%。それでやっと2倍になります。

「人時生産性」の分子を2倍にするために売り上げを大きくしようとすると、売り場面積を広げたり、店数を増やしたりと大きな投資が必要です。また、仕入れ額を小さくするのはもっと大変です。原材料比率が約25%のところで1、2%の削減努力をしても成果は小さいままでしょう。

人時生産性とは

「人時生産性」を高める鍵は、分母の総労働時間を少なくすること。総労働時間へのアプローチは効率がいいのです。

一の湯では、従業員の業務の壁を取り払い、1つの業務が忙しい時は手が空いている従業員が手伝うようにして、作業しない時間を減らしました。

その他にも、予約センターの統合や食品製造の集約化、ハードウェアの交換で環境を改善し、作業効率を高めました。さらに、宿泊料金を適正な低価格にすることで客層が広がり、常に満室状態になり、売り上げもアップ。

こうして、一の湯は売り上げを伸ばしながら、時間をかけて経営改革を続けた結果、総労働時間が減り、粗利は増え、人時生産性が高くなりました。これらの取り組みが認められ、一の湯は「ハイ・サービス日本300選」や「かながわ観光大賞」を受賞しています。今後も、さらに改革を推し進めていく予定です。

後編では、この「人時生産性」の向上を支える「3S主義」について、一の湯が実践してきた具体的な業務改革についてご紹介します。

(後編はこちらから)

話し手
小川 尊也
株式会社一の湯
代表取締役社長

大学卒業後、大手外食チェーン勤務を経て30歳の時に家業である一の湯へ入社。33歳で社長就任。チェーンストア理論を軸に様々な業務改革を実践している。200店舗まで事業拡大することがビジョン。全旅連青年部 労務人材委員長、箱根DMO人材PJ長などを歴任。