絞り込み検索
Keyword
Category
Tag
トップ 人材育成・採用
育成就労制度で求められる「非言語」のコミュニケーション。言葉以上に表情・視線が外国人材育成の鍵を握る

育成就労制度で求められる「非言語」のコミュニケーション。言葉以上に表情・視線が外国人材育成の鍵を握る

  • 人材育成・採用
  • # インタビュー

最終更新日:

公開日:

日本における労働人口の減少が深刻化するなか、2027年に施行が予定されている「育成就労制度」に注目が集まっています。

前編では、新制度の概要とともに、日本特有の「察する文化」の課題や、企業が「選ばれる側」になるための意識改革について、東京外国語大学 大学院総合国際学研究院の岡田昭人教授に話を伺いました。

後編では、言語以上に重要とされる「非言語コミュニケーション」の落とし穴や、異文化を理解する上での重要な考え方について詳しく掘り下げます。

言葉の壁より高い「非言語」の壁。キティちゃんが教える日本独特のコミュニケーション

――前編では、日本人は「察する文化」から脱却する必要があるというお話がありました。しかし、現場ではまず「言語の壁」が立ちはだかるのではないでしょうか?

東京外国語大学 大学院総合国際学研究院 教授 岡田昭人氏(以下、岡田):もちろん言語はとても重要です。しかし、コミュニケーションにおいて、言語情報は全体の一部に過ぎません。私が特に強調したいのは、言葉以外の「非言語コミュニケーション」の重要性です。

これを説明するために、私はよく「ハローキティ」と「ミッフィー」のことをお話ししています。ハローキティに、口が描かれていないのは、見る人の感情に寄り添うためだと言われています。自分が悲しい時に見れば悲しんでいるように、嬉しい時に見れば笑っているように見える。つまり、「言わなくても共感してくれる」という、日本的なハイコンテクスト文化の象徴なのです。

その一方で、オランダ生まれのミッフィーには「×」印の口がしっかりと描かれています。オランダはローコンテクスト文化の代表格であり、「言葉にしなければ伝わらない」社会です。そこでは、表情をあえてあいまいにすることは通用しないのです。

――キャラクターのデザインにも文化の違いが現れているのですね。

岡田:日本では「感情を抑える美徳」がありますが、これはグローバルな場で逆効果になり得ます。「言葉では同意しているように聞こえるのに、表情が伴っていない」と受け取られ、不信感を持たれることがあります。

特にマスクの着用には注意が必要です。欧米では口元の表情が見えないことは「相手に敵意がある」「何かを隠している」という不安を与えます。外国人材と接する際は、意識して表情を使い、口元の動きも含めて伝える姿勢が求められます。

具体的には、「外国人材と接する時は口元が見える透明なマウスシールドを活用する」「意識してオーバーリアクション気味に頷く」といった、視覚的に伝わる工夫から始めてみるのがよいでしょう。岡田昭人氏2

無意識の「5秒の視線外し」が不信感を生む?アイコンタクトと沈黙の誤解

――表情以外にも、私たちが無意識に行っている「日本特有の振る舞い」のなかで、誤解を招く要因となるものはありますか?

岡田:代表的な例として「アイコンタクト」が挙げられます。日本人には「目を凝視するのは失礼」という感覚があり、およそ5秒ほどで視線を外す傾向があります。

しかし、欧米や多くのアジア諸国において、会話中に視線を逸らすという行為は、「あなたとの会話に興味がない」という意思表示として受け取られてしまうのです。また、「嘘をついている」「やましいことがある」という印象を与えることもあります。

――日本的な配慮のつもりが、かえって不信感につながってしまうのですね。

岡田:そうですね。その他には「沈黙」に対する解釈も対照的です。日本人は会議中に黙って頷いている人を「思慮深い」「話を理解してくれている」と肯定的に解釈します。しかし、ローコンテクスト文化の人々から見れば、発言しないことは「意見がない」「何も考えていない」、あるいは「同意していない」というネガティブなサインとみなされてしまうのです。

育成就労制度で企業が向き合うべき、外国人材が直面する「5つの壁」

――制度の整備が進む一方で、それだけでは現場の課題がすべて解決するわけではありません。実際に来日する外国人材の視点に立ったとき、彼らは具体的にどのような困難や「壁」に直面しているのでしょうか。

岡田:私は、来日する外国人材が直面する課題を「5つの壁」として整理しています。受け入れる企業側がこれらの存在を認識しているかどうかが重要です。

1つ目は「言語の壁」です。日本語はひらがな、カタカナ、漢字という3種類の文字を使い分ける上に、複雑な敬語のルールまで存在します。世界的に見ても、習得が難しい言語の一つです。さらに言語そのものだけでなく、日本特有の「空気を読む」姿勢まで求められるため、彼らにとっては二重の障壁となります。

2つ目は「文化の壁」です。宗教的なタブーや食習慣の違いが含まれます。例えば、イスラム教徒にとって、法で許された食材を選ぶ「ハラール対応」は信仰に直結する重要な問題です。しかし、多神教的で宗教に寛容な日本人には、その厳格さや深刻さがなかなか理解されません。断食月のラマダン中に「良かれと思って食事を勧めてしまう」といったすれ違いも頻発します。

3つ目は「心の壁」です。残念ながら、偏見やヘイトスピーチ、あるいは無意識の差別意識は確実に存在します。特定の国籍や地域に対するステレオタイプな見方が、彼らの心を閉ざさせてしまう要因になります。

4つ目は「アイデンティティの壁」です。日本の社会や組織に適応しようと努力するあまり、母国での自分らしさやアイデンティティを喪失してしまうのではないかという不安が壁になります。

5つ目は「制度の壁」です。たとえ支援制度があったとしても、日本の役所の手続きは極めて複雑です。申請方法がわからず、支援が必要な人に届かないという構造的な問題があります。

これら5つの壁の前で彼らが立ち尽くしている時に、企業側がその苦しみに気づき、手を差し伸べられるかどうかが問われているのです。
5つの壁
【2027年施行予定】育成就労制度の概要と企業が今から準備すべきこと

「絆」とは互いに負荷を感じること。自社の常識を押し付けない「支配」からの脱却

――現場では外国人材との付き合い方に戸惑いを感じられる方も多いですが、そのような方々に向けてアドバイスを頂きたいです。

岡田:外国人材との付き合い方を考えるうえで、私からは「絆」という言葉についてご紹介させてください。皆さんは「絆」という言葉の本質的な意味をご存知でしょうか。

「絆」という漢字を分解してイメージしてみると、糸偏に、右側は「半(なか)ば」という字で構成されていますよね。

私はこの漢字を「長い手綱(糸)を半分に折り、その半分を人間が持ち、もう半分を馬などの動物に繋いでいる状態」であると解釈しています。馬車のような情景を想像していただくと分かりやすいでしょう。もし馬が自分の好き勝手な方向に走ろうとしたら、人間はそれを制御できず、目的地にたどり着けません。逆に、人間が無理やり鞭を打って自分のペースだけで進めようとすれば、馬は疲弊して動けなくなってしまいます。

どちらか一方が主導権を握りすぎると、そこから「自由」が半分失われてしまうのです。つまり、この漢字は、双方が完全な自由を手放す状態を示していると考えられます。

――どちらか一方が我慢するのではなく、手綱の張り具合を調整し合う関係性が必要なのでしょうか?

岡田:その通りです。日本企業が自社のルールや「日本の常識」を一方的に押し付けるのは「支配」です。私は異文化理解とは「お互いに負荷を感じながら関係を続けること」だと捉えています。

日本人は「なぜ彼らは時間を守らないんだ」とイライラし、外国人は「なぜ日本人は目を見て話さないんだ」と不満を持ちます。お互いに「違い」に直面してストレスを感じるのは当然です。しかし、その「苦しい状態」こそが、手綱がピンと張って繋がっている証拠、つまり「絆」なのです。

その苦しみから逃げて、手綱を離してしまえば楽になるかもしれません。しかし、そこで関係性は断絶し、異文化理解は終わってしまいます。すぐに白黒つけようとしたり、安易な解決を焦ったりしないでください。「違う」ことを前提に緊張感を保ちながら対話を続けていき、手綱のテンションを感じながら、少しずつ歩み寄るプロセスを止めない姿勢が大切です。

異文化理解は「摩擦」こそが成長の証。失敗を恐れずに対話を続ける組織へ

――最後に、これから外国人材を受け入れる企業の経営者や担当者に向けて、メッセージをお願いします。

岡田:2027年から始まる育成就労制度は、単なる労働力確保の手段ではありません。日本企業が真のグローバル化を果たすための絶好の好機と捉えるべきです。

その中で特に重要なのが、「異質な集団で交流する」能力になります。異なる背景を持つ人々と関係を構築して共に働いて学ぶ力こそが、これからの企業の競争力になると考えています。

しかし、最初からすべてが円滑に進むわけではありません。異文化理解とは、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ身につけていくものだからです。だからこそ、外国人材との摩擦や失敗を恐れないでください。

私は常々「失敗のない日は、成長の機会も少ない」と考えています。彼らとの対話や衝突は、日本人の社員自身がコミュニケーション能力を磨き、多様な価値観を学べる貴重な機会です。「察する文化」の殻を破り、言葉と表情を尽くして伝え合う。その積み重ねこそが、世界から「選ばれる企業」への第一歩となるはずです。ぜひ強固な「絆」を築いていってください。

取材・文:小町ヒロキ

話し手
岡田 昭人
東京外国語大学 大学院 総合国際学研究院 教授
留学生教育学会副会長

ニューヨーク大学大学院で異文化コミュニケーション学修士号、オックスフォード大学大学院で教育学博士号を取得。25年以上にわたり、日本人学生や留学生と向き合いながら、教育学と異文化コミュニケーションを教えてきた。講演や執筆活動も精力的に行い、日常や仕事に役立つ「異文化理解」をわかりやすく伝えている。著書に『教養としての「異文化理解」』(2025年 日本実業出版社)など。